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入学編

ep38 フェエル・ポラン(フェエル視点)②

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「ヤソガミくんが、ミアちゃんを!?」

 その日の朝、学級委員長のユイちゃん...じゃなくてジークレフさんから呼び出されて聞かされた事実に、ぼくは愕然とする。
 ヤソガミくんがミアちゃんを人気のない用務室に連れ込んで、無理矢理行為を迫っただって?
 にわかに信じられない。

「それ本当なの!?証拠はあるの!?」

 ジークレフさんは険しい表情で頷いた。

「たまたまフィッツジェラルドさんが鏡魔法で証拠を収めていました」

「たまたま?なにそれ?ど、どういうこと?」

「私もはじめて知ったのだけれど、フィッツジェラルドさんの鏡魔法には、〔記録レコード〕と〔公開リリース〕以外にも〔遠隔リモート〕という能力があって、自分のアルマを通じて別の鏡からも魔法を発動できると。そして用務室には大きな鏡が置いてありました」

「つ、つまり、エマさんの魔術で用務室の鏡から現場映像をとらえた......」

「そういうことです。貴方も映像を見ればハッキリとわかります。ヤソガミくんが嫌がるキャットレーさんに覆い被さる姿を」

「そ、そんなのぼくはいい!」

「ちなみに、キャットレーさんはショックが大きく、ヤソガミくんと一緒にいたということ以外は何も語っていません。なので実際にどこまでのことをされたかだとか、詳細は...」

「もういいから!」

「本日、キャットレーさんは休むそうです。昨日の今日だものね」

「ミアちゃん......。そ、そういえば先生は?」

「ハウ先生は臨時職員会議に行っているわ。なので授業の開始が遅れるそうです。のちほど改めて私からクラスにアナウンスするけれど」

「そ、その会議って、まさか......ヤソガミくんの処分についての...」

「いいえ。それはまた別件です。魔法犯罪組織についての何かみたいだけれど、魔法省から生徒の安全について通達でもあったのかもしれないわね」

「ヤソガミくんのことじゃないんだ。よ、良かった!でも、ヤソガミくんはどうなるのかな......」

「ヤソガミくんの正式な処分についてはこれから決定します。少なくとも学校としては、このままいけば退学処分とする可能性が高いでしょう。もっとも本人は事実を否定しているけれど」

「やっぱりヤソガミくんは否定しているんだね!?」

「ポランくん。私が貴方を呼び出した理由はそこです」

「え?」

「貴方はヤソガミくんと仲が良かったでしょう?それで貴方に話を聞きたいの」

「は、話って、具体的には...」

「彼の普段の言動や行動から、なにか思い当たるフシなどはないかしら?」

「そ、そんなのあるわけない!」

 言いながら、別にひとつ気になることがあった。
 それは昨日、ミアちゃんがやけにヤソガミくんへ猛アタックを仕掛けていたこと。
 放課後、ぼくと別れてふたりはどこかへ消えていったこと。
 今になって思い返してみると、色々と不自然な気がしてならない。

「ポランくん?」

「いや、な、なんでもないよ」

 思うことはあるけど、言うべきか言わないべきか判断できない。
 それに何より.....まずはヤソみんに会って話がしたい!

「ジークレフさん」

「なに?」

「ヤソガミくんは、どこにいるんですか?」

「管理人の監視の下、寮で待機してもらっています。余計な行動を取ってもらっても困りますからね」
 
 それは事実上、軟禁状態と言っていい。
 授業が終わったら、何としてもぼくから会いにいくしかない!

 *

 昼休み。
 ぼくはひとり教室に残っていた。
 今日はヤソみんもミアちゃんもいないから完全にひとり。
 また、元に戻った。
 ひとりぼっちに。

「よぉ~ザコフェル子ちゃ~ん。メシは食ってねえのかぁ?」

 そこへ狙いすましたようにトッパーくんたちが教室に戻ってきた。
 エマちゃんもいる。
 
「ちょっとトッパー。今は放っておいてやんなよぉ」

「まあ、オトモダチが性犯罪者だったなんてショックだよなぁ」

「ち、違う!ヤソガミくんはそんな人じゃない!」

 思わず声を張り上げてしまった。

「きっとなにかの間違いなんだ!」

「はあ?今さらなに言ってんだよ?」

「ぼ、ぼくは信じない!」

「アツイ友情ってやつかぁ?おいエマ。アレ、見せてやれよ」

「いーよー」

 エマちゃんが折り畳み式の手鏡を出した。
 それは彼女の〔魔法媒介装置アルマ〕。
 
「〔公開リリース〕」

 パカッと手鏡が開かれて鏡魔法が発動する。
 目の前にサーッと鮮明な映像が映し出される。
 ぼくはヤソガミくんを信じていた。
 信じていたけど......その映像に絶句する。
 
「狭い個室で、服がはだけたミャーミャーに覆い被さるヤソガミ。完全にアウトっしょ、コレ。キモすぎ。キショすぎ。マジで死ねよアイツ」

 ヤソガミくんは後ろ姿だったけど、ミアちゃんも証言しているように本人だろう。
 事実、放課後ふたり一緒に何処へと消えていったことはぼくも知っている。
 悲しいけどヤソガミくん以外には考えにくい。
 それにしても......ミアちゃんの服は乱れ、苦痛と恐怖に顔を歪めているその表情が目に焼きつく。

「も、もういいよ」

 これ以上は見ていられない。
 それは紛れもない証拠。
 悲しい。苦しい。
 悲痛な感情に胸が締めつけられる。
 裏切られたような気持ちにもなる。

「よーくわかっただろぉ?」

 トッパーくんがいやらしくニヤついて言った。
 
「そんなわけだから、もうフェル子の味方はいなくなっちまったってわけだ」

「......」

 言葉が出ない。
 もう何を考えていいのかもわからない。
 
「よーし、フェル子。行くぞ」

「えっ?」

「え?じゃねえよ。メシだよメシ」

「な、なんでぼくが?」

「なんでじゃねえだろ?おれら専用の給仕係だろーがテメーは」

「あーしのもおねがい~」

「!」

「なに驚いてんだ。テメーのはとっくに終わったんだよ」
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