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一章

第14話:(3/4):黄金のタロット(黄金伝説)

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 悠人は自らの体を超える力を引き出し、ゲールに向かって最後の一撃を放った。その攻撃は、全ての苦しみと闘争の集大成であり、彼の存在が放つ最後の輝きだった。

 ゲールは驚いた様子で一瞬の隙を見せ、その隙をついて悠人の攻撃が命中した。炸裂する光が戦場を包み込み、激しい衝撃が周囲を震わせた。

「これが……俺の、最後の力……!」悠人は息を切らしながら、しかし満足そうに微笑んだ。彼の体は力を使い果たしたかのようにゆっくりと地に崩れ落ちた。その瞬間、ゲールも大きなダメージを受け、後退する。彼の表情には初めての驚愕と苦痛が浮かんでいた。

 リリスとアイラはその隙に駆け寄り、悠人を支えた。彼らの顔は悲しみと安堵で複雑に歪んでいたが、悠人が最後の力を振り絞って戦ったことに深い敬意と感謝の念を抱いていた。

 ゲールはよろめきながらも再び立ち上がり、彼らを冷たい眼差しで見つめた。「なるほど、予想外の展開でしたが、これで終わりとは思わないことです」彼の声は冷酷であり、未だに彼からの脅威が完全には消えていないことを示していた。

 悠人はすでに戦う力を使い果たしていたが、彼の意志はまだ残っていた。彼は微かに目を開き、リリスとアイラに最後の言葉を残した。「逃……げ……ろ……」

 しかし、その言葉が終わることなく、彼の意識は闇に包まれた。


 ゲールは彼女たちを追い詰めようと、ゆっくりとした足取りで接近してきた。彼の様子は、まるで確実な勝利を楽しむかのようだった。

 悠人が最後の力を振り絞った機会でも、絶体絶命の危機から逃れられない。

「さて、残るはあなた方だけですね……」ゲールは舌なめずりをしながら言った。その声は不気味なほど落ち着いており、リリスとアイラに対する脅威をさらに強調していた。

 この絶望的な状況の中でも、リリスとアイラは諦めることなく、彼女たちにできる限りの抵抗を続けた。アイラは結界魔法を何十重にも重ね合わせ、リリスは魔法の力を最大限に高めて、ゲールへの最後の一撃を狙った。

 わずか数メートルだというのにこの時の時間は、リリスとアイラは異常に長く感じまた、自身の無力さに心が歯軋りをするほどだった。

 折角悠人が命をかけてまでして作ってくれた機会が、今まさに潰えようとしている。
アイラは今できる結界魔法を何十にも重ね合わせても、ゲールは何事もなかったかのように平然と向かってくる。それこそ聖なる閃光を放ってもまるで意に介さない。

 リリスも懸命にアイラの魔力の強化を行うも、限界はあった。
リリスの未来予知も今はまるで働かず、迫る足音はまさに死の宣告でしかなかった。

 最後の最後までリリスもアイラも諦めることはしなかった。
今自分が持てる全力で、抵抗を試みていた。それが悠人に向ける手向の花であるかのように。

 そして、転機が訪れたのはこのすぐ後だった。

 ゲールもリリスもアイラも何か一瞬時が止まったかと錯覚する異常な感覚に包まれた。

 次の瞬間突然、空間が破壊され、ただの廊下に変わる。ゲールもこの予期せぬ展開に驚愕し、周囲を見渡す。

「何ッ!」とさすがにゲールもこの予期せぬ異常事態に慄き周りを見渡す、すると予想外の事態がまた起きていた。

「バカな!」と彼は呟く。

 目の前には、瀕死のはずの悠人が立っていた。その身は黄金の粒子に包まれ、黄金の眼が光輝いている。

「まさか、貴様が! あの御方ではなく、貴様とは! 黄金人め!」とゲールが叫び、大剣を上段から振るうも、何も無かったかのように効かない。さらに両掌を胸の前で構え紅の魔法陣を作り、閃光を放つが、それも効果がない。

「黄金聖判閃!」と悠人が呟くと、彼の失われた右手が金色の塊として再生し、黄金の極大の閃光が走る。それがゲールの全身を飲み込むと、彼は「勇者様に栄光を!」と叫びながら、館の壁ごとダイヤモンドダストのように粉砕される。

 リリスは「まさか、悠人が黄金タロットを使うなんて……」と震える声で呟く。悠人はその黄金色のまま、伯爵のいる扉に手をかける。扉が開くと、ガラスの砕ける音がして、ゲールが用意していた防御結界と攻撃魔法が簡単に砕かれる。

 黄金に染まる悠人は、重厚な扉を押し開け、ひんやりとした石造りの大広間に足を踏み入れた。彼の前には、銀色に輝く豪奢な装飾が施された室内が広がり、部屋の中央には、堂々とした椅子に腰掛ける伯爵がいた。彼の眼差しは悠人を捉え、何かを悟ったかのように、突如として高らかに笑い始めた。

「ウハハハハハハハ。よもや黄金伝説を目の当たりにするとはな」伯爵の声は大広間にこだまする。彼の笑いがひと段落すると、突如として引き出しからナイフを取り出し、自らの胸へと勢い良く突き刺した。その瞬間、天井に届くかのような血飛沫が舞い上がった。

 部屋にいた者たちは、伯爵の突然の行動に言葉を失い、凍りついた。伯爵の自害には何か深い理由があるに違いない。そう悟った悠人たちは、伯爵が何故、このような極端な行動に出たのか、その謎を解き明かそうと心に決めた。

 伯爵は、苦痛と安堵が入り混じった表情を浮かべながら言葉を続けた。「そうか、そうだったのか……。貴様が……黄金の者……とはな」彼の声にはある種の納得と、解放されたような安堵が感じられた。

「私は――悔いなどない。あるとするなら、もっと早く気がつきたかった物だ……。――なあ、祇園君。この時間がねじ曲がり転生するのは、まるで――誰かが仕組んだみたいじゃないか? そうは思わないかね?」伯爵の独白は、彼がこの世界と何らかの形で繋がっていたことを示唆していた。

 悠人は、伯爵の言葉を静かに噛みしめた。彼の目の前で、一つの命が終わろうとしている。この瞬間、彼は伯爵との間に奇妙なつながりを感じ、何とも言えない複雑な感情に包まれた。
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