八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気

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動乱編

ep126 均衡

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「警戒しているようじゃな」

 イナバが言った。

「小僧に底知れぬものを感じ取ったのかもしれんな」

「ケルベロスが、俺に?」

「そういうことだ、ヤソガミ。これは少々作戦を変更してもいいかもしれない」とシャレク。

「どうするんだ?」

「このままでいるんだ。先生が来るまで」

 俺たちとケルベロスが睨み合う。
 凶暴な見た目とは裏腹に、ケルベロスは慎重だ。
 こちらとしてはリスクを冒さないで済むのは助かる。
 とはいえ、このままの状況が続くわけはないだろう。
 先生が来るまで、どこまでいけるか。
 均衡は、意外な形で崩れる。

「本当にケルベロスが出たのね」

 不意に後ろから誰かの声が聞こえた。
 俺とシャレクが振り向く。

「学級委員長?」

 声の主は、ユイミ・テレジア・ジークレフ。
 なぜ彼女がここに?と思ったが、理由はすぐにわかった。
 
「エマとライマスも?なんで戻ってきたんだ?」

 学級委員長の後ろには、エマとライマスもいた。
 どうやら二人がここまでジークレフさんを案内してきたらしい。

「道の途中で偶然、学級委員長に会ったんだけどね?先生よりも先に私に状況を見せろって言って聞かなくて......」

 エマがおずおずと申し訳なさそうに弁解する。
 
「す、すまない。ヤソガミ氏、生徒会長。しかし、ジークレフ氏が通してくれなくて......」

 ライマスも説明を重ねると、シャレクが学級委員長を睨む。

「ジークレフ。どういうつもりだ?」

「二人の説明の通りよ。私の状況確認が必要だと判断しただけ」

「君の状況確認?彼らを先生の元へ行かせようとしたのは生徒会長の僕の判断だ」

「授業前に、私と貴方だけには伝えられていたはずよ?今回の合同魔術演習はそれなりの危険が伴う。だから、場合によって、特異クラス代表の私と特別クラス代表の貴方で、授業続行の可否判断も行いなさいと」

「それはわかっている。だが見ろ。本物の、しかもCランク〔魔獣クラス〕のゼノだぞ?それどころではないのは明白だ」

「私は先生から言われたことを忠実に実行しているだけ」

「わかった。もういい。で、実際にアレを目の当たりにしてどう判断する?」

「その前に...」

 ジークレフ学級委員長は途中で言葉を切り、突然フルートをくわえて魔術を発動する。
 次の瞬間、彼女に向かって何かが飛びかかってきた。

「見つけたぞオラァァァ!!」

 凄まじい勢いで放たれた強烈な蹴り。
 まるでモニュメントを粉砕したヤソミのような蹴りだ。
 学級委員長がやられる、と思いきや。
 
 ザァァァァァン!!

 水の壁が蹴りを食い止めた。
 攻撃者は、水壁を蹴ってクルッとバク宙して着地する。
 
「ホントにテメーはムカつく。戦闘の最中でいきなりいなくなりやがって。ランラをバカにしてんのか」

「ちょっと姉さん」

 一歩遅れて妹のリンリもやって来た。

「シャレク様もいらっしゃいますよ」

「すいません。シャレク様」 

「二人とも、あれを見ろ」

 シャレクはレイ姉妹に三つ頭の巨犬の魔獣を示した。

「ケルベロスだ」

「ケルベロス!?なんであんなモノが...」

 驚くランラたちには答えずに、シャレクは改めてジークレフ学級委員長へ鋭い視線をぶつける。

「なに?」

 ジークレフ学級委員長が澄ました顔で睨み返す。
 
「お、おい。今はあの魔獣をなんとかしないとだろ?」

 やにわに俺は彼らの間に入った。
 生徒同士で争っている場合じゃない。
 緊急事態だぞ。

「そ、そうだよ。ヤソガミの言うとおりだよ」

 エマが俺に続いてくれたが、ランラが噛みついてくる。

「テメーは黙ってろ。雑魚が」

「なっ、なんだよそれ!今はヤバイ状況だって言ってるだけだし!」

「え、エマ氏。落ち着いてくれ」

「なんだよライマス。あーしじゃなくてランラの味方すんのか!」

「そ、そういうわけではなくて」

「お前ら!とにかく一旦落ち着け!」

 思わず俺は声を荒げた。
 Cランクの魔獣を前にして馬鹿みたいに何をやっているんだ。
 下手すりゃ犠牲者だって出かねないんだぞ。

「ご、ごめん。ヤソガミ」

「悪いのはエマだけじゃない」

 俺はランラとジークレフ学級委員長にも一瞥いちべつをくれた。
 それから、ハァーっと吐息を吐き、シャレクに視線を送って切り替える。

「で、生徒会長。どうする?」

「......いずれにしても、一刻でも早く先生に報告しなければならないことは変わらない」

「だよな。改めてエマとライマスに行かせるか」と俺が口にした瞬間だった。 

「えー。君らで倒しちゃえばいいじゃん」

「!」

 またしても後ろから何者かの声が届く。
 振り向かずとも、喋り方と声だけで誰だかすぐにわかった。
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