異世界の『魔法ウイルス』東京感染。〜日本人家畜化計画に加担してしまった俺。食物連鎖の新たな頂点たる異界の者の入植者に抗う運命はいかに〜

雨井雪ノ介

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一章

第13話『目覚め』(2/2)

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 ヒロはラピスの様子から安堵してはいるものの、あまり大きく気を削げないでいた。
 なぜなら、『黄金の魔人』の力が膨れ上がり、このまま発散させないでいると力が暴発してしまうからだ。

 ヒロの異常な状態を察知したのか、ラピスは焦りながらいう。
「ヒ、ヒロ! その力ってもしや!」

 ラピスの予想通りであることをヒロは告げる。
「ああ、察しの……通りだ……」

 ラピスは即時解析できたのか、今暴発しようとしている力について、可能な限りゆっくり話そうとしているのがわかる。
「ヒロ、よく聞いて。その力は、間違いなく破壊の力よ。主にセトラー船団を破壊するためのね」
 
 ヒロは何かに意識が持っていかれそうになるのを、必死になって堪えていた。
「あ、ああ……」

 ラピスは可能な限り、ヒロに落ち着くようにゆっくりと話かける。
「それだけ強力な物だから、今ここで放つと大変なことになるわ。そこで……」

 ヒロもどうにか堪えながら、言葉を返す。
「あ、ああ……」

 慎重にかつ焦らず冷静にラピスは、ヒロへ伝える。
「水平にではなく、上空にでもない方法をとるわ。飛び上がってから、地上へ向けて放つわ。そうすれば、ヒロを傷つけた者たちもまとめて一網打尽ね。都合がいいわ、イヒヒヒ」

 不安と心配が入り混じるのと暴発が近いのか、言葉が途切れ途切れにヒロがなってしまう。
「うま……く……いく……か?」

 ラピスはいつも通りの口調で、安心させるよう試みていた。
「任せて! あたしのいう通り動けば、いつもみたいに大丈夫よ?」

 申し訳なさそうに、ヒロも心のどこかでラピスとなら大丈夫だと思っていう。
「す……ま……な……い」

 ラピスはヒロを誘導し伝える。
「それじゃあ、これからタイミングをあわせて動いてね」

 ヒロの気持ちが安堵しても現状は裏腹に、限界が近かった。ゆえにヒロは言葉数が少なくなる。
「……ああ」
 
 ラピスは景気良く声を張り上げて、ヒロへいう。
「いっくよー! 頭上に向けて限界までジャンプして!」

 限界に近いヒロも何とか声を出して伝える。
「ああ」

 ヒロは高く空中に舞い上がると、地上にいた人らは小指の先の大きさほどに見える。
 そこでラピスは、タイミングを見計らい声をあげる。
「今よ! 地面に向けて全力で放って!」

 ほぼ魔人化しているヒロは、地上へ向けて口を大きく開き叫んだ。
「ガー!」

 ヒロが吐き出すような声と共に、光の本流が地面に降り注ぐ。
 この時、四方を高層ビルに囲まれていたおかげで、惨事を目撃した者はいない。
 正確にはいたものの目にした瞬間、蒸発してしまったのだから、いないのと同義だった。

 底が確認できないほど深く闇に包まれた穴は、下に向けてヒロの放つ光の本流が途切れるまで続いた。

 ヒロは放ち終えると、そのまま力なく自由に落下してしまう。
 そこで今度は両手から何かエネルギーを咄嗟に水平に放つと、それを推力にして壁に激突した。そのまま半壊したビル内に倒れ込む。

 人の姿に戻ると、ふらつきながらもビルの外へ向けて階段を降りていき出口から出た。
 まだ外は明るく、太陽が真上にあることから見てまだ正午であろうことが窺い知れる。

 日陰になっている場所に腰を下ろして、壁面にもたれかかりながら体の状態を確認していた。

 するとラピスからは何も問題ないという。
「ヒロ大丈夫よ? ナノマシンが修復をしているわ」

 確かにラピスのいう通り急速に傷口が修復され、多少の傷跡は残るものの痛みもない。
 ラピスがいない間は正直不安が大きかった。ここまでどこか依存しているのはよくないなと思いつつも、今は再び再開できたことを素直に喜んだ。

 ヒロは落ち着いた声でゆっくりという。
「ありがとなラピス。心配したぜ」

「あら。嬉しいこと言ってくれるのね?」

「当然だろ、大事な存在だからな」

 ラピスはどこか慌てながらもいう。
「え? えっ! それって……。愛? なの? ねぇー愛?」

 不思議とヒロは、笑みを浮かべながらヒロは言った。
「どうだろうな?」

 まるで実物がいるように、視界にはラピスが見え桜色の唇から声を発する。
「そういえば、なんかヒロ変わった感じがするね」

 少しラピスの様子をみて胸が高鳴るも、落ち着きながら自分を見つめ直していう。
「そうか? 俺は……人と比べて……。いや……」

 この時ラピスはなぜか口を手のひらで隠し、眉を上げて目を大きく見開いた。
「!」

 決意を新たにした目をラピスに向けてヒロはいう。
「――人は人、自分は自分だ」

 ラピスは嬉しそうにいう。
「やっと、気がついて……くれたのね」

 ヒロはラピスと出会った時に比べて、少しは成長できただろうかと内心思いつつも、今の状況にあることを素直に感謝していた。

(ありがとな、ラピス)
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