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八話――《戦闘準備》
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私達は遅い夜ご飯を食べ終えると、次の目的地へと向かっていた。地図を頼りに建屋周辺にある店舗を把握するためだ。しかし、同じような建物ばかりで私は眉をひそめていた。
「う~ん……」
「どうした?」
悩む私を杏子が横目で訊いてくる。
「この雑貨屋、《TERU》っていうのが気になっているんだけど、一階じゃないのかなぁ?」
私は先ほどの店で貰った一本のボールペンを片手に、ガイドブックに店の特徴を細かく記していた。
食事の後、店員に営業時間を訊いてみると、営業時間は午前十一時から午後十一時までらしい。どうやら私達は最後の客で、滑り込みで来店してきた感じであった。
そして、それ以前に客が来たか尋ねてみると、午前中はちらほら来ていたみたいだが、午後からはピタリと来なくなったらしい。
理由は言ってくれなかったが、店員の険しい表情を見る限り、恐らく別の店に客を取られた感じであった。
その時、私は「やっぱり」と思い、落胆していたのが三十分前。
それにしても、人が集まっても戦闘が起きていない様子を訊く限り、そこまで過敏になって行動していた私達が馬鹿に思えてくる。
一体彼らはこの状況をどう捉えているのか是非とも訊いてみたいところ。私は店内での出来事を思い出し、鼻で息を鳴らす。
「沙織、こっちから上がれそうだぞ」
杏子が親指でクイクイッと指さした方向を見ると、建物と建物の間にある路地裏へ続く道だった。そこから僅かに見える外付け用の鉄骨階段。しかし、それは二階から上に繋がって建物の脇を交差するように取り付けられていた。
私は階段付近に近づくと首を傾げる。
「あれ? 一階から二階に続く階段は?」
「これのようだな」
杏子は真上に伸びている階段とは言えない足場をポンポンと叩く。私は苦笑いしながら「これを登るの?」と一言ぼやいてしまう。
「でもよ、これだけ人目に付きにくい場所にあるってことは何か意味があるんじゃないのか?」
確かに。しかし、ガイドブックを見る限り、変な商品は載っていなかった、けど。先ほどの店の件もある。ガイドブックには基本的なことしか載っていないけれど、それ以外の商品も売られている可能性がある。何かためになる物が売ってあればいいのだけど。
そう思いながら進み、雑貨屋TERUの前まで到着する私たち。
「ここがお店の入口、かな?」
非常口のような白い簡易扉。杏子はドアノブを引いて扉を開ける。
店内に入ると、中は薄暗く、商品でごった返していた。
初印象――狭くて暗い。そして鼻にツンと来るような異臭。苦手な場所だと瞬時に感じた。
しかし、杏子は違っていた。軽快な足並みで店内に入って行く姿。こういった通常売っていないようなものを見つけるのが好きなようだ。私は先行く杏子の後ろを付いて行く。
周囲を見渡すと、何かのスプレーボトルから箒や塵取り、工具やアクセサリー類まであった。私は店内にバラバラに配置されている統一性のない商品を流し目で見ながら、口で息をする。
「ここには拳銃とかはないのかしら?」
手前を歩く杏子にそっと尋ねる。
「あるにはあるみたいだが――」
クイッと親指で合図するようにレジカウンター後ろを指差す杏子。
私は目を細め、カウンター後ろに並べられた銃器類の名札を凝視した。
「四万五千円ッ⁉ こんなバカみたいに高い値段の代物、どうやって購入するのよ?」
「さぁな。でも、一日千円の支給金を受けているだけでは買えそうもないな」
「確かにね。何かしらの方法で手に入れるか、それ以外の方法、自分の能力を高めるしかないということなのかしら?」
「あたしはともかく、沙織は銃がないとこれから厳しいかもしれないな?」
チラッと私の表情を伺うように杏子が見てくる。
「そう、よね……」
銃さえあれば、牽制にも役立つし、いざとなれば動きながらでも相手の急所を狙い撃つ自信はある。
――でも、買えない……。
今は他のもので代用するしかないか……。
そう思いながら、他の戦闘に役に立ちそうな物品を探し始めた。
「ねぇ、杏子。――そろそろ次の場所に行かない?」
店内に入って二十分。私の鼻が限界に達しそうになっていた。しかし、杏子は未だ出て行く様子はなく、嬉しそうに商品を物色していく。仕方なく私は我慢しながら杏子の後について行っていると、一つの商品に目が留まる。
それは、刃渡り三十センチほどのコンバットナイフだった。
もしかして、これ使えるかも。
私はナイフを手に持つと、値段の付いた値札を確認する。
――五百円。よし、買おう。
眉間にしわを寄せて歩いていた私の表情は緩み、にやけていた。後々振り返ると、刃物を手に持ち、にやける女子ほど怖いシチュエーションはそうはないだろう。
しかし、今の私にはそんなことを考える余裕がなかった。
「よし! あたしはこれにするぜ!」
怖い表情を見せる私の前で、杏子が喜びの声をあげながら右手に持っていた《木刀》を掲げる。私のナイフと違い、切れ味は左程ないものの、長さ百二十センチとリーチが長くて頑丈そうだ。値段も安価で三百円。
何の取り柄もない私と違い、杏子は身体能力向上系。護身用に木刀は現在の私達の装備の中ではぴったりだろう。
私達はこれらの商品を持って、顔中に髭を生やした背丈の小さな小太り店員の方へ向かうと、
「いらっしゃい。コンバットナイフは五百円ね~」
「はい」
私は携帯用端末を差し出し、清算をした。おまけで収納具を付けてもらい、私は嬉しそうにしながら腰のベルトに取り付ける。場所と雰囲気に似合わず良心的な店だと感じていた。
「木刀は三百円――」
「もう一本追加だ」
店員が杏子の言葉に口を止める。
そして、レジ手前にあった規約をチラッと見つめ、
「同品種の複数購入は二本目からは半額。なので、二本で四百五十円ね~」
――なぬ⁉ 私のナイフ一本よりも木刀二本の方が安いときている。杏子は思いもよらぬ店員の対応に満面の笑みを零す。
「はっはっは。あんた、気前がいいな! あたしはこの店気に入ったぜ?」
「どうも~、でしたら記念にこちらをお持ちください~」
私と杏子の二人は店員にそれぞれ一枚のカードらしき物を渡された。
「次回からそれを提示してくだされば、全商品半額とさせて頂きますね~。どうぞ、ごひいきに~」
これは願ってもない対応。杏子に感謝をしたい。そう思い、店を後にした私達は付近が何やら騒がしい状況になっていることに気づく。
恐らく、今は深夜だろう。
何故、こんな時間に? 私の緊張指数が一気に上昇した。
「杏子、もしかすると私達、ペナルティについて何か知ることができるかもしれない」
心臓の鼓動が高鳴る私は、冷や汗混じりで杏子に小さく囁いた。
「どういうことだ?」
普通に会話する杏子に目線を向け、私は人差し指を口元に持っていく。
「――シッ。気づかれると面倒だわ。隠れて様子を見ましょう」
大声で言い争っている方へ目線を向ける私は真剣な表情。杏子の手を引きながら屈むように移動し、建物の脇からその様子を伺うのであった。
「う~ん……」
「どうした?」
悩む私を杏子が横目で訊いてくる。
「この雑貨屋、《TERU》っていうのが気になっているんだけど、一階じゃないのかなぁ?」
私は先ほどの店で貰った一本のボールペンを片手に、ガイドブックに店の特徴を細かく記していた。
食事の後、店員に営業時間を訊いてみると、営業時間は午前十一時から午後十一時までらしい。どうやら私達は最後の客で、滑り込みで来店してきた感じであった。
そして、それ以前に客が来たか尋ねてみると、午前中はちらほら来ていたみたいだが、午後からはピタリと来なくなったらしい。
理由は言ってくれなかったが、店員の険しい表情を見る限り、恐らく別の店に客を取られた感じであった。
その時、私は「やっぱり」と思い、落胆していたのが三十分前。
それにしても、人が集まっても戦闘が起きていない様子を訊く限り、そこまで過敏になって行動していた私達が馬鹿に思えてくる。
一体彼らはこの状況をどう捉えているのか是非とも訊いてみたいところ。私は店内での出来事を思い出し、鼻で息を鳴らす。
「沙織、こっちから上がれそうだぞ」
杏子が親指でクイクイッと指さした方向を見ると、建物と建物の間にある路地裏へ続く道だった。そこから僅かに見える外付け用の鉄骨階段。しかし、それは二階から上に繋がって建物の脇を交差するように取り付けられていた。
私は階段付近に近づくと首を傾げる。
「あれ? 一階から二階に続く階段は?」
「これのようだな」
杏子は真上に伸びている階段とは言えない足場をポンポンと叩く。私は苦笑いしながら「これを登るの?」と一言ぼやいてしまう。
「でもよ、これだけ人目に付きにくい場所にあるってことは何か意味があるんじゃないのか?」
確かに。しかし、ガイドブックを見る限り、変な商品は載っていなかった、けど。先ほどの店の件もある。ガイドブックには基本的なことしか載っていないけれど、それ以外の商品も売られている可能性がある。何かためになる物が売ってあればいいのだけど。
そう思いながら進み、雑貨屋TERUの前まで到着する私たち。
「ここがお店の入口、かな?」
非常口のような白い簡易扉。杏子はドアノブを引いて扉を開ける。
店内に入ると、中は薄暗く、商品でごった返していた。
初印象――狭くて暗い。そして鼻にツンと来るような異臭。苦手な場所だと瞬時に感じた。
しかし、杏子は違っていた。軽快な足並みで店内に入って行く姿。こういった通常売っていないようなものを見つけるのが好きなようだ。私は先行く杏子の後ろを付いて行く。
周囲を見渡すと、何かのスプレーボトルから箒や塵取り、工具やアクセサリー類まであった。私は店内にバラバラに配置されている統一性のない商品を流し目で見ながら、口で息をする。
「ここには拳銃とかはないのかしら?」
手前を歩く杏子にそっと尋ねる。
「あるにはあるみたいだが――」
クイッと親指で合図するようにレジカウンター後ろを指差す杏子。
私は目を細め、カウンター後ろに並べられた銃器類の名札を凝視した。
「四万五千円ッ⁉ こんなバカみたいに高い値段の代物、どうやって購入するのよ?」
「さぁな。でも、一日千円の支給金を受けているだけでは買えそうもないな」
「確かにね。何かしらの方法で手に入れるか、それ以外の方法、自分の能力を高めるしかないということなのかしら?」
「あたしはともかく、沙織は銃がないとこれから厳しいかもしれないな?」
チラッと私の表情を伺うように杏子が見てくる。
「そう、よね……」
銃さえあれば、牽制にも役立つし、いざとなれば動きながらでも相手の急所を狙い撃つ自信はある。
――でも、買えない……。
今は他のもので代用するしかないか……。
そう思いながら、他の戦闘に役に立ちそうな物品を探し始めた。
「ねぇ、杏子。――そろそろ次の場所に行かない?」
店内に入って二十分。私の鼻が限界に達しそうになっていた。しかし、杏子は未だ出て行く様子はなく、嬉しそうに商品を物色していく。仕方なく私は我慢しながら杏子の後について行っていると、一つの商品に目が留まる。
それは、刃渡り三十センチほどのコンバットナイフだった。
もしかして、これ使えるかも。
私はナイフを手に持つと、値段の付いた値札を確認する。
――五百円。よし、買おう。
眉間にしわを寄せて歩いていた私の表情は緩み、にやけていた。後々振り返ると、刃物を手に持ち、にやける女子ほど怖いシチュエーションはそうはないだろう。
しかし、今の私にはそんなことを考える余裕がなかった。
「よし! あたしはこれにするぜ!」
怖い表情を見せる私の前で、杏子が喜びの声をあげながら右手に持っていた《木刀》を掲げる。私のナイフと違い、切れ味は左程ないものの、長さ百二十センチとリーチが長くて頑丈そうだ。値段も安価で三百円。
何の取り柄もない私と違い、杏子は身体能力向上系。護身用に木刀は現在の私達の装備の中ではぴったりだろう。
私達はこれらの商品を持って、顔中に髭を生やした背丈の小さな小太り店員の方へ向かうと、
「いらっしゃい。コンバットナイフは五百円ね~」
「はい」
私は携帯用端末を差し出し、清算をした。おまけで収納具を付けてもらい、私は嬉しそうにしながら腰のベルトに取り付ける。場所と雰囲気に似合わず良心的な店だと感じていた。
「木刀は三百円――」
「もう一本追加だ」
店員が杏子の言葉に口を止める。
そして、レジ手前にあった規約をチラッと見つめ、
「同品種の複数購入は二本目からは半額。なので、二本で四百五十円ね~」
――なぬ⁉ 私のナイフ一本よりも木刀二本の方が安いときている。杏子は思いもよらぬ店員の対応に満面の笑みを零す。
「はっはっは。あんた、気前がいいな! あたしはこの店気に入ったぜ?」
「どうも~、でしたら記念にこちらをお持ちください~」
私と杏子の二人は店員にそれぞれ一枚のカードらしき物を渡された。
「次回からそれを提示してくだされば、全商品半額とさせて頂きますね~。どうぞ、ごひいきに~」
これは願ってもない対応。杏子に感謝をしたい。そう思い、店を後にした私達は付近が何やら騒がしい状況になっていることに気づく。
恐らく、今は深夜だろう。
何故、こんな時間に? 私の緊張指数が一気に上昇した。
「杏子、もしかすると私達、ペナルティについて何か知ることができるかもしれない」
心臓の鼓動が高鳴る私は、冷や汗混じりで杏子に小さく囁いた。
「どういうことだ?」
普通に会話する杏子に目線を向け、私は人差し指を口元に持っていく。
「――シッ。気づかれると面倒だわ。隠れて様子を見ましょう」
大声で言い争っている方へ目線を向ける私は真剣な表情。杏子の手を引きながら屈むように移動し、建物の脇からその様子を伺うのであった。
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