5 / 21
ep5 魔石
しおりを挟む
やがて一時間が過ぎたころか......。
不意に先頭のエヴァンスが立ち止まる。
「どうしたの?」
セレスが訊いた。
「まさか......」
エヴァンスは魔力探知による索敵に長けている。
その能力と技術は、勇者の魔王討伐にも大きく貢献した。
賢者とは、ただ強力な魔法を扱えるというだけで名乗れるものではない。
魔導師としての圧倒的な総合力が求められる。
エヴァンスはそれを有していた。
「さて、いよいよこれの出番かな」
ここで突然、エヴァンスが不思議な行動を取る。
セレスや騎士長が見つめる中、懐から奇妙な石を取り出した。
何か異様に黒ずんだ石。
「それはなに?」
セレスが訊ねると、なぜかエヴァンスはほっと安堵したように微笑んだ。
「光の勇者のセレスも気づかなかったんだね」
「......なんのこと?」
「セレスが気づかなかったのなら、他の誰にも気づきようがないだろう」
「一体なんの話なの?」
セレスが騎士長に視線を投げるが、彼もわからないといった顔をする。
「エヴァンス殿。その石...で、何かをなさるおつもりですか?」
「これは魔石だよ」
「魔石??」
騎士長より先にセレスが驚く。
「なんの魔力も感じなかったけど」
「これは普通の魔石ではないからね」
「どんな魔石なの?」
「闇の魔石だよ」
「えっ??」
セレスと騎士長が同時に声を上げた瞬間。
魔石からドス黒い何かが滲み出てきた。
「ほらほら。闇の魔力が出てきたよ」
「エヴァンス。貴方なにをやろうとしているの?」
「すぐにわかるさ」
まもなく、異変が起こり始める。
周囲で不気味に何かが蠢き出した。
「なんだ?」
セレスと騎士長含め、討伐軍全体が森を見回す。
その数秒後だろうか。
木々の影からズズズズッと魔物の姿が露わになる。
「魔物の森の魔物どもか。まだこんなに残っていたのか」
騎士長がスチャッと剣を構えた。
部下たちも続いて武器を構える。
一気に全体の空気が張りつめるが、エヴァンスは魔石を持ったまま動かない。
「その魔石で魔物たちを呼び寄せたのね。でも、そんな物をどこで手に入れたの?」
セレスが剣を抜きながら訊ねるが、エヴァンスは微笑するだけで質問には答えない。
「まだだよ」
「まだ?」
「真打登場は、これからだ」
そう言うとエヴァンスは、魔石に魔力を注ぐ仕草をした。
彼に闇の魔力などないはずだが。
「どういうことなの?なぜ貴方は...」
「ほら、セレス。来るよ」
次の瞬間。
ズゥゥゥゥゥン
突如、目の前に巨大な何かが落下した。
その衝撃で地面が大きく震えた。
「!!」
討伐隊全員が、それを見上げた。
額の一本角。禍々しく光る赤色の双眼。
十メートルを超える巨大な躰。
そのどれもが邪悪な迫力に満ちている、熊の怪物を。
不意に先頭のエヴァンスが立ち止まる。
「どうしたの?」
セレスが訊いた。
「まさか......」
エヴァンスは魔力探知による索敵に長けている。
その能力と技術は、勇者の魔王討伐にも大きく貢献した。
賢者とは、ただ強力な魔法を扱えるというだけで名乗れるものではない。
魔導師としての圧倒的な総合力が求められる。
エヴァンスはそれを有していた。
「さて、いよいよこれの出番かな」
ここで突然、エヴァンスが不思議な行動を取る。
セレスや騎士長が見つめる中、懐から奇妙な石を取り出した。
何か異様に黒ずんだ石。
「それはなに?」
セレスが訊ねると、なぜかエヴァンスはほっと安堵したように微笑んだ。
「光の勇者のセレスも気づかなかったんだね」
「......なんのこと?」
「セレスが気づかなかったのなら、他の誰にも気づきようがないだろう」
「一体なんの話なの?」
セレスが騎士長に視線を投げるが、彼もわからないといった顔をする。
「エヴァンス殿。その石...で、何かをなさるおつもりですか?」
「これは魔石だよ」
「魔石??」
騎士長より先にセレスが驚く。
「なんの魔力も感じなかったけど」
「これは普通の魔石ではないからね」
「どんな魔石なの?」
「闇の魔石だよ」
「えっ??」
セレスと騎士長が同時に声を上げた瞬間。
魔石からドス黒い何かが滲み出てきた。
「ほらほら。闇の魔力が出てきたよ」
「エヴァンス。貴方なにをやろうとしているの?」
「すぐにわかるさ」
まもなく、異変が起こり始める。
周囲で不気味に何かが蠢き出した。
「なんだ?」
セレスと騎士長含め、討伐軍全体が森を見回す。
その数秒後だろうか。
木々の影からズズズズッと魔物の姿が露わになる。
「魔物の森の魔物どもか。まだこんなに残っていたのか」
騎士長がスチャッと剣を構えた。
部下たちも続いて武器を構える。
一気に全体の空気が張りつめるが、エヴァンスは魔石を持ったまま動かない。
「その魔石で魔物たちを呼び寄せたのね。でも、そんな物をどこで手に入れたの?」
セレスが剣を抜きながら訊ねるが、エヴァンスは微笑するだけで質問には答えない。
「まだだよ」
「まだ?」
「真打登場は、これからだ」
そう言うとエヴァンスは、魔石に魔力を注ぐ仕草をした。
彼に闇の魔力などないはずだが。
「どういうことなの?なぜ貴方は...」
「ほら、セレス。来るよ」
次の瞬間。
ズゥゥゥゥゥン
突如、目の前に巨大な何かが落下した。
その衝撃で地面が大きく震えた。
「!!」
討伐隊全員が、それを見上げた。
額の一本角。禍々しく光る赤色の双眼。
十メートルを超える巨大な躰。
そのどれもが邪悪な迫力に満ちている、熊の怪物を。
10
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる