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入学編

ep45 いてくれて良かった

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 ヤツらが視界からいなくなるのを確認して、セリクは俺に視線を運んできた。

「キミ、うちの生徒みたいだけど、一度も見たことないなぁ」

 セリクは思考の読めない眼差しで見つめてくる。
 今の俺は他人のフリをしているので、セリクとは初対面のていでいなければならない。

「た、助けてくれてありがとうございます」

 とりあえず他人らしく丁寧に感謝だけ示した。

「いえいえ。ボクはセリク・クレイトン。キミは?」

「あ、あたしは、ヤソミです」

「ヤソミちゃんね。キミ、小さくてカワイイのに、すごく強いね」

「あ、いえ、そんなことないです」

「ふーん」

「あ、あの?」

 ダメだ。
 セリクが何を考えているのかわからない。
 助けてくれたのは本当にありがたいけど、ヤソミとなった今はあまり長く関わっていたくない。

「せ、セリクさん?」

「まあいいや。じゃ、ボクはもう行くよ」

 急にセリクはあっさりとめて、フェエルに会釈し、いつもどおり爽やかに立ち去っていった。


「セリクくんに助けられちゃったね」

 フェエルが服の汚れを払いながら言った。

「それに、ヤソみんにはいつも助けられてばっかりだね。今回はぼくが助けたかったのに、やっぱりぼくはダメだなぁ。はは.....」

 哀しく笑う友人。
 その笑顔を見ながら俺は思う。
 そんなことはないって。
 
「フェエルは、カッコいいよ」

「えっ?」

「同じクラスに、フェエルがいてくれて本当に良かった」

「そ、それはぼくの方こそだよ!?」

「じゃあお互い様だな」 

「!」
 
 フェエルは面食らったように言葉を失う。
 俺もそれ以上はなにも言わなかった。
 そして、どちらともなく顔をほころばせた。

「とにかく、無事でよかったな」

「そうだね」

「しかしまさか、この身体であんな力を発揮するとは思ってなかったけど」

「小さい女の子になって身体能力が上がって強くなるなんて、おもしろい魔法だね」

 確かにおもしろい魔法だ。
 けど、どういうことなんだろう。
 この魔法は小碓尊オウスノミコト熊襲くまそ征伐の際の女装のエピソードに由来しているんだろうけど......あっ!
 小碓尊はヤマトタケル。
 つまり、姿形は女の子だけど、中身の強さはヤマトタケルってことなのか?
 なんだかややこしい魔法だな!
 でもそれなら、いざとなった時の荒々しさも腑に落ちる。

「自分でもびっくりだよ。まあ、こんな可愛い女子にコテンパンにやられてトッパーもさぞ悔しいだろうな。ヤツの自業自得だけど」

「自分でも可愛いと思うんだ?」

 フェエルがくすっと吹き出す。
 俺もくくくと笑った。
 そんな時。

「ふんっ。どうやら難は去ったようじゃな」

 水を差すように鞄の中からイナバの声が届く。

「さっさと本来の目的を果たしに行かんか」

 そうだ。
 今の俺たちの目的はトッパーたちをやっつけることじゃない。
 ミアに会いにいくことだ。

「余計な時間くったな。はやく行こう!」

「う、うん!」
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