異界の黄金タロット - 死神猫と裏切り者の女神 -

雨井雪ノ介

文字の大きさ
上 下
2 / 32
一章

第2話:無力を超えて

しおりを挟む
 祇園悠人は、意識を取り戻したものの、激しい混乱に包まれていた。周囲は真っ白で、足裏に伝わる生温かい木の感触と全身の痛みが彼を現実に引き戻した。頭の中は混乱し、ここにいる理由や何が起きたのかを理解しようと必死だった。最後に覚えているのは、アパートの部屋で何者かに襲われたことだけだった。

 悠人は「どうしてこんなことに……」と心の中で叫んだ。恐怖と不安が彼を支配し、思考は混乱したままだった。なぜ自分がこんな目に遭うのか、何も分からないことにより不安が高まった。

 「力があれば……」という声が脳裏に蘇り、悠人の心に深く刻まれた。それは死の間際の切実な願望だった。もし力があれば、命を狙われることもなく、他の人を守ることもできたかもしれない。この思いが彼の心に強く引き寄せられ、胸の奥に痛みを感じた。

 次第に、祇園は自分が他界したことを理解し始めた。胸に押し当てられた鋭利なナイフの感触を思い出し、悠人は「どうして俺が……」と呟いた。何をすればいいのか、迷いと恐怖が彼を包み込んでいた。

 突然、周囲が明るくなり、彼を包み込む光が現れた。目の前には大理石の柱に支えられた豪華な門が現れ、扉がゆっくりと開かれた。祇園は無意識にその門を通り抜け、新たな存在として蘇った。通り抜けた先で、銀色の粒子で作られた『審判』のタロットカードが空中に浮かんでいた。カードから放たれた光の粒子が全身に降り注ぎ、彼は新たな力を感じた。

 悠人は「これは一体?」と祇園はカードを指で突いてみた。金属質の質感があり、カードは彼の動きに合わせて固定されていた。

 悠人は「どうしてこんなことが起きているんだ?」とカードの意味はまだ分からなかったが、重要なものであると感じていた。これが彼の新たな力の源であり、異界で直面する試練を乗り越える鍵となることを、まだ彼は気づいていなかった。

 その瞬間、祇園は自分の内面に眠る強大な力と向き合った。悠人は「この力があれば、何かを変えられるかもしれない」と希望と不安が入り混じる感情に包まれた。体内で血液が沸騰するような感覚に襲われ、悠人は「熱い……」と声を上げた。

 彼は自分の服装に目をやった。黒いズボン、黒いシャツ、黒いスニーカー。全身黒一色の装いに首を傾げ、悠人は「なぜこんな服を?」と独り言を漏らした。その問いに答える者はいなかったが、新たな姿がこれからの彼の役割と密接に結びついているように思えた。気がつくと、カードは消えていた。

 祇園は周囲を見渡し、広大な空間に立っている自分を発見した。この場所は無機質でありながらも、新鮮で懐かしさを感じさせる空気が漂っていた。

 悠人は「ここは一体どこなんだ?」自問自答しながら、ゆっくりと前に進み始めた。彼の歩みは不安と期待が入り混じり、足取りはまだ不安定だった。

 突然、遠くから聞こえる美しい歌声が彼の注意を引いた。声は何層にも重なるハーモニーで心を揺さぶり、強く引き寄せられるような感覚があった。声に導かれるままに進むと、次第に光が満ちる場所にたどり着いた。

 祇園が光を眺めていると、突然、異世界の神と思われる女性が姿を現した。白い衣に包まれ、金色の髪をなびかせた彼女は、穏やかに語りかけてきた。彼女の視線は優しく、祇園の心を自然と落ち着かせた。

 女神は「真の力とは何でしょうか?」と問うと、祇園は答えに窮し、心の中で葛藤が巻き起こった。自分には何の力もなく、どうしてここにいるのかも分からない。沈黙が流れる中、彼は自分の無力さを感じ、唇を噛んだ。

 女神は微笑みながら、「真の力は自己克服にあります」と告げた。この言葉が祇園の心に深く響き、彼は元の世界で格闘術を習得し続けた理由を思い出した。

 女神は続けた。「貴方の元いた世界の悪意と悪徳を具現化した魂がこの世界に来て暴虐を振るっています」。祇園は自らが蘇生された理由を悟り、「その者を倒すことが、俺の存在する条件なのですね?」と問い返す。女神は微笑み、祇園の覚悟を見届けるかのように静かに頷いた。

 女神は「貴方が持つカードは力の源泉です。これは魔力や神力とは異なり、神通力に近く、貴方以外には制御できません」と語った。さらに続けて「階位を上げると『神眼の泉』からカードを一枚取り出せます。効果的に活用してください。我々は狭間の世界でしか力を及ぼせないので、その重責を貴方に託します」と言った。

 悠人は「もし俺が何もしなかったら、どうなりますか?」と祇園が尋ねると、女神は「それならば、再びその悪意と悪徳のある者に殺されるでしょう。しかし、倒すことができればその害意は貴方には及びません」と予言した。

 女神は「期限はありません。貴方の力とその者たちとの運命は必ず交差するため、逃れることはできません」と言った。さらに続けて「ある程度の言語を理解し、肉体を強化して送り出します。早死にしないようにしてください」と女神が付け加えた。

 悠人は「ああ、蘇生してくれたなら、やれるだけやってみるさ」と決意を固めて答えた。

 女神はさらに「姉の女神が勇者とともに――」と言いかけたが、話は突然中断された。何か不穏な空気を感じつつも、祇園はその言葉を胸に留めた。

 女神の最後の言葉と共に、祇園の体を黄金色の粒子が包み込み、数秒後には霧散し、静寂が訪れた。そして、いつの間にか現れた白い石柱に挟まれた銀色の門がゆっくりと開き始めた。祇園は深呼吸をし、新たな運命を受け入れる覚悟を決めた。その門の向こうには、未知の世界と冒険が広がっていた。祇園は一歩を踏み出し、自らの運命に向き合う決意を固めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

転生王子はダラけたい

朝比奈 和
ファンタジー
 大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。  束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!  と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!  ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!  ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり! ※2016年11月。第1巻  2017年 4月。第2巻  2017年 9月。第3巻  2017年12月。第4巻  2018年 3月。第5巻  2018年 8月。第6巻  2018年12月。第7巻  2019年 5月。第8巻  2019年10月。第9巻  2020年 6月。第10巻  2020年12月。第11巻 出版しました。  PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。  投稿継続中です。よろしくお願いします!

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...