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動乱編

ep110 ひらめき(フェエル視点)

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「フェエルくん!」

「くっ!」

「いつまでもつかな~?」

 膝をつくぼくの前に、ノエルくんが余裕の笑みを浮かべて立っている。

「全身ボロボロになっちゃってさぁ」

「フェエルくん!もうわたしのことはいいから」

「くっ......!」

 ノエルくんは、強い。
 例のナイフ投げによる中距離攻撃だけじゃない。
 接近戦での爆裂ナイフはそれ以上に危険で脅威だ。
 でも、問題はそこじゃなかった。

「もうやめて!」

 ミアちゃんが訴えるように叫んだ。
 
「わたしの簡易アルマを譲るから!」

「それじゃつまらないな~」

 ノエルくんは、地面に落ちているナイフを拾い、ハンカチで拭く。
 生地きじにぼくの血がにじんだ。

「猫系の亜人は、尻尾を痛めつけられると三半規管が狂って、動きが著しく鈍くなる。動きが鈍った相手を狙うのは当然だろ?」

 残酷な笑みを浮かべるノエルくんをミアちゃんが睨みつける。

「知ってて、やったんだよね」

「そうだよ?以前にも猫系の亜人の子にやったことがあるから。知ってて当然だ」

「それだけじゃない。動きの鈍ったわたしを狙えば、優しいフェエルくんはわたしを守ろうとする。その結果、フェエルくんが傷ついていく。それもわかってて、やっているよね」

「女子を守ろうと男子が頑張る。素敵な光景じゃないか」

「卑怯だよ!」

「いやいや君らが甘いだけだろ?君らの弱さをおれのせいにするなよ。あーあ。あのジェットレディがスカウトした特待生の子分ならもう少し強いかと期待したんだけど、所詮は落ちこぼれの特異クラス。こんなもんか」

 最初からノエルくんは、ぼくたちとは正面から戦うつもりなんてなかったんだ。
 それはぼくたちを警戒してそうしたんじゃない。
 ぼくたちを見下しきっているからだ。
 
「どうせなら、おれも特待生とやりたかったなー。マッキンリーの奴、ヤソガミを取りやがって」

 ノエルくんは本気で退屈そうな顔をする。
 悔しい。けど、実力差があるのは事実だ。
 なにか覆す手はないのか。
 せっかくみんなで協力して臨む初めての合同魔術演習なんだ。
 ちゃんと結果を残したい。

「ねえ、フェエルくん」

「ミアちゃん?」

「ヤソガミくんなら、どうするのかな」

「それは考えてもあまり意味がないかも。ヤソミんは、ぼくたちとは魔法のレベルが桁違いすぎるから」

「ごめん。言い方が紛らわしかったね。そういう意味で言ったんじゃないんだ」

 ミアちゃんは確かめるように人差し指を立てた。

「エマちゃんが池を利用して鏡魔法を行使したよね?あれってヤソガミくんのアイディアでしょ?それからフェエルくんとわたしの魔法で桜吹雪を演出したけど、それもヤソガミくんのアイディアだった」

「そうだね」

「ヤソガミくんなら、わたしたちの魔法でこの状況を打破するアイディアも思いつくんじゃないかって、そう思ったんだ」

 たしかに、ヤソみんなら何かを思いつきそうだ。
 そう思った時。
 ミアちゃんが何かをひらめいた。

「フェエルくんの魔法って、森の木を直接使うことはできないの?」

「えっ?」

「エマちゃんが池の水で鏡魔法を行使したことを思い出したら、フェエルくんも森の木を使って緑魔法ができるのかなって。ただの思いつきだけど......」

 はたとした。
 それはできる。
 しかし、特別な許可または正当な事由なく植物に魔法で影響を与えることは法律で禁止されている。
 ただ、ここはリュケイオン魔法学園内にある、魔術演習に使用される魔法の森。
 たとえ焼き払われても、管理している魔法学園の教師によって元通りに修復されるって聞いている。
 そんな特殊な森に、通常の法律が適用されるのだろうか?
 少なくとも、ガブリエル先生のルール説明での言及はなかった。
 この授業では、仮想ゼノ捕獲という目的のためであれば、生徒同士の戦闘も、手段として認められる。
 そしてぼくたちは今、ノエルくんから捕獲したゼノを奪われまいと戦っている。
 したがって、今からぼくが『魔法学園内にある特殊な森の木』を使って行使する魔術は、仮想ゼノ捕獲を目的とした手段としての魔術となりえる......。
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