上 下
32 / 36

ep32 ダブルあーん

しおりを挟む
「ワタシ!?」
 何のことだかわからないナル。

「せやから次はナルが『あーん』やるんや!」
「わ、ワタシが!?」

 アミ店長はすっくと立ち上がると、無理矢理ナルを引っ張ってきて猫実好和の隣にピッタリくっつけた。
「さあナル!いてもうたれや!」

「い、いてもうたるって」
 困惑するツンデレネコ娘。

 さらにアミ店長はまくしたてる。
「ほな、もずきゅんも行こか!」

 ビシッと指をさされる人見知りネコ娘。
「はぇ???」
 もずきゅんは店長の無茶振りに目を見開いて固まる。

 そんな彼女をアミ店長は無理矢理引っ張ってきて猫実好和の隣にピッタリくっつけた。
「さあもずきゅん!いてもうたれや!」

「そ、そそそそんなこと言われたってぇ!」
 困惑を超えて恐怖の色さえ浮かべるもずきゅん。

 さて、まさしく両手に華となった猫実好和。
「あ、あの、なんなんすかこれ......」
 誰よりも戸惑っていたのは彼だった。

 しかし、アミ店長にそんな事はおかまいナッシング。
「ほな、当店名物!『ダブルあーん』や!」

「そんな名物ないですっ!」
 赤面して叫ぶナル。

「はわわわわっ!」
 もはや形容しがたい顔で言葉にならないもずきゅん。

 謎の緊張感に包まれる三人。
 してやったりな笑みを浮かべるアミ店長。

 いよいよ究極兵器『ダブルあーん』がブッ放されるのか!?
 その時、

 ピンポーン

 インターフォンが鳴った。

「誰か来たで?猫実くん」
「は、はい。こんな時間に誰だろ」

「わ、ワタシが出てくるわ!」
 ここぞとばかりにナルが逃げるように飛び出した。

「はーい!」
 ナルがパタパタと玄関に向かうと、扉の向こうから声が上がる。

「おーい!ネコー!大丈夫かー!」
「見舞いに来たぞー!」

 その声の様子からナルは、
「ん?猫実くんの友達かしら?」
 と思い、ドアをガチャッと開けた。
「はーい」

「あれ?」
「女性?」

 訪問者は秋多と柴井だった。
 彼らも猫実好和の見舞いに訪れたのである。

「あ、あの、おれたち、猫実くんの友人で、彼の見舞いに来たんですが......」
 思わぬ美少女の登場に秋多がしどろもどろ言った。

 柴井も同様に面食らってはいたが、勘の良い彼はナルの顔を見てすぐに気づく。
「......あっ、ひょっとして猫カフェの方ですか?」

 記憶力の良いナルもすぐにわずかな記憶から気づく。
「貴方達は確か......一度、うちの店に来てた猫実くんのお友達ね?」

「はい、そうです。自分は柴井です。こっちは......」
「秋多です!!貴女は、ナルさんですよね!?」
 急に秋多が興奮気味に声を上げた。

「えっ、あ、はい。ワタシはナルです」
 ナルはやや引き気味に返す。

 秋多の鼻息を見た柴井は彼を手で抑えながら訊ねる。
「オレ達は帰った方が良さそうですかね?」

「え?そんな事ないですよ?ただ、ワタシ以外にも二人来ていますけど...」

「じゃあおれたちもお邪魔します!!」
 秋多は柴井の手を払いのけてドタドタと玄関を上がった。
 この時、秋多の胸にはいつの日かのリベンジの炎が燃え上がっていた。
 そう。それはあの日の合コン。

 秋田は思う。
ーーーあの日は不本意な形で終わったが、これは天佑!神がおれに与え給うたチャンス!しかもあの日いなかったナルちゃんがいる!今夜は......見舞いコンパだ!!ーーー

 秋多はどこまでもバカだった。
 
「おいネコ!見舞いに来てやったぞ!」
 鼻息荒い秋多が猛然と部屋の扉をバーンと開けた。
 その瞬間...
「!」
 秋多は絶句する。

 なぜなら、彼の目に映ったのは......

「はい。あーん」
「あ、あああ、あーん」

 二人のネコ娘に、猫実好和が今まさにダブルあーん攻撃に被弾している姿だったから!

「あ、秋多??」
 両手に華の猫実好和は新たな来訪者を見上げた。

 秋多はえも言われぬ怒りにワナワナと身を震わせ始める。
「猫実好和......きさま......この......裏切り者がぁ~!!!」

「なんやなんや??」
 キョトンとするアミ店長。

「ひ、ひいぃぃぃ!!」
 びくんと怯えるもずきゅん。

「な、なんなの...?」
 理解不能で引き気味のナル。

「おれもまぜろ~!!!」
 秋多は爆発し、猫実のもとへ飛び込もうとするが、
「おい!」
 一喝するように後ろから柴井が彼の頭をパーンと叩いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

シャ・ベ クル

うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。  異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…  夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?  主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893? 部員の成長を描いたコメディタッチの物語。 シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。  ※※※ この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。 2023年05月01日   一章『人間ドール開放編』  ~2023年06月27日            二章 … 未定

喫茶「ヤスラギ」

睦月初日
キャラ文芸
ここはとある駅の近くにある喫茶店 「ヤスラギ」 今日もいろんなお客と愉快な店員の 会話が流れてくる。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

化想操術師の日常

茶野森かのこ
キャラ文芸
たった一つの線で、世界が変わる。 化想操術師という仕事がある。 一般的には知られていないが、化想は誰にでも起きる可能性のある現象で、悲しみや苦しみが心に抱えきれなくなった時、人は無意識の内に化想と呼ばれるものを体の外に生み出してしまう。それは、空間や物や生き物と、その人の心を占めるものである為、様々だ。 化想操術師とは、頭の中に思い描いたものを、その指先を通して、現実に生み出す事が出来る力を持つ人達の事。本来なら無意識でしか出せない化想を、意識的に操る事が出来た。 クズミ化想社は、そんな化想に苦しむ人々に寄り添い、救う仕事をしている。 社長である九頭見志乃歩は、自身も化想を扱いながら、化想患者限定でカウンセラーをしている。 社員は自身を含めて四名。 九頭見野雪という少年は、化想を生み出す能力に長けていた。志乃歩の養子に入っている。 常に無表情であるが、それは感情を失わせるような過去があったからだ。それでも、志乃歩との出会いによって、その心はいつも誰かに寄り添おうとしている、優しい少年だ。 他に、志乃歩の秘書でもある黒兎、口は悪いが料理の腕前はピカイチの姫子、野雪が生み出した巨大な犬の化想のシロ。彼らは、山の中にある洋館で、賑やかに共同生活を送っていた。 その洋館に、新たな住人が加わった。 記憶を失った少女、たま子。化想が扱える彼女は、記憶が戻るまでの間、野雪達と共に過ごす事となった。 だが、記憶を失くしたたま子には、ある目的があった。 たま子はクズミ化想社の一人として、志乃歩や野雪と共に、化想を出してしまった人々の様々な思いに触れていく。 壊れた友情で海に閉じこもる少年、自分への後悔に復讐に走る女性、絵を描く度に化想を出してしまう少年。 化想操術の古い歴史を持つ、阿木之亥という家の人々、重ねた野雪の過去、初めて出来た好きなもの、焦がれた自由、犠牲にしても守らなきゃいけないもの。 野雪とたま子、化想を取り巻く彼らのお話です。

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

【台本置き場】珠姫が紡(つむ)ぐ物語

珠姫
キャラ文芸
セリフ初心者の、珠姫が書いた声劇台本ばっかり載せております。 裏劇で使用する際は、報告などは要りません。 一人称・語尾改変は大丈夫です。 少しであればアドリブ改変なども大丈夫ですが、世界観が崩れるような大まかなセリフ改変は、しないで下さい。 著作権(ちょさくけん)フリーですが、自作しました!!などの扱いは厳禁(げんきん)です!!! あくまで珠姫が書いたものを、配信や個人的にセリフ練習などで使ってほしい為です。 配信でご使用される場合は、もしよろしければ【Twitter@tamahime_1124】に、ご一報ください。 ライブ履歴など音源が残る場合なども同様です。 覗きに行かせて頂きたいと思っております。 特に規約(きやく)はあるようで無いものですが、例えば舞台など…劇の公演(有料)で使いたい場合や、配信での高額の収益(配信者にリアルマネー5000円くらいのバック)が出た場合は、少しご相談いただけますと幸いです。 無断での商用利用(しょうようりよう)は固くお断りいたします。 何卒よろしくお願い申し上げます!!

処理中です...