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一章
第12話『狂喜』
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俺は夢を見ているのか……。
黒く暗く、何もない。
寒くもないし、暑くもない。
先ほどまでの苦しさや痛みも感じない。
心も感情らしい起伏すらも感じなく、極めて冷静な自分がいる。
ただし、現状は最悪な姿だった。
圧倒的な魔力を全身に打ち付けられて、右腕は肘から先が喰われてしまい左足はひざから下も喰われてしまう。
喰われた先からとめどなく血が溢れかえり、もう意識はぼんやりとしかない。
記憶しているのは磔にされて、鋭利な刃物で全身をくまなく刺され血を吐いたはずだった。そのような先の状況とはまるで異なる現況に、混乱しそうになる。
先までのことは『夢』で、今のこの状態が現実なのだろうかと思ってしまうほどだ。
それに、この見知らぬ場所はなんなのか……。
考えても答えは見つかるわけもなく、そのため思考を放棄した。
辺り一帯は暗闇に見え、遠くから細かい光の粒子を纏い歩いてくる者がいた。
それは、黄金色に輝く髑髏の仮面をかぶる者だ。
寝転がっているヒロのそばに近づくと、片膝をつき真っ黒な眼窩の中に光る何かが口ほどに語り出す。
髑髏の仮面の者は表情自体がないため、意図していることは、ヒロにはわかりずらかった。そして魔人はいう。
「汝がくるのを待っていた……」
ヒロのことを、知っているそぶりで話すその姿に違和感がありつつも、とりあえずヒロは聞いてみた。
「どこかであったか?」
ところが、ヒロの質問などお構いなしに、髑髏仮面は言葉を続ける。
「我と汝は浸透した。ゆえに目覚めは近い」
まるで答える気がないのか、または聞こえていないのか、ヒロはもう一度尋ねた。
「念のために聞くけどさ、あったことあるか?」
やはり通じていないのか、それとも単に記憶が再生されているだけなのかもしれない。
すると、それが正解だと言わんばかりの態度を示しながら魔人は言葉を紡ぐ。
「ゲボアへの復讐はまだ先だ。その前に汝の目覚めが先だ」
もうこうなると、何を言っているのかわけがわからない。
ヒロはお手上げだと思っても、それでも一方的な会話がさらに続く……。
――今言えるのは闇だ。
もしくは、ただの録音した音声を再生しているだけ、とも言えるかもしれない。
普段なら少なくとも意図していることや、言っていることその物は理解まではできる。
ところがこの者の話だけでは、何の意味があるのか話している内容ですら、理解がむずかしい。
魔人とはいえ、人の内面と同じことだろうとも聞き取れるし、お互いが認め合うことで力を発揮できるともある。
要するに最初のうちは、いくつかの理由で膨大な魔力が必要になり、力の行使に制限がかかるという。
それを丁寧に教えてくれたわけだ。
端的にいうなら、ようやく力が一時的に使える。
それはヒロと魔人が、互いに認めたからだということなんだろう。
なんともわかりずらい……。
いつヒロが認めて魔人もそれはよしとしたのか、その瞬間も知らずに結果だけ聞かされてもわけがわからない。
単なる気まぐれで言っているともいるし、信憑性という意味ではまるでない。
魔人の存在とヒロへの還元は、ヒロ自身の深く閉ざされた心の中に、柔らかく刺す日差しではなかった。
常闇の中に存在するヒロへ、スポットライトで強く照らしつける。そのような気持ちをヒロは抱いていた。
その闇の中で、一際輝く存在がこの黄金の魔人だ。
片膝をついたまま待ち構えており、上半身を起こしたヒロと対等な目線を合わせてくれる存在。
そこで思い出すのは自業自得とはいえ、どうしようもないとも思っていたことがあった。
それは、魔力の誘惑に抗えず盛大に『共食い』をやらかしてしまったことだ。
別に正当化したいわけじゃなく、事実をありのまま受け入れただけだ。
ある意味、開き直っているといったら、そうかもしれない。
どうにもならないことは、どうしたってある物だからだ。
それに、ラピスからもたらされた侵略者からの計画も、どこか他人事のようで楽観的に捉えていたのかもしれない。
不思議と思い起こすのは自然でなく、半強制的に感染してからの記憶が走馬灯のように頭を駆け巡る。
ああ、こうした光景を見るのは、恐らく俺は死ぬのだろう……。
ヒロはどこか覚悟を決めるよりは、ありのままに受け入れるつもりだった。
なぜなら、今の状況ならもうどうしようもないからだ。
あれだけ刺されて血を吐き出し今みえている目の前の者は、恐らくは迎えにきたのかも知れない。
そこでふと我に帰り思う、自分自身のことについてヒロはいった。
「自分は、誰かに比べて劣る……か」
どこかこの言葉に引っ掛かる感じがしていた。
その感覚は次第に大きくなっていくと、目の前にいた黄金の魔人が片膝立ちで手を差し伸べる。
どこか自信に満ちて、輝かしい未来が待ち受けているようなありようだ。
魔人はいう。
「我と共に行こう。そして我と共に戦おう」
この時ヒロは、なぜとは問わなかった。
もうわかってしまった。こうなるのもすべては魔人とヒロを一つにするための運命だったのではないかと、だからヒロは魔人に問う。
「いいのか?」
直感的にこの魔人の力を借りることができると、ヒロは感じたからこその問いだった。
すると、黄金の魔人は肯定的だった。
「我は汝であり、汝は我でもある。時はきた、すでに一つの存在である」
たしかに初めて声を聞いたときに、体の中に何とも言えない物が入り込んできたのは覚えている。
温かい飲み物を飲んだ時の感覚に近いものを全身で感じたのだ。
だから、今になって言い出したことに疑問を覚えて聞いた。
「どう言うことだ?」
まるで当然かのような態度を示している。そこでヒロの質問に対して質問で返した。
「我は、汝と最初に交わした言葉がある、覚えているか?」
もちろんあの強烈なインパクトは忘れようもないので、ヒロは即答した。
「ゲボアに気をつけろ? か?」
ゆっくりと黄金の魔人は頷きいう。
「そうだ」
ヒロは思い出しながらいう。
「たしかにその言葉がラピスの知るセトラーであり、また唯一打ち負かした存在として魔人がいることを知った。そのきっかけの言葉なんだよな」
鷹揚に黄金の魔人は頷くとゆっくりという。
「汝は我を知り、そして我は汝を理解した。ともに打倒する共通の敵がいることである」
それもそうだと、もはや当たり前のことになりつつある事実を改めて認めいう。
「確かにな」
表情はわからないはずで、変化もない髑髏面がどこか、安堵に満ちたように感じると魔人はいう。
「彼奴等を打倒し防ぐ同志として、共にあらんことを」
それでもあのセトラーどもと一戦構える前に、他界しそうな状況なのは間違いない。
だからこそ、ヒロはいう。
「ゲボアの前に、俺自身が俺に打ち勝たないとダメかもな」
ヒロは、自分が他者と比べて劣ることと、先の全身を刺されたことでもう瀕死な状況であり、この二つの意味に打ち勝つ必要があることを伝えたつもりだった。
それを聞いても、まるで何も問題がないかのように黄金の魔人はいう。
「汝はすでに理解している」
自分のことは自分自身のことであっても、他人に気が付かされるまで知らないことも多い。
ただ何を根拠にこの黄金の魔人はいうのか、ヒロには理解できなった。
だからこそ聞く。
「俺が?」
そこで、黄金の魔人は説く。
「そうだ。余人は余人であり、己は己である」
至極当たり前の答えを突きつけられて、ヒロは思わず沈黙をしてしまう。
「……」
魔人はヒロをみると、構わず言葉を続けた。
「ゆえに、時はきたと申した」
ヒロは魔人の言葉を噛み締めるように何度も反芻した。
「人は人、自分は自分か……」
よくみると黄金の魔人の顔は髑髏で眼光は光だけが灯っていた。
その眼であっても強い意志を感じとれると、ヒロの言葉を聞き魔人はいう。
「左様、人智を心得たり。さあ、参るぞ」
そういい手を差しだす魔人の手を力なくとると、どこか魔人はほんのわずかに口角を上げた気がした。
立ち上がったヒロと魔人は、眩い光に覆われた。
――そして、狂喜が目覚めた。
黒く暗く、何もない。
寒くもないし、暑くもない。
先ほどまでの苦しさや痛みも感じない。
心も感情らしい起伏すらも感じなく、極めて冷静な自分がいる。
ただし、現状は最悪な姿だった。
圧倒的な魔力を全身に打ち付けられて、右腕は肘から先が喰われてしまい左足はひざから下も喰われてしまう。
喰われた先からとめどなく血が溢れかえり、もう意識はぼんやりとしかない。
記憶しているのは磔にされて、鋭利な刃物で全身をくまなく刺され血を吐いたはずだった。そのような先の状況とはまるで異なる現況に、混乱しそうになる。
先までのことは『夢』で、今のこの状態が現実なのだろうかと思ってしまうほどだ。
それに、この見知らぬ場所はなんなのか……。
考えても答えは見つかるわけもなく、そのため思考を放棄した。
辺り一帯は暗闇に見え、遠くから細かい光の粒子を纏い歩いてくる者がいた。
それは、黄金色に輝く髑髏の仮面をかぶる者だ。
寝転がっているヒロのそばに近づくと、片膝をつき真っ黒な眼窩の中に光る何かが口ほどに語り出す。
髑髏の仮面の者は表情自体がないため、意図していることは、ヒロにはわかりずらかった。そして魔人はいう。
「汝がくるのを待っていた……」
ヒロのことを、知っているそぶりで話すその姿に違和感がありつつも、とりあえずヒロは聞いてみた。
「どこかであったか?」
ところが、ヒロの質問などお構いなしに、髑髏仮面は言葉を続ける。
「我と汝は浸透した。ゆえに目覚めは近い」
まるで答える気がないのか、または聞こえていないのか、ヒロはもう一度尋ねた。
「念のために聞くけどさ、あったことあるか?」
やはり通じていないのか、それとも単に記憶が再生されているだけなのかもしれない。
すると、それが正解だと言わんばかりの態度を示しながら魔人は言葉を紡ぐ。
「ゲボアへの復讐はまだ先だ。その前に汝の目覚めが先だ」
もうこうなると、何を言っているのかわけがわからない。
ヒロはお手上げだと思っても、それでも一方的な会話がさらに続く……。
――今言えるのは闇だ。
もしくは、ただの録音した音声を再生しているだけ、とも言えるかもしれない。
普段なら少なくとも意図していることや、言っていることその物は理解まではできる。
ところがこの者の話だけでは、何の意味があるのか話している内容ですら、理解がむずかしい。
魔人とはいえ、人の内面と同じことだろうとも聞き取れるし、お互いが認め合うことで力を発揮できるともある。
要するに最初のうちは、いくつかの理由で膨大な魔力が必要になり、力の行使に制限がかかるという。
それを丁寧に教えてくれたわけだ。
端的にいうなら、ようやく力が一時的に使える。
それはヒロと魔人が、互いに認めたからだということなんだろう。
なんともわかりずらい……。
いつヒロが認めて魔人もそれはよしとしたのか、その瞬間も知らずに結果だけ聞かされてもわけがわからない。
単なる気まぐれで言っているともいるし、信憑性という意味ではまるでない。
魔人の存在とヒロへの還元は、ヒロ自身の深く閉ざされた心の中に、柔らかく刺す日差しではなかった。
常闇の中に存在するヒロへ、スポットライトで強く照らしつける。そのような気持ちをヒロは抱いていた。
その闇の中で、一際輝く存在がこの黄金の魔人だ。
片膝をついたまま待ち構えており、上半身を起こしたヒロと対等な目線を合わせてくれる存在。
そこで思い出すのは自業自得とはいえ、どうしようもないとも思っていたことがあった。
それは、魔力の誘惑に抗えず盛大に『共食い』をやらかしてしまったことだ。
別に正当化したいわけじゃなく、事実をありのまま受け入れただけだ。
ある意味、開き直っているといったら、そうかもしれない。
どうにもならないことは、どうしたってある物だからだ。
それに、ラピスからもたらされた侵略者からの計画も、どこか他人事のようで楽観的に捉えていたのかもしれない。
不思議と思い起こすのは自然でなく、半強制的に感染してからの記憶が走馬灯のように頭を駆け巡る。
ああ、こうした光景を見るのは、恐らく俺は死ぬのだろう……。
ヒロはどこか覚悟を決めるよりは、ありのままに受け入れるつもりだった。
なぜなら、今の状況ならもうどうしようもないからだ。
あれだけ刺されて血を吐き出し今みえている目の前の者は、恐らくは迎えにきたのかも知れない。
そこでふと我に帰り思う、自分自身のことについてヒロはいった。
「自分は、誰かに比べて劣る……か」
どこかこの言葉に引っ掛かる感じがしていた。
その感覚は次第に大きくなっていくと、目の前にいた黄金の魔人が片膝立ちで手を差し伸べる。
どこか自信に満ちて、輝かしい未来が待ち受けているようなありようだ。
魔人はいう。
「我と共に行こう。そして我と共に戦おう」
この時ヒロは、なぜとは問わなかった。
もうわかってしまった。こうなるのもすべては魔人とヒロを一つにするための運命だったのではないかと、だからヒロは魔人に問う。
「いいのか?」
直感的にこの魔人の力を借りることができると、ヒロは感じたからこその問いだった。
すると、黄金の魔人は肯定的だった。
「我は汝であり、汝は我でもある。時はきた、すでに一つの存在である」
たしかに初めて声を聞いたときに、体の中に何とも言えない物が入り込んできたのは覚えている。
温かい飲み物を飲んだ時の感覚に近いものを全身で感じたのだ。
だから、今になって言い出したことに疑問を覚えて聞いた。
「どう言うことだ?」
まるで当然かのような態度を示している。そこでヒロの質問に対して質問で返した。
「我は、汝と最初に交わした言葉がある、覚えているか?」
もちろんあの強烈なインパクトは忘れようもないので、ヒロは即答した。
「ゲボアに気をつけろ? か?」
ゆっくりと黄金の魔人は頷きいう。
「そうだ」
ヒロは思い出しながらいう。
「たしかにその言葉がラピスの知るセトラーであり、また唯一打ち負かした存在として魔人がいることを知った。そのきっかけの言葉なんだよな」
鷹揚に黄金の魔人は頷くとゆっくりという。
「汝は我を知り、そして我は汝を理解した。ともに打倒する共通の敵がいることである」
それもそうだと、もはや当たり前のことになりつつある事実を改めて認めいう。
「確かにな」
表情はわからないはずで、変化もない髑髏面がどこか、安堵に満ちたように感じると魔人はいう。
「彼奴等を打倒し防ぐ同志として、共にあらんことを」
それでもあのセトラーどもと一戦構える前に、他界しそうな状況なのは間違いない。
だからこそ、ヒロはいう。
「ゲボアの前に、俺自身が俺に打ち勝たないとダメかもな」
ヒロは、自分が他者と比べて劣ることと、先の全身を刺されたことでもう瀕死な状況であり、この二つの意味に打ち勝つ必要があることを伝えたつもりだった。
それを聞いても、まるで何も問題がないかのように黄金の魔人はいう。
「汝はすでに理解している」
自分のことは自分自身のことであっても、他人に気が付かされるまで知らないことも多い。
ただ何を根拠にこの黄金の魔人はいうのか、ヒロには理解できなった。
だからこそ聞く。
「俺が?」
そこで、黄金の魔人は説く。
「そうだ。余人は余人であり、己は己である」
至極当たり前の答えを突きつけられて、ヒロは思わず沈黙をしてしまう。
「……」
魔人はヒロをみると、構わず言葉を続けた。
「ゆえに、時はきたと申した」
ヒロは魔人の言葉を噛み締めるように何度も反芻した。
「人は人、自分は自分か……」
よくみると黄金の魔人の顔は髑髏で眼光は光だけが灯っていた。
その眼であっても強い意志を感じとれると、ヒロの言葉を聞き魔人はいう。
「左様、人智を心得たり。さあ、参るぞ」
そういい手を差しだす魔人の手を力なくとると、どこか魔人はほんのわずかに口角を上げた気がした。
立ち上がったヒロと魔人は、眩い光に覆われた。
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