異界の黄金タロット - 死神猫と裏切り者の女神 -

一章

第14話：（1/4）：黄金のタロット（伯爵の古城攻略）

　――翌日の夜。風さえ眠る丑三つ時。

　静寂に包まれた川面を小舟がゆっくりと進行していた。川の穏やかさと月明かりが、水面をゆるやかに照らし出し、周囲の自然がほのかに輝いている。悠人、アイラ、そしてリリスは、この夜の静けさに身を任せながら、目的地に向かっていた。

「あそこか……」悠人が指差した方向には、伯爵の古城が聳え立つ。彼らはその少し手前から岸に上がり、壁を駆け上がるつもりだった。悠人はタロットカードを顕現させ、「ワンドペイジ」と「隠者」のカードを重ね合わせて、「幻影隠者の影拳」を発動する準備を整えた。

「いくぞ」と悠人が声をかけると、アイラは「ええ」と応じ、リリスも「うん」と小さく頷いた。悠人は二人を抱え、昨日検証した通りにタロットカードのスキルを駆使して、断崖の垂直の壁を駆け上がった。わずか数秒で頂上に達する。

　茂みに隠れて周囲を伺うと、悠人は「ここまでは無事進めたな」と呟いた。アイラは周囲の静けさに不安を感じ、「ええ、あとは伯爵だけど、やけに静かね……」と返した。リリスは周囲の気配を感じ取りながら、「嫌な気配はしないから、今のところは大丈夫よ？」と安堵の言葉を述べた。悠人は考え込むように、「もしかしてあのゲールのことか？」と問いかけ、リリスは「そうよ。あの嫌な気配は覚えたわ」と答えた。

　アイラが事前に収集した情報によると、伯爵の部屋は城の三階にあり、月の光がたっぷりと入る角部屋に設置されているという。夜であっても魔法灯を使えば十分な明かりを確保できるはずだが、何か理由があってそのようにしているのだろうと推測していた。

　悠人の心は、伯爵を討つことに固く決めていたが、無駄な殺生は避けたいという思いも強かった。それでも、敵によって影響を受けている者も多く、それぞれの命を選び取るわけにはいかないという現実に直面していた。

　悠人たちは、侵入口の確認を再度行いながら、伯爵家の見取り図を頼りに進んでいた。計画通り、馬車の納屋から城内に潜入し、使用人の入り口から誰もいない階段を利用して一気に三階まで駆け上がるのだ。

「幻影隠者の影拳」を再度発動させ、アイラとリリスを抱えた悠人は、納屋から一瞬で使用人入り口へと到達した。まるで風が通り過ぎたかのような錯覚を与えながら、彼らは想定通りに内部へと進んだ。階段を使って、三階まで一気に上がる計画だ。

すべてが順調に進み、警戒心は一層強まる。見た目では侵入しやすそうな場所にも警備が配されており、ここまでの進行は作戦通りだったが、異変は突然に訪れた。

「なんだ？」と悠人が問いかけると、アイラは不安げに「これは……」と口にし、リリスは「あの独占迷宮と同じ動きよ」と続けた。アイラは「そうでもないわ。高位貴族なら誰でも持っている防衛措置ね。私が迂闊だったわ……」と自責の念を漏らした。悠人は「ここを抜けるには？」と問い返すと、アイラは「指定された者たちを殲滅すれば、あるいは……」と答えたが、その先はわからなかった。高位貴族の仕掛けには計り知れないものがあるからだ。

　廊下に一歩踏み出すと、悠人の前には敵の群れが待ち構えていた。彼の視界には狼の頭を持つ異形の魔獣たちが映り、彼らが挑戦を待っている。悠人は瞬時に状況を把握し、戦闘態勢を整えた。

「ワンドペイジ」と「審判」のカードを組み合わせることで、悠人の体には途轍もない力が宿る。その力を引き出し、彼は敵群の中へと突進するのだった。


　敵の一団に向かう最初の一撃は、掌底で直接心臓部を狙い、魔獣の体を内部から爆破させる。「神罰裁断！」の一言と共に、魔獣の背中からは内臓が吹き飛び、地面には赤い雨が降り注ぐ。

　次々と襲い来る敵を前に、悠人の動きは一切の隙を見せない。彼は右から左へと体を軽く捻りながら、流れるように次々と魔獣の頭部や腹部を的確に打撃し、その都度、爆発的な力で魔獣たちを地に倒し続ける。この技術は、近接戦闘の極致を示しており、悠人は各攻撃を完璧なタイミングで繰り出していた。

　背後からはアイラが彼を支え、「暗黒卿」の魔法で追い詰められた敵を一掃する。彼女の魔法は闇を纏い、敵を一瞬で消し去る。悠人とアイラは背中合わせで戦場を支配し、次々と敵を葬り去る姿は、まるで舞い踊るようだ。

　やがて、悠人の足元には倒れた魔獣の山ができ、その中で彼はほんの一瞬の休息を取る。その間にも彼は「神眼の泉」を取り出し、急速に体力と魔力の回復を図る。アイラにもそれを渡し、彼女もまた素早く体を回復させる。

　戦いが一段落したその瞬間、彼らは次なる襲来に備え、再び戦闘態勢を整える。この一連の戦闘は、冷静かつ計算された動きで展開され、悠人とアイラはそれぞれの技術と力を駆使して敵を圧倒していた。彼らの戦い方は、環境を最大限に利用し、敵の弱点を見極めてはその都度、致命的な一撃を加える戦術の見本であった。

　一つ目の巨人が来た。今度は動きは素早くないものの、膂力が桁違いな背丈四メートルは軽く超える、筋骨隆々な一つ目巨人が大量に攻めてきた。

　悠人がその場に立ち、目の前に広がる巨人たちが一斉に攻撃を開始した瞬間、彼はすでに次の動きを計算し終えていた。巨大な棍棒が空を裂きながら振り下ろされるが、その動きは悠人には遅すぎた。彼は「ワンドペイジ」と「隠者」のカードを組み合わせ、「幻影隠者の影拳」を発動させる。これは悠人が幻影となって敵を翻弄し、確実に混乱を招く技である。

　この技の効果は即座に現れ、巨人たちが自らの巨体と棍棒を振り下ろす力を制御できず、不注意から自身や仲間を攻撃してしまう場面が増える。悠人はこの混乱を見逃さず、超高速で移動しながら、一体ずつ確実に敵を倒していく。彼の掌底は特に強化されており、巨人たちの厚い筋肉や鎧も容易に貫通する。