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過去と今

ep83 打ち上げ

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「なんでここなんだ......」

 腑に落ちない俺をよそに、エマはきゃっきゃとはしゃいでいる。

「あーし、寮に来たのはじめてだし!けっこー広いじゃん!」

「エマの家に比べたら全然たいしたことないだろ」

 俺とライマスが暮らす寮の部屋に、フェエルとエマとミアが遊びに来ている。
 ここが打ち上げ会場らしい。

「そもそもここに女子は入れちゃいけないんだけど」

「だから楽しーんだろぉ??ホントはカワイイ女子ふたりが部屋に来てコーフンしてるくせに~!」

 悪戯っぽく笑うエマ。
 参ったな、と思いながら横を見れば、まんざらではなさそうな様子をひた隠すライマスがいた。

「べ、べべべべつにコーフンなどしていないぞ!」

「なんだよその反応。ガチじゃん」

「ギャルモンスターなど余の眼中にない!」

「その呼び方ヤメろよ!......あっ、これって」

 ぷんぷんしながらエマは、ふとリビングのテーブルの上に置きっぱなしにされたスケッチブックに目をやる。

「この前、ヤソガミが見せてくれたやつじゃん」

 エマがそれに手を伸ばしたと思ったら、突如としたライマスが不自然に焦りだした。

「ま、待て!!」

「なんで?この間も見たからいーじゃん」

「あっ......」

 一歩遅かった。
 エマはスケッチブックを手に取って開く。
 直後、エマとミアの顔が、サーッと一気に凍りつく。

「そ、それはアウトだね......」

 これはフォロー不可能と判断したフェエルが冷や汗混じりに言った。
 エマは冷酷な眼光でライマスを睨みつける。 

「この、エロい姿で絡み合ってるの、あーしとミャーミャーだよな」

 一方で、ミアは心底ドン引きしていた。
 さすがのライマスも狼狽してあわあわとしている。

「ち、違うんだ!これはアートなんだ!」

「言い訳はそれだけか」

「イヤラシイ目的で描いた訳ではない!純粋な芸術的好奇心だ!」

「うんうん、そうだよね~って、言うと思ったかぁぁぁ!!」

 エマの鋭い蹴りがライマスの体にズドッとめり込んだ。

 悶絶もんぜつするライマス。
 一同、気を取り直し......。
 打ち上げが始まる。

「おつかれ~!!」

 ジュースで景気良く乾杯。
 ミアが持ってきた彩り豊かなパンや焼き菓子を囲み、俺の隣に座ったフェエルが幸せそうに微笑んだ。

「なんかいいね。こういうの」

「どれも美味しそうだよな。こんなに頂いちゃって悪い気もするけど」

「そういうことじゃなくて」

「こうやってばーっとテーブルに広げると豪華に見えてより美味しそうになるよな」

「ちがうって」

 クスッと笑いながらフェエルは目を細める。

「こういう時間のことだよ。みんなで楽しく過ごす時間」

「あ、そういうことね」

 みんなで楽しく過ごす時間、か。
 よくよく考えると、クラスメイトとこんな感じで遊ぶのって、いつ以来だろう。
 中学の初めの頃にあった気もするけど、その後のぼっち期間の比重が大きすぎて記憶がない。
 明確な思い出というと小学校時代まで遡る。
 そんな俺が、こうやってみんなで楽しい時間を過ごしている。
 
「行動が結果を生む...か」

 大変なこともあったけど、行動して良かった。
 イジメられていて孤独だったフェエル。
 挫折して荒んでいたエマ。
 そんな彼女と歪んだ関係性で苦しんでいたミア。
 何もしなかったら、こんな時間はやって来なかったはず。
 もちろん失敗する可能性だってあったし、俺だけの力でもない。
 もっとうまくできたのかもしれない。
 だけど......俺は確かに、行動したんだ。

「俺も少しは、変われたのかな」

「どうしたんじゃ?小僧」

「あっ、イナバ」

 部屋で寝ていた白兎がひょっこりやってきて、ぴょーんと俺の肩に飛び乗った。

「若いくせにしっぽりしおって。どうもお主はそういう所があるな」

「べつにいいだろ?俺はこういう性格なんだ」

彼奴あやつもそういう性格なのか?」

 イナバが訊いてきたのは、しゅんとしているライマスのこと。
 奴はエマにこっぴどく叱られてすっかりしぼんでいる。
 身から出た錆とはいえ、ちょっと可哀想になってきた。
 絵自体はマジで上手だし、もっと普通に描いていたなら、エマにもミアにも喜ばれたかもしれないんだ。
 実際、ミアの店で描いた可愛いポップは、子どもを中心にお客さんに大好評だった。
 きっとライマスの描くイラストには、人を喜ばせる力があるんだと思う。

 今回の成功。
 ライマスだって貢献者なんだ。
 俺からしたら、協力を依頼した手前もある。
 ここは俺がなんとかしてやらないと。
 ......といっても、相手はギャルお嬢のエマ。
 なにか良い手立ては......あっ、そうか!
 だったらライマスの絵で、エマを喜ばせてやればいいんだ。

「ライマス!」

「な、なんだ?ヤソガミ氏」

「スケッチブックだ!」

「は?」
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