零士その者は、魔法結社東京の追放者 〜液体金属AIウルと異世界東京でのハンター道中〜

雨井雪ノ介

文字の大きさ
上 下
41 / 44
一章:異世界 異能と魔法の東京国(新宿編)

第14話『東京マザー』(2/4)

しおりを挟む
 埼玉が追い詰められる戦死する中、水属性の神奈川・ジョバンニが奮闘し、敵の迎撃にあたっていた。地上に上がれば非戦闘員たちも甚大な被害を被る。既にスラムは壊滅し、第3城壁内は彼らの侵入を許さないようにと、孤独な戦いが続けられていた。

 そして、群馬・ライジェルが傷を抱えながらも立ち上がり、敵に立ち向かう。彼の声が力強く戦場に響いた。「見せてやろう! この力が群馬だ!」と言いながら、一気に戦況を逆転させようと光の速度で敵を瞬く間に切り裂く。

 その勢いは圧倒的で、烈火の如く敵をなぎ倒す。しかし、敵シャチたちの様子に異変が生じ、一列に整列し、見えない敵を待ち構える。

 「なんだと! 減速だと!」群馬が驚愕する声が響く。シャチの特殊能力により、魔法が解除され、群馬の速度は制限されてしまう。

 群馬は元々、単騎での戦いは少なく、主に伝令としての役割を担っていた。結社側は彼に指示を出さず、放置された結果、自ら敵を討伐に向かう。

 彼の剣技では、多勢に無勢で完全に包囲され、食われる寸前まできた。しかし、彼は覚悟を決める。「クッ、これまでか。だが! ただでは死なん!」と叫ぶ。

 「絶ゆることのなき命の光は、いずれかならず万象を照らす」という言葉と共に、「我が光! 群馬の光の民よ! 栄光あれええええ!」と叫びながら、自身の光の民としての力を暴発させ、周囲のシャチ魔獣を道連れにする。

 結果、群馬・ライジェルは壮絶な戦死を遂げる。
 ――群馬・ライジェル。戦死。光の民よ永遠に……。

 
 ダンジョンを出た零士とナルはその後、リーナの全方位魔法とナルのキャットバレットでシャチを撃退し続ける。零士は肉弾戦を挑み、超筋とウルの身体制御を駆使して戦う。

 零士の突きは近づく敵を粉微塵にし、数は増えるばかりだった。しかし、神奈川の力も加わり、人間側の勢いが増していく。零士は引き続き、前進しながら敵を討つ道を切り開いていく。

 侵食率20%、超人化。
 深く夜の闇が落ちた中、零士はやむを得ず、超人化し数をとにかく減らす方向で動いた。彼の目標は、いかに早く30%に達するかだった。

 超脳と超筋を駆使し、シャチたちを素手で豆腐のように貫いていく。この異常な力は、ウルによってもたらされたもので、彼自身が元々持っていたわけではない。その力を使いこなすことは、技術的に未熟な彼にとって、ウルが補助する重要な役割であった。

 一方で、零士たちが奮闘する前にトップハンターとして名を馳せたハイランカー、埼玉ノットデスや群馬ライジェルは散ってしまう。群馬は自爆で爆散し、埼玉はシャチたちに無惨にも食い散らかされた。その様子を見て、他の魔法使いや異能者たちは恐怖に震え、四方八方からの攻撃に晒される。

 しかし、異能者集団「黒蝶」の登場は、事態に一石を投じる。彼らは黒装束に身を包み、圧倒的なチームワークと個々の能力で次々と敵を殲滅していった。その捌きっぷりは、まるで芸術のようだった。

 零士とウルも、シャチを捕食しながら逆のダンジョンへと進む。彼らの真の目的は、『東京マザー』を倒すこと、そしてウルは『東京マザー』の生体情報を探るために脳を捕食しようと考えていた。

 この時、零士に向かって一人の黒装束の美少女が声をかけた。「いくの?」小柄な彼女は黒髪のポニーテールで、戦いの中でも一際目立っていた。

 何を言いたいか察した零士は「ああ、もちろんだ。もう少しだ」と答え、彼女は満面の笑みを浮かべながら、別のシャチへと駆け出した。

 膨大なシャチを捕食し、ようやく侵食率は28%まで届くがまだ足りない。侵食率を後2%上げる必要があった。強くならなければ、この過酷な世界で生き延びることはできない。だから零士は捕食を続けるが、超人化の使用によって力が消費され、燃費の悪さを実感していた。

 その時、彼を襲ったのはとてつもない頭痛だった。「ウッッウウウウ……」零士は頭を抱えた。

「零士さま!」ウルはすぐに反応するも、零士はよろめく。「ςερε φα」未知な言葉を彼は発していた。

「零士さま!」ウルが再び叫ぶ。零士は視点が定まらず、足元はしっかりしているが、何かを成そうとしている様子だった。体には稲妻のような線がくっきりと現れ、黒色で赤黒い縁取りで描かれたそれは鈍く光る。この瞬間、体にまとわりつく何かがすべて変わった。
 
 まるで古のサムライが鞘から刀を抜くように、零士は居合いの構えを取った。その動作は流れるようで、彼の手元にはいつの間にか鞘が現れ、刀の柄を握っていた。腕に浮かぶ赤黒い稲妻状の紋様が、短い間隔で一層激しく明滅する。

 十メートル先から迫るシャチたちに対し、目にも留まらぬ速さで刀を抜き、紅い斬撃がシャチを一瞬にしてクズ肉へと変えた。

「久しぶりか……」と刀を鞘に戻しながら零士はつぶやく。その様子は普段の彼と遜色ないが、ただし、その雰囲気は全く異なっていた。彼は、零士としての存在について考えても答えは見つからず、別の自己のように振る舞っている。

「そこのお前……」と、普段とは異なる零士の声がウルに向けられた。

「零士さま?」ウルはその変わりように戸惑いを隠せない。

「俺ではあるが、少し違う。修羅と呼ばれる者だ」と零士は静かに説明する。

「それは、どういうことですか? 零士さまはどこにいるのですか?」ウルは混乱しながらも情報を求める。

「この身は、俺でもある」と零士は哲学的に答えるが、その言葉はウルには理解しがたい。

「まさか……並行世界の融合ですか? 零士さまは直接この世界に来てはいないのですか?」ウルはさらに深く問う。

「どう覚えているか、それはわからない。しかし、確かに俺たちは一度は別々の存在だった」と零士は自らの存在を掘り下げる。

「どうして融合したのですか?」ウルの問いに、零士は淡々と答える。

「互いに遭遇し、意思に関係なく融合した。それが全てだ」と彼は言い、その表情には何ら感情が読み取れない。

「なぜ、今まで現れなかったのですか?」ウルはさらに詰め寄る。

「寝ていたんだ。それだけのこと」と零士はあっさりと述べる。

「融合した存在が眠るなどあり得るのですか?」ウルは疑問を投げかける。

「理由はわからない。ただ、もう一人の俺が何を考え、どう動いていたかは見ていたし、理解もしていた」と零士は認める。

「もしかして夢の中での出来事だったのでは?」ウルは推測する。

「理解が早いな」と零士は少しの驚きを隠せずに答える。

「元の零士さまはどうされていますか?」とウルは彼の安否を確認する。

「正直、よくわからない。多分、寝ているんだろう。俺と同じようにな」と零士は説明し、その言葉にはある種の空虚感が漂う。

「もう少し詳しく知りたいのですが、そうもいかなそうですね」とウルは再び迫るシャチたちに視線を向ける。

「そうだな。やるか……」と零士は再び刀に手をかける。彼は深く深呼吸をして、まるで久しぶりに外へ出た人が外界の空気を大きく吸い込むように、その空気を全身で感じ取る。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...