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一章

第14話:(4/4):黄金のタロット(伯爵の遺言)

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 伯爵は苦しげに椅子に深く腰を下ろし、最後の力を振り絞るようにして言葉を紡いだ。「まあ、いいだろう……。少なくとも私は、好きなようにやれた。果たして君はどうなのかな? 『元同じ世界の同郷の者』として、武運を祈らせてもらうよ」

 その後、彼はさらに力なく言葉を続けた。「死にゆく者が贈る最後の言葉にさせてもらうよ。片方の『紅い女神』には気をつけろ……」と言い残し、伯爵の全身が力を失い、ゆっくりと椅子に沈んでいった。彼の顔には、その最期の瞬間、伯爵の顔には、平和で穏やかな表情が浮かんでいた。それはまるで、長年の重荷がようやく解放されたかのような、解放感に満ちた微笑みだった。

 悠人は部屋の静寂の中で立ち尽くし、伯爵の最後の言葉を反芻した。「片方の赤い女神には気をつけろ……」この言葉が何を意味するのか、その答えを見つけるためには、まだ多くの冒険が必要だと感じた。しかし、彼はそれを受け入れる覚悟ができていた。

 彼は部屋を一巡りし、再び伯爵の横たわる姿を見つめた。その死顔は、何かを伝えようとしているかのように静かで、なおかつ力強い。悠人は深呼吸を一つし、部屋の空気を肺いっぱいに吸い込んだ。その空気には、過去の悲哀と未来への希望が混ざり合っているように感じられた。

「どういうことだ……」悠人はつぶやいたが、その問いに対する答えはもうこの世界には存在しない。

 伯爵の討伐を終えた悠人は、その勝利の余韻に浸る間もなく、伯爵の最後の言葉に心を乱されていた。その言葉は、単なる遺言ではなく、何か大きな陰謀の片鱗を示唆しているかのようだった。反応石に伯爵の魂が吸収されると、彼の手がほんの少し震えた。これは彼にとって単なる勝利ではなく、彼自身の運命が大きく動き出す瞬間であることを意味していた。

「なぜ、自分の命を絶つような行動を選んだのか?」悠人は疑問を抱えつつも、伯爵が提供した情報がほのかなヒントを含んでいることに気づく。彼の心は戦いの興奮から一転し、重たい思索に沈んでいった。

 悠人たちは次なる目的地へと足を進める中で、常に周囲を警戒していた。遠くから十一人の勇者たちが彼の一挙手一投足を監視し、その魔法の眼は彼らが直接手を下さずとも、彼の周囲に潜む危険を常に示唆していた。彼らの存在は、悠人にとって絶え間ない脅威となり、彼の心理に重くのしかかる。

 その時、アイラがふと壁の棚に目をやると、そこには見覚えのある翡翠の円錐が置かれていた。

「これは、兄さんのものだけど……どうしてここに?」アイラの声には戸惑いと驚きが混じっていた。彼女の手がふるえ、その翡翠を静かに手に取ると、その冷たさが彼女の心をより一層沈ませた。

 悠人はその様子を見て、「少し宝物庫を探索してみようか」と提案し、リリスも興味津々に尻尾を振りながら応じる。「面白いものが見つかるかもしれないわね」と彼女は笑った。

 探索を開始した三人は、部屋に隣接する開けっぱなしの本棚の裏に隠された納へと進んだが、その中はすでに空っぽで、何か重要なものが慌てて移送された形跡があった。しかし、その空虚な空間の中で、一人の少女が支柱に鎖で繋がれ、倒れているのを発見する。

 悠人はすぐに伯爵が持っていた鍵を取り出し、少女の鎖を解放した。「大丈夫か?」彼の声はやさしく、しかし緊急を要するものだった。少女の状態は悪く、ぐったりとしており、呼吸も浅かった。

「神眼の泉を使うぞ」と彼がリリスに告げると、彼女は即座に反応した。「わかったわ。その泉は奴隷紋も消し去り、彼女の体力も回復させるはずよ」とリリスが答え、彼女の目は期待に満ちていた。

 悠人は少女の身体に神眼の泉の水を振りかける。銀色の粒子が彼女を包み込むと、彼女の肌の色艶が次第に戻り、血色が良くなっていく。少女はゆっくりと目を開け、悠人の顔を見るなり、「あっ! あなたは!」と声を上げる。

「安心してくれ。今、神眼の泉を使ってお前を回復させたんだ。奴隷紋も消えているはずだ。確認してみてくれ」と悠人が優しく語りかける。

 少女は自らの腕を見つめ、確かに消えた奴隷紋を見て涙を流し始める。「は、はい! あっ消えている……」と嗚咽を漏らしながら感謝の言葉を口にする。

「もう大丈夫だ。奴はもう死んでおり、お前は自由だ」と悠人が言うと、少女は倒れている伯爵の方を見て、はっとする。その瞬間、彼女の表情が一変し、「あの、あなたに伝えたいことが……」と、何か重要なことを告げようとする。

 しかし、悠人はその場を離れることを優先し、「後にしよう、これだけの事が起きたから、脱出が先だ。リリス、アイラ、行くぞ」と言って先を急ぐ。彼の声には焦りが感じられたが、その決断には混乱を避け、一同を安全な場所へ導くという意志が込められていた。

「ええ、わかったわ。この手帳に兄さんの何か手がかりがあるかもしれないわ」とアイラが応じながら、慌ただしく手帳を掴む。その手帳は古びていて、何ページもめくられた形跡があった。

「物色したくてもほとんどないね。この伯爵はまるで自分が死ぬのを予期していたみたいだ」とリリスがつぶやく。彼女の声には若干の不安と悔しさが混じっていた。

「そうだな。騒ぎになる前に行くぞ」と悠人が言うと、彼らは急ぎ足で城を後にした。逃げる途中、悠人は背後からの気配に敏感であり、いつ何時敵が追ってくるかを常に警戒していた。

 彼らが城を離れるとき、救出した少女も彼らに同行することを決意し、「私もあなたたちと共に行きます。恩を返したい」と宣言した。彼女の声は力強く、新たな決意を示していた。

 この一連の出来事が、悠人たちにとって新たな章を開くこととなり、彼らの運命は更に複雑なものへと変わっていくのであった。
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