アンダーヒューマン

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十話――《新たな情報》

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「琴葉、大丈夫か?」

 二階堂潤は片膝をつき、自らの上着の一部分を無造作に破ると、未だ血が滲み続けている琴葉の左肩へと巻き付けた。

「ありがとう、二階堂君」

 へなへなと潤に寄りかかるように身を任せる琴葉は疲れ切った表情。潤は琴葉が大事に至っていないことに安堵する。

「でも、どうして私なんかを助けてくれたの?」
「そりゃぁ、今は休息時間中だろ? それなのに、あの革女。琴葉を狙い撃ちしやがった」

 握りしめた拳を見つめる潤は怒りをあらわにする。

「俺はああいう不意打ちをするような奴は大嫌いだからな、我慢ならなかったんだ」

 潤へ目線を向けていた琴葉は急に気恥しくなると、目線を逸らし、

「あ、ありがとう。二階堂君」
「へっ、いいってことよ。それにしても、そこの傍観者二人はいつになったら姿を現してくれるんだ?」

 潤は目線をこちらに向けて睨みをきかせる。どうやら隠れていたのがバレていた様子。このまま見て見ぬふりをして素知らぬ顔でやり過ごそうと思っていたけれど。

「あはは。バレてた?」

 私は軽く作り笑顔をしながら片手で頭を掻く仕草をして見せる。

「バレてた? じゃねぇよ。始終見ていたの、気づいていたし」

 潤は白けた表情で私を見ている。それにしても、何故バレた? 物音も立てずにこっそりと息を潜めて見ていたはずなのに。目線も合った記憶がない。そう思いながら、私は潤の服の文字を確認する。
 ランク《A》の文字。杏子と同じ、ランク上位の能力者だ。先ほどの戦いを見る限り、撃たれた三乃下琴葉を革女から守るように対峙していた。ということは、もしかすると好戦的でないのであれば、仲間に引き入れることが可能なのかもしれない。私は心の中で嬉しさを押し殺しながらも、先ずは礼節。

「ごめんなさい。ずっと見続けていたわけじゃないの。私達が気づいた時には執行者が立ち入っていたし、どうすることもできなかったのよ」

 腰を僅かに折り、軽く頭を下げる私の姿を見て潤は照れ隠しするように、

「あ、いや。――そんなつもりで言ったんじゃなかったんだけどなぁ」

 頭を下げながらもチラッと目線を潤へ向ける私は――もしかして、脈有り? などと妄想してしまう。
 そして私は、地べたに座り込んでいる琴葉に近づくと、腕を組みながら視線を落とし、

「それにしても、三乃下さんはこんなところで何をしていたのかしら?」
「……わ、わたしは――う、うぅ……」

 言葉をふるわせながら息を詰まらせる琴葉は怯えていた。自らの両腕を交差し、鷲掴みにしながら涙を零す。

 汚れた衣装、疲れ切った様子から推察すると、どうやら何かの事件に巻き込まれて無我夢中でここまで逃げてきたところを革女に追い打ちされたといったところかしら。
 悲痛な思いになりながらも目を細めて、悲しむ琴葉を見つめる私。

「琴葉、無理をして思い出さなくてもいい。余程つらい思いをしたんだろ」

 潤は片膝をつき、怯える琴葉に優しく言葉を掛ける。
 三人が話す傍ら、周囲を警戒するように見ていた杏子がチラッと視線だけをこちらへ向け、

「まぁ、こんな人目の付きやすい場所で長話するより、少し場所を変えて情報交換しないか?」

 一理ある。琴葉がここまで逃げてきたということは、もしかすると別の追っ手がこちらに来てもおかしくはない。
 先ほどの革女の一件もある。
 もし、革女がどこかのチームに所属しているのだとしたら、革女が執行されたことはメンバーに行き届いているはず。

「そうね。少し場所を変えましょう。――立って歩ける? 三乃下さん」

 手を差し出す私の行動に応える琴葉は左肩の痛みを堪えながら立ち上がる。

「さ、行きましょう」

 私は琴葉に肩を貸すと、周囲を警戒しながらその場を後にした。
 





 私達が到着したのは休息までの間、物見やぐらとして使っていた十階建ての荒廃した建物。そこで周囲を警戒しながら地上を見下ろしていた私は追っ手が来ていないことを確認すると、二人の方へ向き直す。

「それで? 二人の御関係を訊いてもいいかしら?」

 まずは、情報収集。私が知る限り、二人は私と同じ学年。だけど、どんな人物だと聞かれれば、答えられるのは中学時代から筆記試験で一番を取り続けていた三乃下琴葉だけ。隣で座っている二階堂潤なる人物は私の記憶の中では廊下ですれ違っただけの『あー、そんな人もいたね』程度の存在だ。
 琴葉が別の異性と一緒にいるところを私は見た事が無い。ということは、この二人はこのバトルロワイヤルで参加してからの付き合いだと予測する。
 そう考えると、二階堂潤に対する警戒心が僅かながら高まっていく。
 私は眼を細め、警戒するように二階堂潤を見つめると、

「おいおい、そんな強面な表情で見られると話せるものも話せなくなっちまう」
「そういった前置きはいいから」

 へらへらと冗談交じりに話す潤は胡坐を組みながらお手上げ状態。
 人を小馬鹿にした態度を取る潤に苛立ちが増した私は、更に睨みをきかせながら鋭く言い放った。

「わかったよ。ったく、しょうがねぇなぁ」

 そっぽ向きながら頭を掻く潤は少し口籠った後、投げやりな口調で話し始めた。

「実は、休息時間に入る直前に大規模な殺し合いが始まったのさ」

 ――なんですって? 初日から殺し合いがあったっていうの? 
 
 私は眉をひそめながらも息を呑むと、叫びたくなる衝動を無理矢理抑えながら冷静を装い、

「大規模な殺し合い?」
「ああ、恐らく以前からこの地下施設にいた奴らだ」

 私の予想は的中していたようだ。やはり、以前からいた連中が獲物を歓迎するが如く、ポイント稼ぎにやってきたといったところか。

「その、以前から居た連中に攻撃されたのね?」
「あ、いや……そうじゃないんだ」

 胡坐をかいていた潤は両手をグッと結び、歯を噛みしめる。
 想像と反した様子の潤に、私は小首を傾げ、頭に疑問符を浮かべた。

「……?」
「この育成訓練が行う前に管理者から特定の人物の情報が提示されていただろ? その人物たちの一人でも拘束又は殺すことが出来た場合、半年後の試験免除及び二階級昇進を約束すると」

 ――は? 何それ? 訊いてないんだけど?

 私の頭の中は更なる疑問符のオンパレード状態になっていく。
 急いで管理者の言っていた言葉を思い浮かべるが、いつの情報だったのかが分からない。
 だが、私はあることに気が付いた。
 確か、アナウンスの途中、一度だけ僅かな未来を客観的に見てしまった時間帯があった。
 もし、私が管理者のアナウンスを聞き逃していたとしたらその時だろう。
 すぐさま杏子へ振り向く私は沸々と込みあがる感情を言葉で示した。

「ちょっと、杏子⁉ そんな大事なことを何で話してくれないの⁉」
「ん? てっきりアナウンスを聞いているとばかり思っていたから気にもしなかったな。――わりぃ、わりぃ……」

 作り笑顔をして誤魔化す杏子は頭を掻きながら笑っている。
 怒っていた私は友人の飄々とした笑顔にもどかしさを覚えると気恥しくなり「それで?」と、不貞腐れた声を洩らした。

「ああ、それで三百人くらいのグループを組んで移動していた俺たちの前に、複数の特定と思われる人物が現れたのさ。恐らく、勧誘目的だったと思う……」
「……? どういうこと?」

 私は眉をひそめて訊き返した。

「奴らが話している最中、突如として執行者が現れたのさ。んで、グループの中にいた数人が執行者と一緒になって勝手に襲い始めたんだよ。……それからは話どころの騒ぎじゃなくなってしまって……」
「戦闘が起こったのね?」
「ああ……。でも、先に能力を得ている奴らに俺たちが勝てるはずもなく。執行者と一緒に現れた数人以外は成す術なく殺されていく始末さ」
「それで、あなたたちは死に物狂いで先ほどの場所まで逃げてきたと?」
「仕方ないだろ? 誰だって殺されるのは怖い。例え、俺の中に特別な能力があったとしても、あんなデタラメな力を見せつけられるとやっぱり誰を犠牲にしてでも逃げてしまう」
「……」
「あんたたちだって、一瞬にして成す術も無くやられていく仲間を見ると逃げるだろ?」

 声を震わせながら話す潤の表情は怯えと焦りが入り混じっていた。

「それでも、あなたには僅かでも自分より能力の扱えない人の命を助ける義務があると思うの。少しでも前に出る勇気があればどれだけの人の命が助かったと思って――」

 私は途中、ハッとしたように口を押えてしまう。

 まさか、バトルロワイヤル開始直前に映った映像ってこのことだったのかしら? 
 そう考えると、もし自分が潤の立場だったら本当に周囲の人に声をかけて逃げるように注意喚起できただろうか? 
 状況にもよるけど、敵がすぐそこまで差し迫っているとしたら、恐らく周囲の人達を犠牲に逃げていたかもしれない。
 むしろ、潤が自分の命を守るために逃げ出してしまったのだとしたら『仕方なかったこと』だと頷ける気がしてくる。
 碧眼を大きく見開き震わせていると、

「おい、沙織。大丈夫か? 汗がすごいぞ?」
「へっ?」

 杏子の呼びかけに素っ頓狂な声を上げてしまう私は眼を泳がせながら、

「ま、まぁ――この件に関しては『自分の身を守るため』ということで仕方なかった出来事だったのでしょう」

 訳も分からず、締めくくろうとする私の立ち振る舞いに、潤は煮えを切らせない様子。

「ったく、何なんだよ」
「でも、二階堂君は殺されかけそうになった私を助けてくれた」

 潤の隣で横座りをしている琴葉は頬を紅く染めながら、助けてくれたことに対してお礼を言う。
 そんな琴葉の純粋な言葉に、潤は気恥しそうに鼻頭を人差し指で掻きながら、照れてしまうのだった。
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