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ep15 闇の子
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セレスは目を見開いて驚いていた。
なぜ魔女が、真の〔光の伝承〕を知っているのか。
光の伝承は、一般的に知られているものとそうでないものがある。
一般的に知られているものは〔勇者の伝承〕と呼ばれ、絵本のように広く人々に親しまれている。
しかし今、目の前で魔女が語ったものは、そうでない方のものだ。
「ま、まさか、貴女は......かつての勇者の仲間だったの?」
いや待て。
そんなわけがない。
この魔女は、魔王の最高幹部だったんだ。
そんな者が勇者の仲間だったはずがない。
「わ、私は、何をわけがわからないことを言ってるんだ......」
「フフフ。混乱しているようですね。まあ仕方がないでしょう。昔は今とは随分と様相が異なりましたから」
「ど、どんなふうに、違ったんだ?」
「さあ、古いことですからね。細かいことは忘れてしまいました」
魔女はお茶目にクスクスと笑ってから、悪戯っぽい顔を見せる。
「さっきワタクシは、魔王とはただならぬ関係だったと言いましたね」
「ええ。それがなに......て、まさか?」
「これ以上は、ヒミツです」
「ちょ、ちょっと待って。魔王ならいざ知らず、過去の勇者となると、私にとっては謂わば尊敬すべき偉大な先輩よ!いったい貴女は私の先輩とどんな関係だったの!」
必死の形相で問いだだす勇者セレス。
それに対して魔女は、コケティッシュに焦らしてから「うーん」と考えて答えた。
「そうですねぇ。強いて言えば......元カレ?」
「も、も、ももも元カレぇ!?」
セレスは目ん玉が飛び出す勢いで仰天した。
「実にイイオトコでした。思い出すと、今でも身体が熱くなります」
幻惑の魔女が胸と下腹部を押さえる。
「そう。夜のあの人は、勇者というより魔王でした」
「やめてぇぇぇ!聞きたくないぃぃぃ!」
セレスは耳を塞いだ。
「フフフ。やっぱり貴女は可愛いわ。食べちゃいたいくらい」
「!!」
背筋に悪寒が走る。
貞操の危機を察知して後ずさった。
「冗談ですよ。そんなことはいたしません」
魔女は実に愉しそうに笑った。
ここでセレスがある事に気づいて戦慄する。
「ま、まさか、私があんな恰好で眠っていたのは......」
「大丈夫ですよ。今の貴女からもしっかりと生娘の香りがします」
「き、きむすめ??」
「処女と言った方がよろしくて?」
魔女がドン引きするセレスを面白がっていると、初めてレードが口を挟んだ。
「装備と服を脱がせたのは、闇の魔力が残留していたからだ。つまり......」
レードは淡々と説明する。
「アリスが喰らった一撃で、アリスの身に纏っていた物に闇の魔力が染みついてしまった。それはアリスの治癒の妨げになる」
「そ、そういうことだったのね。あっ、じゃあさっき浄化しておきましたと言ったのは......」
「闇の魔力を浄化したってこと」
「貴方がやってくれたの?」
その質問には幻惑の魔女が応じる。
「レードは闇の魔力を自らに取り込むことができます」
「人間が、闇の魔力を取り込む?」
「レードは闇の子。暗黒魔導師です」
セレスは驚愕した。
暗黒魔導師は、文献や伝承でしかその存在を知らない。
「まさか貴方が、暗黒魔導師だなんて......。古の四天王もそうだけれど、次から次へいったい何なの......」
「フフフ。人ひとりが知っていることなど、世界の片鱗の欠片のごく一部の粒程度のものです。光の勇者といえど例外ではありません。長く生きているワタクシだって、知っていることは限られているのですから」
幻惑の魔女は、セレスを愛おしそうに見つめた。
「......ただ」
セレスは気を取り直して拳をぐっと握る。
「限られた者しか知らないようなことを、悪意を持って利用しようとすることは放っておけない」
「それは、あの男のことですね」
「彼が本当のところで私のことをどう思っていたのかは、今となってはわからない。でも、エヴァンスは頭の良い人。賢者とまで言われる類稀な才を持った魔導師。少なくとも個人的な感情だけで勇者の命を奪おうとしたとは到底思えない」
「何かを企てていると」
「ええ。だからこそ、やっぱり私は彼に会いに行かなければならない。たとえ戦うことになったとしても」
セレスは装備を身につけ始めた。
そこに魔女が人差し指を立てて言った。
「では、ワタクシもお力添えをいたしましょう」
「えっ」
セレスの動作が止まる。
「光の勇者の強さは知っています。しかし、今度の相手は同じ人間です。魔族や魔物を相手にするのとは勝手が違うでしょう。思わぬところで足を掬われかねません」
「それはそうかもしれないけれど」
「レードにお手伝いさせましょう」
「彼が?」
レードへ視線を転じると、当人はもう飽きてしまったように欠伸をかいていた。
「フフフ。光の勇者と暗黒魔導師。中々良いコンビになりそうですね」
「水と油でしょう!?」
「それもまた一興です」
洞窟内には魔女の笑い声と勇者の慌て声が響いた。
なぜ魔女が、真の〔光の伝承〕を知っているのか。
光の伝承は、一般的に知られているものとそうでないものがある。
一般的に知られているものは〔勇者の伝承〕と呼ばれ、絵本のように広く人々に親しまれている。
しかし今、目の前で魔女が語ったものは、そうでない方のものだ。
「ま、まさか、貴女は......かつての勇者の仲間だったの?」
いや待て。
そんなわけがない。
この魔女は、魔王の最高幹部だったんだ。
そんな者が勇者の仲間だったはずがない。
「わ、私は、何をわけがわからないことを言ってるんだ......」
「フフフ。混乱しているようですね。まあ仕方がないでしょう。昔は今とは随分と様相が異なりましたから」
「ど、どんなふうに、違ったんだ?」
「さあ、古いことですからね。細かいことは忘れてしまいました」
魔女はお茶目にクスクスと笑ってから、悪戯っぽい顔を見せる。
「さっきワタクシは、魔王とはただならぬ関係だったと言いましたね」
「ええ。それがなに......て、まさか?」
「これ以上は、ヒミツです」
「ちょ、ちょっと待って。魔王ならいざ知らず、過去の勇者となると、私にとっては謂わば尊敬すべき偉大な先輩よ!いったい貴女は私の先輩とどんな関係だったの!」
必死の形相で問いだだす勇者セレス。
それに対して魔女は、コケティッシュに焦らしてから「うーん」と考えて答えた。
「そうですねぇ。強いて言えば......元カレ?」
「も、も、ももも元カレぇ!?」
セレスは目ん玉が飛び出す勢いで仰天した。
「実にイイオトコでした。思い出すと、今でも身体が熱くなります」
幻惑の魔女が胸と下腹部を押さえる。
「そう。夜のあの人は、勇者というより魔王でした」
「やめてぇぇぇ!聞きたくないぃぃぃ!」
セレスは耳を塞いだ。
「フフフ。やっぱり貴女は可愛いわ。食べちゃいたいくらい」
「!!」
背筋に悪寒が走る。
貞操の危機を察知して後ずさった。
「冗談ですよ。そんなことはいたしません」
魔女は実に愉しそうに笑った。
ここでセレスがある事に気づいて戦慄する。
「ま、まさか、私があんな恰好で眠っていたのは......」
「大丈夫ですよ。今の貴女からもしっかりと生娘の香りがします」
「き、きむすめ??」
「処女と言った方がよろしくて?」
魔女がドン引きするセレスを面白がっていると、初めてレードが口を挟んだ。
「装備と服を脱がせたのは、闇の魔力が残留していたからだ。つまり......」
レードは淡々と説明する。
「アリスが喰らった一撃で、アリスの身に纏っていた物に闇の魔力が染みついてしまった。それはアリスの治癒の妨げになる」
「そ、そういうことだったのね。あっ、じゃあさっき浄化しておきましたと言ったのは......」
「闇の魔力を浄化したってこと」
「貴方がやってくれたの?」
その質問には幻惑の魔女が応じる。
「レードは闇の魔力を自らに取り込むことができます」
「人間が、闇の魔力を取り込む?」
「レードは闇の子。暗黒魔導師です」
セレスは驚愕した。
暗黒魔導師は、文献や伝承でしかその存在を知らない。
「まさか貴方が、暗黒魔導師だなんて......。古の四天王もそうだけれど、次から次へいったい何なの......」
「フフフ。人ひとりが知っていることなど、世界の片鱗の欠片のごく一部の粒程度のものです。光の勇者といえど例外ではありません。長く生きているワタクシだって、知っていることは限られているのですから」
幻惑の魔女は、セレスを愛おしそうに見つめた。
「......ただ」
セレスは気を取り直して拳をぐっと握る。
「限られた者しか知らないようなことを、悪意を持って利用しようとすることは放っておけない」
「それは、あの男のことですね」
「彼が本当のところで私のことをどう思っていたのかは、今となってはわからない。でも、エヴァンスは頭の良い人。賢者とまで言われる類稀な才を持った魔導師。少なくとも個人的な感情だけで勇者の命を奪おうとしたとは到底思えない」
「何かを企てていると」
「ええ。だからこそ、やっぱり私は彼に会いに行かなければならない。たとえ戦うことになったとしても」
セレスは装備を身につけ始めた。
そこに魔女が人差し指を立てて言った。
「では、ワタクシもお力添えをいたしましょう」
「えっ」
セレスの動作が止まる。
「光の勇者の強さは知っています。しかし、今度の相手は同じ人間です。魔族や魔物を相手にするのとは勝手が違うでしょう。思わぬところで足を掬われかねません」
「それはそうかもしれないけれど」
「レードにお手伝いさせましょう」
「彼が?」
レードへ視線を転じると、当人はもう飽きてしまったように欠伸をかいていた。
「フフフ。光の勇者と暗黒魔導師。中々良いコンビになりそうですね」
「水と油でしょう!?」
「それもまた一興です」
洞窟内には魔女の笑い声と勇者の慌て声が響いた。
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