上 下
18 / 32
一章

第9話:(1/3)静寂の潜入(夜の陰謀)

しおりを挟む
 十二層の蛇神を討伐した後、悠人たちは戦利品を売却するために一時地上へ戻ることにした。リリスの空間収納や悠人の指輪には多くの物品が納められていたが、それでもできるだけ身軽になることが彼らの望みだった。

 彼らが十層から地上に転移すると、辺りは夜の闇に包まれ、赤く光る月が照らし出していた。アイラは勝利の余韻に浸りながら、次の楽しみに心を躍らせていた。「いよいよね」と彼女が明るく笑いながら言った。その眼差しは星のように輝いている。

「お酒を飲むのが、それとも換金するのが?」リリスがニヤニヤしながら尋ねると、アイラは即座に「どちらも」と応じた。彼女の声には明らかな期待感が満ち溢れていた。

 実際、彼らが抱えるゴーレムの魔石は非常に貴重だった。その硬度の高さから剣士には手強い存在であり、通常は魔法を使う者しか倒せないため、市場では供給が少なく、その希少価値が価格を押し上げていた。さらに彼らは蛇神からも巨大な魔石を手に入れており、それがどれほどの価値を持つかは計り知れない。

「気になることがあるんだけどさ、高価な魔石ってどんなことに使うんだ?」悠人が素朴な疑問を投げかけると、アイラはそれについて詳しく説明した。「うん、高価な物ほど濃度が高くてね、魔道具の作成に使われたり、魔力を抽出してポーションにしたりするの。品質が良ければ良いほど、使い道は多様になるわ」

 悠人はこの世界の経済について新たな知見を得た。「なるほどな。消耗品なら、需要は高そうだな」

 そこで彼は反応石を取り出し、その上に手をかざした。光が伸びて、討伐の対象である貴族の城を指し示す。アイラがその方向を見て尋ねる。「蒼の貴族が次のターゲット?」

「どの貴族かは名前までは分からないんだ。指し示す方向だけが分かるんだ」と悠人が応じた。

 リリスは戦略的に考えていた。「遅かれ早かれやるなら、すぐにでも行くべきね。ただ、もう少し情報が欲しいわ」

 アイラが即座に提案した。「蒼の貴族の城なら、私が案内できるわ」

 悠人は少し心配そうに尋ねた。「それっていいのか? 高位貴族を殺めるのは罪に問われるんじゃないのか?」

「王族以外は、ほとんど調べないから問題ないわ。貴族の生き死には、自分で守るべきだと言われているからね」アイラの返答には自信が感じられた。

「それは第三者に目撃されても同じか?」悠人がさらに詳しく確認した。

「ええ、王の法以外はほとんど機能していないし、王族に近い者が目撃しても、罪だと思われない限り問題になったことはないわ」アイラの言葉は、彼らの次の行動に対する不安を払拭するのに十分だった。

 悠人たちは次なる行動に向けて準備を進める。地上での一時的な安息と情報収集が、彼らにとって新たな冒険への橋渡しとなるのだった。

「わかった。これから高位貴族は討伐が続く。抜けたくなったら言ってくれ。強制はしない」と悠人はやや控えめな声で言った。その言葉にアイラは少し寂しげな表情を浮かべたが、すぐに明るく答えた。「気を使ってくれたのね。でも大丈夫よ。私は悠人の仲間になるって決めたし、ずっと一緒についていくわ」アイラの声は告白のようにも聞こえたが、悠人はそれに気づかず、ただ感謝の言葉を返した。「ありがとう。アイラの魔法には本当に助けられてる。正直言って、アイラがいないと困る。だから、ずっと一緒にいてほしいんだ」アイラはそれに満面の笑みを返し、心から嬉しそうに「喜んで」と応じた。

 リリスは状況を変えようと話を進めた。「その蒼の貴族は城を持つぐらいだから、防備やその他もろもろ、どうなってるの?」アイラは「噂では、かなりの警備を雇っていて、常に何かに備えているみたいよ」と答えた。
 リリスは目を細めながら「そうね、何か怪しいことでもしているのかしら。用心棒も多いのかもね」と言い、悠人はさらに情報を求めた。「他に何か情報はあるか?」アイラは考え込むと、「町に隣接していて、怪しまれずに近づけるけど、中の警備は厳重よ」と言った。「睡眠系の魔法で相手を眠らせることはできるか?」と悠人が問うと、アイラは自信満々に「任せて。相手を眠らせることはできるわ。その後の始末も容易よ」と答えた。「それなら、目指す討伐依頼には問題なさそうだ」と悠人は安堵の息をついた。

 そうして話あいながら待つこと数分。ギルドでの売買の結果、今回の報酬は蛇神が三千金貨、ゴーレムが三千三百金貨となり、合計六千三百金貨に上った。一人当たり二千百金貨という高額な報酬で、悠人は内心で驚嘆した。普通に生活していれば一日二十金貨が相場で、一ヶ月で六百金貨にしかならない。この一日で得た金額は、約十ヶ月分に匹敵する。派手な稼ぎだと悠人は考えた。

 ――酒屋での一幕。

「今日の勝利の美酒に乾杯!」とアイラがジョッキを高く掲げた。いつものように飲み物に目がないアイラは、運ばれてきた料理を前にしても同じく食欲旺盛だった。肉類や揚げ物、チーズ類が並ぶテーブルを前にしても、アイラは一向に太る気配を見せず、その体の秘密に悠人は感心した。この世界では金さえあれば、悠人の口にも合う豪華な食事が楽しめるのだ。

 アイラは終始楽しそうに飲み食いしていて、悠人とリリスはその様子に手を焼かずに済んでほっとしていた。和気藹々とした雰囲気の中で、三人は夜明けまで時間を共にした。

 翌日、アイラは寝過ごしてしまい、その日はほとんどを動けない状態で過ごした。悠人はリリスにだけ「図書館に行く」と告げて宿を出た。悠人にとって、数日はこの町で過ごし、情報収集をするのにちょうど良いタイミングだった。彼は有料の図書館で知識を深めることにした。

 その夜、アイラはギルドの情報屋から得た情報に基づき、「今夜、蒼の貴族を討つべきね」と提案した。悠人もリリスもこの案に賛同し、夜までそれぞれの時間を過ごした。

 夜になり、彼らはアイラの案内で『蒼の貴族』の城へと向かった。この行動は、元の世界では考えられない忌避行為だったが、この世界ではそれが当たり前のように行われていた。内心、悠人はこの新たな環境に適応しつつあり、彼の命に対する価値観はすでに変わっていた。これからの戦いに向けて、彼はただ全力を尽くすだけだと心に誓った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。 目覚めると彼は真っ白な空間にいた。 動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。 神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。 龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。 六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。 神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。 気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...