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動乱編
ep124 魔獣
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「!!」
凶悪極まりない三つの頭部を携えた、地獄の巨犬のような禍々しい怪物に皆、一様に絶句した。
シャレクでさえ、目を見開いて立ち尽くしている。
「あれは、ケルベロスか」
イナバが口にした名称に、シャレクの顔つきが深刻なものに変わる。
「ヤソガミ。運が良かったな。いったん休戦せざるをえない」
その口調と雰囲気には、さっきまでの怒りとも違う張りつめたものがある。
「あ、あれも、ガブリエル先生の仮想ゼノ??」
顔を蒼くして怯えたエマとライマスが、俺に駆け寄ってきてしがみついてきた。
「け、ケルベロスは、Cランクの魔獣クラスのゼノだぞ?いくら厳しいガブリエル先生でも、そこまでやるなんて......」
ケルベロスが危険な魔獣なのは、俺も授業で聞いて知っている。
実際どの程度危険なのかは、脳裏に貼りついている記憶が物語る。
この世界に来たばかりの頃。
ヤソジマで遭遇した、巨大魔鳥獣プテラスキング。
そう。あれがまさに魔獣クラスのゼノだった。
つまり、今目の前にいるケルベロスは、あれと同レベルの強さのゼノということだ。
あの時は、ジェットレディが駆けつけて来てくれたおかげで助かった。
だが今は......。
「ヤソガミ」
シャレクが険しい表情で睨んできた。
「君は僕を手伝え。そして今すぐエマ・フィッツジェラルドとライマス・ループレイクを先生の所へ行かせろ。この状況を伝えさせるんだ」
「えっ?」
「君はまだわからないのか?あれは本物の〔ゼノ〕だ」
「本物だって?ガブリエル先生が召喚した使い魔ではないのか?一体どうして...」
「なぜあんなモノが学園内の森に出現したのか、それはわからない。とにかく今は緊急事態だ。目の前の脅威に対して対処するしかない」
まさかの本物のゼノの出現。
しかも、巨大魔鳥獣レベルの危険度。
これは下手をすれば、死ぬかもしれないという危機。
俺たちの間に、一気に緊張が走った。
「エマ。ライマス。すぐに先生の所に行くんだ」
「で、でも、ヤソガミは...」
エマの目は心配と不安で溢れていた。
だが、すぐにブンブンとかぶりを振り、自ら気持ちを切り替えて力強く頷いた。
彼女も国家魔術師を目指す魔術師の卵。
今の状況で自分が何をすべきかはよく理解しているんだ。
「わかったよ。行ってくる!」
エマとライマスはこくっと頷き合うと、ダッと飛び出していった。
二人の姿が森の向こうへ消え、いよいよ本番の開始を告げるようにシャレクが俺に近づいてきた。
「二人で行けば彼らでも大丈夫だろう。ところでヤソガミ。君の得意とする魔法の属性は?」
「いきなりなんだ?」
「いいからさっさと答えろ」
「なんだよ、感じ悪いな」
「そんなことを言っている場合か。状況を考えろ。早く答えろ。馬鹿なのか?」
イラっとしたが、切羽詰まった状況なのは確か。
言い争っている場合じゃない。
「俺はべつに、得意な属性があるってわけじゃない」
「雷が得意というわけでもないのか」
「あれは理由あって調整しやすいから多用していただけだ」
「なら、同程度の威力の別属性の魔法も放てるのか?」
俺は頷いて返した。
決してハッタリじゃない。
正直な答えだ。
むしろ威力だけならもっと強い魔法がある。
「なるほど。君が特待生たる理由がやっとわかった気がする」
「どういう意味だ?」
「君も知っているだろう?通常、魔術師には得手不得手がある。その典型が属性だ。炎が得意だとか氷が得意だとか。むしろ得意とする属性がない魔術師は平均以下に埋没してしまうことがほとんどだ」
「それは授業でも聞いているけど」
「属性に当てはまらない魔術を得意とする魔術師もいるが、その場合も同様だ。ランラやリンリが良い例だろう。彼女たちの場合、その独特な魔術自体が、謂わば得意な属性みたいなものなんだ」
「......それで、俺が特待生たる理由ってのは、一体なんなんだ?」
「実に気に入らない事この上ないが、君は僕と一緒だ」
「いや、よくわからないんだが」
「どの属性も得意ということだ。違うか?」
シャレクは薄笑いを浮かべてから、すっと真顔に戻って言った。
「いいか、よく聞け。君はこれからケルベロスに強力な氷魔法を使え」
「作戦があるのか?」
「僕の魔術でヤツを牽制して隙を作る。そこに君が氷魔法を放つんだ」
「氷である理由は?」
「氷魔法なら、たとえ倒せずとも一定時間動きを止めることができる」
「なるほど。その間に先生が来てくれればオールオーケーってことか」
「そういうことだ」
「それに、ここで俺たちがヤツの動きを止めておければ被害も出ずに済むしな」
「ランラとリンリも呼びたい所だが、まずは生徒会長の僕が責任を持ってケルベロスを食い止める。君は僕の手助けができることを光栄に思え」
「上から目線だな......」
と思いながらも、心の中では感心していた。
目の前の脅威に慌てふためくこともなく、即座に最善の対策を考えて講じる。
そのためには、ムカついていたはずの相手に対しても遠慮なく協力を要請する。
態度こそ高慢だが、さすがは一年生主席の生徒会長だ。
「わかった。お前の言うとおり氷魔法を撃つ」
凶悪極まりない三つの頭部を携えた、地獄の巨犬のような禍々しい怪物に皆、一様に絶句した。
シャレクでさえ、目を見開いて立ち尽くしている。
「あれは、ケルベロスか」
イナバが口にした名称に、シャレクの顔つきが深刻なものに変わる。
「ヤソガミ。運が良かったな。いったん休戦せざるをえない」
その口調と雰囲気には、さっきまでの怒りとも違う張りつめたものがある。
「あ、あれも、ガブリエル先生の仮想ゼノ??」
顔を蒼くして怯えたエマとライマスが、俺に駆け寄ってきてしがみついてきた。
「け、ケルベロスは、Cランクの魔獣クラスのゼノだぞ?いくら厳しいガブリエル先生でも、そこまでやるなんて......」
ケルベロスが危険な魔獣なのは、俺も授業で聞いて知っている。
実際どの程度危険なのかは、脳裏に貼りついている記憶が物語る。
この世界に来たばかりの頃。
ヤソジマで遭遇した、巨大魔鳥獣プテラスキング。
そう。あれがまさに魔獣クラスのゼノだった。
つまり、今目の前にいるケルベロスは、あれと同レベルの強さのゼノということだ。
あの時は、ジェットレディが駆けつけて来てくれたおかげで助かった。
だが今は......。
「ヤソガミ」
シャレクが険しい表情で睨んできた。
「君は僕を手伝え。そして今すぐエマ・フィッツジェラルドとライマス・ループレイクを先生の所へ行かせろ。この状況を伝えさせるんだ」
「えっ?」
「君はまだわからないのか?あれは本物の〔ゼノ〕だ」
「本物だって?ガブリエル先生が召喚した使い魔ではないのか?一体どうして...」
「なぜあんなモノが学園内の森に出現したのか、それはわからない。とにかく今は緊急事態だ。目の前の脅威に対して対処するしかない」
まさかの本物のゼノの出現。
しかも、巨大魔鳥獣レベルの危険度。
これは下手をすれば、死ぬかもしれないという危機。
俺たちの間に、一気に緊張が走った。
「エマ。ライマス。すぐに先生の所に行くんだ」
「で、でも、ヤソガミは...」
エマの目は心配と不安で溢れていた。
だが、すぐにブンブンとかぶりを振り、自ら気持ちを切り替えて力強く頷いた。
彼女も国家魔術師を目指す魔術師の卵。
今の状況で自分が何をすべきかはよく理解しているんだ。
「わかったよ。行ってくる!」
エマとライマスはこくっと頷き合うと、ダッと飛び出していった。
二人の姿が森の向こうへ消え、いよいよ本番の開始を告げるようにシャレクが俺に近づいてきた。
「二人で行けば彼らでも大丈夫だろう。ところでヤソガミ。君の得意とする魔法の属性は?」
「いきなりなんだ?」
「いいからさっさと答えろ」
「なんだよ、感じ悪いな」
「そんなことを言っている場合か。状況を考えろ。早く答えろ。馬鹿なのか?」
イラっとしたが、切羽詰まった状況なのは確か。
言い争っている場合じゃない。
「俺はべつに、得意な属性があるってわけじゃない」
「雷が得意というわけでもないのか」
「あれは理由あって調整しやすいから多用していただけだ」
「なら、同程度の威力の別属性の魔法も放てるのか?」
俺は頷いて返した。
決してハッタリじゃない。
正直な答えだ。
むしろ威力だけならもっと強い魔法がある。
「なるほど。君が特待生たる理由がやっとわかった気がする」
「どういう意味だ?」
「君も知っているだろう?通常、魔術師には得手不得手がある。その典型が属性だ。炎が得意だとか氷が得意だとか。むしろ得意とする属性がない魔術師は平均以下に埋没してしまうことがほとんどだ」
「それは授業でも聞いているけど」
「属性に当てはまらない魔術を得意とする魔術師もいるが、その場合も同様だ。ランラやリンリが良い例だろう。彼女たちの場合、その独特な魔術自体が、謂わば得意な属性みたいなものなんだ」
「......それで、俺が特待生たる理由ってのは、一体なんなんだ?」
「実に気に入らない事この上ないが、君は僕と一緒だ」
「いや、よくわからないんだが」
「どの属性も得意ということだ。違うか?」
シャレクは薄笑いを浮かべてから、すっと真顔に戻って言った。
「いいか、よく聞け。君はこれからケルベロスに強力な氷魔法を使え」
「作戦があるのか?」
「僕の魔術でヤツを牽制して隙を作る。そこに君が氷魔法を放つんだ」
「氷である理由は?」
「氷魔法なら、たとえ倒せずとも一定時間動きを止めることができる」
「なるほど。その間に先生が来てくれればオールオーケーってことか」
「そういうことだ」
「それに、ここで俺たちがヤツの動きを止めておければ被害も出ずに済むしな」
「ランラとリンリも呼びたい所だが、まずは生徒会長の僕が責任を持ってケルベロスを食い止める。君は僕の手助けができることを光栄に思え」
「上から目線だな......」
と思いながらも、心の中では感心していた。
目の前の脅威に慌てふためくこともなく、即座に最善の対策を考えて講じる。
そのためには、ムカついていたはずの相手に対しても遠慮なく協力を要請する。
態度こそ高慢だが、さすがは一年生主席の生徒会長だ。
「わかった。お前の言うとおり氷魔法を撃つ」
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