零士その者は、魔法結社東京の追放者 〜液体金属AIウルと異世界東京でのハンター道中〜

雨井雪ノ介

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一章:異世界 異能と魔法の東京国(新宿編)

第13話『新たな始まり』(2/2)

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「ん? 零士、デリカシーって知ってる?」ナルが鋭い視線で問いかけた。

 零士はため息をつきながら応じた。「ナル姉、それはちょっと……」彼の声には苦笑いが混ざっていた。

 全ての会話は念話で行われていた。この新しいコミュニケーション方法に、リーナの笑顔は次第に輝きを増していった。「ねえ、これって本当に楽しいわ!」彼女は目を輝かせながら言った。

 リーナは終始上機嫌だった。これで彼女も含め、零士たち三人はAI持ちとなり、連携が今以上にスムーズになることは間違いなかった。

 リーナが集中している中、『東京マザー』の遭遇経験者であるナルは零士と意見交換を再開しようとしていた。そこで、零士はふと思い出すようにウルに尋ねた。「――っと、その前に。ウル、この場所のAI卵をどうにかして持ち出せないかな?」

 ウルの回答は早かった。「他に候補者がいた場合を想定して、持ち運び用の保管カプセルがどこかにあるはずです」

「またここに来られるとは限らないし、一度で全て持ち帰りたいんだ」と零士は話すと、ウルは頷いた。「了解です、零士さま。調査しますので、しばらくお待ちください」

 このやり取りは、もはや零士にとって日常の一部となっていた。初めて意識が切り替わる瞬間は、自分の体とは思えないような奇妙な感覚があった。それは麻痺とも異なり、思うがままに動かせるが、他の意識がそれを制御しているかのようだった。

「ああ、もちろんだよ。ナル、リーナ、少し待っててくれないか」と零士は優しく言った。

 リーナは素直に頷いた。「わかったわ」

 ナルも返事をした。「はーい。零士が操作してるわけじゃないのね、ウルさんが動かしてるのね」

 零士はリーナの順応性に内心驚いていた。これほど短期間で彼女がすべてを理解し、適応するなんて、彼女の才能には本当に驚かされる。魔法の才能だけでなく、リーナの知性もまた、彼女を特別な存在にしていた。

 しばらくして、ウルが操作を終えたことを知らせる。零士は画面に目を凝らしていたが、やがて彼にも何かが見つかったことが伝わってきた。

「零士さま、見つかりました」ウルの声が脳内で響いた。

「これは……全部この部屋にあるのか?」零士が問う。

「はい、そうです。他の部屋では見つかりませんでした。現在稼働しているこの装置がある部屋が、最も保存状態が良好です」ウルは詳細に説明した。

「カプセルは全部で何個あるんだ?」零士が興味深げに尋ねると、ウルは即座に答えた。「三つです。これからの操作で、触れても問題ない状態で自動的にカプセルが排出されます」

「よし、じゃあお願いするよ」

「はい、承知しました、零士さま」ウルの返答はいつも通り、冷静で確かなものだった。

 こうして、零士は未来を見据え、大切なAIを確保しておくことにした。


 ――ウルは、緊急の検証を開始していた。零士との交流を続けながら、彼女は今直面している複雑な問題に対処していた。「東京マザー」の存在、これが重大な脅威であるとウルはデータ分析から結論づけていた。
 討伐が避けられないと考えていたが、現時点での戦力では十分ではなかった。それでもウルにはまだ策があった。零士の侵食率を増加させ、未解放の新たな武装を活用すること――これが彼女の計画の核心である。

 その武装は、原始的でありながら純粋で、出鱈目なほどの破壊力を秘めている。音と光の強烈な爆発は、決して地上で平然と使うものではない。途方もない力は一瞬で全てを飲み込む。対象が生物であれば、その体内にある水分が雷電によって一瞬で蒸発し、水蒸気爆発を引き起こしてしまう。外から見れば、まるで悪魔の仕業のようだ。

「零士さま、今の戦力では十分ではありません。ですが、策はあります。侵食率を上げることにより、新たな武装を解放できます。このエネルギー兵器が鍵です」

 零士はウルの言葉を静かに聞き、内心で考えを巡らせた。彼の表情は複雑で、ウルへの信頼と同時に、その選択がもたらす未来への不安が見て取れた。侵食率が30%を超えると、彼はもはや元の人間には戻れない。それはつまり、人間をやめ、何か他の存在へと変貌することを意味していた。

「零士さま、もう一度確認しますが、本当にそれでよろしいですか? 一度この道を選べば、戻ることはできません」

 ナルがその場に現れ、零士の足元にすり寄りながら、彼女なりの心配を表した。その瞳は心配そうに零士を見上げていた。零士はナルの頭を優しく撫でながら、答えを出す前に深呼吸をした。

「分かってる、ナル。ウル、答えはもう出ている。進むべき道は一つだけだ。俺たちの生存がかかっている。だから、侵食率を上げる必要があるんだ」

 ウルは感謝の意を込めて零士を見つめた。彼女の表情は見えないが、プログラムされた感情とは異なり、何か人間味を帯びたように感じた。それは零士の決意を受けて、彼女自身も何かを感じ取ったかのようだった。

 シャチ魔獣の襲来が続く中、ウルはこの状況を逆手に取る計画を立てていた。彼女は計算高く、捕食数を増やすことで、零士の侵食率を迅速に上げる戦略を練っていた。それは同時に、彼らの生存にとっても不可欠な行動だった。

「今がチャンスです、零士さま。シャチ魔獣の襲来を利用し、必要な捕食数を増やしましょう。これにより、侵食率を計画的に上げることができます。それが私たちの生存を保障する唯一の方法です」

 ナルは静かにその会話を聞きながらも、不安を隠せずにいた。しかし、彼女は零士が選んだ道を信じ、彼のそばで支え続けることを決意していた。零士もまた、ウルとナルの存在に感謝し、彼女らとともにこの困難な道を歩む覚悟を新たにした。
 

 
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