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動乱編
ep89 特別クラス
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*
広大なリュケイオン魔法学園の敷地内にある森林。
ここでは度々、魔術の実技演習が行われる。
時にはここで〔ゼノ〕に見立てた使い魔などを放ち、より実践的な訓練が行われるという。
「敷地内にこれだけの森があるって、スゴイな......」
「さすがリュケイオン魔法学園だよね」
森林の入口付近に、俺たちを含め特異クラスの生徒たちが集まっている。
今からこの森で、合同魔術演習が行われるからだ。
結局、ハウ先生からはこれといったアナウンスもなく当日に至った。
相変わらずこの先生はよくわからない。
俺の中ではすでに「やる気のない先生」となりつつある。
「てかハウ先生さー。詳細はまた追ってお伝えしますとか言っときながら、結局なんも教えてもらってないんですけどー」
さっそくエマが不満たらたらでクレームをつけた。
ハウ先生が無表情のまま何かを言おうとしたところ、後ろから別の先生の声が届く。
「ハウ先生。本日はよろしくお願いします」
振り向いて、俺はぎくりとした。
その神経質でお堅そうな中年男性もすぐに俺の姿を確認して、ギロリと鋭い視線をぶつけてくる。
「特異クラスの生徒の皆さんも、どうぞよろしく」
特別クラスの生徒たちを引き連れてやって来たのは、魔法科主任のガブリエル先生だ。
よりによってこの先生か、と思った矢先。
「え?」
生徒たちの中にひとり知った顔を見つける。
肩をすぼめて居づらそうにしているそいつは、ルームメイトのライマス・ループレイクだった。
「あれ、ライマスじゃね?」
さっそくエマが指をさす。
しかしライマスはうつむいたまま。
俺たちに気づいていないのだろうか?
いやそれはない。
特異クラスとの合同授業となっている時点で、俺たちがいることは知っていて当然だ。
「ライマスの奴、このこと黙ってたんだな」
「それは違うよ。僕が黙らせておいたんだ」
俺がひとり言のように漏らした言葉へ、横からいきなり知らない生徒が反応してきた。
誰だ?
綺麗な金髪に整った顔。
スタイルも良く、立ち振る舞いには高貴さが漂っている。
どこのイケメンお坊ちゃんだ?
「君がウワサの特待生くんだね?あのジェットレディにスカウトされたという」
そいつは興味深そうな目を浮かべて近づいてきた。
「おっと、自己紹介が遅れてしまったね。僕は特別クラスのシャレク・タウゼンだよ」
シャレクは笑顔で手を差し出してきた。
思いのほか友好的だ。
「俺は八十神天従。よろしく」
俺も手を差し出して握手を交わした。
礼儀として、応じないわけにはいかない。
「ふーん?コイツが特待生ねぇ...」
シャレクがぼそっと何かを呟いたが、よく聞き取れなかった。
彼の視線が一段と俺にまとわりつく。
なんだ?なにか嫌な感じがする。
「......いつまで握手するんだ?」
「おっと、すまない。今日の合同魔術演習はよろしくね」
今度はハッキリと聞こえた。
シャレクは握手を解き、別の生徒の所へ向かうように去っていく。
彼の歩く先には......。
「やあセリク。久しぶり」
シャレクが向かったのは、我がクラスが誇る紅髪イケメン男子の所だった。
「やあシャレク。相変わらず元気そうだね」
親しげに挨拶を交わすふたり。
どうやら彼らは友人同士のようだ。
「そろそろこっちに来る気になったか?」
「またそれかい?シャレクもしつこいね」
「いやいや、セリクの才能と実力を考えれば、いつまでもそんなところにいる方がおかしいだろう?」
「ボクは結構気に入っているよ?」
「僕から改めて学校に話すよ?」
「だからいいって。こっちはこっちで退屈しなくて面白いんだよ」
「はぁー。特異クラスにセリクを留めさせるモノって一体何なんだ?」
「放っておけない人が三人もいるからね」
セリクが俺に一瞥をくれた。
それから凛として立っているジークレフ学級委員長へ視線を転じる。
今......セリクが口にした「放っておけない三人」。
まさか、俺と学級委員長?(あとひとりは誰だろう)
「ま、そういうことだから」
セリクは相変わらず感情の読めない笑顔でシャレクとのやり取りを締めた。
「とりあえず今日はよろしく」
理解できないといった仕草をしつつシャレクが引き下がると、セリクは俺にウインクをしてきた。
相変わらず考えの読めないイケメン。
ちょいちょい助けてくれるし悪い奴ではないんだろうけど。
一方、シャレクのほうはどうだろう。
「アイツ、ゼッテーあーしらのこと見下してんな」
絶妙なタイミングでエマが口をひらいた。
「あーしとミャーミャーとフェエルには目もくれなかった。視界にすら入ってないって感じ」
ミアとフェエルも苦笑いするのみで否定しない。
エマは腕組みして続ける。
「シャレク・タウゼン。リュケイオン魔法学園一年生にして生徒会長になった男。しかも名家タウゼン家の長男で父親は魔法省のお偉方。シャレク自身も成績優秀の一年生主席。まさにエリートってやつ?」
「なんだか完璧を絵に描いたような奴だな。てゆーかあいつ生徒会長だったのか?一年生で生徒会長なんてあり得るのか」
「てかヤソガミはそんなことも知らなかったのか?」
エマが半ば呆れたような顔をした。
「ヤソみんって、結構知らないこと多いよね?」
「たしかにヤソガミくんってそういうところあるかも」
フェエルとミアも同調する。
それについて言いたいことはただひとつ。
だって俺(異世界から来た)人間だもの。
「まあ、俺のことはさておいて」
誤魔化すように話題を逸らす。
そこはあまり突っ込まれたくない。
広大なリュケイオン魔法学園の敷地内にある森林。
ここでは度々、魔術の実技演習が行われる。
時にはここで〔ゼノ〕に見立てた使い魔などを放ち、より実践的な訓練が行われるという。
「敷地内にこれだけの森があるって、スゴイな......」
「さすがリュケイオン魔法学園だよね」
森林の入口付近に、俺たちを含め特異クラスの生徒たちが集まっている。
今からこの森で、合同魔術演習が行われるからだ。
結局、ハウ先生からはこれといったアナウンスもなく当日に至った。
相変わらずこの先生はよくわからない。
俺の中ではすでに「やる気のない先生」となりつつある。
「てかハウ先生さー。詳細はまた追ってお伝えしますとか言っときながら、結局なんも教えてもらってないんですけどー」
さっそくエマが不満たらたらでクレームをつけた。
ハウ先生が無表情のまま何かを言おうとしたところ、後ろから別の先生の声が届く。
「ハウ先生。本日はよろしくお願いします」
振り向いて、俺はぎくりとした。
その神経質でお堅そうな中年男性もすぐに俺の姿を確認して、ギロリと鋭い視線をぶつけてくる。
「特異クラスの生徒の皆さんも、どうぞよろしく」
特別クラスの生徒たちを引き連れてやって来たのは、魔法科主任のガブリエル先生だ。
よりによってこの先生か、と思った矢先。
「え?」
生徒たちの中にひとり知った顔を見つける。
肩をすぼめて居づらそうにしているそいつは、ルームメイトのライマス・ループレイクだった。
「あれ、ライマスじゃね?」
さっそくエマが指をさす。
しかしライマスはうつむいたまま。
俺たちに気づいていないのだろうか?
いやそれはない。
特異クラスとの合同授業となっている時点で、俺たちがいることは知っていて当然だ。
「ライマスの奴、このこと黙ってたんだな」
「それは違うよ。僕が黙らせておいたんだ」
俺がひとり言のように漏らした言葉へ、横からいきなり知らない生徒が反応してきた。
誰だ?
綺麗な金髪に整った顔。
スタイルも良く、立ち振る舞いには高貴さが漂っている。
どこのイケメンお坊ちゃんだ?
「君がウワサの特待生くんだね?あのジェットレディにスカウトされたという」
そいつは興味深そうな目を浮かべて近づいてきた。
「おっと、自己紹介が遅れてしまったね。僕は特別クラスのシャレク・タウゼンだよ」
シャレクは笑顔で手を差し出してきた。
思いのほか友好的だ。
「俺は八十神天従。よろしく」
俺も手を差し出して握手を交わした。
礼儀として、応じないわけにはいかない。
「ふーん?コイツが特待生ねぇ...」
シャレクがぼそっと何かを呟いたが、よく聞き取れなかった。
彼の視線が一段と俺にまとわりつく。
なんだ?なにか嫌な感じがする。
「......いつまで握手するんだ?」
「おっと、すまない。今日の合同魔術演習はよろしくね」
今度はハッキリと聞こえた。
シャレクは握手を解き、別の生徒の所へ向かうように去っていく。
彼の歩く先には......。
「やあセリク。久しぶり」
シャレクが向かったのは、我がクラスが誇る紅髪イケメン男子の所だった。
「やあシャレク。相変わらず元気そうだね」
親しげに挨拶を交わすふたり。
どうやら彼らは友人同士のようだ。
「そろそろこっちに来る気になったか?」
「またそれかい?シャレクもしつこいね」
「いやいや、セリクの才能と実力を考えれば、いつまでもそんなところにいる方がおかしいだろう?」
「ボクは結構気に入っているよ?」
「僕から改めて学校に話すよ?」
「だからいいって。こっちはこっちで退屈しなくて面白いんだよ」
「はぁー。特異クラスにセリクを留めさせるモノって一体何なんだ?」
「放っておけない人が三人もいるからね」
セリクが俺に一瞥をくれた。
それから凛として立っているジークレフ学級委員長へ視線を転じる。
今......セリクが口にした「放っておけない三人」。
まさか、俺と学級委員長?(あとひとりは誰だろう)
「ま、そういうことだから」
セリクは相変わらず感情の読めない笑顔でシャレクとのやり取りを締めた。
「とりあえず今日はよろしく」
理解できないといった仕草をしつつシャレクが引き下がると、セリクは俺にウインクをしてきた。
相変わらず考えの読めないイケメン。
ちょいちょい助けてくれるし悪い奴ではないんだろうけど。
一方、シャレクのほうはどうだろう。
「アイツ、ゼッテーあーしらのこと見下してんな」
絶妙なタイミングでエマが口をひらいた。
「あーしとミャーミャーとフェエルには目もくれなかった。視界にすら入ってないって感じ」
ミアとフェエルも苦笑いするのみで否定しない。
エマは腕組みして続ける。
「シャレク・タウゼン。リュケイオン魔法学園一年生にして生徒会長になった男。しかも名家タウゼン家の長男で父親は魔法省のお偉方。シャレク自身も成績優秀の一年生主席。まさにエリートってやつ?」
「なんだか完璧を絵に描いたような奴だな。てゆーかあいつ生徒会長だったのか?一年生で生徒会長なんてあり得るのか」
「てかヤソガミはそんなことも知らなかったのか?」
エマが半ば呆れたような顔をした。
「ヤソみんって、結構知らないこと多いよね?」
「たしかにヤソガミくんってそういうところあるかも」
フェエルとミアも同調する。
それについて言いたいことはただひとつ。
だって俺(異世界から来た)人間だもの。
「まあ、俺のことはさておいて」
誤魔化すように話題を逸らす。
そこはあまり突っ込まれたくない。
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