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動乱編

ep116 学級委員長(フェエル視点)

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「とにかく、その魔犬との戦闘はもう止めなさい」

 今度はレイ姉妹とジークレフ学級委員長が睨み合う形となる。
 レイ姉妹だけじゃない。
 ジークレフさんもアルマを掲げ、戦闘も辞さない構えだ。
 その時。

「え??」

 ジークレフさん以外の全員が、目を見張った。
 四体の赤黒い魔犬が、森の影へと退いていったのだ。
 結果として、ジークレフさんの言うとおりになったことになる。
 ぼくたちが半ば呆気にとられている中、ジークレフさんが行動に出た。

「〔水鉄砲アクアバレット〕」

 唐突に魔法媒介装置のフルートを吹いて水魔法を行使し、凝縮した水の塊を発生させた。
 
「!」

 彼女の周囲に浮かぶ鋭利な水の弾丸に、レイ姉妹が臨戦態勢を取る。

「やる気か!」

 意外だった。
 仕掛けるならレイ姉妹からと思っていた。
 ジークレフさんがレイ姉妹に攻撃する!と思ったのも束の間。

 ズドドドドォッ!!

 水の弾丸は、先ほどレイ姉妹に倒されて地に伏していた魔犬へ放たれた。

「はっ!?」

 トドメを刺された魔犬は、黒いちりとなってサーッと霧散した。
 一同は唖然とする。
 ジークレフさんは何がしたいのか?
 ここへ現れてからの彼女の行動の一部始終が、さっぱり理解できない。
 不可解すぎて、もはや不気味にさえ思える。

「おい!テメーは何がしてーんだ!?ただ邪魔がしてーのか!?」

「別に。ランラ。貴女の邪魔をしたのなら謝るわ」

「ジークレフさん。目的と理由は何なのですか?姉さんの言うとおり、貴女の一連の行動はリンリたちの邪魔をしたとしか思えません」

「だから言ったでしょう。邪魔をしたのなら謝るわ」

「答えになってねえだろ。いい加減にしろよテメー」

「それは悪かったわね」

「リンリとランラ姉さんのこと、ナメてます?」

「だから謝ってるじゃない。そういうことだから、私は行くわ」

 ただ平行線の会話を続けた挙句、ジークレフ学級委員長は勝手に立ち去ろうとする。
 当然ながらレイ姉妹が認めるわけがなかった。

「マジでふざけんなよテメー」

「失礼にもほどがあります」

 レイ姉妹はジークレフさんに立ちはだかった。
 行かせない気だ。
 でも、それはぼくも一緒だ。

「ジークレフさん!」

 ぼくの方へみんなが振り向いた。

「なに?ポランくん」

「行動の意図が全然わからないっていうか、その、レイさんが納得できないのもしょうがないんじゃないかな」

「貴方には関係ない」

「それはジークレフさんが勝手にそう思っているだけでしょ?ぼくやミアちゃんだって、少しだけど、あの魔犬と戦ったんだよ?関係なくはないと思うんだけど」

「もう一度言うわ。ポランくん。貴方には関係ない」

 冷たい言い方だった。
 お前如きが口を挟むなとでも言いたげだ。
 
「そ、そんな言い方はないんじゃない!?」

 ミアちゃんがぼくを気遣うように非難した。

「キャットレーさん。貴女とも話すことはない」

「なっ!」

「さて、そういうわけで......レイさん。どいてくれるかしら」

 ジークレフさんは改めてレイ姉妹を見据えた。

「どくわけねーだろ。お前バカか?」

「姉さんの言うとおりです。ジークレフ家のご令嬢だからと言って調子に乗りすぎですよ」

「やるしかないのかしら」

 ハーッとため息をついて、ジークレフさんはアルマを構えた。
 レイ姉妹はすでに臨戦態勢だった。

「おい」

 やにわにノエルくんがぼくたちに呼びかけてきた。

「ここを離れたほうがいいぞ」

「えっ、でも」

「巻き込まれたくなかったらな。あいつらが闘り合ったら魔犬どころじゃない」

 ぼくはミアちゃんと顔を見合わせた。
 そんなぼくらに、ノエルくんはふっと口元を緩めて手を差し出してきた。

「ほら。お前のだ」

 それはぼくの簡易アルマだった。

「ええと、ノエルくん?」

「油断していたとはいえ、あんな形になってしまった。早く持っていけ」

「う、うん」

 受け取ると、ノエルくんはくるっときびすを返し、
「フェエルとミア。名前も覚えた。もう油断しない。次からはおれが負けることはない」
 と釘を刺すように言い残して、さっさと立ち去っていった。
 ちょうどその時。
 ぼくたちは、びくんとして振り向いた。
 彼女たちから、肌がひりつく凄まじい魔力を感じたからだ。
 
「わ、わたしたちも早く行ったほうが良さそうだね」

「う、うん。行こう」

 正直、彼女たちの戦いは気になる。
 あのレイ姉妹ふたりと、ジークレフさんはどうやって戦うのだろう。
 ユイちゃんの本気は、ほくも見たことがない。
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