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一章
第15話『審判の時』(4/4)
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ゴダードはふと大木を眺めながら、つぶやいた。
「あと、1週間もしない内に勇者ウイルスが発症するだろうな……」
リナは頷き、ゴダードに向けて言った。
「ええ、そうね。あたしは、教団に合いそうな者には声をかけてみるわ。ゴダードは?」
蓄えた顎髭をさすりながら、ゴダードは言う。
「ワシも同じく、だな」
その二人の様子を見て、ラピスと出来ることを再確認するかのように言った。
「俺は、保護には向いてないので……。対抗ワクチンの研究を大学の研究室で進めます」
すると思い出したかのようにリナはゴダードとヒロに銀色のブレスレットを渡しながら言う。
「これね、リングをしている者同士で念話出来るすぐれものよ? 二人に渡しておくわね」
どう見ても腕のサイズにピッタリな感じで入るのかと疑問を抱きながら腕を通すと、ゴムのように伸びた。
ブレスレットというよりは、糸に近い。ゆえにあまり真立たないのがありがたい。ヒロ自身は装飾品に興味もなければ、つけたいとも思わないからだ。それはゴダードも同じで気にならない物なのでよしとした。
ゴダードはおもむろに通した腕を上げてこめかみに当てると、口を閉じているのにヒロとリナにはゴダードの声が聞こえた。
ヒロは少し驚いたように言った。
「すごいですね。普通に聞こえます」
ゴダードも感心したように自身の腕を眺めながら言う。
「これは、どうやったんじゃ?」
リナは得意げに微笑むと言う。
「企業秘密よ?」
ゴダードは少し残念そうにするものの仕方ないと割り切ったようだ。
リナは唐突にヒロに向けていう。
「ヒロくん」
何を言われるのやらと思わず一言しか返せなった。
「はい?」
すると何のこともない。リナは、支援すると言う。
「必要な物あったら言ってね」
リナが、頼りがいのあるいつもリナがそこにいた。ヒロは嬉しく思い言った。
「ありがとうございます。このご時世ですから、遠慮なく頼むと思います」
リナはウインクをしながら、言葉を返した。
「ええ、任せてね」
ゴダードはやれやれと苦労が抜けないとため息をつくと、今後のことを伝えた。
「ワシは治安維持に少し力を割くやもしれぬ」
リナは気になるのか、ゴダードに軽く、聞いていた。
「やっぱ勇者ウイルスの発症者が暴動すると思う?」
ゴダードは確信めいた顔つきで、リナとヒロに向けて言う。
「まあ十中八九で、傍若無人な振る舞いで暴れるじゃろうな」
リナは額を押さえてため息混じりにいう。
「そうよね……。ヒロくんは心配せず自分のことに集中してね。あと共食いも魔人化も、ほどほどにね」
ヒロは少し慌てるものの、どこか爽やかな笑顔になっていた。
「は、はい……。気をつけます」
ゴダードは別の用事があるのか、場所を動こうとしていた。
「それじゃワシはそろそろいくとするかの」
リナもこのタイミングで、この場から離れるように言う。
「あら、そしたらあたしもお暇しようかしら? これから連絡はお互いできるから心配ないわね? とくにヒロくん?」
突然話をふられて、ヒロは驚く。
「え? 俺ですか?」
ゴダードもどこかニヤリとしながら言う。
「ヒロはな、心配症なところもあるからのう」
ヒロは後頭部をかきながら、照れくさそうに言った。
「大丈夫ですよ。二人とも無事で俺がいて、そして今はラピスもいる」
冗談めかしてリナは楽しそうに言った。
「あら? ラピスにヒロくん取られちゃったかしら?」
ヒロはいつの間にか心の底から笑っていた。
「変なこと、言わないでくださいよ~」
リナはすでに空中に浮くと、ヒロとゴダードに向けて言った。
「それじゃ、あたし行くわ。二人ともまたね」
ゴダードは徒歩で出入り口の扉に向かうと、手のひらを頭上に上げてひらひらとさせ言う。
「ワシも移動するとするのかの、ではな」
ヒロも二人に向けて言った。
「俺は、少しここで研究を続けてから帰ります」
三人とも息がぴったりと合い、同じ言葉を紡ぐ。
「「「我らの世界のために!」」」
リナは飛び去り、ゴダードは徒歩で研究室を出ていった。
ヒロは外の空気を吸おうと、かつて自分が破壊した廊下の壁に向かう。
すでに補修されており、何事もなかったかのような佇まいだ。
ところが、壁は問題なくとも別の問題が起きていた。
ヒロは、窓を開けて外の風を心地よく浴びていると、不意に異様な者を目にしてしまう。
すると、同じタイミングでラピスも気がついた様子でいう。
「ねね、あれってもしかして……」
ヒロもラピスと同じ思いで言った。
「ああ、あれは発症した奴かもしれないな……」
そうそれは『勇者ウイルス』がすでに現れたことを意味していた。
なぜそう思うかというと、明確な理由があった。
それは……。
「あと、1週間もしない内に勇者ウイルスが発症するだろうな……」
リナは頷き、ゴダードに向けて言った。
「ええ、そうね。あたしは、教団に合いそうな者には声をかけてみるわ。ゴダードは?」
蓄えた顎髭をさすりながら、ゴダードは言う。
「ワシも同じく、だな」
その二人の様子を見て、ラピスと出来ることを再確認するかのように言った。
「俺は、保護には向いてないので……。対抗ワクチンの研究を大学の研究室で進めます」
すると思い出したかのようにリナはゴダードとヒロに銀色のブレスレットを渡しながら言う。
「これね、リングをしている者同士で念話出来るすぐれものよ? 二人に渡しておくわね」
どう見ても腕のサイズにピッタリな感じで入るのかと疑問を抱きながら腕を通すと、ゴムのように伸びた。
ブレスレットというよりは、糸に近い。ゆえにあまり真立たないのがありがたい。ヒロ自身は装飾品に興味もなければ、つけたいとも思わないからだ。それはゴダードも同じで気にならない物なのでよしとした。
ゴダードはおもむろに通した腕を上げてこめかみに当てると、口を閉じているのにヒロとリナにはゴダードの声が聞こえた。
ヒロは少し驚いたように言った。
「すごいですね。普通に聞こえます」
ゴダードも感心したように自身の腕を眺めながら言う。
「これは、どうやったんじゃ?」
リナは得意げに微笑むと言う。
「企業秘密よ?」
ゴダードは少し残念そうにするものの仕方ないと割り切ったようだ。
リナは唐突にヒロに向けていう。
「ヒロくん」
何を言われるのやらと思わず一言しか返せなった。
「はい?」
すると何のこともない。リナは、支援すると言う。
「必要な物あったら言ってね」
リナが、頼りがいのあるいつもリナがそこにいた。ヒロは嬉しく思い言った。
「ありがとうございます。このご時世ですから、遠慮なく頼むと思います」
リナはウインクをしながら、言葉を返した。
「ええ、任せてね」
ゴダードはやれやれと苦労が抜けないとため息をつくと、今後のことを伝えた。
「ワシは治安維持に少し力を割くやもしれぬ」
リナは気になるのか、ゴダードに軽く、聞いていた。
「やっぱ勇者ウイルスの発症者が暴動すると思う?」
ゴダードは確信めいた顔つきで、リナとヒロに向けて言う。
「まあ十中八九で、傍若無人な振る舞いで暴れるじゃろうな」
リナは額を押さえてため息混じりにいう。
「そうよね……。ヒロくんは心配せず自分のことに集中してね。あと共食いも魔人化も、ほどほどにね」
ヒロは少し慌てるものの、どこか爽やかな笑顔になっていた。
「は、はい……。気をつけます」
ゴダードは別の用事があるのか、場所を動こうとしていた。
「それじゃワシはそろそろいくとするかの」
リナもこのタイミングで、この場から離れるように言う。
「あら、そしたらあたしもお暇しようかしら? これから連絡はお互いできるから心配ないわね? とくにヒロくん?」
突然話をふられて、ヒロは驚く。
「え? 俺ですか?」
ゴダードもどこかニヤリとしながら言う。
「ヒロはな、心配症なところもあるからのう」
ヒロは後頭部をかきながら、照れくさそうに言った。
「大丈夫ですよ。二人とも無事で俺がいて、そして今はラピスもいる」
冗談めかしてリナは楽しそうに言った。
「あら? ラピスにヒロくん取られちゃったかしら?」
ヒロはいつの間にか心の底から笑っていた。
「変なこと、言わないでくださいよ~」
リナはすでに空中に浮くと、ヒロとゴダードに向けて言った。
「それじゃ、あたし行くわ。二人ともまたね」
ゴダードは徒歩で出入り口の扉に向かうと、手のひらを頭上に上げてひらひらとさせ言う。
「ワシも移動するとするのかの、ではな」
ヒロも二人に向けて言った。
「俺は、少しここで研究を続けてから帰ります」
三人とも息がぴったりと合い、同じ言葉を紡ぐ。
「「「我らの世界のために!」」」
リナは飛び去り、ゴダードは徒歩で研究室を出ていった。
ヒロは外の空気を吸おうと、かつて自分が破壊した廊下の壁に向かう。
すでに補修されており、何事もなかったかのような佇まいだ。
ところが、壁は問題なくとも別の問題が起きていた。
ヒロは、窓を開けて外の風を心地よく浴びていると、不意に異様な者を目にしてしまう。
すると、同じタイミングでラピスも気がついた様子でいう。
「ねね、あれってもしかして……」
ヒロもラピスと同じ思いで言った。
「ああ、あれは発症した奴かもしれないな……」
そうそれは『勇者ウイルス』がすでに現れたことを意味していた。
なぜそう思うかというと、明確な理由があった。
それは……。
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