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一章:異世界 異能と魔法の東京国(新宿編)

第1話 『異界の囁き』

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 「――誰だ? 何かしているのか……」と大学での講義中に眠り込んでいたが、誰かのいたずらを疑って呟いた。彼の意識はぼんやりとしており、まるで瞼の上に赤い光が差しているような感覚に襲われた。次第に、水蒸気が顔に押し付けられたような息苦しさを感じ、周囲の独特な臭いが彼の鼻をついた。

 突然、目がはっきりと開かれた黒須は、頬に伝わる冷たい感触と、土の上でうつ伏せになっている現実を認識した。「――ここは? なんだ?」彼は声を上げ、頭を上げて周囲を見渡した。何がなんだかわからない状態で混乱していたが、直前の記憶は講義中に机に突っ伏して寝ていたことだけだった。

 今はっきりしていることは、見知らぬ場所であることと、辺りは昼間なのかまだ日差しがあたりを照らす。
 見渡すと、切り開かれた森の一部のようで、草や木の根も無く土が剥き出しの場所に放り出されていた。このような時になんで立ちあがろうとするのか、今になってみればわからない。動物的な本能なのだろう。少しふらつきながらも立ちあがろうとする姿は、生まれたての子鹿のようにおぼつかない。

 彼が立ち上がり、改めて周囲を見渡すと、初めて目にするものがあった。地面には、直径二メートルほどの見たことの無い文字が円環に沿って描かれており、すべてが赤紫色に光り輝いていた。空中にも同様の円環が存在し、男は魔法陣の中心に立ち、四方八方から赤紫色の光に囲まれていた。見渡すと、見知らぬ者が十メートルほど先にいた。その者は、ローブについたフードを目深にかぶっているせいか表情が見えない。

「レメデヴェル」と謎の言葉を繰り返し発して、両手の平を胸の前で交互に握りしめ、祈るようにしていた。

 そのローブ姿の男は、何度も呪文のように呟いている間に煙のようになり、忽然と消え去った。一体何なのか、まるで何もわからない状態に黒須零士はさらに混乱した。今言えるのは、目の前で消えた者がこの意味のわからない状態について、何か説明ができるかもしれない唯一の手がかりだった。

 その後、男以外に誰もいなくなった場所では、赤紫色の魔法陣が力強く回転を続けており、次第に赤黒く変わっていく有様は気味が悪かった。どういう訳かこの魔法陣からでたいという気が起きなかった。
 魔法陣以外に唯一あるのは、足元に転がる銀色の卵だけだった。ニワトリの卵程度の大きさで、何の気なしに拾い上げると、人肌程度に温かかった。すると突然、殻が割れて中から液体のようなものが手のひらに広がり、その水銀のような物質は熱くも冷たくもなく、不思議と嫌な感じがしなかった。

 少し興味を持ち、観察をしようと顔を近づけた瞬間、突然アメーバーのように動き出し、その一部が突起状に飛び上がって彼の鼻から違和感なく入り込んだ。まるで感覚がない不思議な状況だった。

 突然の出来事に黒須零士は「うわっ! なんだ!」と声を大にして叫んだ。驚いて鼻を押さえたものの、すでに全ては鼻腔内に侵入された後だった。その途端、強い睡魔が彼を襲い、急に視界が暗転し、再びうつ伏せに倒れてしまった。

 しばらくしたのち、体温を奪う土の感触を頬で改めて感じた頃、魔法陣は消えており、脳裏から誰かの呼ぶ声が聞こえてきた。倒れている男の名前をなぜか呼ぶ声だった。どこからか「零士様……。起きてください。零士様……起きてください」と繰り返し囁くように、大人の女性の声が聞こえてきた。

 寝起きの寝ぼけた状態で零士は、「誰……だ」とやっとの思いで声をあげた。朗らかな笑みがまるで見えるように「はじめまして、零士様」と弾んだ声が脳裏に響いた。

 あまりにも非現実的な感じがし「……なんだ?」と思わず確認した。すると申し訳なさそうな声で「申しおくれました。私はAIのウル。液体金属のシリコン擬似生命体でございます」と声だけが脳裏に響き渡り、あたりには誰もいなかった。

 零士は混乱しつつも「AI? 擬似生命? ……なんのことだ?」と言い、立て続けにわけがわからない状態が彼を襲った。「お前は一体……」と呟き、これから起きる得体の知れない不安が身を包み込んだ。

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