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動乱編
ep112 危機(フェエル視点)
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「これも、仮想ゼノ!?」
それは、今まで遭遇した魔犬より一回りも二回りも大きい、どこか異様な雰囲気を纏った赤黒い魔犬。
違いは大きさや色合いだけじゃない。
鈍く光った眼つきや鋭い口元は、より獰猛で凶暴なものに見える。
「な、なんか......」
ぼくもミアちゃんも自然と後ずさった。
おそらくぼくらは、生理的な恐怖に襲われているんだ。
これはトッパーくんやノエルくんに対して感じたものとはまったく異質なもの。
「でも......」
いくら恐いといっても、これはあくまでガブリエル先生の使い魔の〔仮想ゼノ〕。
本物のゼノではないんだ。
最悪なことにはならないように調整しているはずだ。
そしてぼくたちは、国家魔術師を目指している魔術師の卵。
ならば取るべき行動は、ただひとつ。
「ミアちゃん。あれを捕獲しよう」
「あの魔犬と戦うの?」
「ぼくたちは将来、国家魔術師になって本物のゼノと戦うんだ。だったら今、怖いからって仮想ゼノとの戦いを避けていたってしょうがない」
ぼくの言葉にミアちゃんは、そうだね、と頷いた。
「わたしたちは国家魔術師を目指しているんだもんね。だったらやらなきゃだよね」
赤黒い魔犬は一定の距離を空けたまま、グルルル...とこちらの様子を窺っている。
ぼくたちは頷き合い、アルマを構えた。
作戦のための会話は一言で済んだ。
やることは、さっきと同じ。
ミアちゃんがあまり動けない今、ぼくたちができる最大最善の策だ。
「ミアちゃん!」
「うん!」
ぼくは一足飛びで木に駆けていってアルマを刺した。
「〔魔動成長促進〕」
地中からドドドドッと伸びていった根っこは、意表をつくように魔犬の足元で飛び出し、四本の足をぐるぐると捕らえた。
「〔一陣の風〕」
バッチリのタイミングでミアちゃんが風魔法を放った。
バンッ!と突風が魔犬に直撃する。
「やった!」
ぼくたちはガッツポーズを取り合った。
ところが、すぐにぼくたちはその手を下げることになる。
「グルルル......」
なんと、魔犬は何事もなかったように再び唸り始めたんだ。
それだけじゃない。
「ガルルルッ!」
魔犬は、四本の足に絡み付いた根っこを、いとも簡単に喰いちぎってしまった。
それから、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「ど、どうしよう!わたしの風魔法がまったく効いていないよ?」
「ぼ、ぼくの緑魔法もあまり効果がないみたいだ」
さっきの戦術が通じないのなら、今のぼくたちに打つ手はない。
もはや素直に逃げるしかないか......と思いかけた時。
「フェエルくん!わたしの簡易アルマを使っちゃおう!」
「そ、そうか!でも、いいの?」
「いいというよりチャンスだよ!たぶん、この魔犬の捕獲は評価ポイントも高いと思う!ひょっとしたら、通常の魔犬十体分以上なんじゃないかな」
「たしかに!でもどうやって当てる?ある程度近づく必要があるよ?ぼくの魔法はもう通じない気がするし」
「いや、フェエルくんは同じようにやって。牽制になるだけでいい。その隙にわたしが飛び込んで簡易アルマを奴に当てるから。それくらいなら今のわたしでもできるよ」
話し合っている間に魔犬はゆっくりと近づいてきている。
こうなったらやるしかない。
「わかった!じゃあいくよ!」
ミアちゃんが頷いて返してきたと同時に、ぼくは別の木にアルマを刺した。
再び地中から伸びていった根っこが、足元から魔犬を襲った。
「ガルルァァッ!」
魔犬は足元から飛び出てきた根っこを絡みつかれる前に喰いちぎった。
でもこれは想定内。
若干の足止めになってくれればいい。
「捕獲しろ!」
すでに突進していたミアちゃんは、魔犬に接近して簡易アルマの石を投げつけた。
奴の図体がデカいのも功を奏し、石は確実に命中した。
ブゥーンと魔法陣が出現して捕獲魔法が発動する。
薄い光状の膜が繭のように魔犬を包み込む。
「やった!」
ぼくとミアちゃんは視線を交わし、今度こそガッツポーズを取り合った。
「バカヤロウ!退がれ!」
唐突にミアちゃんへ誰かの怒声が飛んだ。
ぼくたちは「?」と虚をつかれる。
転瞬、ぼくもミアちゃんもハッとした。
「ガルァァァッ!!」
なんと、全身を覆っていた魔法の繭を、魔犬が食いちぎってしまったのだ。
「簡易アルマの捕獲魔法が、通じない!?」
魔犬の鈍く光った眼が、ミアちゃんをぎろりと睨みつける。
ミアちゃんは茫然として立ち尽くしている。
俄かにぼくの中で重大な疑念が沸いた。
本当にこの魔犬は、ガブリエル先生の制御が働いているのか?
「ミアちゃん!」
ぼくはミアちゃんに向かって飛び出した。
ハッキリとした根拠はない。
だけど、ヤバい予感がした。
「ガルァァァッ!」
魔犬がミアちゃんに襲いかかった。
ダメだ。間に合わない!
それは、今まで遭遇した魔犬より一回りも二回りも大きい、どこか異様な雰囲気を纏った赤黒い魔犬。
違いは大きさや色合いだけじゃない。
鈍く光った眼つきや鋭い口元は、より獰猛で凶暴なものに見える。
「な、なんか......」
ぼくもミアちゃんも自然と後ずさった。
おそらくぼくらは、生理的な恐怖に襲われているんだ。
これはトッパーくんやノエルくんに対して感じたものとはまったく異質なもの。
「でも......」
いくら恐いといっても、これはあくまでガブリエル先生の使い魔の〔仮想ゼノ〕。
本物のゼノではないんだ。
最悪なことにはならないように調整しているはずだ。
そしてぼくたちは、国家魔術師を目指している魔術師の卵。
ならば取るべき行動は、ただひとつ。
「ミアちゃん。あれを捕獲しよう」
「あの魔犬と戦うの?」
「ぼくたちは将来、国家魔術師になって本物のゼノと戦うんだ。だったら今、怖いからって仮想ゼノとの戦いを避けていたってしょうがない」
ぼくの言葉にミアちゃんは、そうだね、と頷いた。
「わたしたちは国家魔術師を目指しているんだもんね。だったらやらなきゃだよね」
赤黒い魔犬は一定の距離を空けたまま、グルルル...とこちらの様子を窺っている。
ぼくたちは頷き合い、アルマを構えた。
作戦のための会話は一言で済んだ。
やることは、さっきと同じ。
ミアちゃんがあまり動けない今、ぼくたちができる最大最善の策だ。
「ミアちゃん!」
「うん!」
ぼくは一足飛びで木に駆けていってアルマを刺した。
「〔魔動成長促進〕」
地中からドドドドッと伸びていった根っこは、意表をつくように魔犬の足元で飛び出し、四本の足をぐるぐると捕らえた。
「〔一陣の風〕」
バッチリのタイミングでミアちゃんが風魔法を放った。
バンッ!と突風が魔犬に直撃する。
「やった!」
ぼくたちはガッツポーズを取り合った。
ところが、すぐにぼくたちはその手を下げることになる。
「グルルル......」
なんと、魔犬は何事もなかったように再び唸り始めたんだ。
それだけじゃない。
「ガルルルッ!」
魔犬は、四本の足に絡み付いた根っこを、いとも簡単に喰いちぎってしまった。
それから、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「ど、どうしよう!わたしの風魔法がまったく効いていないよ?」
「ぼ、ぼくの緑魔法もあまり効果がないみたいだ」
さっきの戦術が通じないのなら、今のぼくたちに打つ手はない。
もはや素直に逃げるしかないか......と思いかけた時。
「フェエルくん!わたしの簡易アルマを使っちゃおう!」
「そ、そうか!でも、いいの?」
「いいというよりチャンスだよ!たぶん、この魔犬の捕獲は評価ポイントも高いと思う!ひょっとしたら、通常の魔犬十体分以上なんじゃないかな」
「たしかに!でもどうやって当てる?ある程度近づく必要があるよ?ぼくの魔法はもう通じない気がするし」
「いや、フェエルくんは同じようにやって。牽制になるだけでいい。その隙にわたしが飛び込んで簡易アルマを奴に当てるから。それくらいなら今のわたしでもできるよ」
話し合っている間に魔犬はゆっくりと近づいてきている。
こうなったらやるしかない。
「わかった!じゃあいくよ!」
ミアちゃんが頷いて返してきたと同時に、ぼくは別の木にアルマを刺した。
再び地中から伸びていった根っこが、足元から魔犬を襲った。
「ガルルァァッ!」
魔犬は足元から飛び出てきた根っこを絡みつかれる前に喰いちぎった。
でもこれは想定内。
若干の足止めになってくれればいい。
「捕獲しろ!」
すでに突進していたミアちゃんは、魔犬に接近して簡易アルマの石を投げつけた。
奴の図体がデカいのも功を奏し、石は確実に命中した。
ブゥーンと魔法陣が出現して捕獲魔法が発動する。
薄い光状の膜が繭のように魔犬を包み込む。
「やった!」
ぼくとミアちゃんは視線を交わし、今度こそガッツポーズを取り合った。
「バカヤロウ!退がれ!」
唐突にミアちゃんへ誰かの怒声が飛んだ。
ぼくたちは「?」と虚をつかれる。
転瞬、ぼくもミアちゃんもハッとした。
「ガルァァァッ!!」
なんと、全身を覆っていた魔法の繭を、魔犬が食いちぎってしまったのだ。
「簡易アルマの捕獲魔法が、通じない!?」
魔犬の鈍く光った眼が、ミアちゃんをぎろりと睨みつける。
ミアちゃんは茫然として立ち尽くしている。
俄かにぼくの中で重大な疑念が沸いた。
本当にこの魔犬は、ガブリエル先生の制御が働いているのか?
「ミアちゃん!」
ぼくはミアちゃんに向かって飛び出した。
ハッキリとした根拠はない。
だけど、ヤバい予感がした。
「ガルァァァッ!」
魔犬がミアちゃんに襲いかかった。
ダメだ。間に合わない!
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