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一話 雑貨屋の猫達
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「明日こそ働きたくないなぁ」と呟きながら布団を広げる。
外はおそらく明日一日中降るであろう雨がしとしと降っている。
すでに眠れない予感があったけれど、半ば強制的に頭を枕に乗せて目を瞑る。
案の定眠れなく、まるで雨音の研究者の如く朝までその音を聞きながら考え続ける。
やがて寝たんだか寝てないんだかわからない塩梅でむくりと起きる。
「また一日が始まるのかぁ」と言いながら窓を開ける。
いつから「始まる」という言葉を負の意味で使うようになったのかはわからないが、とにかくこの「始まる」が酷く憂鬱で仕方ない。
時間になり家を出て仕事に向かう。
当然冴えない顔をしている。
目の下は黒くなりもはや隈だか元々そういう顔だったのかすらわからない。
彼は雑種猫である。
目はくりっとしているが特別どうって事はない外見である。
尻尾は長くもなく短くもなく、体は少し痩せている。
不細工という訳ではないが美形という訳でもなく、男らしいという訳でもない。
そんな雑種猫が濡れる体を気にしつつ、街をとことことぼとぼ職場に向かって歩いていく。
職場の雑貨屋に着き、時間もないのですぐ入り、まずは上司の、なんだか若干覇気と頭のてっぺんの薄い、牛みたいな模様をしたぶち猫に挨拶。
そして仕事に入り同僚にも挨拶。
後輩の一人の、実にバランスのとれた模様の、尻尾の長い、とても器量良しの三毛猫が笑顔で雑種猫に話しかける。
「ちょっと聞いて下さいよ」と言い、他愛もない出来事をしゃべる。
どんなにつまらない話でも、この器量良しの雌猫という相手には、どんなに愛想嫌いなひねくれ者でも体良く答えてしまうもののようだ。
こういう雌猫のそれはもはや才能と感じてしまうぐらいである。
自分にはその才能が全く欠如している事も雑種猫は再確認する。
器量良しの三毛猫が明るく元気に働いているのを横目に、雑種猫はいかに疲れないで済む方法を考えつつ、内容よりも質よりも、体力の配分に最大限の注意を払いながら働く。
三毛猫に負けず劣らずの明るい声が響いている。
アメリカンショートヘアーの彼女は、三毛猫とはとても仲が良く、こちらも中々の器量良しの少しぽっちゃりとした実に天真爛漫な雌猫である。
このアメショーと三毛猫に会うのを目的に、この雑貨屋を訪れる年配の雄猫も多数いるらしい。
この二匹の雌猫は店の看板猫と言ってもいいかもしれない。
雑種猫もこの二匹は本当にいい奴だと思っている。
陽を発する雌というのは生まれながらに免許を持っているようなもんだ、と、感心だか達観だか卑屈だかわからないような事を思いながら、雑種猫は体力の配分と声量の配分まで気をつけながら働く。
この雑貨屋にはあと二匹従業員がいる。
一匹は雄の茶トラ猫。
中肉中背でわりとさっぱりしている。
特徴といえば「普通」といったところか。
本人はそれについて特別良いとも悪いとも疑う事もない。
世の中「普通」というのが一番多いのだろうが、どうやら普通という事になんらかの問いかけや疑問があると、その時点で少し普通ではないようだ。もしくはそういう認識を持ってしまうものらしい。
そういった意味でも、この茶トラ猫は、本当に「普通」なのだろう。
もう一匹は雌の黒猫。
目が大きく印象的な瞳をしていて、どこか影のある雌猫である。
この黒猫を雑種猫は気にかけている。
恋に近い感情も抱いているかもしれない。
しかしそれ以前に、このような影のある猫を見るとどうにも放っておけない、ある意味哀しい習性を雑種猫は持っている。
黒猫が浮かない顔をしている時、雑種猫はそれを察知して、それとなく寂しげな真面目な話をしたりする。
しかし雑種猫はこういう時、どうも簡単に完結にものを言えずだらだら話してしまう性質で、変に理論的に考え過ぎて、結局相手のためだか自分の自尊心のためなんだか、言った後々自問自答しわからなくなってしまうのである。
それでも、この黒猫を雑種猫がとても気にし気にかけている事は嘘偽りない。
外はおそらく明日一日中降るであろう雨がしとしと降っている。
すでに眠れない予感があったけれど、半ば強制的に頭を枕に乗せて目を瞑る。
案の定眠れなく、まるで雨音の研究者の如く朝までその音を聞きながら考え続ける。
やがて寝たんだか寝てないんだかわからない塩梅でむくりと起きる。
「また一日が始まるのかぁ」と言いながら窓を開ける。
いつから「始まる」という言葉を負の意味で使うようになったのかはわからないが、とにかくこの「始まる」が酷く憂鬱で仕方ない。
時間になり家を出て仕事に向かう。
当然冴えない顔をしている。
目の下は黒くなりもはや隈だか元々そういう顔だったのかすらわからない。
彼は雑種猫である。
目はくりっとしているが特別どうって事はない外見である。
尻尾は長くもなく短くもなく、体は少し痩せている。
不細工という訳ではないが美形という訳でもなく、男らしいという訳でもない。
そんな雑種猫が濡れる体を気にしつつ、街をとことことぼとぼ職場に向かって歩いていく。
職場の雑貨屋に着き、時間もないのですぐ入り、まずは上司の、なんだか若干覇気と頭のてっぺんの薄い、牛みたいな模様をしたぶち猫に挨拶。
そして仕事に入り同僚にも挨拶。
後輩の一人の、実にバランスのとれた模様の、尻尾の長い、とても器量良しの三毛猫が笑顔で雑種猫に話しかける。
「ちょっと聞いて下さいよ」と言い、他愛もない出来事をしゃべる。
どんなにつまらない話でも、この器量良しの雌猫という相手には、どんなに愛想嫌いなひねくれ者でも体良く答えてしまうもののようだ。
こういう雌猫のそれはもはや才能と感じてしまうぐらいである。
自分にはその才能が全く欠如している事も雑種猫は再確認する。
器量良しの三毛猫が明るく元気に働いているのを横目に、雑種猫はいかに疲れないで済む方法を考えつつ、内容よりも質よりも、体力の配分に最大限の注意を払いながら働く。
三毛猫に負けず劣らずの明るい声が響いている。
アメリカンショートヘアーの彼女は、三毛猫とはとても仲が良く、こちらも中々の器量良しの少しぽっちゃりとした実に天真爛漫な雌猫である。
このアメショーと三毛猫に会うのを目的に、この雑貨屋を訪れる年配の雄猫も多数いるらしい。
この二匹の雌猫は店の看板猫と言ってもいいかもしれない。
雑種猫もこの二匹は本当にいい奴だと思っている。
陽を発する雌というのは生まれながらに免許を持っているようなもんだ、と、感心だか達観だか卑屈だかわからないような事を思いながら、雑種猫は体力の配分と声量の配分まで気をつけながら働く。
この雑貨屋にはあと二匹従業員がいる。
一匹は雄の茶トラ猫。
中肉中背でわりとさっぱりしている。
特徴といえば「普通」といったところか。
本人はそれについて特別良いとも悪いとも疑う事もない。
世の中「普通」というのが一番多いのだろうが、どうやら普通という事になんらかの問いかけや疑問があると、その時点で少し普通ではないようだ。もしくはそういう認識を持ってしまうものらしい。
そういった意味でも、この茶トラ猫は、本当に「普通」なのだろう。
もう一匹は雌の黒猫。
目が大きく印象的な瞳をしていて、どこか影のある雌猫である。
この黒猫を雑種猫は気にかけている。
恋に近い感情も抱いているかもしれない。
しかしそれ以前に、このような影のある猫を見るとどうにも放っておけない、ある意味哀しい習性を雑種猫は持っている。
黒猫が浮かない顔をしている時、雑種猫はそれを察知して、それとなく寂しげな真面目な話をしたりする。
しかし雑種猫はこういう時、どうも簡単に完結にものを言えずだらだら話してしまう性質で、変に理論的に考え過ぎて、結局相手のためだか自分の自尊心のためなんだか、言った後々自問自答しわからなくなってしまうのである。
それでも、この黒猫を雑種猫がとても気にし気にかけている事は嘘偽りない。
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