死神と僕と

笹井ひなか

文字の大きさ
上 下
5 / 9
第一章

正体

しおりを挟む
「おやおや?またいらしたのですか?」

相変わらずこの商人からは赤と青の影が揺らめいている。それはまとわりつくようにベッタリと全身を包んでいた。

「あなたは一体どなたですか?」

「クレイニールセンですよ。しがない商人です」

影がキュッと指を掴んできた。なにか言いたいことがありそうだが。ユーリエフの屋敷前でクレイと話をしていると門番が来た。

「あれ、君はこの間の?」

「勝手に帰ってすみませんでした。クレイさんに教えていただいたので」

「クレイ?」

門番が首を傾げた。クレイはにっこり笑う。

「私の愛称みたいなものですよ」

「ああ。そういうことか。クレリアさんだもんな」

「女性みたいな名前で気になるのでクレイと」

名前を偽っていた?どちらが本当の名前なんだ?この男は何を目的に屋敷に来たんだ?

「私の正体はあとで教えますよ」

クレイがそっと伝えてきた。

「さてさて、彼も中に入って大丈夫なんでしょうか?」

「ああ、主人が興味があるらしい」

あの格好で正解だったらしい。装飾品はジョシュアの品だ。アイテム製造でアイデアさえあれば何でも作り上げてしまう。クレイはにこにこと笑っていて何を考えているかわからない。屋敷内部は豪華な調度品で溢れていた。大きなシャンデリアや絵画、花瓶には見事な花が生けられている。だが、執事とかはいないのだろうか?何故門番が内部まで案内するんだ?

「…?」

グイッと影が僕の裾を掴んだ。影が指差す方に淀んだ空気を感じる。

「何かあるんですか?」

そっと話しかけてきたクレイにどう伝えるか考えた。

「私の案内はここまでだ主人が来るのをしばらく待ってくれ」

「はいはーい。ありがとうございます」

門番がいなくなって僕はクレイに伝えた。

「あなたが何故ここに出入りしているかはわからないですが僕には救わなければいけない子がいます。手がかりがここにあるので来たまで…」

「私もそうですよ。ふむ、では君に動いてもらいましょうかね?私は時間稼ぎをするので迷子になってください」

満面の笑みを浮かべたクレイに僕は頷いた。影に引っ張られるまま淀んだ方へ行く。立ち去る僕をクレイが見ていた。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...