上 下
25 / 37
一章

第9話『うまく行き過ぎた』(1/2)

しおりを挟む
 『魔法』なんて夢だ。
 
 ごく普通に生きる人たちにとっては、もはやそれは常識だろう。
 ところが、それが現実となって誰しもが手に入れられるとしたら?

 そして、それが人その物を変えてしまうとしたら?
 そうなるともう止まらないし、誰にも止められない。
 一度知った甘美な味覚はもう、それを知らない昔には戻れない。

 人は、一度知ったうまい味は忘れないし、過去には戻れない。
 だからこそ『魔法』という未来を手にした者たちは、深い探究の罠にハマるだろう。
 それは、より多くの魔法の深遠を探し続ける永遠に終わらない罠だ。
 
 魔法がより生活を便利にするだけでなく、腕力や知能または仕事の遂行能力に関係なく発揮される。
 だからこそ一部の者には新たな力の台頭であり新人類の誕生として、特に活気で湧いた。
 ただし何を獲得するかは一種の運のような物だ。
 たった一度の魔法感染の大抽選会で、通称『魔がちゃん』とも呼ばれている。
 
 こうして人々は魔法の虜になり魔力の質を高めていくのは、セトラーたちの思惑にどっぷりと浸かったも同然だった。
 そしていつしか肉体は、程よく魔力に馴染み侵食されてしまう。
 牛でいうなら和牛の霜降りだろう。
 まさにセトラーたちのご馳走の出来上がりだ。

 否応にも関わらず、もう後戻りできない変化は大きく社会も変えていった。
 ゆえにしばらくは、無政府状態を存分に味わっていくことになる。

 
 ――その頃、ヒロたちは……。

 ヒロはダンジョンから出るとあたりは、すでに夜の帳が降りて月が眩い光を放つ姿を晒していた。

 周りにはそれなりに人がおり、ダンジョンへ次々と進んでいく。
 ちょうどヒロが出たのは、入り口とは正反対の方向に魔法陣が現れて、出現した。

 近辺にいたものは驚き、ヒロは耳目を集める。
 ところが全身防具の状態であっても、敵対する素振りは見せない。
 それゆえに安堵したのか、遠目に見るだけで何もしてこない。

 そこで場所を立ち去ると大学にある研究室へ戻る。
 そのまま研究室で人の姿に戻り、ひとまず一息をつく。

 あとは何食わぬ顔で研究室を出ると、家路にむかった。
 
 こうしている間にも、秒単位で都内の様相が変わっていく気がしていた。
 それというのも、おかしくなったのは互いを殺傷しても何も問われなくなり、警察の意味もなくなる。
 
 そもそも警察すらいなくなった。
 
 さらには他の人々は集団で何かを作り始めた。あれは電波塔なのだろうか……。
 政治家たちはもはや何も役に立たず、鳴りを顰めてしまう。
 今までの常識や認識が大きく変わろうとしているその瞬間に皆が皆、立ち会っていた。
 一方で急に手に入れた力のためか、散発的に方々で魔法被害が多発していた。

 とある誰か少年の掛け声のもと魔法が発動される。
「こ・う・え・ん・Gィ!」

 それは重力魔法と思わしきもので、特定の範囲で辺り一帯を超重力で押し潰そうとしている者がいる。
 どう見ても不良グループに見える連中らが地べたに這いつくばり、小太りの男が誇らしげに笑い口角をあげてニヤつく。
 ヒロはそれを見てもどうすることもできず、また何をしたいとも思うこともなくただ傍観者として通り過ぎる。

 ここだけの現象かと思いきや、この状態は方々で多発していた。

 そこの地域だけでなく、他にも光の粒子砲の如く力を振るう者もいた。
 あれも魔力なのだろうかと呆気に取られてしまう。
「あ・き・は・ば・ラァー!」

 叫び声と共に眩い光の本流が、声を放つ者の掌底のように構えた手のひらから放出されている。
 目先にある車両はひとたまりもなく、光が触れた先は金属だというのに蒸発してなくなっていく。
 
 町はひどく荒れていた。
 方々にて、魔法で破壊行為がされており街全体がもはや魔法を使うための『的』になっていた。と言うよりは、無料で破壊しまくれる練習場に近いかもしれない。
 
 ここまでくると、人の行いも、心も荒んでいるとも言える。
 やはり力を手にすると、人は変わってしまうのは改めて証明されたようなものだ。
 武器を手にすれば当然試したくなるし、それが銃器とは別物ならイメージとは異なるのでやってみたくなる。
 そう急に、架空の世界から来た物でソフトなイメージが先行する。
 実際は、凶悪な力の顕現でしかないのにだ。

 そして一度でも殺傷が行われてしまうと、人のタガが外れてしまい次からは抵抗がなくなってしまう。今急速にこのタガを外す行為が頻発していた。ただどういう感染の仕方なのかはわからないが、狼狽えていた人もいざ自分自身が使えることがわかると態度を急変させ、自ら魔法を酷使し始めた。

 ここまで短期的に変わると、一体どうしていいかわからなくなる。
 それは他の人も同じようで、狼狽えたりしている。
 ただし力を手にするまでのようで、力を手にすれば同じく力を振るう側に移ってしまうようだ。
 まさに『魔法は楽しいアクティビティ』と化しつつある。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ヴィトンの黄色いエピ

雨音調
恋愛
痴漢から始まる恋もある。卑劣なヘタレの痴漢男がウブだけど吹っ切れてる人妻に恋をした。

処理中です...