20 / 24
20話 再チャレンジ
しおりを挟む
気がつけばいつの間にか、もうあと二ヶ月で二十四歳になろうという八月のある日。
僕はふと、辞めていたギターを何気なく弾いてみた。
やはり弾けなかった。
別段それで落ち込む事もなく、そして思い付きで、冗談のつもりで左利きに持ち替えて弾いてみた。
当然弾けなかったのだが、僕は「あれ?」と思った。
なぜか、どういう訳だか可能性を感じたのだ。
「左利きなら練習すれば弾けるんじゃないか?」と閃いたように呟き、そしてどうやら左利きで弾くなら右手も大丈夫そうだったのである。
僕はいつもウジウジしている人間だが、その時思い付いた事はその時やらずにはいられない。
それからすぐに、ジミヘンみたいに右用のギターに左利きで弦を張って弾いてみた。「やっぱり練習すればこれはできるかも」と今度はなかば確信めいて思い、早速その日からギターを左に持ち替えて、新たに左利きで弾く練習を始めた。
しかし、これは本当に大変な作業だった。
知識こそあれ、それこそ本当に一からやり直す事になるので、しかも一度通ってきた道をもう一度歩き直す事になるので、新たな景色の発見という感動がなく、とにかくとてつもなく面倒臭い作業だったのだが、なぜか続ける事ができた。
僕は、自分が本当にギターと音楽が、心の底から好きである事を改めて確認した。
そうしてにわかに「またプロを目指してやってみたい」と思い、新たにレフトハンドのギターも買って、密かに、一人静かに燃え始めた。
散々悩んで失敗し、実に要領の悪い遠回りをして、結局僕は、また同じ道に戻ったのである。
密かに左利きでの練習を始めてから一年が経ち(密かにというのは、この事は本当に誰にも話していなかったからである)ある程度弾けるようになったので、バンド仲間を誘って遊びでコピーバンドをやり、久し振りのライブもやった。
ハッキリ言って自分の演奏は、本当にボロボロでとても聴けたものではなかったと思うが、それでも僕は、ギターの、音楽の楽しさを感じる事ができた。
もっともっとやりたいと思った。つまり、僕はそれだけギターと音楽が好きだという事なのだろう。
翌年の二十四歳の春。
僕は新たに本格的にオリジナルのバンドを始めた。
それなりに忙しく活動し、毎日一生懸命ギターを練習し、充実感もあったのだが、早く上手くならなければ、早く右で弾いていた頃に追いつかなければ、バンドの活動についていけなくなってしまう!そんな事を考え過ぎてしまい、焦燥感、プレッシャーに呑まれて、右手をおかしくしてしまった、以前の失敗、挫折の不安が頭によぎり、なんだか急に弾き方がわからなくなってしまい、僕はまたギターが弾けなくなってしまった。
でも今回のは、そういった過度な心の焦りが原因なのがハッキリしていた。
色々考えた挙句、このままバンドを続けるのは、バンドにとっても自分にとっても良くないなと思い、僕はバンドを辞める事を決意した。
かなり本気で、それこそ人生を賭けてやろう、それぐらいに思っていたバンドなので、相当悩んだ末の結論だった。
メンバーともしっかり話をし、次の年の一月、僕はそのバンドを辞めた。
この事は自分にとって挫折という感じではなかった。
もちろん落ち込む出来事ではあったけれど、そうする事が、なにより自分にとって最善の選択だと思ったからだ。
僕はふと、辞めていたギターを何気なく弾いてみた。
やはり弾けなかった。
別段それで落ち込む事もなく、そして思い付きで、冗談のつもりで左利きに持ち替えて弾いてみた。
当然弾けなかったのだが、僕は「あれ?」と思った。
なぜか、どういう訳だか可能性を感じたのだ。
「左利きなら練習すれば弾けるんじゃないか?」と閃いたように呟き、そしてどうやら左利きで弾くなら右手も大丈夫そうだったのである。
僕はいつもウジウジしている人間だが、その時思い付いた事はその時やらずにはいられない。
それからすぐに、ジミヘンみたいに右用のギターに左利きで弦を張って弾いてみた。「やっぱり練習すればこれはできるかも」と今度はなかば確信めいて思い、早速その日からギターを左に持ち替えて、新たに左利きで弾く練習を始めた。
しかし、これは本当に大変な作業だった。
知識こそあれ、それこそ本当に一からやり直す事になるので、しかも一度通ってきた道をもう一度歩き直す事になるので、新たな景色の発見という感動がなく、とにかくとてつもなく面倒臭い作業だったのだが、なぜか続ける事ができた。
僕は、自分が本当にギターと音楽が、心の底から好きである事を改めて確認した。
そうしてにわかに「またプロを目指してやってみたい」と思い、新たにレフトハンドのギターも買って、密かに、一人静かに燃え始めた。
散々悩んで失敗し、実に要領の悪い遠回りをして、結局僕は、また同じ道に戻ったのである。
密かに左利きでの練習を始めてから一年が経ち(密かにというのは、この事は本当に誰にも話していなかったからである)ある程度弾けるようになったので、バンド仲間を誘って遊びでコピーバンドをやり、久し振りのライブもやった。
ハッキリ言って自分の演奏は、本当にボロボロでとても聴けたものではなかったと思うが、それでも僕は、ギターの、音楽の楽しさを感じる事ができた。
もっともっとやりたいと思った。つまり、僕はそれだけギターと音楽が好きだという事なのだろう。
翌年の二十四歳の春。
僕は新たに本格的にオリジナルのバンドを始めた。
それなりに忙しく活動し、毎日一生懸命ギターを練習し、充実感もあったのだが、早く上手くならなければ、早く右で弾いていた頃に追いつかなければ、バンドの活動についていけなくなってしまう!そんな事を考え過ぎてしまい、焦燥感、プレッシャーに呑まれて、右手をおかしくしてしまった、以前の失敗、挫折の不安が頭によぎり、なんだか急に弾き方がわからなくなってしまい、僕はまたギターが弾けなくなってしまった。
でも今回のは、そういった過度な心の焦りが原因なのがハッキリしていた。
色々考えた挙句、このままバンドを続けるのは、バンドにとっても自分にとっても良くないなと思い、僕はバンドを辞める事を決意した。
かなり本気で、それこそ人生を賭けてやろう、それぐらいに思っていたバンドなので、相当悩んだ末の結論だった。
メンバーともしっかり話をし、次の年の一月、僕はそのバンドを辞めた。
この事は自分にとって挫折という感じではなかった。
もちろん落ち込む出来事ではあったけれど、そうする事が、なにより自分にとって最善の選択だと思ったからだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
命の音が聴こえない
月森優月
現代文学
何も聞こえない。私の世界から音が消えた。
その理由が精神的なものだなんて、認めたくなかった。
「生きてる意味ってあるのかな」
心の中で声が聞こえる。それは本当に私の声なのだろうか。
心の奥に眠る、かすかな命の音。
その音に気付いた時、私の世界は少しずつ動き出す。
これは、何も聞こえない世界で足掻く少女の再生の物語。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
創価学会3世のぼくはいかにしてキリスト教徒になったか
れつだん先生
現代文学
創価学会の一族に生まれ、自身も学会員である渡辺透がなぜキリスト教の洗礼を受けたか。
事実に基づいたフィクションである。
間違ったことが書かれていても責めないでください。素人なので。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる