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奇跡に祝福をⅤ side海斗
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締め出しを食らい、部屋の外で待機しているが、心律様が西條家に輿入れしてから色々な事が起こる。それは良い事なのか、悪い事であるのか判断出来ないが、変化である事は間違えない。
「神社で一体何があったのだろうか?」
白虎に妙に懐かれていた心律様。その後、祝詞を上げてもらった後から、心律様の様子が確実に変わった。表情がなくなり、思わずと言った声が漏れる。一人で悩まれ、最後には話せるのは理玖様だけだと言い切っていた。今考えると、心律様は少し変わった方であると思う。あの小鳥遊家の血を引いていながら傲慢なところが全くない。確かに、隔離され、幽閉に近い状態で成長されはしたが、本来、血に刻まれた気性は早々に変わるものではない。あの小動物を思わせる仕草といい、本当にあの一族の者なのかと疑いたくなる。きっちり調べたので間違いはないのだが、榊家の気性ともまた違う。綺麗と言うより可愛らしい容姿だ。華族の一族は基本的に綺麗な身姿の者が多い。特に上位華族ともなれば顕著だ。理玖様や朔様を見ていれば分かるように、圧倒的な存在感を放っている。それはαだけに限ったことではない。Ωにしてもβにしても、一般の者と比べると能力の違いは如何ともし難い。綾乃様を見ていれば分かるだろう。下手なαよりも高い能力を持っておられる。
「やはり、何としてでも訊き出さなくては対処のしようもない」
心律様に自身を護るだけの力はない。聖獣である空が側には居るが心許ない。本来なら、八葉の者を近くに侍らせなければならないレベルである。理玖様にはそれとなく進言はしているが渋い顔をされる。心情は理解出来るが、それとこれとでは話は別である。心律様の安全は、言い換えるなら理玖様の心の安全に繋がる。更に蓮様の暴走を食い止める事でもある。最近は理玖様より蓮様が危険ではないかと危惧しているのだ。少しずつ知恵を付けられ、更に見聞きした事を忘れない恐ろしい頭脳。心律様に敵対している者は全て敵判定していると考えて間違えない。西條家と東條家の血をおそらく、理玖様以上に引いている。最悪だが、榊家の癖の強い部分も引かれているのではないだろうか。つまり、血筋の中で良い部分のみを継承し、手がつけられない状態ではないかと推測している。理玖様の話では、全ては神獣の欠片の采配。記憶を失ったのも、蓮様が生まれる切っ掛けとなったのも。そう、全ては天の采配である。
そこまで考えて、背筋がぞくりと冷えたような気がした。天の采配……。それがもし真実なら、大変な事態ではないか。今の国民の大多数が神を信じてはいない。架空の存在であると思い込んでいる。だが、そうではない。特にこの国は神々による結界で外界からのありとあらゆる攻撃を回避している。特に最近は、四神の二家が没落し、結界に注がれるべき力が削がれている。幾ら、規格外の理玖様と朔様であったとしても、四人には遠く及ばない。
「海斗」
ゆっくりと扉が開き、理玖様が顔を覗かせた。気のせいか少し疲れが見えるのは気のせいか。
「空斗を呼んできてくれ。二人に話すことがある」
理玖様のそう言うとまた室内に戻られた。兄まで呼ぶとは。何か不穏なことが起こってるのか。
兄を回収し(何故か、控えの間で呑気にお茶をしていた。朔様の心配はしないのか)、さっきの場所まで歩いて行く。兄は俺に質問して来たが、はっきり言おう。何一つ分かっていないのだ。
「一応、娘婿だろう?」
「まだ、結婚してませんが」
「いや、海斗、冷たくなってないか?」
「全く変わってませんが」
いや、変わってるんだろうな。何せ、神獣の欠片が視認出来るようになったのだ。今までの常識などぶっ飛ぶ現実を突き付けるられたのだ。そこの所を察してもらいたい。
「まあ、分からなくはないけどな、一応、家族なんだ。何かあるなら相談してくれて構わないんだからな」
兄の言葉に詰まる。別に避けているわけではない。それでも、一線引いてしまうのは仕方ないと思う。
「陸斗と宙斗も心配しているし、寂しがってるぞ」
確かに、星華様の仮の婚約者になってから自宅には帰っていない。星華様が俺がいないと不安がるらしい。仕事で少し離れると、愚図るらしい。心律様はあの通りの方なので、星華様を諭しているようだが。蓮様も一緒にあやしているらしい。確かに番が側にいると安定するらしいが、年齢差に未だに考えさせられている。最悪、親子と言われても文句は言えないのだから。
「うちで一番優秀だったからな。あの話は冗談だったらしいが、一時、真剣に話し合われたらしいぞ」
「あの話?」
「海斗が当主になるって話だ」
俺は目を見開いた。そんな話がされているなど知らなかった。それに兄も優秀だ。何故そんな話になる。
「気が付いてないのか? あの理玖様を平気で叱り付け、尚且つ、能力を認められている。西條家は特別な一族だからな。まあ、東條家も特別と言われればそうだが」
「理玖様は時々、暴走されるからな」
「その暴走を止められる時点で、優秀なんだよ」
兄の言葉に肩を竦めるしかない。理玖様は能力主義だ。もし、付いて行けなければ切り捨てられた。それ程にはっきりされた方だ。
「で、今回呼ばれた理由は?」
「分からない。心律様が頑なに理玖様と朔様にしか話せないと」
「何があった? 今日は七五三のお宮参りの筈だったよな?」
「ええ。蓮様と星華様。そして、心律様のお宮参りでした。そこで、心律様に何かがあったようで」
確かに心律様は白虎に熱烈歓迎されていた。大きさはさておき、完全に猫であった。あんなに擦り寄られて、本人は何かが纏わり付いている感覚しかないのだから。神獣は本当の意味で心律様を気に入ってるようだ。行った神社が白虎関連の神社であるので、他の神獣の神社であっても同じ現象が起こりそうだ。
理玖様達が居る部屋の扉の前に立ちノックをする。返事は直ぐに返って来た。静かに扉を開き、兄と共に室内に足を踏み入れる。其々の主人の背後に立とうとしたのだが、朔様が一人掛けの椅子に移動された。どういう事だ。
「二人共、椅子に座れ」
「ですが……」
「話があると言った。立ち話で済む話じゃない」
そう言い切った理玖様。心律様は神妙な表情だ。朔様は相変わらず、何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。あれは少し面白がってないか?
「朔様、楽しそうですね」
兄が苦笑いをしている。そうか、やはり楽しんでいるのか。
その後、話された話の内容はとんでもないものだった。いや、これ、皇家に話さなければならない内容ではなかろうか。それを一介の従者に話すのはいかがなものか。しかし、神が人の器に転生しているとは。しかも、俺もそうだと言われた時はどう考えればいい。しかも、三歳の時に接触を試みられたらしいが、その時には神獣の種が植え付けられていたと言われた俺はどうしたらいい。つまり、俺がこの地に誕生した時には南條家と北條家は入れ替わりが確定していたと言う事になる。
「今の話を踏まえて、四神の書庫を調べなければならなくなった」
「確かに、その、神と言うのが本人達の口から話す事に制約があると言うのなら仕方ないと思いますが」
「海斗は古語の解読は出来るよな?」
俺は半眼になる。確かに解読は可能だが、専門ではない。難しい言い回しは流石に理解出来ないと思う。つまり、これは理玖様の無茶振りか? 久々の無茶振りなのか。
「出来る範囲で努力しますが」
その笑みは無茶振りですね。新たな知識が手に入ると切り替えよう。はあ、溜め息を吐いても文句は言われないよな。
「神社で一体何があったのだろうか?」
白虎に妙に懐かれていた心律様。その後、祝詞を上げてもらった後から、心律様の様子が確実に変わった。表情がなくなり、思わずと言った声が漏れる。一人で悩まれ、最後には話せるのは理玖様だけだと言い切っていた。今考えると、心律様は少し変わった方であると思う。あの小鳥遊家の血を引いていながら傲慢なところが全くない。確かに、隔離され、幽閉に近い状態で成長されはしたが、本来、血に刻まれた気性は早々に変わるものではない。あの小動物を思わせる仕草といい、本当にあの一族の者なのかと疑いたくなる。きっちり調べたので間違いはないのだが、榊家の気性ともまた違う。綺麗と言うより可愛らしい容姿だ。華族の一族は基本的に綺麗な身姿の者が多い。特に上位華族ともなれば顕著だ。理玖様や朔様を見ていれば分かるように、圧倒的な存在感を放っている。それはαだけに限ったことではない。Ωにしてもβにしても、一般の者と比べると能力の違いは如何ともし難い。綾乃様を見ていれば分かるだろう。下手なαよりも高い能力を持っておられる。
「やはり、何としてでも訊き出さなくては対処のしようもない」
心律様に自身を護るだけの力はない。聖獣である空が側には居るが心許ない。本来なら、八葉の者を近くに侍らせなければならないレベルである。理玖様にはそれとなく進言はしているが渋い顔をされる。心情は理解出来るが、それとこれとでは話は別である。心律様の安全は、言い換えるなら理玖様の心の安全に繋がる。更に蓮様の暴走を食い止める事でもある。最近は理玖様より蓮様が危険ではないかと危惧しているのだ。少しずつ知恵を付けられ、更に見聞きした事を忘れない恐ろしい頭脳。心律様に敵対している者は全て敵判定していると考えて間違えない。西條家と東條家の血をおそらく、理玖様以上に引いている。最悪だが、榊家の癖の強い部分も引かれているのではないだろうか。つまり、血筋の中で良い部分のみを継承し、手がつけられない状態ではないかと推測している。理玖様の話では、全ては神獣の欠片の采配。記憶を失ったのも、蓮様が生まれる切っ掛けとなったのも。そう、全ては天の采配である。
そこまで考えて、背筋がぞくりと冷えたような気がした。天の采配……。それがもし真実なら、大変な事態ではないか。今の国民の大多数が神を信じてはいない。架空の存在であると思い込んでいる。だが、そうではない。特にこの国は神々による結界で外界からのありとあらゆる攻撃を回避している。特に最近は、四神の二家が没落し、結界に注がれるべき力が削がれている。幾ら、規格外の理玖様と朔様であったとしても、四人には遠く及ばない。
「海斗」
ゆっくりと扉が開き、理玖様が顔を覗かせた。気のせいか少し疲れが見えるのは気のせいか。
「空斗を呼んできてくれ。二人に話すことがある」
理玖様のそう言うとまた室内に戻られた。兄まで呼ぶとは。何か不穏なことが起こってるのか。
兄を回収し(何故か、控えの間で呑気にお茶をしていた。朔様の心配はしないのか)、さっきの場所まで歩いて行く。兄は俺に質問して来たが、はっきり言おう。何一つ分かっていないのだ。
「一応、娘婿だろう?」
「まだ、結婚してませんが」
「いや、海斗、冷たくなってないか?」
「全く変わってませんが」
いや、変わってるんだろうな。何せ、神獣の欠片が視認出来るようになったのだ。今までの常識などぶっ飛ぶ現実を突き付けるられたのだ。そこの所を察してもらいたい。
「まあ、分からなくはないけどな、一応、家族なんだ。何かあるなら相談してくれて構わないんだからな」
兄の言葉に詰まる。別に避けているわけではない。それでも、一線引いてしまうのは仕方ないと思う。
「陸斗と宙斗も心配しているし、寂しがってるぞ」
確かに、星華様の仮の婚約者になってから自宅には帰っていない。星華様が俺がいないと不安がるらしい。仕事で少し離れると、愚図るらしい。心律様はあの通りの方なので、星華様を諭しているようだが。蓮様も一緒にあやしているらしい。確かに番が側にいると安定するらしいが、年齢差に未だに考えさせられている。最悪、親子と言われても文句は言えないのだから。
「うちで一番優秀だったからな。あの話は冗談だったらしいが、一時、真剣に話し合われたらしいぞ」
「あの話?」
「海斗が当主になるって話だ」
俺は目を見開いた。そんな話がされているなど知らなかった。それに兄も優秀だ。何故そんな話になる。
「気が付いてないのか? あの理玖様を平気で叱り付け、尚且つ、能力を認められている。西條家は特別な一族だからな。まあ、東條家も特別と言われればそうだが」
「理玖様は時々、暴走されるからな」
「その暴走を止められる時点で、優秀なんだよ」
兄の言葉に肩を竦めるしかない。理玖様は能力主義だ。もし、付いて行けなければ切り捨てられた。それ程にはっきりされた方だ。
「で、今回呼ばれた理由は?」
「分からない。心律様が頑なに理玖様と朔様にしか話せないと」
「何があった? 今日は七五三のお宮参りの筈だったよな?」
「ええ。蓮様と星華様。そして、心律様のお宮参りでした。そこで、心律様に何かがあったようで」
確かに心律様は白虎に熱烈歓迎されていた。大きさはさておき、完全に猫であった。あんなに擦り寄られて、本人は何かが纏わり付いている感覚しかないのだから。神獣は本当の意味で心律様を気に入ってるようだ。行った神社が白虎関連の神社であるので、他の神獣の神社であっても同じ現象が起こりそうだ。
理玖様達が居る部屋の扉の前に立ちノックをする。返事は直ぐに返って来た。静かに扉を開き、兄と共に室内に足を踏み入れる。其々の主人の背後に立とうとしたのだが、朔様が一人掛けの椅子に移動された。どういう事だ。
「二人共、椅子に座れ」
「ですが……」
「話があると言った。立ち話で済む話じゃない」
そう言い切った理玖様。心律様は神妙な表情だ。朔様は相変わらず、何を考えているのか分からない笑みを浮かべている。あれは少し面白がってないか?
「朔様、楽しそうですね」
兄が苦笑いをしている。そうか、やはり楽しんでいるのか。
その後、話された話の内容はとんでもないものだった。いや、これ、皇家に話さなければならない内容ではなかろうか。それを一介の従者に話すのはいかがなものか。しかし、神が人の器に転生しているとは。しかも、俺もそうだと言われた時はどう考えればいい。しかも、三歳の時に接触を試みられたらしいが、その時には神獣の種が植え付けられていたと言われた俺はどうしたらいい。つまり、俺がこの地に誕生した時には南條家と北條家は入れ替わりが確定していたと言う事になる。
「今の話を踏まえて、四神の書庫を調べなければならなくなった」
「確かに、その、神と言うのが本人達の口から話す事に制約があると言うのなら仕方ないと思いますが」
「海斗は古語の解読は出来るよな?」
俺は半眼になる。確かに解読は可能だが、専門ではない。難しい言い回しは流石に理解出来ないと思う。つまり、これは理玖様の無茶振りか? 久々の無茶振りなのか。
「出来る範囲で努力しますが」
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