上 下
25 / 44
一章:異世界 異能と魔法の東京国(新宿編)

第10話『地属性最強種! 埼玉!』(2/8)

しおりを挟む
 零士は、瞬時に埼玉へ向けて掌底を繰り出した。彼の手は完全に対象の腹部にぶち当たり、そのまま動きが止まる。しかし、その時、ウルから予想外の警告が脳内に響いた。

「零士さま!  不利です!  ただの攻撃では意味がありません」

 零士はその情報を受けて急速に状況を把握。「完全独立か!  アレは!?」と、彼は恐るべき真実に気がついた。

「はい、魔法生物は際限なく攻撃を仕掛けてきます」とウルは落ち着いた声で答え、すでに次の戦略を練り始めていた。

 零士は無意識に歯を食いしばりながら、「地面と戦うなんて、どうすればいいんだ?」とウルに確認した。

「魔法生命そのものを断つのです。解析を開始します!」とウルは力強く宣言した。

「頼む!」零士はウルの分析が終わるまで、必死に回避を続けた。

 地面が水面のように波打ち、まるでサメのように動き回るその魔法生命を、零士はかろうじて避け続けた。避けることに夢中で、時折背後から尻尾で弾かれるなど、あと一歩で捕まりそうになる度に、緊張の糸が張り詰める。

 この魔法生命体の余裕と力の差には、ある種の皮肉を感じざるを得ない。群馬とは異なる、地属性最強を誇る埼玉の魔法には、海の無い場所で海を模倣した魔法を使うという皮肉が込められていた。

 思考加速に任せ、身体を動かし続ける零士は、相性の悪さと天敵との戦いに頭を悩ませた。ただ、避けることに集中する中で、彼の全身は泥だらけになり、転がり続けた。

 突然、ウルの声がまた聞こえてきた。「零士さま、蒸発が有効です!」という答えが、しかし彼には聞き取れなかった。「何だって?」と零士が問い返す。

「エネルギー生命体には、同質のエネルギーをぶつけて飲み込むのです」とウルは冷静に解説した。

「それって、相手に燃料を与えているのと同じじゃないか?」と零士は疑問を投げかけた。

「弱い場合はそうですが、こちらが強力なら話は変わります」とウルは説明し、「雷電を使えば、彼らを上回る力で打ち消すことができます」と続けた。

「以前にもその話をしたな」と零士は思い出しながら、心の奥で希望が湧き上がるのを感じた。「ただし、この手段は侵食率が高くなければ実行不可能です。そして、私の操作で一瞬だけ可能です。ただし、一度限りです」とウルは付け加えた。

 ただし一度だけなため「結構シビアだな」と零士は返す。

「その一度でも覚悟が必要です」と何かウルは意味深なことを言い出した。

「人であることを辞める必要があります。侵食率30%の時に使える装備です」とウルは遠慮がちに言った。

「不可逆……か」と零士は深く考え込んだが、この戦いにおいて彼の覚悟はすでに決まっていた。力を使えば、その力によって元に戻れない道を歩むこともある。だが、彼には選択の余地がなかった。

「おっしゃる通りです」とウルは静かに肯定した。



「どう変わるんだ?」零士は決断を迫られる中で、冷静さを保とうと努めていた。選択を先延ばしにするのではなく、今こそ決断して少しでも余裕を持たせたいと考えていた。

「生殖は可能です。姿形も人として変わりませんし、欲求も変わりません。しかし、肉体の本質に変化が生まれます」とウルは丁寧に説明した。

「もしかして、液体金属との融合ということか?」零士の眉がぴくりと動いた。不安と好奇心が交錯する中で確認を求める。

「かなり近いです。ただし、一瞬だけで終わります。今後侵食率が上がると変化が生まれます」とウルは語った。しかし、その言葉には全てが含まれていないような違和感があった。

「なるほどな。何か、言い忘れや言い間違いはないか?」零士はウルが何かを隠しているような気がしてならなかった。

「恐れ入りますが……イドが表面化する可能性も否めません」とウルは斜め上の回答をした。それは零士が期待していた答えとはかけ離れていた。

「おいおい、こんな時に精神の話か?」零士は少し面食らいながらも、ウルの言葉の真意を探ろうとした。

 零士でも知っている、超自我の正反対に位置する存在、イド。

「……零士さまの中に潜むイドは、他を圧倒する衝動が強いです」とウルが続ける。恐らく、攻撃本能が強すぎるのだろう。

「つまり、イドが自由を得た瞬間、ウルでも止められないということか?」零士は確認をした。

「そうならないようにしたいです。反対にイドが私を酷使する可能性もあります」とウルは言った。

「その時の俺はどうなるんだ?」零士は心配そうに尋ねると、「眠っています。深い眠りともまた違う眠りです」とウルは答えた。

「今ではないんだろう?」零士が現状を確認すると、「はい、今後の話です」とウルは断言した。

 零士は勝てる見込みがあればそれに賭けたいと考え、「なら、一瞬でもやろうぜ?今勝たなければ俺は殺される。命あっての物種さ」と生き残ることを最優先にした。

 零士の頬を伝う汗の滴は、いつの間にか赤く滲んでいた。ウルの準備が整うまで、零士は地面を這いつくばるようにして動いた。サメもただ遊んでいるだけでなく、獲物を確実に弱らせて絶望を与えようと襲い掛かる様子がありありとわかる。その知性と残忍な性格が透けて見えた。

 ウルの推察は間違いなかった。しかし、どこか微妙なずれがあった。エネルギー兵器がどのように機能するのかは依然として謎だった。

「待てよ? この場所にこだわらなければ……」と零士はふと思いついた。

「零士さま?」ウルは零士が新たに何かを思いついたことを察した。

「試したいことがある」と零士は言い、ウルに伝えると、「今……。聞こえてきました。試してみる価値ありそうですね」とウルも賛同した。

 零士は、迫るサメを背後にして、突然訓練場を後にし外へ向かった。超脳化で動いているため、零士が外へ飛び出したことは誰にもわからない。当然この時代にはアスファルトが敷いてあるわけでもなく、そのまま地続きでサメもついて来た。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

異世界あるある早く言いたい。

野谷 海
ファンタジー
ベースは主人公成長型の異世界転生ファンタジー。 の筈なのに、異世界で出会うダークマター製造機の王女、訳ありメイド、ケモ耳妹、ツンデレ騎士、ポンコツエルフ等のあるあるだけど魅力的なキャラクターと繰り広げるドタバタコメディが物語の進行を全力で邪魔してくる!そんな作者泣かせのキャラクター達を愛でるも良し、主人公の成長を応援するも良し、たまに訪れるバトルアクションに手に汗握るも良しの『愛情、努力、勝利』の王道異世界ファンタジー! ⭐︎モブ以外の登場キャラクターには一人ひとりAIイラストにてキャラクターデザインを施しています。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 AIイラストの為、登場人物の服装や見た目に差異有り。 ※本作品はフィクションであり登場する人物、団体等は全て架空です。

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...