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一章

第2話『異世界東京』(1/3)

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 ヒロとリナ助教授とゴダード教授は、魔法ウイルスに感染した。

 発端は、研究施設の設備と引き換えに現れた一本の木の枝と、三枚の手のひらサイズの葉っぱに触れたことだ。
 その異なる点は、それぞれ一人ずつ個別に葉っぱに触れたことだ。

 ヒロは昨日から幻聴と幻覚に悩まされていた。
 自身が現実か幻覚か判断できなくなっているので、もしかすると病気ではないかと思い始めていた。
 
 ところが感染したことで、さらに気持ちが強くなったような、常に思っていた感情が強く出てしまう。
『自分は誰かに比べて劣る』と思う。研究もうまくいかないし……。

 ヒロはそうした悩みを持つ中で、魔法ウイルスと名乗るこのラピスという寄生体は、気軽にかつ軽く問いかけてくる。
 劣ると感じるなら、その部分を間接的に勝るようにしてあげるなどとうそぶく。

 さらに、うまくいかないのが劣ると感じるならば、これからは今より良くなるとウイルスは甘言を囁く。

 普段ならそのような戯言は気もせずにいるヒロであっても、今は気持ちが揺れ動き、不安定だから思わずウイルスの甘言に乗ってしまう。

 このような話をするために研究室へきたわけじゃなかった。
 いつも通り、研究室の扉を開けると驚くべき光景が広がっていた。

 衝撃に、ヒロは思わず声を上げてしまう。
「え? えー!」

 まるで……。ヒロはまるで、夢を見ているようだった。
 それと確か、鉢で育っていた樹木に切れ目を入れ、枝を差し込んでいたはずだった。
 
 ヒロはそう思いながらもウイルスの言葉に耳を傾けていた。
 当然こんなことは非現実で、自身がイカれたのか妄想をみているのか、はたまた何か危険な薬物にでも汚染されたかいずれかではないかと思っていた。
 
 ――でも違った。
 
 決定的に違うことは、見える世界が一変した。
 ヒロは思わずつぶやく。
「なんだよ……。これ……」
 
 目の前にあるのは、複数人が輪になって抱えるほどの大木が大学の研究室の周囲の壁と天井を突き破り聳え立っていたことだ。

 恐らくあの実験で得た枝と葉に触れていた時、急に意識がぐらついたところまでは覚えているし、帰りは教授とリナが残っていたはずだ。

 それはつい昨日の出来事なのに、目の前では大木が我が物顔でそびえ立つのは一体なんなのか。
 
 まるでファンタジーだとしか言いようもないこの現実に、ヒロはますます困惑している。この惨事なのに、誰も野次馬で集まってこないばかりか、ヒロだけしかいなかった。

 リナとゴダード教授はいつも早く来るのに、今日に限って誰もいない。
 かと言っても木が大きくなったせいか、あたりは散乱しているのでまずは片付けが必要だろう。

 ヒロは仕方ないと言った感じでつぶやく。
「ん~。とりあえず片付けるか……」

 床の破片や崩れた天井の欠片などを、木屑などを捨てるときに使う頑丈な袋へどんどん放り込む。大きな破片が片付いたところで、あとは箒を使い掃き掃除をしていく。

 窓がないため、巨大な換気扇が3つもあり、それをフル回転させて室内の空気を入れ替えていく。小一時間ほどで綺麗になるとやっと一息つけた。
「ふぅ……。こんなものか」

 椅子に座り、改めて木を見上げるとどうやったらたった半日程度でここまで育つのか謎というより、やはりファンタジーそのものだとヒロは思ってしまう。
 
 そういえば天井を貫いて恐らくは床も貫いているだろうと思われるこの部屋でも、灯りはつき、電気も通っている。
 
 これだけの破損があるのにどうなっているんだと首を傾げながら、どことなくこの大木に近寄る。

 するとラピスが突然視界を遮るように、目の前に現れると奇妙なことを言い出した。
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