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動乱編

ep108 地の利(フェエル視点)

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 ど、どうしよう。
 ぼくの緑魔法がまったく通じない。

「フェエルくん!わたしが彼を止める!」

 動揺するぼくを鼓舞するように、ミアちゃんがアルマを構えた。

「〔一陣ヴェントゥスの風プロケッロースス〕」

 パン切り包丁がびゅんと振り抜かれ、まさしく一陣の風が発生した。
 突風がブワァァッとノエルくんを襲う。

「所詮は特異クラスか。レベルが低いな~」

 すでに動き出していたノエルくんは横方向にダッと走ってかわした。
 だけどそれはミアちゃんも想定済み。
 即座に続けて同じ魔術を放った。
 続け様に突風がノエルくんを襲う。
「直撃する!」と思った次の瞬間。

「!」

 突風は木の幹に阻まれた。
 実に簡単なこと。
 ノエルくんは横方向に走りながら木の後ろ側に回り込んでいたんだ。
 この時、ぼくはふと気づく。

「ミアちゃんの風魔法は......」
「森では不利かもしれない」

 ミアちゃんも気づいていた。
 そういえば、風による災害を防ぐため『防風林』というものが存在することを思い出した。
 それは生い茂った木々がミアちゃんの風魔法の効果を半減させるであろうことを裏づける。
 知能が高くない魔犬相手ならともかく、知恵のある人間相手に不利になるのは間違いない。

「しかも、それだけじゃない」

「フェエルくん?」

「ぼくたち、最初に不意打ちを喰らったよね?」

「ノエルくんからナイフ投げを......あっ」

 ミアちゃんがぼくの言ったことの意味に気づいた時だった。

 ボガァァァン!

 木々の影からぼくたちの足元へ爆裂ナイフが放たれた。
 ぼくとミアちゃんは反射的に後ろへ跳び退いていた。
 
「ミアちゃん!」

「わかってる!地の利が相手にあるって!」

 などと言っているそばから、さっそく次の爆裂ナイフが飛んでくる。

 ボガァァァン!

 また足元を狙ってきたが、ぼくたちは跳び退いてかわした。
 背後に木が迫ったが、次は横に移動すればいい。
 彼は何がしたいのか。
 まずはぼくたちの足を止めたいのだろうか。
 足を止めた後、狙い撃ちにするのかもしれない。

「フェエルくん。どうする?このままじゃ...」

「マズイよね。二対一だから有利かな、と最初は思っていたけど、甘かったね......」

 ぼくの緑魔法はノエルくんのナイフで防がれてしまうし、ミアちゃんの風魔法は森では力を充分発揮できない。
 一方で、ノエルくんは木に隠れながら飛び道具を放てる。
 この状況。
 明らかに相手にとって有利だ。

「いや、でも......」

 本当にそうだろうか。
 当たり前すぎて気にしなかったけど、ノエルくんの投げナイフ攻撃は、ミアちゃんとは違う。
 ノエルくんの場合、あくまでナイフそのものを投げて攻撃しているんだ。
 何本持っているのかはわからないけど、数には限りがある。
 つまり、この状態でぼくたちが攻撃を避け続ければ出て来ざるをえなくなる。
 そうすれば必ず隙が生まれる。
 その時は、数で勝るぼくたちの方が有利になるはず。

「ミアちゃん。なんとか避け続けながら隙をうかがおう。投げナイフには限りがあるから」

「そ、そうか。弾切れを待つってことだね」

「もちろん相手もわかっているはずだから、より確実に当てるように攻撃してくる。だから、これからしばらく、ぼくたちの魔法は防御のためだけに使おう」

「わかった。でも、最後の一本は投げては来ないよね」

「そうなるとノエルくんは近づいて来ざるをえなくなる。その時は一気に魔法を攻撃に転じるんだ。もちろんその前に出てくる可能性もあるけど、その時も同じように対応すればいい」

 ミアちゃんと頷き合い、ノエルくんが潜むであろう木に向かって構えた。
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