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18話 餓死未遂と愛
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死ぬと決めてからの食事は、いくら好きな物を食べても、その味すらわからないような、とにかく、全くおいしいとは思わなかった。
生きる全てに色が無い感じ。
白黒?違う。灰色?いや違う。透明?それも違う。
強いて言うなら無。虚無の無。
涙も出ない。
辛いのかどうかもわからない。
なんだかもう、自分の事が自分の事ではないような気がした。
夜中、夜明け近いぐらいの時間に公園に行き、その中の一角の、小山になっている高台に上り、もうその先の方は微かに夜明けの兆しが見え始めている夜空を眺めて、僕は今、本当に独りだと思った。
もう世の中から、僕は完全に切り離されている。
自分にとっての世の中、世の中にとっての自分、全てが関係ない。
夜明けの空を見ながら、今日これから帰ったら、餓死のために横になろうと決めた。
適当な遺書を書いて横になった。
特に何を考えるという感じでもなかった。
今までを振り返るでもない、ただボ~っと、ぼんやり天井を見ながら餓死の瞬間を待つだけだった。
横になってから何時間か経った時、突然自分の家のドアが「ドンドン!」と激しく叩かれた。
何度も何度も叩かれるので、一体なんだ?と思い、つい起き上がりドアを開けると、そこにはとても焦った様子の母が立っていた。
え?なんで?と思った。
月に一回、二回ぐらいしか連絡して来ない母だったが、ここ数日に連絡を取ろうとしていたらしく、そしてその音信不通に、何やら不吉な予感がして思わず駆けつけたようであった。
虫の知らせなのか、母の神通力なのか、その予感は見事に的中していた。
風呂場で転んで頭打って倒れて、もう死んでいるんじゃないかと思い焦った、と少し涙ぐんだような、感情の高ぶりを抑えるような表情で母は言った。
僕はこの時、とっさに遺書を隠して、なんとも言えない表情で適当な返事しかできず、特別何も語らなかったのだが、母はそれとなく見抜いたようで、「あんたが元気に生きている事、それが何よりの親孝行」と僕に言った。
ほんの二十分くらいのやりとりだったと思うが、とりあえず僕が生きていた事に一安心して、母は帰って行った。
この時の僅かな一部始終で、僕はハッとした。
自分は母に、本当に愛されているんだという事に気づいたのだ。
そして帰っていく母を見送りながら、僕はこう思った。
「どんなに惨めで恥ずかしく、どんなに辛くて苦しくて、たとえ死にたくなっても、この人より早くは死ねない。母より先には絶対死ねない」
強く思った。
そう強く思い、僕は弱々しくも、再び生きる決心をした。
部屋に戻ると、すぐに遺書をビリビリに破いて捨て、まずはなんとか友人達と連絡を取ろうと考えた。
どっかに誰かの連絡先が書かれたものがあると思い、必死に探すと、端の方に今のバンドのメンバーの一人の電話番号が書かれた、専門時代に使っていた譜面を見つけて、僕は寝巻きにサンダル姿で、一目散に近くの公衆電話へ駆けて行った。
友人達とはなんとか連絡を取る事ができ、無事縁も切れずに済んだ。
僕は気まずさと恥ずかしさでいっぱいだったが、みんな「まあそんな事もあるよ」という感じで意外にもすんなり戻れた。
バンドに関しては、これ以外の様々な諸事情もあり、少し経って解散した。
経済的な問題に関しては、この時にもまた母が色々と工面してくれて、二十二にもなって情けない限りだが、母のおかげでなんとか持ちこたえる事ができた。
しばらくして新たなバイトも始めた。
こんな状態からのスタートなので不安だらけだったが、最初は落ちきった体力を戻すのに少々苦労しつつも、どうにか辞めずに続ける事ができ、気がつけばもう、僕と僕の生活は平常通りに戻っていた。
生きる全てに色が無い感じ。
白黒?違う。灰色?いや違う。透明?それも違う。
強いて言うなら無。虚無の無。
涙も出ない。
辛いのかどうかもわからない。
なんだかもう、自分の事が自分の事ではないような気がした。
夜中、夜明け近いぐらいの時間に公園に行き、その中の一角の、小山になっている高台に上り、もうその先の方は微かに夜明けの兆しが見え始めている夜空を眺めて、僕は今、本当に独りだと思った。
もう世の中から、僕は完全に切り離されている。
自分にとっての世の中、世の中にとっての自分、全てが関係ない。
夜明けの空を見ながら、今日これから帰ったら、餓死のために横になろうと決めた。
適当な遺書を書いて横になった。
特に何を考えるという感じでもなかった。
今までを振り返るでもない、ただボ~っと、ぼんやり天井を見ながら餓死の瞬間を待つだけだった。
横になってから何時間か経った時、突然自分の家のドアが「ドンドン!」と激しく叩かれた。
何度も何度も叩かれるので、一体なんだ?と思い、つい起き上がりドアを開けると、そこにはとても焦った様子の母が立っていた。
え?なんで?と思った。
月に一回、二回ぐらいしか連絡して来ない母だったが、ここ数日に連絡を取ろうとしていたらしく、そしてその音信不通に、何やら不吉な予感がして思わず駆けつけたようであった。
虫の知らせなのか、母の神通力なのか、その予感は見事に的中していた。
風呂場で転んで頭打って倒れて、もう死んでいるんじゃないかと思い焦った、と少し涙ぐんだような、感情の高ぶりを抑えるような表情で母は言った。
僕はこの時、とっさに遺書を隠して、なんとも言えない表情で適当な返事しかできず、特別何も語らなかったのだが、母はそれとなく見抜いたようで、「あんたが元気に生きている事、それが何よりの親孝行」と僕に言った。
ほんの二十分くらいのやりとりだったと思うが、とりあえず僕が生きていた事に一安心して、母は帰って行った。
この時の僅かな一部始終で、僕はハッとした。
自分は母に、本当に愛されているんだという事に気づいたのだ。
そして帰っていく母を見送りながら、僕はこう思った。
「どんなに惨めで恥ずかしく、どんなに辛くて苦しくて、たとえ死にたくなっても、この人より早くは死ねない。母より先には絶対死ねない」
強く思った。
そう強く思い、僕は弱々しくも、再び生きる決心をした。
部屋に戻ると、すぐに遺書をビリビリに破いて捨て、まずはなんとか友人達と連絡を取ろうと考えた。
どっかに誰かの連絡先が書かれたものがあると思い、必死に探すと、端の方に今のバンドのメンバーの一人の電話番号が書かれた、専門時代に使っていた譜面を見つけて、僕は寝巻きにサンダル姿で、一目散に近くの公衆電話へ駆けて行った。
友人達とはなんとか連絡を取る事ができ、無事縁も切れずに済んだ。
僕は気まずさと恥ずかしさでいっぱいだったが、みんな「まあそんな事もあるよ」という感じで意外にもすんなり戻れた。
バンドに関しては、これ以外の様々な諸事情もあり、少し経って解散した。
経済的な問題に関しては、この時にもまた母が色々と工面してくれて、二十二にもなって情けない限りだが、母のおかげでなんとか持ちこたえる事ができた。
しばらくして新たなバイトも始めた。
こんな状態からのスタートなので不安だらけだったが、最初は落ちきった体力を戻すのに少々苦労しつつも、どうにか辞めずに続ける事ができ、気がつけばもう、僕と僕の生活は平常通りに戻っていた。
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