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一章:ゴウリ王都編(始まりの力)

第24話『運命は勇者の味方をする』

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 ――夕方ごろ。

 王城から宿に戻り、京也がぼんやりとしているのは別の胸の内があった。常々気になることがあったのは、勇者を含み超人や超越者とは一体なのかと。

 転移者でもないのは見てとれるし、既に確認済みだった。何よりを知らないばかりかも知らない。

 この場合、神による何か介入があったのかもしくは、元々こうしたバランスブレイカー達が一定数存在するように世界が調整していたのかもしれない。まだ見ぬ未知の神や天使と呼ばれる者たちが実在するのか、疑問は尽きない。

 さらにこの者たちより力がある存在も耳にしている。一般に認知があまりされていないと呼ばれる者もいるという。

 果たして本当に、書物に書かれた通りの神々による恩恵なのだろうか……と京也の疑問が募る。なぜなら、バランスブレイカーたちがいること自体、異常とも言える。

 異常な力を持つ者たちは、すでに人としての寿命は超えて、別の何かに変化しているという。平等が神々のすべての事柄についての理念であるなら、矛盾していると言えるだろう。

 京也自身は、敬虔《けいけん》なる信徒というわけでもないことから、深くは神々について知らない。

 とはいえ、勇者の存在自体に異常な何かを感じる。

 なぜ人らは、勇者のことを神々の寵愛とすら考えているのか疑問だった。勇者を省けば超人という存在は、才能や持てる能力により到達したのはいうまでもない。

 生まれながらにしてと呼ばれる人らは、なんらかしらの使命があり、いずれ神託により力を振うため、召集される存在なのだろうか……。

 そうでないと神々の理念に則って、力を与えられた当人たちは私利私欲のためだけに矛盾した行動をとり、理念を破壊することになる。現に理念は破壊どころか、崩壊していると言ってもよさそうだ。
 その証拠に、為政者たちが勇者たちの監視を強め排除すらしているからだ。そのことから見るとその理念とやらは、勝手に人々の妄想で書き出された物に過ぎないのかもしれない。
 
 京也は、神々が下賜した力を持つと言われる勇者の足取りを追いながら、次のダンジョンを目指していく。単なる勇者へのお礼参りと、行く先々のダンジョンを制覇して闇レベルを上げ無双したいからだ。

 本当は勇者以上の力がないと対抗できない何かがいて、対策のために存在するのだとしたら、一体は何なのか。その考えに至ったのも、かつて文献を見たことがあったからだ。遠い過去の神話の時代より、さらにより深い時代、何かがあった。

 何かが起きて、神話の時代が始まったらしい。そのが問題だ。疑問が憶測を呼びさらに疑問におちいる。

 疑問は消えることなく繰り返されるため、一旦おいておくとしよう。次なる地は120時間制限のあるダンジョンだ。果たして何が出るのか……。

「君とゆく道は、おもしろいことばかりだね。イヒヒヒ」

 京也の顔付近で漂う闇精霊は、黒い笑みを浮かべて何か期待している素振りを見せていた。

 ――三日後。

 すべての状況が片付き、ひと段落したころ今度はギルド経由で王に呼ばれ城へ向かう。

 あの騒動から当日はそのまま帰投して、翌日はギルドで買取を依頼したのち久しぶりにゆっくりと過ごしていた。当然、次にいく王都は決めており買い出しも余念はない。

 今回の王からの呼び出しは、ほぼプライベートな呼び出しに近い。謁見の間へ入るとあたりにいるのは、扉の両端に立つ衛兵と中には、王と第二皇女ぐらいしかいない。

 紅絨毯の上を中ほどまで歩き、いつも通り謁見の間にて京也は、跪く。最小限の礼儀だけはしておこうと思っただけだった。
 すると面をあげよと声がかかり正面を向く。普段とは異なり王冠も被さらず、バスローブに近い形をした白い厚手の布地を羽織っており、足にはスリッパに近いものを履いているのがわかる。

 非公式で、気軽にしたいためだろう。幾分憂いの表情を見せており、やや疲れた感じが表情から読み取れる。
 周りに武闘派の第二皇女以外にはいない。やたら皇女の興味津々な目線が降り注ぐ。
 皇女の剣技は、騎士団長ですら圧倒するとの噂だ。魔力も高く力のある武人が護衛のように側にいれば、何の心配もいらないだろう。

「三日ぶりぐらいか……。京也よ、残る気はないか?」

 半分諦めたような口ぶりで王は告げる。
 わかっているのだ、探索者をムリに繋ぎ止めておけるなど早々できないことを……。
 それでもあえてきいた。だからこそ半分諦めが出てしまったのだろう。王にしては感情が面に出てしまうなど珍しいことだ。

「残る? 町には、立ち寄っただけです」

 京也はとくに構えることなく、あくまでも自然体で答えていた。今にして思えば、勇者を超えるために一時期立ち寄った……。
 そう言えるほど、レベルを上げて力をつけた。ただし技術が伴わない課題は残る。

「――いくのか?」

 もはや繋ぎ止めておけるほどの町にいる理由もないだろうと、他のことも考え王は類推してはいる。とはいえ一抹の希望を抱いて王は、思わず確認してしまったのだった。

「残り……九人おりますので」

 京也は深い意味ではなく、残りいる勇者のパーティーメンバーの数を述べたにすぎない。勇者たちの末路がどうなるかは、火を見るより明らかであったとしても、事実以上のことは言わないでいた。

 魔法がつかえない苦痛を味合わせるために即時、魔力核を破壊して終わりにしてしまうかもしれない危うさもある。だからと言って正直にいうつもりはないし、今の時点では楽に死ねるとは思わせない。

 京也は、ダンジョンで置き去りにしたすべての勇者に対して、一人残らず探しだそうとしていた。
 相手が聖人君子でないことは、わかりきっている。中途半端な力を使い誰かを虐げているなら、同じパーティーのとして、命をかけたをしようというだけだ。

 どうやら俺は、お節介なのかもしれない。

 後は、状況により仕留めることだけを考えていた。ただし闇討ちはせず、正々堂々とヤルつもりだ。
 生かしておく予定は何1つないし、より苦しみながら息絶えることを心底望んでいる自身がいた。

 不意に現れた闇精霊は、京也の考えが筒抜けのような顔をして、ニヤニヤと顔を覗きいう。

「君はやっぱエリートだね~。私はその考えがまさにだと思うよ。うん好きだねその考え方は、激しく同意」

 変わらずにやつき、嬉しそうにしている。

 ――数瞬。

「次は、アルベベ王国か?」

 しばらくの沈黙の後、王は続けて問うた。なかなか王は察しが鋭く、ズバリそのものをいい当ててきたのには舌を巻く。
 さすがに王になるだけあって、観察眼は鋭いのかもしれない。それにしてもよくわかったものだ。一番近い場所でなく、やや遠い位置にある王国は、嘲笑った妙齢の美女がいる王国なのだ。

「いつかはいくやもしれません……。いろいろと世話になりました」

 あえていくとも何も表現していない。監視がつけらても困るし、後を追われても迷惑なだけだ。

「また片付いたら来るといい。我は待っておるぞ」

「イヒヒヒ。おいおい待つとかいっているぞ。どうするよ、アホだなこいつは」

 闇精霊は変わらず毒舌だ。かなりの美少女なのにいろいろと言動が残念だったりする。比べてリムルは、上品にさえ見える。いたって普通なのだけども対比すると違いすぎてしまう。

 今の状態だと、闇精霊の姿形が見えて会話できるのはどうやら俺だけのようで、他にはわからない。口を開けて声にしているわけではないから、念話に近いだろう。

 変わらず俺の周りをフラフラしているだけで、周りには姿を見せない。というより、見せられないのに近いんだろう。
 実体化まではできずにいるのだから、今の言動は気軽な物だ。ただ会話の節々から実体化をしたがっているようにも見える。

 恐らく、本当に実体化が希望なのだろう。そのためには何かが足りない。足りない物を得るために、俺にまとわりついている。

 俺が導き出した結論だ。

 意外と普段はなんだかんだと助言はしてくれるし、好意的で友好的なところは助かる。ならば別に困ることはないし、実際に離れることはできないので、いても問題ないという感じだ。俺以外の第三者に対して辛辣なだけだった。

 王のことをアホだという闇精霊に京也は答えた。

「権力者は皆、そんなものだろう?」

「人間の偉い奴らは皆、似たり寄ったりだな~。あっそうだ! 京也は、人じゃないからね? イヒヒヒ」

 またいつものが始まったと思いとくに気にもせず、言葉は受け流した。

 王様は待つとかいうけども、そのようにしか言えないんだろう。本当のところは、今以上にあまり踏み込んでほしくないのもある。
 だから余計に、権力者から待ち焦がれるなどいわれると、純粋に俺を利用したくてうずうずしているようにしか見えない。

「片付いたら、立ち寄らせてもらうこともあるやもしれません……」

 京也はあくまでも可能性だけを伝えた。王のいう片づけと京也のいう片付けは、実は大きく乖離はしていない。
 王は、薄々感付いてはいるものの止めることはもはや不可能。ならば、悪をあばき出すことに専念して粛清してくれるなら、何も問いただすことはあるまいと王も考えていた。
 心配することがいらないほど、勇者はいつも生まれてくる。多少減ったところで何も問題はなかった。

「京也の嘘つきー」

 俺が立ち寄ることは無いのを知っているゆえに、闇精霊は叫んでいる。だとしても俺と闇精霊以外には聞こえない。
 満面の笑みを浮かべる闇精霊は、俺と王の間を行ったりきたりして様子を見て、なんだかとても楽しそうだ。

 必要なことはすべて話たし、用事は終わりだと言わんばかりに、京也は一度礼をして背を向け、謁見の場を後にする。王に対して不作法が、京也の場合は許された。

 なぜなら彼は、世の中に数十人しかいないと言われるに最も可能性が近い人間で、比較的友好な関係だからだ。帰り際の背中を見て王は思わず言葉を漏らす。

「運命は勇者の味方をする……か」

 今回の一連の騒動は、神託から始まった。神はもしかすると、こうなることがわかっていて、勇者パーティーに京也を入れたのではないかと思っている。覚醒させることで、より大きな困難に立ち向かわせるためだ。

 すべての運命を味方につけた勇者こそが本物であると……。

 だからこそ王は、彼こそが真の勇者ではないかと思っていた。とくに訳などなく、直感だった。為政者ともなれば、勘が実は非常に大事で、重要な局面を左右できる叡智でもある。

 そうした経験がいうのだ。彼は本物であると……。

 力でいえば超越者を頂点に下には、超人がいてさらに下に勇者がいる。それぞれが隔絶した力をもつと言われている。勇者と呼ばれる者は、まだ比較的人間らしい素振りを見せるし、民からの親近感や信頼は厚く人気も高い。

 いざとなれば、国の威信を背負い魔族たちと最前線で戦う者たちだ。残念なことに超人や超越者は扱い辛いのが事実だ。そもそも所在が不明なことも多いし、誰も逆らえない。さらに寿命も変化して長寿になると聞く。

 そうなるとますます生きている時間軸が異なるため、通常の人より呑気に構えてしまう。となると結局のところ、王国にとって勇者が一番扱いやすく汎用性も高いのだ。

 京也の去りゆく足取りを眺めながらも、また会うだろうと王は予感めいたものを感じていた。もちろん根拠は、第四皇女の存在である。

 京也のことを痛く気に入っており、そのまま好きにさせておいた方が良さそうなため放っておくことにした。

 京也と妖精リムルの足は、町の門を出るとアルベベ王国に向かっていった。次の120時間制限ダンジョンを目指して……。

「ねえ、次の勇者は食べちゃおうか? 人の魔核は美味しいよ? イヒヒヒ」

 闇精霊は、愉快そうに笑いながら中を舞う。またかと京也は大きなため息をつきつつ、不思議そうな表情を向けるリムルは隣に携えて、次の町へ歩みを進めた。

 
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