上 下
57 / 74
第三章:カミナリノモン国(前編)

第57話『壮絶桃太郎』

しおりを挟む
 ダンジョンの中では常に早い者勝ちだ。
 今回は嫌というほど、早さを見せつけられていた。

 相手は、桃太郎一族だ。
 かなりタチが悪いのは、親切なふりして近づいてくると平然と詐称をしてくる。

 しかも桃太郎と名乗る者は多く、連れている猿人族や犬人族とキジ人族の者も連携して、ことを起こしている。

 一体彼らの何が動機となって動いているのかがわからない。
 
 事態が俺たちだけかと思うと実は、周りの者たちも桃太郎一族には苦渋を舐めさせられており、立ち向かう者がいても返り討ちにあうのが関の山だった。
 
 そうした行為が頻繁に行われているにもかかわらず、ダンジョン以外で小競り合いが起きにくいのは、桃太郎同士でも同じく歪みあい対抗しあっているからだ。

 どうやら桃太郎一族自体は一枚岩でなく、内部抗争で苛烈なようだ。

 いざこざがあるような状況下で女神が管理していないダンジョンへ向けて皆で歩みを進めた。
 もしも彼らが嗅ぎつけた日には、邪魔されるのは間違いないだろう。
 
 ルゥナが指し示した場所は、小高い丘の四方が簡易的な壁で囲まれた特別な入り口なように見えた。
 
「ここよ」

 京也は目の前にある誰でも入れる状態の入り口に疑問を覚えた。

「普通に口が空いているのか……」

 入り口としては丘のふもとに、あった。
 幅は、馬車が3台分並列で入れそうなくらいもあり、高さは一般的な二階建て家屋の屋根程度もあった。

 ルゥナが珍しく悩みながらいう。
 
「ただ出入りは、自由ではないのよね」

 ギルド管理なのかと京也は思い聞き返す。

「誰かの許可でもいるのか?」

 ルゥナはどこか不満そうで苦労して探した割には大したことがなかったと思っているのかもしれない。

「あたしもなんでと思ったんだけど、管理者がすでにいるのよね……」

 京也はそもそもの知識が不足していたので確認のため聞く。
 
「ルゥナ。そもそもダンジョンは誰かの管理下に置かれるものなのか?」

「他は違うけど、目の前のダンジョンは少し事情が違うようなのよね。京也が思っているのとは違う感じがする……」

「どういうことだ?」

「あたしよりかぐやの方が事情に詳しいかも?」

「ルゥナにしてはやけに消極的だな? どうしたんだ? いつもらしくないな」

 ルゥナはよほど納得が行かないのか、他の者へ説明を譲ったあと、仰向けに寝そべった状態で空を浮いてふて寝している。

「あたしもね、どうにも腑に落ちないことが多いんだよね。かぐやは何か知っているでしょ? 説明お願い」

 かぐやはまずは現在の勢力について説明を始めた。今更ながら月の民って勢力って言えるほどいるのかと疑問に思う。
 なぜなら、付き添いの者二名とかぐやの三名しか俺は知らないぞ。

「少し長くなりますわ。勢力として桃太郎一族・天狗一族・牛若丸一族・金太郎一族・月の民の5勢力がつかず離れずでいますわ」

 とりあえず、京也は相槌だけはうっておく。

「なるほど……」

 今の発言からすれば、大事なことはしっかりと将軍は力ある一族に対して手綱を握っているとかぐやの発言から受け取れる。

「将軍様から町中での権利はもらっておりませんのよ? なのでどこの者が主張しても通りませんわ」
 
「続けて……」

 かぐやの発言からするとわずか1週間の管理のために争うほど、旨味があるところなのだろうかと気になる。
 
「ひとつだけ、例外がございますの。最高到達階層深い勢力が、翌週の管理をすると決めごとがありますの。将軍様からも許諾は得ていますわ」

「一見すると問題なさそうだな」

「ええ。何でもない洞穴と思われていた場所が急に活気づきましたわ。以前に、桃太郎一族が浅瀬で活動していた実績から、最高到達度を保持している桃太郎一族の管理下になりましたの。9層を超える者がおりませんので、実質的な支配下に収めているというわけですわ」
 
「そういうことか……」

「ええ。もちろん9層を越えれば逆転しますわ。ただ、簡単に譲り渡さないのが桃太郎一族ですわ」

 もうこうなると、縄張り争いでチンピラと同じ類だ。
 
「一族で総力を上げて妨害なんだろうな……」
 
「その通りですわ。9層まで進めているとのことから、10層以上を先に攻略すれば権利は変わりましてよ?」

「ダンジョン内で起きたことは、不干渉で変わりないか?」

「ええ、もちろんですわ。通常のダンジョンと同じく、中で起きたことについて不干渉。掟は、同じですわ」

 京也はどうにも何が旨いのか気になっていた。
 死闘を繰り広げてまでして、どのような価値があるのだろうか。
 
「ルールまではわかったけど、一族が全力を上げたくなるほど、魅力があるところなのか?」

「はい。財源になるほど魅力がありますの。実は、魔鉱石が豊富なことに気がつき、桃太郎一族の財源になっていますのよ? なので、9層以降に進むなら一族全員で妨害が行われます。生死を問わずにですわ」
 
「他の一族から不平不満や小競り合いは起きないのか? 当然国も知っているだろうし」

「もちろん他の一族は不満ですわ。なので京也とワタクシの月の民でダンジョンを解放することが最善と思われますの」

 なるほどと思う。桃太郎が独占しすぎて敵を作りすぎてしまったんだろう。
 当然一族に吸収された組織や、組織自体が大きく膨れてくると、財源はとくに重要な意味を持つ。

「どちらにせよ、攻略の邪魔になるなら、排除しかないからな。ひとつ気になるのは、なんでそれだけ人がいそうなのに9層で止めているんだ?」

 京也は素朴な疑問をかぐやに聞いてみると、意外と普通な答えが返ってくる。
 
「はい。10層の階層主が非常に強く、太刀打ちできないからですわ」

「なるほどな。わざわざ妨害せずとも階層主にやられた状態にしておけばすむことじゃないか?」

「はい。本来はそれでいいと思いますわ。ところが竜となった場合、討伐隊が結成されて、広く募集をかけられてしまいます。そうなると桃太郎一族の独占ができなくなるため、妨害をしているわけですわ」

「なるほどな。時間が経てば皆に知れ渡りそうだけどな。なんでなんだろうな?」

 かぐやは少しため息まじりで京也の疑問に答える。

「桃太郎一族は、ダンジョンの9層以降に進もうとしたものへは妨害をして、竜に倒させていますわ」

「ひどいな……。ところでどのような竜なんだ?」

 かぐやは手で何かを形作りながら、説明を始める。
 
「真っ黒なドラゴンですわ。首から何か『E』という形の首飾りをつけていますの」

 すると途端に何か飛び起きるようにルゥナは、反応をし出した。

「かぐや! 首飾りって、このような形?」

 急に反応してきたルゥナは、手のひらの上に闇の塊を使い何かの形を模して見せてきた。

「そう、それですわ。ルゥナはよくご存じで」

 ルゥナはどこか楽しそうな笑顔を浮かべていう。

「京也、10層多分大丈夫」

「ん? どういうことだ?」

 ルゥナは、どこか得意げな表情を見せる。
 
「かぐやのいう通りなら、その子私の知り合い」

「え? マジで?」

「そそマジマジ。闇竜のティルクだよ多分。なんできたんだろって思うけどね。魔核に釣られてきたような気がするんだよね~」
 
「なるほどな。竜がルゥナの知り合いなら協力してもらいつつ、桃太郎一族を殲滅。知り合いでない場合、竜を殲滅後に桃太郎一族を殲滅」

 かぐやは不思議そうに京也の説明について、確認をしていた。
 
「あら? それですと、どちらでも桃太郎殲滅は変わらないのですね?」

「ああそうだ。障害はすべて排除する」

 かぐやは納得したように頷きながらいう。
 
「さすがワタクシの京也ですわ」

 この時、ルゥナとかぐやとリムルとアリッサのそれぞれが不敵に薄く笑い、互いを何処か牽制しているように見えた。

 耐えるなら目からビームが飛び出して空で交差し、競り合うような感じだ。

 今回、桃太郎と一戦交えるのは、先代勇者から譲り受けた武具の使用感の確認も兼ねている。

 ウェットスーツのような防具と大剣の二種類は、最初慎重にいくつか試した後は、全力で対応した場合の反動を知りたいから、ちょうどよい。

 どのような理由であれ、自分が恩義に感じている者以外へは遠慮せずに当たるつもりだ。
 もちろん世界に対しても同じで、女神については恩義があるのでなんとも言えない。

 京也はさっそく装着を始める。

「着装!」

 一瞬にして上下防具が装着し手には大剣を召喚した。

 かぐやは、京也の格好を見てすぐにでも戦闘開始かと訪ねてきた。

「行きますの?」

「ああ、もちろんだ。皆、準備はいいか?」

 かぐやはすぐに答えてくれた。
 
「ワタクシはいつでもと申しますわ」

 リムルもいつの間にか準備完了のようでガッツポーズをとつついう。

「私も大丈夫だよ」

 アリッサはいつも通りだ。

「いつでもいけるぞ」

 ルゥナはいつもよりも同郷の仲間に会えるのを心待ちにしているせいか、若干テンションが高いようで言葉も弾んで答えた。
 
「ティルクがいたら話をするから、ついでに桃太郎一族も殲滅しちゃおうか。魔核頂いちゃおう。イヒヒヒ」
 
 俺たちは、闇に一歩踏み出した。
 中はどうやら、通常とは少し趣が異なる。

 前回強制転移させられた遺跡のように、レンガ調の石材が積み重なって壁や地面天井を作っている。

 一定間隔で、発光する何かがあり灯りの代わりになっている。
 人の気配は俺たち以外にしない。
 果たして桃太郎一族はどう出るのか……。

 なんだ! 一体何が……。

 急に大太鼓を1回大きく叩いたかのように、心臓が飛び跳ねる。
 同時に、身体中が水風呂から温泉に浸かった時のような染み渡るような奇妙な感覚を味わう。
 
 いうなら、少し体が軽くなったというべきなのだろうか。

 たしか、ホーリーが言っていた装着時間による段階的な変化なのかもしれない。

 道なりに進んでいくと、今度はところどころレンガが抜け落ちて洞窟の地肌が露出し初めてきた。
 
 道幅自体は広いため、魔獣などが出てもすぐに対応ができる状態であっても何も現れない。

 広場に出ると、同じく遺跡のようでいて壁側に一定間隔で天井まで伸びる何かの魔獣を掘った石像が立ち並ぶ。

 このまま奥に進むと下へくだる階段が現れて、そのまま降りていく。
 真っすぐ坂のようになっており突き当たると踊り場で、周り下に降りていく。

 つごう4回踊り場に遭遇し、ちょうど一回転した形になる。

 新たに現れた広間は上階と同じ作りで、魔獣や桃太郎一族が存在しない。
 本来は何かいたのか、もしくは桃太郎一族により排除されたのかもしれない。
 他の探索者により狩られる可能性は低そうだ。

 かぐやは、残念そうに周りを見渡していう。
 
「何もいないですわ……」

 ルゥナは同郷の者が気になるのか、ソワソワしながら動き出した。
 
「京也、あたし先を見にいってくるね」

 京也は先行してもらえるなら助かると思い言葉を返す。
 
「ああ。頼む。迷うような場所でもなさそうだからな」

 リムルは辺りの気配を敏感に感じているようだ。
 
「私も何か感じるとすれば、わずかに視線を感じるぐらいかな」

 アリッサもどうやら同じ様子だ。
 
「リムルと同じく、私も何処か感じるぞ」

 京也は少し警戒を高めつつ、多少は慎重に行くことを伝えた。
 
「もしかすると、桃太郎一族が何処か潜んで観察しているのかもしれないな……。まだなんとも言えないけど、十分注意していくか」

 リムルは即座に反応していう。
 
「そうだね、そうしよう」
 
 アリッサも警戒を高めていた。
 
「わかった。私も気が付いたら皆に伝えるぞ」
 
 かぐやは全体を俯瞰してみようと、少し飛翔を始める。
 
「ワタクシは少し、辺りに探りを入れてみますわ」
 
 俺たちは何事もなくひたすら歩き続け、2階層に存在する地下に降りる階段を見つける。
 
 1階層から2階層に行くのと同様に、3階層に行くのも道なりに降りていく。
 
 3階層に到着しても2階層と様子がほとんど同じだ。
 同じ状態が続き、とうとう9階層から10階層にいく階段前まで辿り着く。
 
「結局何も起きないし、何も出なかったな」

 京也は拍子抜けした感じを伝えると、かぐやも思った以上に何もないことに少し落胆して、随分と残念そうに肩を下げた。
 
「ワタクシも何か反応を見つけられたらと思いましたけど、何もないですわね……」

 リムルは、階段を指さしながらいう。

「キョウ、ここから10階層に行くときだっけ? 襲撃に合いそうなのは」

「恐らくな。聞いた話から予想できるのは、竜と対峙している時に背後から狙われるんだろうな」

 京也の予想にアリッサは少し憤慨している。そこまでいきなり反応しなくてもいいけど、意外と直情的な性格だったんだろうか。

「なんとも卑劣な。私が成敗するぞ」

 京也は皆を落ち着かせるため、臨機応変に対応できるよう促す。
 
「今は慎重に動いて、いつでもどのような対応でもできるようにしよう」

 一定間隔で備え付けられている灯りはあるものの、ダンジョンにいると時間がわからなくなる。

 ルゥナが戻ってこないところを見ると、気軽に昔話でもしていそうだ。

 リムルは待ちくたびれたのかすぐにもいきたそうだ。
 
「キョウ、もうこのままいく?」

「ああ。ルゥナを待つこともないからな。皆準備はいいか?」

 かぐやは元から何も心配はしていないようなそぶりを見せていた。

「ええ。問題ないですわ」

 リムルも当然と言わんばかりである。

「私も大丈夫だよ」

 アリッサは少し、体が鈍ってきたのか動きたそうだ。

「ああ、いつでも大丈夫だぞ」

 俺たちはいよいよ10階層に向かう。
 階段は他のところと変わりなく順調に降り、何事もなかったかのように辿り着く。

 人の気配はなく、拍子抜けするほどだ。

 目の前に広がる広大な空間には、目を大きく開いた。
 貴族の屋敷と思えるほどの大きさの竜がいる。

 生き物は、不思議と何処か可愛らしくも見え、真っ黒な竜だった。
 ちょうど伏せの状態で、アゴを地面につけてぼんやりとしている。
 口の上に、腰掛けてルゥナは何かにこやかに話をしていた。
 竜の方は恐らく念話に近い物でも使い話をしているんだろう。

 ルゥナと最初のころは、よく念話で会話していたからだ。
 どういうわけか最近はめっきりと使わなくなった。

 和やかな場所に現れた俺たちを見ると、竜は伏せの状態から起き上がる。
 別に戦闘をしようというわけではなく、単に俺たちを仲間として受け入れてくれるような雰囲気を感じとった。

「ルゥナ、その竜が例の?」

「ええ、そうよ。ティルク紹介するわ。闇の力を持つ京也よ。そしてその右にいるのがリムルで左がアリッサ。後ろにいるのがかぐや姫よ」

「うむ。闇の者に立て続けに会うとはな、なんだか懐かしく感じるのう。京也といったか? ルゥナを助けてやってくれ頼む。こう見えても、非常に寂しがり屋でな。このような笑顔のルゥナを見るのも久しいぞ」

 ルゥナの慌てぶりがなんだかおかしく、両腕を前に伸ばし否定しながら慌てて弁明していた。

「ちょっ! 何言っちゃっているのティルク! あたしは、さ・び・し・く・な・い、からね。そこん所勘違いしないでよね?」

「うむ。少し明るくなったのか? よもや京也殿をそこまで好いておるとはのう。わからん物だな」

「まっまま待ってよっ! なんでそっ、そうなるの?」

「京也殿、ルゥナを頼む。我は肉体があるゆえいいのだけどな。ルゥナは闇の世界に置いてきてしまったからな……」

 京也は当然だと言わんばかりの気概でいう。
 
「ああ、それも込みで取り戻してやるさ」

「闇に偏見の無い、良き御仁を見つけたなルゥナよ」

「京也がいいやつだってのはわかっているけどさ。だってさ、そのさ……。やっぱさ……」
 
 ルゥナがいつものペースでない所がなんだかおかしい。
 それはともかくとして、桃太郎一族が現れない。
 何か知っているか聞いて見るとするか。

「さっそくで済まない。桃太郎一族が現れないのは何か知っているか?」

 ルゥナは何気ないように闇の竜の代わりにいう。

「ん? そのこと? ティルクが食べちゃった。さっき」

 あまりにもあっさりというものだから、近くの屋台で食べちゃったぐらいのノリにしか聞こえない。
 なのでさらに京也は確認してみた。

「何人ぐらいだ?」

「ん~数えていないけど、ざっと百人はいたよね?」

「うむ。多分な」

 なんともないようなことを言っているけど、それはとんでもないことだ。
 なぜなら、戦った形跡がないからだ。
 おそらく一瞬の出来事に違いなく、末恐ろしい。

「そっか、そしたらティルクは体小さくできないか? 一緒にきてみたらどうだ?」

「うむ。ルゥナもいるなら、面白そうだな。よいのか? 我は闇の竜だぞ?」

 京也は軽く誘ってみたら、意外とすんなり進んだことに驚きを禁じ得ない。
 
「ん? ルゥナとそれだけ仲がよいのに、ダメな理由なんてないぞ」

「うむ。かたじけない。では小さくなってみるか。久しぶりだな、この感覚は」

 すると肩に乗るハムスター程度の大きさになり、小さな羽を羽ばたかせて器用に京也の肩に乗る。

 京也はひとつだけ気になることがあり聞いてみた。
 
「階層主であるティルクがこのままだと、次へ進めないとかあるのか?」

「我は階層主ではないぞ? たまたまここにいたのだ。そしたら何を勘違いしたのか、魔法界の連中らが攻めてくるのでの、返り討ちにしたのだ。主と認められている本当の階層主は、そこの通路をさらに奥に行った先の空間におるぞ。京也殿、力試しで挑むのもよいかもしれぬな」

 なるほど、さらに奥がそうだったのか。
 誰もいかないから、わからなかったし情報もなかったんだろうな。

「ああわかった。それじゃ、試してみるか」

 俺たちは、全員で意気揚々と階層主のいる場所へ向かう。
 その間闇の竜は、女性陣たちの可愛いに晒されて、どこか萎縮している姿がなんとなく微笑ましく思えた。

 ティルクは意外そうに口を開くと、すぐに閉じて目を細めて薄く笑う。
 
「おや? ここにも魔法界の者が潜んでおったか……」

 たしかにいた人数にして、三十人という所だろう。
 どうやってティルクのそばを買いくぐってやってきたのか気になるところだ。

 京也たちをみると、そこにいた者たちは口々にいう。
 いわゆる桃太郎風の格好をした者たちだ。

「貴様がそこにいた竜の親玉か?」

 答える義務も義理もないので、無言で接近してみた。

 着用してからどの程度時間が経ったのだろう。
 最低でも数時間は経過していて、今の状態は自身でも認識の誤差修正に気を取られるほどだ。

 まさにこの間合いの詰めかたは、瞬間移動だ。

 俺はそのまま相手が目を見開き、大きく口を開けている隙に逆袈裟斬りとして左斜め下より右上に大剣を全力で振り上げた。

 赤い血が吹きだす有様は、体を真っふたつに切り裂いたことで分かれて左右に倒れてしまう。
 大きな穴が空いた皮袋のように、血がこぼれ落ち地面に広がる。
 その姿を桃太郎の後ろにいた者たちは、何が起きたのかわからないという顔をしていた。

 疑問について答え合わせをすることもなく、振り上げた大剣を今度は力任せに振り下ろし、猿人を両断する。
 再び振り上げる形で犬人も両断して、上段に上がった大剣を振り下ろしキジ人も真っふたつに切り伏せた。

 この間5秒にも満たない出来事だ。

 俺はこのまま確かめるべく、再び駆け出す。
 一気に横一文字に振り払ったら、どこまでいけるか全力で切り裂く。
 大剣自体が軽く、豆腐を薄い皮で包んだ物を数個立て続けに斬った感触が手元に残る。

 また4人の命が散る。

 速度に乗ったら止まらない。
 横一文字に切り裂き、その勢いのまま水平に半回転した時に大剣を振り上げて、下ろす際三人目の桃太郎を上段から切り伏せた。

 全力で動くのもわけがあり、限界を超えて体を酷使させるスーツは、限界でないなら際限なく上昇していく。
 破損するまで上がる触れ込みなわけで、常に全力で行くと力も速度も何もかも指数関数的に増え続けていく。

 その隔絶した戦いぶりを見たティルクは、思わず喉を鳴らしたのち、ルゥナに告げた。
 
「うむ。ルゥナよ。あの者はバケモノだな」

「アハッ。ティルクがそういうなんて珍しいね。そんだけ京也がすごいんだろうけどね」

 桃太郎一族たちは、わずか10秒にも満た無い内に、半数以上が死に絶えた。

 別の桃太郎は、焦りながら指示を出していた。
 
「急げ! 魔法を!」

 犬人族は両手を頭上高くに上げて何かしようとしながら叫ぶ。
 
「ワンダフルー! フォー!」

 猿人族は踏ん張るようにして、拳を握り締めて同じく叫んだ。
 
「ムッキー!」

 キジ人族は、それは普段からだろと思わずにはいられない間抜けな叫びだ。

「グェーグェー」

 最後に人族が何かを叫ぶ。

「キビダン!」
 
 獣人たちは何か連携して、合同魔法を放とうとしている。
 よい機会の為、スーツの耐久力を試すべく、大剣を右側の地面に突き刺し、無防備な姿で魔法を受ける。

 仁王立ちのまま両腕を組み京也は待つ。

「フハハハハバカめ! 食ぅいやがれぇー!」

 桃太郎率いる1チームは、巨大な魔力の塊を高速で俺に当てにきた。
 光の槍を半自動で無数に放つタイプだろう。
 以前も近いのを見たし、食らったことがある。

 ――何も感じ無い。
 
 俺の体に衝突した時の感想だ。
 まるで赤ん坊に叩かれているようにすらも感じ無い。

 俺はこのまま撃ち終わるのを待った。
 ところが、意外なことにもう魔力切れを起こして終わりのようだ。
 なので終わりの確認を告げる。

「想定外だな……。もう、終わりにするか」

 悔し紛れに叫びたそうなので、好きにさせた。

「なんだと!」

 拳を握りしめて、目を剥く桃太郎たちはよそに、俺は最大級の力を見舞う。

「黒ノ閃光!」
 
 残りの桃太郎一族と階層主もろとも消滅した。
 階層主は、先の竜ぐらいの大きさではあったものの我関せずと、まったく興味なさげに居眠りまでする始末。

 残念ながら二度と起きることはないだろう。
 頭から串刺ししたように、円柱状に穴が開いて貫通した状態のまま死に絶えたからだ。

 いわゆる即死に近いだろう。
 
 運よく一人だけ、生きながらえた者がいた。
 桃太郎ただ一人である。

 運よく射線上から逃れたものの、右腕の肘から下は消滅してしまい、あまりの激痛に気を失って倒れてしまったのである。

 京也は気がついてはいてもあえて、止めは刺さずに放置した。
 もう二度と歯向かうことがないようにするためのつもりで生き証人としたのだ。

 リムルは不思議そうに尋ねてきた。

「階層主なのに、何も特典箱がでないね? 女神が管理する他のダンジョンと違うのかな?」
 
 なぜなら俺とリムルは、ゴウリ王都のダンジョンで散々確保してきたからだ。あの頃がどこか懐かしい。
 
 俺も不思議に思い見回してみたけど、何もない。
 あるのは階層主の遺体とあたりに散らばる桃太郎一族の屑肉ぐらいだった。

「ここは箱の出ない特殊な所かもな。女神が管理していないというなら、特典箱が出るようにもしていないかもしれないからな」

 リムルも納得し諦めたのか、頷いた。
 
「それもそうだね、京也が頑張ったのにちょっと残念」

 俺は思わず口をついて出てしまう。
 
「だよな……。女神が管理しないことで魔鉱石以外に、何か旨味でもあるのか?」

 今の所調査の途中経過としては、非常にクソまずいダンジョンなことぐらいだ。

 桃太郎たちの財源である魔鉱石の採掘場など、まるで見つからなかったな……。
 
 京也たちは、死んだ巨大アリクイ風の魔獣の尻側にあった下り階段を見つけて、そのまま降りていった。
 
 ――幾許かの後。

 右腕の肘より下を失った桃太郎がたった一人で起き上がった。
 
「クソっ! なんだってんだ。皆死んじまった。皆が……」

 うつむき悲しみに暮れるかと思いきや、突如として怒り出した。
 
「たしかあの黒い男は京也とか言っていたな、決して……許さ……ない」

 男は歯軋りしたまま下り階段を見つめ、突然我に帰ったように慌てて地上に戻っていった。

「早く、早く……知らせなくては……」

 男は、負傷した腕にポーションを振りまけると、そのまま走り去っていった……。
 
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

2回目チート人生、まじですか

ゆめ
ファンタジー
☆☆☆☆☆ ある普通の田舎に住んでいる一之瀬 蒼涼はある日異世界に勇者として召喚された!!!しかもクラスで! わっは!!!テンプレ!!!! じゃない!!!!なんで〝また!?〟 実は蒼涼は前世にも1回勇者として全く同じ世界へと召喚されていたのだ。 その時はしっかり魔王退治? しましたよ!! でもね 辛かった!!チートあったけどいろんな意味で辛かった!大変だったんだぞ!! ということで2回目のチート人生。 勇者じゃなく自由に生きます?

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...