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護衛係はお守りじゃない
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護衛係の仕事は暇そうでいて意外とやることはある。護衛、食料配達、彼女を叩き起こし健康的な生活を送らせる…
「お守りじゃねーか」
とはいいつつも、ハリスは今塔を出て、王城に向かう途中である。これも大事な仕事の一つ、彼女と政治幹部との橋渡しである。彼女がまとめた予報を渡し、依頼内容を受け取る。これは仕事らしい仕事だ。
「しかし、俺は配達員をするために騎士になったんじゃない」
毎日何キロも歩いていれば自然と愚痴が溢れるものだ。おまけに先日振られた女のことまで思い出した。
「くそっ、エミリーぃぃ、良いじゃねえか別に護衛対象と同じ家に住むくらい!手なんか出さねっつーの!!あんなガキによぉ…もっと自信持てよぉ…」
いい女だった。輝く金髪、はつらつとした笑顔、まじめな仕事ぶり。しかし少々頭が硬い。アメリアの護衛のために住み込みで働くと伝えたらぶん殴られた。それきり会っていない。彼女のコーヒーの匂いが懐かしい。あのベビ臭い護衛対象とはかけ離れた苦い香りを、無性に嗅ぎたくなる時がある。
「……未練しかねぇ」
そう呟いて顔を上げれば、目的地バイローゼ国王城である。真っ白な外観、行き交う多くの人々。まさしく国の中心地に、ハリスは足を踏み入れた。数回の往復ですっかり慣れた道順で会議場を訪れる。
コンコンコン。
いつもの三回ノックである。
「入れ」
短く返事があった。
「失礼いたします、王国騎士団ハリス・ガウェインでございます…?」
言いながら扉を開く。
「よく来たな」
中には、国王が1人、供もつけずに腰掛けていた。
「アメリアとは上手くやっているか」
高そうな茶をすすりながら王が問掛ける。
「ええまぁ…」
「そうか、しくじるなよ」
お前の首ひとつ所ではないぞ、とさらりと言う王の手がこれまた高そうな焼き菓子に伸びる。
「はい、心得ております」
「司祭には会ったか?」
「はい、失礼ながら、ご尊顔を初めて拝しました」
「なかなかの人相をしていたであろう」
「はい」
「うむ、気をつけろよ。して、今月の予報やいかに」
菓子を咀嚼しながら資料を受け取る王を、流石のハリスも呆れた目で見る。
「失礼ながら、菓子を食いながらの会議は前代未聞でございます」
「硬いこと言うな、お前の前だけだ」
「私の頭が硬いのではなく、王のお考えが柔軟すぎるのです」
「うるさい。あ、でもそういう意味ではお前とエミリーお似合いだよな」
「…彼女には先日振られました」
「………あ、ごっめーん✩」
ハリスの怒りを感じとったのか、上目遣いで王が焼き菓子を差し出してきた。「いりません」と冷たく返すが、王は生暖かい目を向けながらハリスにそれをしっかりと握らせる。
「さて、今週の天気は、…おお、晴れ続きかぁ。こうも雨が降らんと作物が心配だ、食料を備蓄せねば、お前はどう思う、ハリス」
「どうとは?」
「言ってみろよ、言いたいこと。学院の時みたいにさあ」
「……」
王の顔には期待の色が浮かんでいる。どんな無礼な感想でも正直に返すのが得策だろう。バイローゼ国王アルベルト·ヴィンセンシュタインとハリスは学生時代を同じ学院で過ごした。何ならクラスも7年間一緒であり、そこそこ仲はよかったが、卒業後にまさか再会することがあるとは思ってもみなかった。王の方はハリスとの密談(?)を休憩時間にしているらしく、好き勝手に振舞っている。
「失礼ですが」
そう前置きして、ハリスは正直に言う決意をした。
「驚きました。まさか超人的な力に、それを持つたった一人の女性に依存してこの国が動いているとは」
王の目が面白そうに光る。気分を害したようでなくて良かった。同時に、ハリスは自分が息を詰めていたのだと気づく。
「そうか?でもお陰でこの10年間、この国は他のどこよりも安全で平和だった」
「無力な少女をたった1人であんな塔に閉じ込めておいて?」
彼女が言ったように、あそこから逃げ出すのはほぼ不可能であると思った。あの塔には靴がない。
「何事にも犠牲が必要だ。彼女一人の辛抱でほぼ全ての国民が幸せに暮らしている」
「そうかもしれませんが」
にやにやしながら王が質問を返してくる。
「惚れたか?」
「まさか。俺の心はエミリーの物です」
「つまらんヤツめ」
王が身を乗り出してきている。下世話な男だ。自分は恋愛と無縁だからと、人の色恋話と聞くと首を突っ込んでくる。
「だいたい彼女の力がなくなったらどうするんです」
「それなんだよなぁ」
理解者を得たように王が叫んだ。
「やっぱお前いいこと言うな」
もう帰っていい、と王は満足気に手を振った。
「お守りじゃねーか」
とはいいつつも、ハリスは今塔を出て、王城に向かう途中である。これも大事な仕事の一つ、彼女と政治幹部との橋渡しである。彼女がまとめた予報を渡し、依頼内容を受け取る。これは仕事らしい仕事だ。
「しかし、俺は配達員をするために騎士になったんじゃない」
毎日何キロも歩いていれば自然と愚痴が溢れるものだ。おまけに先日振られた女のことまで思い出した。
「くそっ、エミリーぃぃ、良いじゃねえか別に護衛対象と同じ家に住むくらい!手なんか出さねっつーの!!あんなガキによぉ…もっと自信持てよぉ…」
いい女だった。輝く金髪、はつらつとした笑顔、まじめな仕事ぶり。しかし少々頭が硬い。アメリアの護衛のために住み込みで働くと伝えたらぶん殴られた。それきり会っていない。彼女のコーヒーの匂いが懐かしい。あのベビ臭い護衛対象とはかけ離れた苦い香りを、無性に嗅ぎたくなる時がある。
「……未練しかねぇ」
そう呟いて顔を上げれば、目的地バイローゼ国王城である。真っ白な外観、行き交う多くの人々。まさしく国の中心地に、ハリスは足を踏み入れた。数回の往復ですっかり慣れた道順で会議場を訪れる。
コンコンコン。
いつもの三回ノックである。
「入れ」
短く返事があった。
「失礼いたします、王国騎士団ハリス・ガウェインでございます…?」
言いながら扉を開く。
「よく来たな」
中には、国王が1人、供もつけずに腰掛けていた。
「アメリアとは上手くやっているか」
高そうな茶をすすりながら王が問掛ける。
「ええまぁ…」
「そうか、しくじるなよ」
お前の首ひとつ所ではないぞ、とさらりと言う王の手がこれまた高そうな焼き菓子に伸びる。
「はい、心得ております」
「司祭には会ったか?」
「はい、失礼ながら、ご尊顔を初めて拝しました」
「なかなかの人相をしていたであろう」
「はい」
「うむ、気をつけろよ。して、今月の予報やいかに」
菓子を咀嚼しながら資料を受け取る王を、流石のハリスも呆れた目で見る。
「失礼ながら、菓子を食いながらの会議は前代未聞でございます」
「硬いこと言うな、お前の前だけだ」
「私の頭が硬いのではなく、王のお考えが柔軟すぎるのです」
「うるさい。あ、でもそういう意味ではお前とエミリーお似合いだよな」
「…彼女には先日振られました」
「………あ、ごっめーん✩」
ハリスの怒りを感じとったのか、上目遣いで王が焼き菓子を差し出してきた。「いりません」と冷たく返すが、王は生暖かい目を向けながらハリスにそれをしっかりと握らせる。
「さて、今週の天気は、…おお、晴れ続きかぁ。こうも雨が降らんと作物が心配だ、食料を備蓄せねば、お前はどう思う、ハリス」
「どうとは?」
「言ってみろよ、言いたいこと。学院の時みたいにさあ」
「……」
王の顔には期待の色が浮かんでいる。どんな無礼な感想でも正直に返すのが得策だろう。バイローゼ国王アルベルト·ヴィンセンシュタインとハリスは学生時代を同じ学院で過ごした。何ならクラスも7年間一緒であり、そこそこ仲はよかったが、卒業後にまさか再会することがあるとは思ってもみなかった。王の方はハリスとの密談(?)を休憩時間にしているらしく、好き勝手に振舞っている。
「失礼ですが」
そう前置きして、ハリスは正直に言う決意をした。
「驚きました。まさか超人的な力に、それを持つたった一人の女性に依存してこの国が動いているとは」
王の目が面白そうに光る。気分を害したようでなくて良かった。同時に、ハリスは自分が息を詰めていたのだと気づく。
「そうか?でもお陰でこの10年間、この国は他のどこよりも安全で平和だった」
「無力な少女をたった1人であんな塔に閉じ込めておいて?」
彼女が言ったように、あそこから逃げ出すのはほぼ不可能であると思った。あの塔には靴がない。
「何事にも犠牲が必要だ。彼女一人の辛抱でほぼ全ての国民が幸せに暮らしている」
「そうかもしれませんが」
にやにやしながら王が質問を返してくる。
「惚れたか?」
「まさか。俺の心はエミリーの物です」
「つまらんヤツめ」
王が身を乗り出してきている。下世話な男だ。自分は恋愛と無縁だからと、人の色恋話と聞くと首を突っ込んでくる。
「だいたい彼女の力がなくなったらどうするんです」
「それなんだよなぁ」
理解者を得たように王が叫んだ。
「やっぱお前いいこと言うな」
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