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一章:ゴウリ王都編(始まりの力)

第23話『褒賞』

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 ――昼ごろ。

 日差しが頭上高くやわらかい陽光を降り注ぐ中、城内を闊歩する不審な五人組がいた。
 京也に第四皇女そしてリムルとさらに京也の左右の手それぞれに一人ずつ、首根っこを掴んで引きずる姿は、異様という言葉が最もふさわしい。
 
 本来なら城内にいる衛兵の誰かが止める役割ではあっても、誰も遠巻きに見るだけで人を寄せ付けない。
 それもそのはず、周囲を第四皇女お抱えの精鋭たちが守るからだ。遠からず近からずと前後左右に一名ずつと指揮をとる者の1名の合計五名が皇女たちの道中を守る。

 王の謁見の間にて来訪者の報告中、衛兵を退け京也と第四皇女が扉を開けて強引に押しいる。

「――手出しは無用だ」

 王の大きな声が響く。

 数瞬、すでにいた先客は、丁重に王妃たちに連れ添われて別室に向かう姿が見えた。手際の良さに感心するも、京也はそもそもの目的を果たすため、大臣と勇者の首根っこをつかみ引きずりながら、中央まで威風堂々と歩み進める。

 この時すでに特殊部隊は引き下がっており、誰の目にもつかない場所で待機をしていた。

 京也の傍には第四皇女もいるため、何事かとざわつきはするも、衛兵や騎士団も王族がいるため安易に手を出せずにいた。もちろん王から手出し無用と言われればなおさらだ。

 謁見の間の中央に引かれた赤い絨毯の上ではなく、脇を歩む。正面を向いて威風堂々と歩く姿に、周りは圧倒されていた。姿をより鮮明にしていたのは、京也の左右の手それぞれに掴まれた者たちの存在だ。

 誰がどう見ても、知らぬ者がいないほどの知名度のある人物だ。引きずられている姿は、気を失っているのかすでに他界しているのかわからないほどの損傷だった。
 右腕は肘から本来曲がらない方向に曲がり、左腕も同様だ。体の上半身と下半身の衣類は、血まみれで赤黒く血が凝固している。
 もう一体も似たりよったりで、襟首を掴まれて仰向けのまま引きずられる姿は、もうすでに事切れていると言っても不思議ではない様子だった。

 あまりにも異様な光景に、周りは固唾をのんで行方を見守ることしかできない。左手には大臣で右手には勇者と二人が左右のそれぞれの手に掴まれ持ち上げられると、半分まできたところで二人を床へ無造作に放り投げた。まるで、わらを放り投げるように軽々とだ。

 大理石でできた床に放り投げられた二人は、床に打ち付けられても死んでいるかのように動かない。

 そこで聴衆の耳目を集めたのは、勇者ではなく大臣の姿形だった。完全なる魔族ではないもののハーフと言える少しばかりの魔族の特徴を見せていた。
 背中からはコウモリのような硬質そうな皮に骨が浮き出した艶消しの黒色をした羽が生えている。普段は隠していたのだろう、気を失い無防備な状態だからこそ、本人の意図にかかわらず露呈してしまった。

 そこで見せた大臣の姿から、すでにただごとではない様子が伺え謁見の間はざわつきが止まらない。

 騒がしくなるも京也と第四皇女は平然としていて、正面に王を捉えておきながら、王の言葉をまった。本来なら無礼者として捉えられても不思議ではないものの、状況ゆえ黙認された行為だった。

「……京也か?」

 噂に聞いていた者だと王はすぐにわかった。
 国にいる黒髪と黒目の男とは目の前の者しかない。初のダンジョンコア制覇者だ。無能と呼ばれた魔力ゼロの男が、たった一人で完遂させた覚悟に舌を巻くほどの逸材だ。

「王……」

 京也はとくに感情もなく、ただ役職名をつぶやいた。

「仕事……か?」

「ああ……王も?」

 一見すると、奇妙なやりとりがはじまる。まるで、気心知れたもの同士で近況を確認し合うような短いやりとりが行われていた。本来一国の王が気軽に応じることもない。

「謁見中だったな……。――騒音の苦情か?」

「ああ……。騒音の苦情だ」

 巷で騒がしい魔族と、連なる者たちの騒動が至るところで頻発していた。他国と比べ、ダンジョン含めて活気はある。
 ところが、違う意味で騒々しいことはなかった国だった。近年、魔族たちの暗躍で治安が悪くなり、騒々しいと言えるほど喧騒がひどく、王の頭を悩ませていた。

 魔族の尻尾を掴んでもまるで、こちらの動きをすべて知っているかのように、ことごとく逃げられる。しかも逃げるばかりか、国民までも失踪する事件が相次いでいた。

「何をしたんだ……」

「終わらせた」

 ここでようやくかと王は安堵し、京也がここにきた理由を察した。

「――して、用件はなんだ?」

「用件はこいつらだ。内容について……皇女にすべて話た。片付けば少しは”静かに”なろうだろうな」

 すると周りは戦々恐々としている。
 おそらく自体が飲み込めたのだろう。”騒音”の元凶を排除したから、”静かに”なると。
 だからよこすもの寄越せと、半ば脅しに近い強請りが来たと周りは見ている。気を失っている大臣と勇者の取り巻きや口ぞえをしたもの含めて、逃げるに逃げられず行方を見守りながら固唾を飲む。

 すると第四皇女は、儀礼的なお辞儀をして王へ証拠を自ら手渡しにいく。
 さすがに京也では、いくらなんでも一国の王に目と鼻の先までは近づけない。皇女が見せた魔導書のように分厚い帳簿は、罪の深さと重さそのものだった。

「王様。どうぞご覧ください。彼らの悪事が記録されたものですわ」

「――こっ。この内容は……」

 両手でしっかりと掴むと目を見開き、眉毛を大きく上に動かす。驚きの表情を作るだけのことは、緻密に書いてあった。
 数々の悪事は、人身売買にはじまり宝物倉庫から拝借した金貨。さらには他の者の弱みと強請りなど、克明に記録が残されていた。
 他には王族たちのことなども、客観的かつ詳細に記されている。中には、王族の一部の者に対して、問題点も記されていた。大臣の細かく記録に残す習慣が災いとした形だ。

 内容を軽く一読すると、まるでめまいを覚えたかのような様子を王は見せると、左手で目頭と鼻筋を押さえて大きなため息を付き京也に尋ねた。

「証拠以外にも、あるのではないのか?」

 物的証拠は第四皇女が渡した物以外にもあり、人的証拠として謁見の場にいる者の名前を伝えた。

「グライド参謀・エイルデイル第二騎士団長・マルカニール第三王子親衛隊、三人が”騒音の元凶”が何か証明してくれるでしょう。裏で大臣や勇者と共に魔族と組んでいたと」

 すると周りが騒がしくなり、誰もが顔を見合わせて、話題の当人たちへ視線を移す。視線に耐えきれなくなったのか、弁明をしようとする者や逃げようとする者までさまざまな行動をとりはじめる。

「この者が指した者を、ただちに引っ捕らえよ」

 衛兵たちは迅速に行動を起こし、たちまち三名は捉えられてしまう。

「お気遣い痛み入りますわ」

 第四皇女は薄ら笑いを浮かべてことの成り行きを見守る。

 捉えられ王の前に跪ずかされると、当人たちは口々に釈明をしはじめた。言葉など通じぬと言わんばかりで、上から覆い被せるように京也に問う。

「――して、簡潔に問う。そ奴らの罪状は?」

 一度も会話したことやあったこともない面々に、まるで崇めるような視線を送られる。

「大臣と勇者と共に、魔族と結託して人身売買と宝物倉庫内の金貨を横領した主要人物だ。他には俺を貶めて、ダンジョンへ置き去りにした勇者の身内の一人だ」

 一瞬空気や音が止まったかと思うほどになったあと、急にざわつきだし周囲に動揺を誘う。

「第四皇女ファルレイナに問う誠か?」

「はい 王様。王家に誓い真実であることを申します。私の手元にある帳簿が何よりの証ですわ。他には、大臣の家にいた売買前の国民の救助も完了ですわ」

 唯一安堵できる情報なのか、国民の救助が成功したことを受けてどこか少し安堵する様子が伺える。
 守るべき民を手にかける者が中枢にまでいると、遅かれ早かれ国は終わるところだ。今ならまだ立ち直せるだろうと王は考え、厳密に粛清する気でいた。

「……わかった。グラニエ大臣は伯爵を取り壊し、全員生涯奴隷堕ちとする。勇者も同様に奴隷落ちとし、それぞれの売買代金は京也に褒賞の一部として、全額譲渡とする。私財のすべても同様とする」

 衛兵たちはグラニエ大臣と勇者を魔法拘束具で拘束して、タンカに乗せて運んでいく。

「妥当ですわ。王様」

 こうしたなか、権力にまるで無縁で無関心な第四皇女の台頭により、大きく変わっていくことが予見された。
 ところが本人はどこ吹く風で、権力から遠ざかることを望んでいる。まるで腹の内が読めない人だ。
 客観的に見れば、あまりにもひどい現状なので、一時的に立ち上がったと見せているのだろうか。少なくとも今は、敵でないことは確かだ。

 それに今立ち上がったとしても面倒ごとが多いだけで、ある程度整地された状態から台頭した方が圧倒的に楽だ。
 今回の件から、第四皇女の情報収集能力に長けていることが示されたわけで、周りも一歩引くのは目に見えている。

 やはり第四皇女は腹黒いと、京也は内心考えていた。

「ひっとらえた三名も事実であるなら、罪の内容に応じて決める。事実の場合同様に廃嫡し、奴隷堕ちとして売買代金や私財すべて没収。売却して代金を功労者である京也に、すべてを譲り渡すこと」

 王から言い渡されると、死刑は免れたものの地獄しか残っていないため、三名とも唖然として固まってしまう。当然、もう抵抗は無意味だ。

 目の前の三名も、衛兵がどこかへつれていく。恐らくは地下牢であろう。死なないだけまだマシと言えるのかは、本人しか知らない。

 あとは淡々とことは進み、場がおさまっていく。
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