上 下
130 / 134
動乱編

ep130 終了

しおりを挟む
「最終処理は国家魔術師の私がやる。ちなみに他の生徒たちは無事、全員森から脱出した。残っているのは君達だけだ。もう魔犬もいない。早く君達も森から出たまえ」

 ガブリエル先生はシャレクへ視線を送り、全身が見るも無惨に焼けただれ虫の息のケルベロスへ近づいていった。

「......ということだ。僕たちはもう行こう」

 シャレクが弓を下げながら全員へ指示した。
 俺はほっとして息を吐いた。
 ガブリエル先生の話で、フェエルとミアも無事なのがわかった。
 本当に良かった。
 
「ヤソガミ。ありがと」

 不意にエマが口をひらいた。

「ちょっとカッコよかったし」

 エマは安堵の笑顔を浮かべた。
 心なしか頬が火照っているように見える。
 そこへランラが歩み寄ってきた。

「おい。フィッツジェラルド」

「な、なに」

 いぶかしむエマに、ランラを手を差し出した。
 エマはやや戸惑いを見せるが、彼女の手を取って立ち上がった。

「あ、ありがと」

「こっちのセリフだ。テメーのおかげで助かった」

「う、うん」

 それからランラはリンリに視線を送ると、今度はレイ姉妹が揃って俺に顔を向けてきた。

「助かった。感謝する」

「ヤソガミ様。ありがとうございます」

 あの高慢なレイ姉妹がしおらしく言ってきたので、俺はどう返せばいいかわからなくなってしまった。
 でも、すぐに俺だけの力ではなかったことを思い出し、シャレクの方を見た。

「シャレクの攻撃がケルベロスの突進を遅らせてくれたから俺が間に合ったんだ」

「いや、僕の方こそランラとリンリを守ってくれたことは素直に礼を言うよ」

 シャレクはそれだけ言うと、何か思わしげな目を遠くに向けて去っていった。
 レイ姉妹も後に続いていった。
 そんな中、ふと俺は辺りを見回して「あれ?」となる。
 いつの間にか火が消えている。
 先生が消火したんだろうか。
 それより......火を放った張本人の姿が見当たらない。

「あいつ、いついなくなったんだ......」

 そういえば、戦闘の途中から見かけなくなった気がする。
 相変わらず何を考えているかわからない奴だ。
 ただそれでも、セリクが来てくれた時は何だかんだ最終的には助かっている。
 なので、終わりよければ、ということにしておこう。
 それに今日に関しては、もっとわからない人間がいる。

「さあ、私たちも行きましょう」

 ジークレフ学級委員長は澄ました顔でさも当然のように立ち去っていった。
 俺はエマと顔を見合わせ、首を捻った。
 
「何なんだろうな」

「わからんし。てゆーかさ、ぶっちゃけあーし、ジークレフさん苦手」

「ぶっちゃけでもないだろ。とっくに気づいてたぞ」

「なっ」

 エマはむぅーっと膨れて見せてから、急に悪戯っぽくニヤリとした。

「へー。ヤソガミってぇ、そんなにあーしのこと見てくれてんのぉ?」

 いかにも女子高生という感じでキャハハと笑うエマ。
 こういう時、どうリアクションするのが正しいんだろう。
 俺は助けを求めるようにライマスに視線を送った。
 ところが、ライマスはうつむいたまま背中を向けて歩いていってしまった。
 
「ライマス?」

 またしても俺はエマと顔を見合わせて小首を傾げる。
 けど、もうここにいてもしょうがない。
 ガブリエル先生は横たわるケルベロスを調べているようだが、俺たちがいても何もできない。
 
「俺たちも行くか」

「うん」

 エマが笑顔で頷いた。
 やけに機嫌が良い気がする。

「なんか、嬉しそうだな」

「俺が守る、だって。フフ......」

「えっ?」

「なんでもないよ。はやくいこっ」

 エマは俺の腕を引っ張って歩き出した。




 森を出口に向かって歩いていると、不意にイナバが肩に降りてきて前方のどこかを示した。

「小僧。あれ、奴等ではないか?」

「あっ」と俺が気づくより先に、エマが駆け出していた。
 
「ミャーミャー!」

「エマちゃん!」

 ミアも駆け寄ってきて、ふたりは再会を喜んで手を取り合った。
 少し遅れて俺とフェエルも再会の輪に加わる。

「てゆーか、フェエルとミアはまだ森の中にいたんだな。ガブリエル先生はみんな脱出したって言ってたけど」

「ぼくとミアちゃんもそうしたんだけど、ヤソみんたちが心配で引き返してきちゃったんだ」

「でもなんで俺たちがここら辺を歩いてくることがわかったんだ?」

「ハウ先生が教えてくれたんだ」

「ハウ先生?」

 ちょっとびっくりした。

「ハウ先生が生徒みんなの森からの脱出を迅速に進めてくれたんだよ」

「そ、そうなのか」

「ちなみにミアちゃんの怪我を治してくれたのもハウ先生だよ」

 どうやらハウ先生は生徒の安全のために尽力したらしい。
 正直、意外だった。
 やる気のない人だと思っていたから。
 実は良い先生なんだろうか......なんて考えていると、いきなりエマが腕を掴んできた。

「てか、聞いてよ!ヤソガミ、ケルベロス倒したんだよ!ヤバくね!?」

 そのままエマは興奮気味にまくし立てるように語り出した。
 それを皮切りに、四人は歩きながら報告会を行った。
 チームヤソガミ、初戦の報告会だ。
 ついさっきまで戦っていたのもあり、話は大いに盛り上がった。
 それだけに残念だった。
 この場に一人欠けていることが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

美少女アンドロイドが色じかけをしてくるので困っています~思春期のセイなる苦悩は終わらない~

根上真気
キャラ文芸
4サイト10000PV達成!不登校の俺のもとに突然やって来たのは...未来から来た美少女アンドロイドだった!しかもコイツはある目的のため〔セクシープログラム〕と称して様々な色じかけを仕掛けてくる!だが俺はそれを我慢しなければならない!果たして俺は耐え続けられるのか?それとも手を出してしまうのか?これは思春期のセイなる戦い...!いざドタバタラブコメディの幕が切って落とされる!

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

【第三幕 完結】鬼狐ノ月 ~キコノツキ~

椋鳥
ファンタジー
高校一年生の紅月魁斗(こうづきかいと)は家族同然の幼馴染・亜里累(あさとるい)と共に母と三人、いつも通りの幸せな日々を過ごしてした。しかし、そんな幸せな日々は長くは続かなかった。夏休みを迎えたある日、これまでの平和だった日常が一変する。 いつものように、学校から家に帰った魁斗に悲劇的な事件が起きる。 事件後、命を狙われる危険と犯人への復讐を遂げるために、魁斗は世界に負けない力を求める。 目的を果たすべく、案内をしてくれたのは、まさかの幼馴染・累だった。累は魁斗を裏世界の住人である皆継左喩(みなつぎさゆ)に紹介する。その家系は鬼の血を継いでいると言われる異様な家だった。 裏世界で着実に力を身につけていく魁斗は、現代社会の裏側で三つの派閥が戦争を起こしていることを知る。 そんな非日常に慣れ始めた頃、最悪の刺客が現れ、魁斗は本格的に戦いに巻き込まれていく。 異能バトルアクション×恋愛×学園モノ。 日常と非日常が交錯するストーリー。 ~主要登場人物紹介~ 紅月魁斗(こうづきかいと) 主人公。事件が起きるまでは、普通の高校生。 亜里累(あさとるい) 魁斗にとって家族同然の幼馴染。秘密事が多い。魁斗以外に心を開いていない。 皆継左喩(みなつぎさゆ) 鬼の家系と呼ばれる皆継家の長女。才色兼備で学校の人気者。 青井暁斗(あおいあきと) 謎の転校生。

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

【完結】旦那様が私の不倫を疑って愛人を作っていました〜妹を私だと勘違いして友人達と彼女の婚約者を襲撃した?妹の婚約者は隣国の皇太子ですよ

冬月光輝
恋愛
伯爵家の嫡男であり、リムルの夫であるエリックは婚約しているときから、「浮気したら婚約破棄だからな」としつこい位に念押ししていた。 リムルはそれでもそこまで言うのは愛情が深いからだと特に気にすることなく結婚。 結婚してからも「不倫をしたら許さん。お前も相手も地獄に叩き落とす」と事あるごとに言い放ち、彼女を束縛していたが、リムルはそれでも夫に尽くしていた。 「お前が不倫していると聞いた。一昨日の夕方に男と会っていただろう。知ってるんだぞ。やっぱり僕とは財産狙いで結婚したのだな!」 胸倉を掴み、エリックはリムルに不倫をしたと凄む。 しかし、その日の夕方……リムルはエリックと共にいた。 彼女はそのことを話すと彼は納得しかけるも、首を振って「じゃあ他の日だった」と謝らない。 リムルはそんな彼に腹を立てる。財産狙い発言も自分の父親は公爵であるし、エリックの父親が頭を下げて成立した縁談なので納得がいかなかった。 そして、事件は起こった。 エリックにリムルが浮気していたと吹き込んだ友人たちが彼に「浮気現場を発見した」と騒ぎ出し、彼らはその現場に突入して二人に暴力を振るう。 しかし、そこにいたのはリムルの双子の妹のメリルとその婚約者。 しかも、メリルの婚約者は隣国の皇太子で……。 ちょうど、その頃……夫の愛人という女がリムルを訪ねていた。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

処理中です...