上 下
67 / 134
過去と今

ep66 エマ・フィッツジェラルド(エマ視点)①

しおりを挟む
「エマ御嬢様。本当に夕食は召し上がらないのですか?」

「もうやすむ」

「そうですか」

「用はねーから、はやく出てけよ」

「かしこまりました」

 さっさとメイドを部屋から追い出した。
 ひとりになりたかったから。

「なにやってんだよ。あーしは」

 ベッドに横になっていると、ヤソガミの言葉が頭に浮かんでくる。

"お前がジェットレディに憧れて国家魔術師を目指してたっていうのわかっている"

 ......あーしだって、なれるもんならなりたい。
 目指せるもんなら目指したい。
 あの白兎の言ったとおりだ。
 諦めきれないんだ。あーしは。

「思い出させるんじゃねえよ。この気持ちを......」



 あーしがジェットレディに憧れたきっかけは十年前。
 全国同時多発的〔ゼノ〕大量発生事件のあの日......。
 
「きゃぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!!」

 豊かなオリエンスの、平和なはずの街が大混乱におちいった。
 完全に魔法省も魔法協会も想定外の事態。
 少数のハイクラスのゼノが発生して緊迫するような事はあったけど、こんな事は初めてだった。
 
「なんだこの数は!?」

 各地の現場へ全国の国家魔術師が総動員されるも、多勢に無勢。
 このままではどれだけの被害と犠牲者が出るかわからない。
 国民全体が絶望的な恐怖に支配される中。
 事態が一変する。
 一部の国家魔術師の驚異的な働きにより、一気に状況が覆されたんだ。

「おおお!コランダムクラスの国家魔術師!マジですげぇ!」
「これがダイモンドクラス......す、凄すぎる!!」

 Aランク以上の国家魔術師はダテじゃなかった。
 彼らの大活躍により、オリエンスは救われたのだ。
 そして......。
 この事件で、一躍いちやく名をせた国家魔術師がいた。
 しかも彼女は、当時まだCランクにも満たない新人魔術師。
 その人の名は、ジェット・リボルバー。

「あ、あのひと、カッコイイ......」

 彼女が活躍する現場に、子どものあーしがいた。
 彼女はとても新人とは思えない立ち回りで人々を守りながら戦っていた。
 あーしは恐怖も忘れて目を奪われた。
 強かったから?
 違う。
 もちろんそれもあるけど、それだけなら他の国家魔術師でも良かったはず。
 なんと彼女は、あーしらに優しく笑いかけながら戦っていたんだ。
 人々が恐怖に怯えてパニックにならないために。
 あーしらに「大丈夫だよ」て、安心させるために。
 まだ新人の彼女が、そんなことをやってのけていたんだ。

「あの娘......スゴイぞ!!」

 後にその様子が話題になり、新人ながらジェット・リボルバーは一挙に魔術師界のアイドル的な存在となる。

 あの日以来。

 あーしにとっては、ジェットレディは憧れのヒーローになった。

「あんなふうになりたい......!」

 いつしかあーしも国家魔術師を目指すようになっていたのは、自然なことだったと思う。
 特にあーしみたいな、弱い子どもにとっては......。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

異世界に射出された俺、『大地の力』で快適森暮らし始めます!

らもえ
ファンタジー
旧題:異世界に射出された俺、見知らぬ森の真中へ放り出される。周りには木しか生えていないけどお地蔵さんに貰ったレアスキルを使って何とか生き延びます。  俺こと杉浦耕平は、学校帰りのコンビニから家に帰る途中で自称神なるものに拉致される。いきなり攫って異世界へ行けとおっしゃる。しかも語り口が軽くどうにも怪しい。  向こうに行っても特に使命は無く、自由にしていいと言う。しかし、もらえたスキルは【異言語理解】と【簡易鑑定】のみ。いや、これだけでどうせいっちゅーに。そんな俺を見かねた地元の地蔵尊がレアスキルをくれると言うらしい。やっぱり持つべきものは地元の繋がりだよね!  それで早速異世界転移!と思いきや、異世界の高高度の上空に自称神の手違いで射出されちまう。紐なしバンジーもしくはパラシュート無しのスカイダイビングか?これ。  自称神様が何かしてくれたお陰で何とか着地に成功するも、辺りは一面木ばっかりの森のど真ん中。いやこれ遭難ですやん。  そこでお地蔵さんから貰ったスキルを思い出した。これが意外とチートスキルで何とか生活していくことに成功するのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

チョロイン2人がオイルマッサージ店でNTR快楽堕ちするまで【完結】

白金犬
ファンタジー
幼馴染同士パーティーを組んで冒険者として生計を立てている2人、シルフィとアステリアは王都でのクエストに一区切りをつけたところだった。 故郷の村へ馬車が出るまで王都に滞在する彼女らは、今流行りのオイルマッサージ店の無料チケットを偶然手に入れる。 好奇心旺盛なシルフィは物珍しさから、故郷に恋人が待っているアステリアは彼のためにも綺麗になりたいという乙女心からそのマッサージ店へ向かうことに。 しかしそこで待っていたのは、真面目な冒険者2人を快楽を貪る雌へと変貌させる、甘くてドロドロとした淫猥な施術だった。 シルフィとアステリアは故郷に戻ることも忘れてーー ★登場人物紹介★ ・シルフィ ファイターとして前衛を支える元気っ子。 元気活発で天真爛漫なその性格で相棒のアステリアを引っ張っていく。 特定の相手がいたことはないが、人知れず恋に恋い焦がれている。 ・アステリア(アスティ) ヒーラーとして前衛で戦うシルフィを支える少女。 真面目で誠実。優しい性格で、誰に対しても物腰が柔らかい。 シルフィと他にもう1人いる幼馴染が恋人で、故郷の村で待っている。 ・イケメン施術師 大人気オイルマッサージ店の受付兼施術師。 腕の良さとその甘いマスクから女性客のリピート必至である。 アステリアの最初の施術を担当。 ・肥満施術師 大人気オイルマッサージ店の知らざれる裏の施術師。 見た目が醜悪で女性には生理的に受け付けられないような容姿のためか表に出てくることはないが、彼の施術を受けたことがある女性客のリピート指名率は90%を超えるという。 シルフィの最初の施術を担当。 ・アルバード シルフィ、アステリアの幼馴染。 アステリアの恋人で、故郷の村で彼女らを待っている。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...