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一章

第6話:絶望の夜明けと希望の代償(4/5)

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 レンはルナに向かって突然の疑問を投げかけた。

「なあ、ルナ。もし君が俺に憑依できたら、もっと強くなれるか?」

 ルナは一瞬驚いた顔をした後、首を横に振りながら答えた。「ええと、理論上は可能だけど、現実には難しいわ」

「それって、どうして?」レンは興味深そうに尋ねた。

「実はね、憑依するには肉体に魂が宿っている必要があるの。でも問題はそこじゃないのよ」

「問題って何?」レンの好奇心がさらに刺激された。

「憑依中は、私が完全に無防備になってしまうの。その状態で攻撃されたら、大変なことになるわ。だから、憑依する側も安全な場所にいないといけないのよ」

「なるほど、つまり安全な場所で、かつ憑依する側が安全な状態であることが条件になるわけか」

 ルナはレンの理解を認めつつも、懸念を示した。「そうなると、問題は別の世界の存在がこちらに来てしまう可能性があるってこと」

「憑依されたら、簡単には離れないのか?」レンの問いに、ルナは真剣な表情で答えた。

「離れることはできるわ。でも、憑依した側の力が強いと、彼らの意志でいつでも戻ってこれる。しかも、一度憑依するとその人には印がつくから、他の者は近づかないし、簡単にまた憑依されるのよ」

「一方的な関係だな……」レンは重く息を吐き出した。

「憑依召喚は基本的に、自分を犠牲にしてでも力を得たいと願う者にとっての最後の手段よ」ルナの言葉に、レンは深く考え込んだ。

「メリットは、一時的にでも驚異的な力を借りられることか……」

「ええ、でも本質的には、『贄の儀式』に近いわ」

「自身を生贄にして捧げ、代わりに力を得ると言うことか」

「その通りよ。当然生贄だから、最終的には食べられちゃうわ魂ごとね。そうなると体は完全に乗っ取られるわね」

「つまり最初から乗っ取りが前提?」

「そうよ。だから贄の儀式なのよこれは」

 レンはルナの説明を聞き、この恐ろしい真実に愕然とした。最悪の場合、憑依された者は意識を失い、制御不能な殺戮者になりかねない。そして、彼の心には翔子の安全が最優先事項として浮かんだ。

「翔子には使わせないように伝えなくちゃ……」

「うん、間に合うといいわね……」

 そう言って、レンは急いで村を駆け巡り、翔子を探し始めた。

 ―見張り台から、遠くを見つめる翔子の姿を見つけたレンは、彼女のもとへ急ぐ。彼女がまだ魔導書を使用していないことを願いながら。


「翔子さん!」

「レン君……」

 幸い、翔子の手には未使用の魔導書が残されていた。魔導書を使うと体内に入るという事実から、彼女がまだそれを開いていないことが明らかだった。

 レンは一安心し、翔子に近づき、真剣な表情で話し始めた。

「翔子さん、その魔導書は使わない方がいい。危険すぎるんだ。ルナから聞いたんだけど、憑依召喚は想像以上にリスクが高いんだ」

 翔子は驚いたようにレンを見つめ返し、少し考え込んだ後に静かに言った。「ありがとう、レン君。なんだか、使う前に不安でたまらなかったのよ。レン君から聞いて、やっぱり使わない方が良さそうね……」

「本当に良かった……」とレンは安堵の息をついた。「憑依召喚は、自分を犠牲にすることになるかもしれない。それに、一度憑依されると、他の存在が容易に憑依できないマークがつくんだって。リスクだらけなんだ」

 翔子は頷きながら、魔導書をじっと見つめた。「でも、この力があれば、もしかしたら……」彼女の声は途切れ、何かを思い悩むように沈黙した。

 レンは優しく彼女の手を握り、「力を求めるのはわかるけど、その代償が大きすぎるんだ。僕たちは別の方法を見つけよう。一緒にいる限り、乗り越えられないことはないから」

「うん、そうね。レン君がそう言うなら、信じるわ」と翔子は微笑み、手にした魔導書から目を逸らした。

 二人は見張り台から村を見下ろしながら、これからのことを話し合った。魔導書に頼らずとも、彼らには互いの絆がある。その力を信じて、困難に立ち向かう決意を新たにしたつもりだった……。

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