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ep2 プロローグ
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「い、イヤ......!」
女は子どもに覆い被さってうずくまった。
万事休す。
魔物の森の魔物たちに、私たちは殺される......。
「??」
女が顔を起こした。
何か様子が変だった。
どういうわけか、魔物どもは一向に近づいて来ない。
それどころか、こちらに怯えているようにさえ見える。
そう思った刹那。
ズゥゥゥゥゥン
突如、目の前に巨大な何かが落下した。
その衝撃で地面が震えた。
「えっ??」
女が見上げて固まる。
口を半開きにし、唖然とした。
それの背丈は十メートルを超えていた。
額に一本角を携え、禍々しき赤色の双眼を光らせた、巨大な熊の怪物。
「ソレハ、ナンダ......」
女は理解できなかった。
腹の底に響く、低い音は聞こえた。
しかし、それが何なのか、わからない。
「ソレハナンダト、イッテイル」
「......えっ??」
やっと理解する。
それが目の前の怪物から発せられた言葉だということを。
「ニンゲンノクセニ、ニンゲンノコトバガワカラナイノカ?」
「あ、あ、あ......!」
もちろん何を言っているかはわかる。
だがそれは、女の恐怖をさらに増幅させた。
全身の筋肉が硬直し、呼吸もままならなくなり、言葉を返すどころではない。
「レオルドよ。そう怖がらせることをないでしょう」
女が言った。
恐怖で固まっていたはずなのに、急にどうしたのか。
「ソンナツモリハナイ。エルフォレス」
熊の怪物がその声に答える。
声の主は、小さく怯える彼女ではない。
空から舞い降りてきた、焦茶色の梟のものだった。
「人間の女よ。その子どもは何ですか?」
地面に着地した梟は、女に近づいていく。
「別に貴女たちを取って喰おうという訳じゃありません。もちろん、場合にもよりますが」
女は引きつったまま答えられない。
次から次へと出現する化け物たちに、ただ戦慄するのみだった。
不意に梟は立ち止まる。
「おっと。人間の貴女には、この姿では答えづらいかもしれませんね」
「??」
「少々お待ちください」
次の瞬間、梟の全身から不思議な光が放たれた。
まもなくぼんやりと何者かの姿が浮かんでくる。
「これなら貴女も話しやすいでしょう」
女は改めて目を見開いた。
今、目に映っている者は、もはや梟ではなかった。
それは妖しくも美しい、幻妖なる魔女。
「あ、あ、あ、貴女は、ま、まさか......」
女の表情は、いつの間にか恐怖のそれではなくなっていた。
「も、森の魔女様ですか!?」
「いかにも、ワタクシは魔物の森の魔女、エルフォレスです」
「ほ、本当に、いたのですね......!」
感激のあまり言葉に詰まる。
「あ、あの方のお話は、うぅ......」
「貴女、ワタクシに会いにきたのですか?」
「え、あ、あの、はい!」
「なるほど。理由はその子どもですね」
「そ、そうなんです!魔女様!この子を、ど、どうか、助けてください!」
「いいでしょう」
「はい!......えっ??」
「どうしたのです?」
「い、いえ、あの、ほ、本当に、いいんですか?」
「いいですよ。ただし、代価は支払っていただきますが」
「か、構いません!この子を助けられるならば!」
「その言葉、嘘ではありませんね?」
「は、はい」
「わかりました。もはや貴女に選ぶ権利はありません」
「は、はい?」
「フフフ......」
魔女が妖しく微笑んだ。
女は子どもに覆い被さってうずくまった。
万事休す。
魔物の森の魔物たちに、私たちは殺される......。
「??」
女が顔を起こした。
何か様子が変だった。
どういうわけか、魔物どもは一向に近づいて来ない。
それどころか、こちらに怯えているようにさえ見える。
そう思った刹那。
ズゥゥゥゥゥン
突如、目の前に巨大な何かが落下した。
その衝撃で地面が震えた。
「えっ??」
女が見上げて固まる。
口を半開きにし、唖然とした。
それの背丈は十メートルを超えていた。
額に一本角を携え、禍々しき赤色の双眼を光らせた、巨大な熊の怪物。
「ソレハ、ナンダ......」
女は理解できなかった。
腹の底に響く、低い音は聞こえた。
しかし、それが何なのか、わからない。
「ソレハナンダト、イッテイル」
「......えっ??」
やっと理解する。
それが目の前の怪物から発せられた言葉だということを。
「ニンゲンノクセニ、ニンゲンノコトバガワカラナイノカ?」
「あ、あ、あ......!」
もちろん何を言っているかはわかる。
だがそれは、女の恐怖をさらに増幅させた。
全身の筋肉が硬直し、呼吸もままならなくなり、言葉を返すどころではない。
「レオルドよ。そう怖がらせることをないでしょう」
女が言った。
恐怖で固まっていたはずなのに、急にどうしたのか。
「ソンナツモリハナイ。エルフォレス」
熊の怪物がその声に答える。
声の主は、小さく怯える彼女ではない。
空から舞い降りてきた、焦茶色の梟のものだった。
「人間の女よ。その子どもは何ですか?」
地面に着地した梟は、女に近づいていく。
「別に貴女たちを取って喰おうという訳じゃありません。もちろん、場合にもよりますが」
女は引きつったまま答えられない。
次から次へと出現する化け物たちに、ただ戦慄するのみだった。
不意に梟は立ち止まる。
「おっと。人間の貴女には、この姿では答えづらいかもしれませんね」
「??」
「少々お待ちください」
次の瞬間、梟の全身から不思議な光が放たれた。
まもなくぼんやりと何者かの姿が浮かんでくる。
「これなら貴女も話しやすいでしょう」
女は改めて目を見開いた。
今、目に映っている者は、もはや梟ではなかった。
それは妖しくも美しい、幻妖なる魔女。
「あ、あ、あ、貴女は、ま、まさか......」
女の表情は、いつの間にか恐怖のそれではなくなっていた。
「も、森の魔女様ですか!?」
「いかにも、ワタクシは魔物の森の魔女、エルフォレスです」
「ほ、本当に、いたのですね......!」
感激のあまり言葉に詰まる。
「あ、あの方のお話は、うぅ......」
「貴女、ワタクシに会いにきたのですか?」
「え、あ、あの、はい!」
「なるほど。理由はその子どもですね」
「そ、そうなんです!魔女様!この子を、ど、どうか、助けてください!」
「いいでしょう」
「はい!......えっ??」
「どうしたのです?」
「い、いえ、あの、ほ、本当に、いいんですか?」
「いいですよ。ただし、代価は支払っていただきますが」
「か、構いません!この子を助けられるならば!」
「その言葉、嘘ではありませんね?」
「は、はい」
「わかりました。もはや貴女に選ぶ権利はありません」
「は、はい?」
「フフフ......」
魔女が妖しく微笑んだ。
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