126 / 163
動乱編
ep126 均衡
しおりを挟む
「警戒しているようじゃな」
イナバが言った。
「小僧に底知れぬものを感じ取ったのかもしれんな」
「ケルベロスが、俺に?」
「そういうことだ、ヤソガミ。これは少々作戦を変更してもいいかもしれない」とシャレク。
「どうするんだ?」
「このままでいるんだ。先生が来るまで」
俺たちとケルベロスが睨み合う。
凶暴な見た目とは裏腹に、ケルベロスは慎重だ。
こちらとしてはリスクを冒さないで済むのは助かる。
とはいえ、このままの状況が続くわけはないだろう。
先生が来るまで、どこまでいけるか。
均衡は、意外な形で崩れる。
「本当にケルベロスが出たのね」
不意に後ろから誰かの声が聞こえた。
俺とシャレクが振り向く。
「学級委員長?」
声の主は、ユイミ・テレジア・ジークレフ。
なぜ彼女がここに?と思ったが、理由はすぐにわかった。
「エマとライマスも?なんで戻ってきたんだ?」
学級委員長の後ろには、エマとライマスもいた。
どうやら二人がここまでジークレフさんを案内してきたらしい。
「道の途中で偶然、学級委員長に会ったんだけどね?先生よりも先に私に状況を見せろって言って聞かなくて......」
エマがおずおずと申し訳なさそうに弁解する。
「す、すまない。ヤソガミ氏、生徒会長。しかし、ジークレフ氏が通してくれなくて......」
ライマスも説明を重ねると、シャレクが学級委員長を睨む。
「ジークレフ。どういうつもりだ?」
「二人の説明の通りよ。私の状況確認が必要だと判断しただけ」
「君の状況確認?彼らを先生の元へ行かせようとしたのは生徒会長の僕の判断だ」
「授業前に、私と貴方だけには伝えられていたはずよ?今回の合同魔術演習はそれなりの危険が伴う。だから、場合によって、特異クラス代表の私と特別クラス代表の貴方で、授業続行の可否判断も行いなさいと」
「それはわかっている。だが見ろ。本物の、しかもCランク〔魔獣クラス〕のゼノだぞ?それどころではないのは明白だ」
「私は先生から言われたことを忠実に実行しているだけ」
「わかった。もういい。で、実際にアレを目の当たりにしてどう判断する?」
「その前に...」
ジークレフ学級委員長は途中で言葉を切り、突然フルートを咥えて魔術を発動する。
次の瞬間、彼女に向かって何かが飛びかかってきた。
「見つけたぞオラァァァ!!」
凄まじい勢いで放たれた強烈な蹴り。
まるでモニュメントを粉砕したヤソミのような蹴りだ。
学級委員長がやられる、と思いきや。
ザァァァァァン!!
水の壁が蹴りを食い止めた。
攻撃者は、水壁を蹴ってクルッとバク宙して着地する。
「ホントにテメーはムカつく。戦闘の最中でいきなりいなくなりやがって。ランラをバカにしてんのか」
「ちょっと姉さん」
一歩遅れて妹のリンリもやって来た。
「シャレク様もいらっしゃいますよ」
「すいません。シャレク様」
「二人とも、あれを見ろ」
シャレクはレイ姉妹に三つ頭の巨犬の魔獣を示した。
「ケルベロスだ」
「ケルベロス!?なんであんなモノが...」
驚くランラたちには答えずに、シャレクは改めてジークレフ学級委員長へ鋭い視線をぶつける。
「なに?」
ジークレフ学級委員長が澄ました顔で睨み返す。
「お、おい。今はあの魔獣をなんとかしないとだろ?」
やにわに俺は彼らの間に入った。
生徒同士で争っている場合じゃない。
緊急事態だぞ。
「そ、そうだよ。ヤソガミの言うとおりだよ」
エマが俺に続いてくれたが、ランラが噛みついてくる。
「テメーは黙ってろ。雑魚が」
「なっ、なんだよそれ!今はヤバイ状況だって言ってるだけだし!」
「え、エマ氏。落ち着いてくれ」
「なんだよライマス。あーしじゃなくてランラの味方すんのか!」
「そ、そういうわけではなくて」
「お前ら!とにかく一旦落ち着け!」
思わず俺は声を荒げた。
Cランクの魔獣を前にして馬鹿みたいに何をやっているんだ。
下手すりゃ犠牲者だって出かねないんだぞ。
「ご、ごめん。ヤソガミ」
「悪いのはエマだけじゃない」
俺はランラとジークレフ学級委員長にも一瞥をくれた。
それから、ハァーっと吐息を吐き、シャレクに視線を送って切り替える。
「で、生徒会長。どうする?」
「......いずれにしても、一刻でも早く先生に報告しなければならないことは変わらない」
「だよな。改めてエマとライマスに行かせるか」と俺が口にした瞬間だった。
「えー。君らで倒しちゃえばいいじゃん」
「!」
またしても後ろから何者かの声が届く。
振り向かずとも、喋り方と声だけで誰だかすぐにわかった。
イナバが言った。
「小僧に底知れぬものを感じ取ったのかもしれんな」
「ケルベロスが、俺に?」
「そういうことだ、ヤソガミ。これは少々作戦を変更してもいいかもしれない」とシャレク。
「どうするんだ?」
「このままでいるんだ。先生が来るまで」
俺たちとケルベロスが睨み合う。
凶暴な見た目とは裏腹に、ケルベロスは慎重だ。
こちらとしてはリスクを冒さないで済むのは助かる。
とはいえ、このままの状況が続くわけはないだろう。
先生が来るまで、どこまでいけるか。
均衡は、意外な形で崩れる。
「本当にケルベロスが出たのね」
不意に後ろから誰かの声が聞こえた。
俺とシャレクが振り向く。
「学級委員長?」
声の主は、ユイミ・テレジア・ジークレフ。
なぜ彼女がここに?と思ったが、理由はすぐにわかった。
「エマとライマスも?なんで戻ってきたんだ?」
学級委員長の後ろには、エマとライマスもいた。
どうやら二人がここまでジークレフさんを案内してきたらしい。
「道の途中で偶然、学級委員長に会ったんだけどね?先生よりも先に私に状況を見せろって言って聞かなくて......」
エマがおずおずと申し訳なさそうに弁解する。
「す、すまない。ヤソガミ氏、生徒会長。しかし、ジークレフ氏が通してくれなくて......」
ライマスも説明を重ねると、シャレクが学級委員長を睨む。
「ジークレフ。どういうつもりだ?」
「二人の説明の通りよ。私の状況確認が必要だと判断しただけ」
「君の状況確認?彼らを先生の元へ行かせようとしたのは生徒会長の僕の判断だ」
「授業前に、私と貴方だけには伝えられていたはずよ?今回の合同魔術演習はそれなりの危険が伴う。だから、場合によって、特異クラス代表の私と特別クラス代表の貴方で、授業続行の可否判断も行いなさいと」
「それはわかっている。だが見ろ。本物の、しかもCランク〔魔獣クラス〕のゼノだぞ?それどころではないのは明白だ」
「私は先生から言われたことを忠実に実行しているだけ」
「わかった。もういい。で、実際にアレを目の当たりにしてどう判断する?」
「その前に...」
ジークレフ学級委員長は途中で言葉を切り、突然フルートを咥えて魔術を発動する。
次の瞬間、彼女に向かって何かが飛びかかってきた。
「見つけたぞオラァァァ!!」
凄まじい勢いで放たれた強烈な蹴り。
まるでモニュメントを粉砕したヤソミのような蹴りだ。
学級委員長がやられる、と思いきや。
ザァァァァァン!!
水の壁が蹴りを食い止めた。
攻撃者は、水壁を蹴ってクルッとバク宙して着地する。
「ホントにテメーはムカつく。戦闘の最中でいきなりいなくなりやがって。ランラをバカにしてんのか」
「ちょっと姉さん」
一歩遅れて妹のリンリもやって来た。
「シャレク様もいらっしゃいますよ」
「すいません。シャレク様」
「二人とも、あれを見ろ」
シャレクはレイ姉妹に三つ頭の巨犬の魔獣を示した。
「ケルベロスだ」
「ケルベロス!?なんであんなモノが...」
驚くランラたちには答えずに、シャレクは改めてジークレフ学級委員長へ鋭い視線をぶつける。
「なに?」
ジークレフ学級委員長が澄ました顔で睨み返す。
「お、おい。今はあの魔獣をなんとかしないとだろ?」
やにわに俺は彼らの間に入った。
生徒同士で争っている場合じゃない。
緊急事態だぞ。
「そ、そうだよ。ヤソガミの言うとおりだよ」
エマが俺に続いてくれたが、ランラが噛みついてくる。
「テメーは黙ってろ。雑魚が」
「なっ、なんだよそれ!今はヤバイ状況だって言ってるだけだし!」
「え、エマ氏。落ち着いてくれ」
「なんだよライマス。あーしじゃなくてランラの味方すんのか!」
「そ、そういうわけではなくて」
「お前ら!とにかく一旦落ち着け!」
思わず俺は声を荒げた。
Cランクの魔獣を前にして馬鹿みたいに何をやっているんだ。
下手すりゃ犠牲者だって出かねないんだぞ。
「ご、ごめん。ヤソガミ」
「悪いのはエマだけじゃない」
俺はランラとジークレフ学級委員長にも一瞥をくれた。
それから、ハァーっと吐息を吐き、シャレクに視線を送って切り替える。
「で、生徒会長。どうする?」
「......いずれにしても、一刻でも早く先生に報告しなければならないことは変わらない」
「だよな。改めてエマとライマスに行かせるか」と俺が口にした瞬間だった。
「えー。君らで倒しちゃえばいいじゃん」
「!」
またしても後ろから何者かの声が届く。
振り向かずとも、喋り方と声だけで誰だかすぐにわかった。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
推しと行く魔法士学園入学旅行~日本で手に入れた辞典は、異世界の最強アイテムでした~
ことのはおり
ファンタジー
渡会 霧(わたらい きり)。36歳。オタク。親ガチャハズレの悲惨な生い立ち。
幸薄き彼女が手にした、一冊の辞典。
それは異世界への、特別招待状。
それは推しと一緒にいられる、ミラクルな魔法アイテム。
それは世界を救済する力を秘めた、最強の武器。
本棚を抜けた先は、物語の中の世界――そこからすべてが、始まる。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界営業〜大事なのは剣でも魔法でもない。営業力だ!
根上真気
ファンタジー
これは、元やり手営業部長の青年が、その営業力を駆使し、転移した異世界で起業して成功する物語。しかしその道のりは困難の連続だった!彼の仲間は落ちぶれた魔導博士と魔力量だけが取り柄のD級魔導師の娘。彼らと共に、一体どうやって事業を成功させるのか?彼らの敵とは何なのか?今ここに、異世界に降り立った日本人青年の、世紀の実業ファンタジーが幕を開ける!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】マギアアームド・ファンタジア
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。
高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。
待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。
王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!

おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる