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一章

第11話:独占迷宮

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 悠人たちの冒険は、突然の敵襲撃の後、静かな一時を迎えていた。瀕死の重傷を負った彼らは、悠人が持っていた『神眼の泉』の水を使い、驚くほど速くその傷を癒し、再び戦える状態へと回復した。

 悠人は銀色の水筒を取り出し、まずリリスに振りかけ、次にアイラにも急いで振りかけた。水の滴が彼女たちの傷に触れるや否や、その効果は目に見えて現れ、リリスはすぐに立ち上がり神妙な顔をして言った。「悠人、ありがとう。この水は本当に特別なものね」

 悠人は頷き、「ああ、『神眼の泉』がこんなにも効果があるとはな」と呟いた。彼の隣で、アイラも何事もなかったかのように回復し、目を丸くして驚いた。「え?『神眼の泉』を持っているの?あの伝説の?」と質問をした。彼女の声には、半信半疑の色が濃厚に含まれていた。

 悠人はにっこり笑いながら、「そうだよ。今、皆のために使ったんだ。俺自身にもな」と答えた。アイラはその言葉に安堵し、「それよりもお礼が先ね。悠人、本当にありがとう。おかげで命拾いしたわ」と感謝の意を表した。

「気にするな、仲間だからな」悠人の返答は落ち着いていて、彼らの間の信頼感を感じさせるものだった。

 アイラは少し考え込むようにして、「さっきの敵は一体何者かしら?勇者の配下だと言うけれど、なぜ彼らが私たちを狙うのかしら?」と疑問を投げかけた。

 悠人は深く息を吸い、「最初に倒した高位貴族が何らかの方法で、俺たちの情報を勇者に届けたのかもしれない。具体的な方法はわからないけどな」と推測した。リリスが話に加わり、「トドメを刺されずに済んで助かったわね」と言うと、悠人は頷きながら、「ああ、そうだな。今思えばあいつが自信満々だったのも、俺たちがまだ生きていると知ったら驚くだろうな」と付け加えた。

 アイラは落胆しながらも、「私の暗黒卿がまるで役立たずだったわ」と自嘲気味に話し、戦闘での自分の無力さを痛感していた。「あまりにも素早い攻撃で、手も足も出なかったわ。気がついたら貫かれていたもの」と続けた。彼女の声には、敵との実力差を痛感した無念さがこもっていた。

 気を取り直したアイラは、「ねえ、その『神眼の泉』はまだ残っているの?」と質問した。

 悠人は「ああ、まだかなりあるし、これからも増える予定だな」と答えた。アイラは再び驚愕の表情を浮かべ、「え?確定事項でまだ手に入るの?それは伝説の中の伝説の品よ?」と感動していた。

「ああ、階位が上がると特別に『神眼の泉』の壺が召喚されるんだ」悠人の説明に、アイラは思案顔で、「なるほど、そうなのね……」とつぶやいた。

 リリスが悠人に向かって問うた。「これからどうするの?」悠人は決意を新たにして、「先の水で完全回復もしたし、俺たちを襲撃した者たちが油断している間に、階位を少しでも上げておきたい」と計画を立てた。アイラも同意見を示し、「階位が伯爵でも全く相手にならなかったわ。私も上げないとね」と力を込めて言った。悠人はアイラに向かって、「この間の数百匹では上がらなかったのか?」と尋ねた。アイラは小さくうなずき、「うん、残念ながらね。相当な量が必要ということね。もうすぐだといいんだけど……」と期待を込めて答えた。

 悠人たち一行は、好機を得ていた。相手が負傷の状態から回復不可能と勘違いし、彼らを見届けもせずに立ち去ったことが、彼らにとって大きなチャンスとなっていた。完全回復した一行は、次なる行動を計画し始めた。

 それに先立って、リリスとアイラに向けて悠人が重要な質問を投げかけた。「二人が知っているなら、教えてくれないか? 特定の場所を離れても監視できるような魔法、またはなんらかの残滓をどこまでも追いかけられる魔法やアイテムは存在するか?」この問いに対する答えが、彼らの次なる行動の鍵を握っていた。

 森の中で、アイラとリリスは悠人の質問に答え始めた。リリスは首を傾げながら言った。「ん~そうね……。遠見の魔法は存在するけど、今は使い手がいるのかしら?残滓もあるけれど、死に際にあの高位貴族が何かしらつけたのかもしれないわね。でも、『神眼の泉』の水をかけたから、残滓は消滅しているはずよ?消えた残滓が、相手が死んだ証拠となるから、ますます行方をくらますのには効果覿面よね」

 アイラはうなずきながら返事をした。「遠見の魔法は、確かに存在するわ。でもリリスちゃんの言う通り、使い手がいるかは疑問よ……。残滓の類は、つけられた相手が死ぬと消えると言われているから、消えたなら効果は絶大ね!」

 二人の言葉に耳を傾けるうちに、悠人は一見絶望的な状況でも希望を見出していた。敵は悠人らが死んでいると思っており、追跡する手がかりとなる残滓が消えたことで、彼らの死が確定したと信じ込んでいるはずだった。『神眼の泉』が彼らの最後の砦となることなど、敵は予想もしていない。

「自分自身を創造せよ」という言葉が、悠人の心を打つ。これが彼の信条であり、今回の敗北が彼にとって意外な幸運だったと彼は感じていた。

「今回の敗北は、ある意味運が良かった」と悠人は呟いた。アイラは彼の言葉に同意する。「ええ、そうね。相手が油断してくれて助かったわ。プロなら私たちの首を落としていたかもしれないわね」

「だな。体は回復しているから、この先に進むとして、何があるか知っているか?」悠人が問いかけると、アイラは軽く微笑みながら答えた。「この先は、ね。とても素敵な場所よ?」

「どんな場所なんだ?」と悠人が淡々と尋ねると、アイラは少し不満そうに「つまんないわね。もう少し何か反応してくれると思ったのに」と答える。

「専用ダンジョンよ。特定の入り口から入ると、一定時間内に入場した人たちだけに生成される小規模ダンジョンがあるのよ」とアイラが続けた。悠人は興味深そうに「へえ、それは面白そうだな」と応じた。

「でしょ?誰にも邪魔されない分、助けも来ないから最悪全滅ね。でも皆挑むのは、魔石や宝箱が出現するからよ」とアイラが説明を加えた。彼女の目には冒険への期待が輝いていた。

 悠人はそのダンジョンについてさらに詳しく知りたいと思った。「いつまでこもっていられるんだ?」と彼は尋ねた。

 アイラは詳しく説明し始めた。「大雑把に言うと、一日一回の入場制限があるの。退場の条件は、こちらの全滅か相手の全滅。階位が上がった場合もそうよ。上がると極端に力が増すから、ダンジョンの意思がそれをよしとしないみたい。入場時の階位に合わせて、出現する魔獣の強さが調整されるのよね」

「なるほどな。うまくやればその者たちの独占になって、確かにうまいな……」悠人は自分の前世で遊んでいたゲームを思い出していた。

「暗黒の森は、別名独占迷宮よ。入るタイミングは、入り口の支柱が光っている間なら今入った人と同じ空間で狩りが可能よ」とアイラはさらに説明を深めた。

 悠人は他の者に入らせたくない場合の方法を尋ねた。「他の者に入らせたくない場合はどうするんだ?」

 アイラは具体的な方法を示した。「まずは光り出すのを待って、光ってからもしばらく待つの。支柱の光が上から少しずつ消えていくんだけど、それが足元付近になったら入るのがベストね」

 悠人は納得したように「なるほどな。誰も入らないように見張っていて最後に入る感じか」とまとめた。アイラは「ええ、その通りよ」と答えた。

「早速、行ってみよう。またの襲撃に備えたいのと、次の高位貴族対策にも階位を上げておきたいからな」と悠人が提案した。

 リリスは賛成の意を表し、「そうね。その方がいいわ。行きましょ。アイラ、案内お願いね」と悠人とアイラに向かって言った。

「ええ、任せて。こっちよ。ついてきて」とアイラは意気揚々と答え、足取り軽く独占迷宮へと向かう先頭を歩き始めた。森の中を進む彼らの背後には、冒険への期待と不安が入り混じった空気が流れていた。悠人はリリスとアイラの間に立ち、深呼吸を一つしてから、新たな挑戦に向けて前に進んだ。
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