3 / 37
一章
第2話『異世界東京』(1/3)
しおりを挟む
ヒロとリナ助教授とゴダード教授は、魔法ウイルスに感染した。
発端は、研究施設の設備と引き換えに現れた一本の木の枝と、三枚の手のひらサイズの葉っぱに触れたことだ。
その異なる点は、それぞれ一人ずつ個別に葉っぱに触れたことだ。
ヒロは昨日から幻聴と幻覚に悩まされていた。
自身が現実か幻覚か判断できなくなっているので、もしかすると病気ではないかと思い始めていた。
ところが感染したことで、さらに気持ちが強くなったような、常に思っていた感情が強く出てしまう。
『自分は誰かに比べて劣る』と思う。研究もうまくいかないし……。
ヒロはそうした悩みを持つ中で、魔法ウイルスと名乗るこのラピスという寄生体は、気軽にかつ軽く問いかけてくる。
劣ると感じるなら、その部分を間接的に勝るようにしてあげるなどとうそぶく。
さらに、うまくいかないのが劣ると感じるならば、これからは今より良くなるとウイルスは甘言を囁く。
普段ならそのような戯言は気もせずにいるヒロであっても、今は気持ちが揺れ動き、不安定だから思わずウイルスの甘言に乗ってしまう。
このような話をするために研究室へきたわけじゃなかった。
いつも通り、研究室の扉を開けると驚くべき光景が広がっていた。
衝撃に、ヒロは思わず声を上げてしまう。
「え? えー!」
まるで……。ヒロはまるで、夢を見ているようだった。
それと確か、鉢で育っていた樹木に切れ目を入れ、枝を差し込んでいたはずだった。
ヒロはそう思いながらもウイルスの言葉に耳を傾けていた。
当然こんなことは非現実で、自身がイカれたのか妄想をみているのか、はたまた何か危険な薬物にでも汚染されたかいずれかではないかと思っていた。
――でも違った。
決定的に違うことは、見える世界が一変した。
ヒロは思わずつぶやく。
「なんだよ……。これ……」
目の前にあるのは、複数人が輪になって抱えるほどの大木が大学の研究室の周囲の壁と天井を突き破り聳え立っていたことだ。
恐らくあの実験で得た枝と葉に触れていた時、急に意識がぐらついたところまでは覚えているし、帰りは教授とリナが残っていたはずだ。
それはつい昨日の出来事なのに、目の前では大木が我が物顔でそびえ立つのは一体なんなのか。
まるでファンタジーだとしか言いようもないこの現実に、ヒロはますます困惑している。この惨事なのに、誰も野次馬で集まってこないばかりか、ヒロだけしかいなかった。
リナとゴダード教授はいつも早く来るのに、今日に限って誰もいない。
かと言っても木が大きくなったせいか、あたりは散乱しているのでまずは片付けが必要だろう。
ヒロは仕方ないと言った感じでつぶやく。
「ん~。とりあえず片付けるか……」
床の破片や崩れた天井の欠片などを、木屑などを捨てるときに使う頑丈な袋へどんどん放り込む。大きな破片が片付いたところで、あとは箒を使い掃き掃除をしていく。
窓がないため、巨大な換気扇が3つもあり、それをフル回転させて室内の空気を入れ替えていく。小一時間ほどで綺麗になるとやっと一息つけた。
「ふぅ……。こんなものか」
椅子に座り、改めて木を見上げるとどうやったらたった半日程度でここまで育つのか謎というより、やはりファンタジーそのものだとヒロは思ってしまう。
そういえば天井を貫いて恐らくは床も貫いているだろうと思われるこの部屋でも、灯りはつき、電気も通っている。
これだけの破損があるのにどうなっているんだと首を傾げながら、どことなくこの大木に近寄る。
するとラピスが突然視界を遮るように、目の前に現れると奇妙なことを言い出した。
発端は、研究施設の設備と引き換えに現れた一本の木の枝と、三枚の手のひらサイズの葉っぱに触れたことだ。
その異なる点は、それぞれ一人ずつ個別に葉っぱに触れたことだ。
ヒロは昨日から幻聴と幻覚に悩まされていた。
自身が現実か幻覚か判断できなくなっているので、もしかすると病気ではないかと思い始めていた。
ところが感染したことで、さらに気持ちが強くなったような、常に思っていた感情が強く出てしまう。
『自分は誰かに比べて劣る』と思う。研究もうまくいかないし……。
ヒロはそうした悩みを持つ中で、魔法ウイルスと名乗るこのラピスという寄生体は、気軽にかつ軽く問いかけてくる。
劣ると感じるなら、その部分を間接的に勝るようにしてあげるなどとうそぶく。
さらに、うまくいかないのが劣ると感じるならば、これからは今より良くなるとウイルスは甘言を囁く。
普段ならそのような戯言は気もせずにいるヒロであっても、今は気持ちが揺れ動き、不安定だから思わずウイルスの甘言に乗ってしまう。
このような話をするために研究室へきたわけじゃなかった。
いつも通り、研究室の扉を開けると驚くべき光景が広がっていた。
衝撃に、ヒロは思わず声を上げてしまう。
「え? えー!」
まるで……。ヒロはまるで、夢を見ているようだった。
それと確か、鉢で育っていた樹木に切れ目を入れ、枝を差し込んでいたはずだった。
ヒロはそう思いながらもウイルスの言葉に耳を傾けていた。
当然こんなことは非現実で、自身がイカれたのか妄想をみているのか、はたまた何か危険な薬物にでも汚染されたかいずれかではないかと思っていた。
――でも違った。
決定的に違うことは、見える世界が一変した。
ヒロは思わずつぶやく。
「なんだよ……。これ……」
目の前にあるのは、複数人が輪になって抱えるほどの大木が大学の研究室の周囲の壁と天井を突き破り聳え立っていたことだ。
恐らくあの実験で得た枝と葉に触れていた時、急に意識がぐらついたところまでは覚えているし、帰りは教授とリナが残っていたはずだ。
それはつい昨日の出来事なのに、目の前では大木が我が物顔でそびえ立つのは一体なんなのか。
まるでファンタジーだとしか言いようもないこの現実に、ヒロはますます困惑している。この惨事なのに、誰も野次馬で集まってこないばかりか、ヒロだけしかいなかった。
リナとゴダード教授はいつも早く来るのに、今日に限って誰もいない。
かと言っても木が大きくなったせいか、あたりは散乱しているのでまずは片付けが必要だろう。
ヒロは仕方ないと言った感じでつぶやく。
「ん~。とりあえず片付けるか……」
床の破片や崩れた天井の欠片などを、木屑などを捨てるときに使う頑丈な袋へどんどん放り込む。大きな破片が片付いたところで、あとは箒を使い掃き掃除をしていく。
窓がないため、巨大な換気扇が3つもあり、それをフル回転させて室内の空気を入れ替えていく。小一時間ほどで綺麗になるとやっと一息つけた。
「ふぅ……。こんなものか」
椅子に座り、改めて木を見上げるとどうやったらたった半日程度でここまで育つのか謎というより、やはりファンタジーそのものだとヒロは思ってしまう。
そういえば天井を貫いて恐らくは床も貫いているだろうと思われるこの部屋でも、灯りはつき、電気も通っている。
これだけの破損があるのにどうなっているんだと首を傾げながら、どことなくこの大木に近寄る。
するとラピスが突然視界を遮るように、目の前に現れると奇妙なことを言い出した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる