異界の黄金タロット - 死神猫と裏切り者の女神 -

一章

第4話：（1/2）タロット使いと死神猫（黒猫リリスとの邂逅）

　祇園悠人は、異世界の過酷な現実に迅速に適応し、さまざまな出来事を経験していた。彼が森の奥深くを探索していた際、弱々しい猫の鳴き声が突然、耳に飛び込んできた。不思議に思いつつ、声のする方向へと足を進めると、一匹の黒猫が茂みに絡まって動けなくなっているのを発見した。

　この猫は一見普通の猫と変わらないが、悠人が近づくと、猫は人間の言葉で話し始めた。「助けてくれたらお礼に、知識を共有するからお願い」と懇願された。悠人にとってその真偽は別として、この猫を放っておくわけにはいかないと感じた。「別に条件なんざ、無くていい」と言いながら絡まった草を振り解こうとした。

　しかし、草は予想外にしつこく絡みつき、簡単には解けなかった。悠人は「なんだこれは？　まるで生きているみたいだな……」と呟くと、猫は「それは、グラスマインドかもしれないわ。地面に向けて何か力を放てればいいのだけど……」と耳を伏せて意気消沈した様子を見せた。

　悠人は「そんな奴らがいるのか、ちょっと待ってろ」と言い、「来いっ！」と力強く叫びながら再びタロットカードを発動させた。「ワンドペイジ！　審判！」と叫ぶと、目の前で二つの銀色の粒子からなるカードが重なり合い輝いた。それを確認し、地面に目線を移すと、叩くべき場所が薄らと銀色の輪で示される。

「なるほど、ここを撃つのか……」と理解し、「神罰裁断！」と叫びながら地面を力強く撃ち抜くと、魔獣は「ギィギャー！」という甲高い叫び声を上げ、地面が盛り上がり、猫を拘束していた草が萎れてしまった。一瞬後、地面から銀色の粒子が悠人の胸に向かって吸い込まれる。これで倒したことを確認し、猫を置き去りにして去ろうとした。

　しかし、猫は「待って！」と切実に叫んだ。悠人は「気にすんな」と横目で言いながら去ろうとすると、猫は「タロットカードを駆使できるのは世界に一人だけだわ」と突然言い出した。それを聞いて悠人は足を止め、「どういうことだ？」と問い返した。

　猫は「その前に、助けてくれてありがとう。私の名前はリリスよ。あなたは？」と尋ねた。悠人は「俺は悠人。ユウでもユウトでも好きに呼べばいいさ」と答えた。リリスは満面の笑みを浮かべ、「それじゃあ悠人と呼ぶね」と応じた。悠人も「それじゃあ俺はリリスでいいか？」と問いかけ、リリスは「うん、よろしくね」と答えた。こうして二人の奇妙な共同歩調が始まった。

　悠人は「それで、さっきのタロットのことだけど、世界で一人だけというのは、過去に他にもいたのか？」と尋ねた。リリスは「ええ、かつてはいたわ。私も以前、他の旅人と共に行動していたのよ」と語った。

「なるほど、積もる話はこれからゆっくり聞くとして、今は人里を探しているんだ。道はわかるか？」と悠人は尋ねた。実は彼の腹は減っており、金もなく、困った状態に陥っていた。

　リリスは「うん、私が案内するわ。お礼に食事と宿代も支払うから」と提案した。悠人にとっては望外の助けだが、目の前のリリスがどう見ても金を持っているようには見えなかった。「どう見ても金を持っているようには見えないんだが……」と表情を曇らせた。

「あっ、そうね。これも説明しておかないとね。私は空間魔法を使えるの。ちょっとしたものならどこでも入れておけるのよ」とリリスは言いながら、地面に小山となるほどの眩い金貨を現した。

　悠人は「え？」と思わず声を漏らした。このような出来事が現実に起きるなど、夢にも思わなかった。悠人の表情には驚きが溢れていたが、リリスは少し得意げな様子だった。「それなら安心だ」と悠人は猫に伝える。リリスは悠人の手に、どこからともなく取り出した指輪を差し出した。

「これは？」と尋ねる悠人に、リリスは喉をゴロゴロ鳴らしながら答えた。「これはね、背負い袋ほどの容量をしまえるものよ。飲み水や軽食、ポーションなどを入れておくと便利。お金もね」とアドバイスをくれる。

　悠人にとっては未知のアイテムで、それが高価なものではないかと躊躇してしまう。しかし、リリスは落ち着いた声で「気にしないで、悠人ならすぐに手に入れられるほどになるわ」と励ました。

「そうか、それならありがたく頂くよ」と悠人は素直に指輪を受け取り、左手の人差し指にはめた。指輪は途端に眩い光を放ち、肌に同化して消えてしまう。「心配しないで、それは盗難防止の措置よ。そうすれば奪われることはないわ」とリリスは説明を続けた。「もう片方の手をかざして、指輪を思い浮かべれば何が入って何が取り出せるかわかるわ。しまいたい時はどちらの手でもかざせばしまえるのよ」と教えてくれた。

　悠人が言われた通りに試すと、「おっ、これは……。こんなに金貨をもらってもいいのか？」と驚いた。リリスはにこやかに「うん、それはお礼の一部よ」と応えた。悠人が一枚金貨を取り出し、左手で金貨をしまうイメージを持ちながらそれをかざすと、目の前の金貨は消え、どこかに収まった感覚を得た。

「なんだか凄いものだな。こんなに貴重なものをありがとう」と悠人は再び感謝の言葉を述べた。リリスは「どういたしまして。それじゃ、町に向かいましょう。あとね、あたしと話してても問題ないわ。話す猫はたくさんいるのよ」と続けた。

　リリスは「おそらく、タロットカードについて知っているのは悠人とあたしだけだから、助言もするわ」と言い、悠人は願ってもないサポートを得たと感じた。

「それは助かる。色々教えてくれ」と悠人は素直に頭を下げた。

「あらあら、頭を下げられたのは初めてね？」とリリスは今度は驚いた。「先駆者には礼節を持ちたいんだ」と悠人は深い敬意を表して言う。その言葉にリリスは心地よく感じた。

　町に向かう途中、リリスはかつてタロットカードの「死神」であったことを悠人に打ち明けた。悠人はこの不思議な猫の存在に興味を持ち、彼女の言葉に耳を傾けた。
　未来を予知し魔力を強化する力を持つリリスは、悠人がこの異世界で直面するであろう数多の危険について警告し、彼女自身も過去の過ちから自由になるために、悠人との旅が必要だと告げた。この出会いが悠人の運命を大きく変えることになる。