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ep9 裏切り
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「勇者様!すぐに助けます!今少し堪えてください!」
討伐軍が武器を構え、騎士長がマイルスに剣を向けた。
「どういうつもりだ」
「そんなの見ればわかるでしょう」
「マイルス。お前が強いのは知っている。だが、漆黒の狼の異名を持つお前でも、不意打ちとはいえ勇者様を凌ぐとは思えない。一体何をやった?」
勇者は胸を貫かれて倒れているが、なぜか出血はしていない。
物理攻撃に見えて、物理的以外の攻撃なのだろうか。
「さあ、どうでしょう」
「では協力者は誰だ。黒幕がいるのか?」
マイルスは退屈そうな顔をして、なぜかエヴァンスに視線を投げた。
「賢者様。早く済ませましょう」
「そうだね」
エヴァンスは微笑んで答えると、再び幻惑の魔女に向き直った。
「代価は支払いましたよ」
幻惑の魔女は試すような顔になる。
「まさか勇者を差し出すとは。随分と大胆ですね」
「生きてはいます。が、芳しくはないでしょうね。さて、今度は貴女が僕の希望を叶える番だ」
そこまで言ったところで、騎士長が今度はエヴァンスにも剣を向けた。
「エヴァンス殿。これは貴方とマイルスの共謀によるものということでよろしいですね?」
「止めた方がいいよ。騎士長殿」
「只今から討伐軍は、貴方とマイルスを裏切り者として厳しく処断する」
「だから止めなって。今ならセレス一人で勘弁してあげるのに。僕だって君らを皆殺しにしたくない。君らでは代価にもならないし。だから邪魔をしないでくれ」
エヴァンスは本気で面倒臭そうな素振りをする。
完全に相手を見下している態度だ。
一同の間に一段と不穏な空気が充満する。
そこへマイルスが狙ったように口をひらいた。
「賢者様。いっそトドメを刺してしまいましょうか」
マイルスの剣先が勇者の首元に向けられた。
討伐軍の緊張感が一気に高まる。
「マイルス!!」
もはや一触即発の中、幻惑の魔女は地に伏せる勇者を一瞥する。
「さて、どうしたものかしら」
その時。
何かを察知したマイルスが突然その場からサッと跳び退いた。
エヴァンスと騎士長が「?」と思いそこへ目をやると、倒れている勇者の傍に奇妙な人影が浮かび上がる。
「これは、さっき私がやったのと同じか?」
マイルスが目を見張る。
興味深そうにエヴァンスは凝視した。
「いや、それ以上かもしれない」
次第に怪しい影は人間の姿に変化した。
それはどこか不吉な暗色の魔導師の装束を纏った、長身瘦躯の黒髪の若い青年だった。
「エル。こいつはなんだ?」
謎の青年は、目が隠れそうな前髪越しに倒れている勇者を覗き込んだ。
「レード。彼女は光の勇者よ」
「ふーん。それは俺たちにとって、良い存在なのか?悪い存在なのか?」
幻惑の魔女は何も答えず、妖しく微笑んだ。
討伐軍が武器を構え、騎士長がマイルスに剣を向けた。
「どういうつもりだ」
「そんなの見ればわかるでしょう」
「マイルス。お前が強いのは知っている。だが、漆黒の狼の異名を持つお前でも、不意打ちとはいえ勇者様を凌ぐとは思えない。一体何をやった?」
勇者は胸を貫かれて倒れているが、なぜか出血はしていない。
物理攻撃に見えて、物理的以外の攻撃なのだろうか。
「さあ、どうでしょう」
「では協力者は誰だ。黒幕がいるのか?」
マイルスは退屈そうな顔をして、なぜかエヴァンスに視線を投げた。
「賢者様。早く済ませましょう」
「そうだね」
エヴァンスは微笑んで答えると、再び幻惑の魔女に向き直った。
「代価は支払いましたよ」
幻惑の魔女は試すような顔になる。
「まさか勇者を差し出すとは。随分と大胆ですね」
「生きてはいます。が、芳しくはないでしょうね。さて、今度は貴女が僕の希望を叶える番だ」
そこまで言ったところで、騎士長が今度はエヴァンスにも剣を向けた。
「エヴァンス殿。これは貴方とマイルスの共謀によるものということでよろしいですね?」
「止めた方がいいよ。騎士長殿」
「只今から討伐軍は、貴方とマイルスを裏切り者として厳しく処断する」
「だから止めなって。今ならセレス一人で勘弁してあげるのに。僕だって君らを皆殺しにしたくない。君らでは代価にもならないし。だから邪魔をしないでくれ」
エヴァンスは本気で面倒臭そうな素振りをする。
完全に相手を見下している態度だ。
一同の間に一段と不穏な空気が充満する。
そこへマイルスが狙ったように口をひらいた。
「賢者様。いっそトドメを刺してしまいましょうか」
マイルスの剣先が勇者の首元に向けられた。
討伐軍の緊張感が一気に高まる。
「マイルス!!」
もはや一触即発の中、幻惑の魔女は地に伏せる勇者を一瞥する。
「さて、どうしたものかしら」
その時。
何かを察知したマイルスが突然その場からサッと跳び退いた。
エヴァンスと騎士長が「?」と思いそこへ目をやると、倒れている勇者の傍に奇妙な人影が浮かび上がる。
「これは、さっき私がやったのと同じか?」
マイルスが目を見張る。
興味深そうにエヴァンスは凝視した。
「いや、それ以上かもしれない」
次第に怪しい影は人間の姿に変化した。
それはどこか不吉な暗色の魔導師の装束を纏った、長身瘦躯の黒髪の若い青年だった。
「エル。こいつはなんだ?」
謎の青年は、目が隠れそうな前髪越しに倒れている勇者を覗き込んだ。
「レード。彼女は光の勇者よ」
「ふーん。それは俺たちにとって、良い存在なのか?悪い存在なのか?」
幻惑の魔女は何も答えず、妖しく微笑んだ。
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