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奇跡に祝福をⅤ side理玖
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蓮の七五三の儀式と、星華のお宮参りの儀式、心律の儀式を終え、無事終了し自宅に戻って来た。何故か心律のみが途轍もなく疲れているのだが、何があったのかは俺にしか話せないと頑なに言い続けている。そして、俺にのみ耳打ちして来た言葉に少しばかり驚いた。朔にも話さなければいけないらしい。だが、海斗は駄目だと。その基準は何なのか。
蓮と星華は俺の両親と二組の祖父母と共に買い物に出掛けた。本当なら俺達も行くのだが、今回は心律が疲れているからと上手い事言いくるめて自宅に残り、海斗に朔を呼びに行かせた。
「それで、如何して俺だけ呼ばれたの?」
朔は呼びに行ってすぐに来てくれたのだが、呼んだのは俺ではない。どうやら、急ぎの用事は無かったようだ。それに望んだのは心律だ。俺では無い。
「ご、ごめんなさい。その、理玖さんと朔さんだけ話す許可が出たので」
さっきもそんな事言っていたが。許可とは誰からの許可なんだ。
「それで、海斗さんは許可を貰ってないので……」
心律は申し訳なさそうに海斗に告げた。海斗と言えば、不満顔である。しかし、心律は弱いようでそうではない。申し訳なく思っていても、しっかり意思表示した。
「海斗、離れてもらえるか? 話が進まない」
海斗は俺から極力離れたくないんだと思う。躊躇ってるのは良く分かるんだが。そんな事をしていれば、足元にいた空が俺の肩に乗り上げて来た。如何やら、海斗の代わりは任せろ、と言いたいらしい。
「はあ、分かりました。扉の外で待機しています。何かあればお呼び下さい」
「分かっている」
「お茶を入れていきますので」
俺達を椅子に座らせて海斗はお茶を淹れると退出した。心律は何を話したいのか、俺は全く想像も出来ない。
「心律、何があった?」
「理玖さんと朔さんは、皇家と四神が神と神獣の欠片を背負える理由を知っていますか?」
俺と朔は顔を見合わせた。単に血筋なのではないかと考えているが。後はαである事が絶対条件。βやΩで神獣を宿した者は存在していないからだ。
「バース性と血筋だろう?」
「実は……」
心律は祝詞を上げてもらった後、聞こえて来た内容を話してくれた。その内容に俺と朔は目を見開いた。心律が特殊であるのは知っていたが。
「本当なら理玖さんと朔さんにも接触して、話す予定だったみたいなんだけど」
まさかの理由が神獣の欠片を二体背負っているから。それを言ったら、嫌、海斗は星華関係で宿したようなものだ。
「あ、海斗さんは生まれた時点で神獣の欠片の種を持っていたみたいです」
「「はあ?!」」
「海斗さんにも話すべきなんでしょうけど、その、天上の御両親が拗ねてらして、話さないで欲しいって」
いや、待て。心律が天上の神の器なのは分かった。まさか俺と朔もそうだとは。更に、海斗まで……。
「あれ? 皇太子様の事は如何言っていたの?」
朔が疑問を口にする。確かに、今代の皇太子様は強い力を持っている。器となった確率が高いのではないか。
「皇太子様の話は出ませんでした」
「うーん。心律君はあれだね。巫女としての才能があるんだと思うね」
朔の言葉に頷くしかない。心律は本当に自覚がない。
「それを言ったら蓮と星華もじゃないのか?」
蓮は規格外だ。星華はまだ、Ωとしての能力が高いで説明出来るが、蓮は確実におかしい。
「蓮と星華は僕と理玖さんの子供だそうです。孫って、喜んでました」
は? 待て、それはそれで問題じゃないか。既に両親と二組の祖父母が五月蝿いんだぞ。更に天上の神とか、願い下げなんだが。頭の痛い問題に顳顬に血管が浮かんでる気がするぞ。
「理玖は大変だな」
「偲は構われてないのか?!」
「爺様婆様はまあ、時々来るけど、理玖んとこみたいに押しかけては来ないな」
朔の言葉に俺は両手握り締め打ち震えた。つまりだ。朔は親子水入らずが出来てるんだな。
「まあ、心律君と言う、稀有な存在を番にしたんだ。諦めろ」
「お前にこの苦悩が分かるか!」
「分かるわけないだろう」
朔は俺の苦労が分かっていない! 毎回毎回、俺は家族水入らずを体験出来ていないんだぞ! 自分の番と子供達に色々と、そう、色々手を掛けたいんだ。それが阻まれているんだぞ!
「まあ、そこは頑張れ。それにそのうち、蓮が自分で祖父母と曽祖父母を撃退するんじゃないか。あの子、理玖そっくりだぞ。まだ、意思疎通がうまく出来てないんだろうが、下手な大人よりおっかないだろう? 両親が困ってたら、裏で手を回す知恵をつけ始めるぞ。気を付けるんだな」
何を恐ろしい事言ってんだ。心律が吃驚してるだろうが?! 俺が何も言えずにいると、朔が肩を竦めた。
「おいおい。理玖が西條家と東條家の血を濃く受け継いでるって事はだ、蓮も同じだろう。しかも、それに心律君の稀有な血も引いてるんだぞ。榊家も曲者だし。やばさで言ったら理玖より上行くだろう」
「……榊家」
「主治医だろう。だが、あそこは華族ではあるが四神と同じ実力主義。心律君の父君は医者としての能力は榊家一だった筈だ。蓮は確実にそっちの血も引いてるぞ。心律君の話を信じるならだ。母親が天上で父親を待ってるって事は、母親と父親も器であったと言う事だ。つまり、蓮は心律君の両親。そして、お前達両親共に器であると言う事実になる。そこまで考えれば分からないか? 皇家と同等かそれ以上の存在だと言う事実だ」
否、待てよ。自分が器である自覚はないが、確かに心律は言っていたな。母親が父親を天上で待っている。上から見守っていると。つまり、蓮のあのとんでもない能力は二代続けて神の器となる体から作り出された。え? それはそれでやばくないか。
「やっと気が付いたか。俺にしてみれば理玖も相当やばい部類だ。何考えてるか全く分からん時あるし。そこにきて、蓮の規格外の能力だ。偲が普通に見えて驚くね。両親にしてみれば偲も能力が高いらしいが、蓮とは比べものにならない」
朔の言葉に俺は考える。この国の成り立ちがどんなものであったかだ。共々島国の小国だ。周りを海に囲まれ、外界からの接触は航海が盛んに行われるようになってからだ。小さい国故に独特の文化が根付いていた。その最たるものが国に張り巡らされている結界だ。この結界のおかげで、諸外国とのいざこざに巻き込まれることもなければ、自然災害からも守られている。ある程度の天候不順などは仕方がないとは言え、諸外国に比べると生活しやすい環境だろう。そこを狙われたりした過去はあるようだが、結界が悪意あるモノを感知し、跳ね返していたようだ。
「朔、主上は知っておられると思うか?」
「如何だろうね。心律君の話を信じるとして、この国と言うより、この土地そのものを守る為に神々が手を打っていたって事でしょ? 考えたくないけど……」
「この地に何か眠っている、か?」
「だと思うね。態々、神々がいまだに手を貸してくれて結界が保たれている。つまり、ここに生活している俺達込みで何かを封じてるんだろうね。まあ、結界が弱い時、よくない噂が流れる事があるから」
確かに俺と朔と海斗が豊穣の結界を強化した後、見た感じは安定しているように思うが。
「心律、他に何か言われたか?」
俺の問いに、心律は首を横に振った。
「えっと、本当に世間話みたいな感じで」
心律が言うには、四神の中で資格をなくした二家には前々ら苦言が寄せられていたようだ。何故、さっさと手を打たないのか。その皺寄せがつまり、俺達にのしかかったと。
「つまり、この国は今上帝が統治しているのではなく、実質、神々によって管理されている、と言う認識で間違いないみたいだね」
「そう考えると、ここだけの話にするのは非常に拙い」
とは言え、心律は許可が出たのは俺と朔だけだと言っていた。このまま普通に報告するのは拙いな。考えようで、何かしらの文献に残っていないのか。
「はあ、今まで面倒で手を付けていなかった文書庫を調べるべきか」
「ああ、やっぱりそうなるの。心律君が理玖の元に来てから、調べるべきかな、とは思ってたけどね」
流石に朔だな。だが、四神の文書庫と帝に許可を願い出て、皇家が管理する文書庫も調べなくてはならない。問題は調べるべき部分が書かれているのが古語である事か。ある程度なら習得しているが、あの、達筆な文字を読み解くのか。
「あの文字、読みたくないんだよね」
「同感だ。今なら文字だと認識出来るが、最初見た時、これは文字かと疑いたくなったからな」
俺と朔はうんざりした表情をする。当然、心律は心配気にオロオロとしている。と言うか、本来なら歴代の当主がするべき問題だった筈だ。南條家は分かるだけで二回目の入れ替え。北條家も認識していないだけで、入れ替えがあったかもしれない。では東條家と西條家は如何であったのか。俺が認識している中に入替はなされてないが。
「皇家だけが特殊な血筋だと思っていたが」
「心律君の話だと、四神と八葉の華族は下手したら神々を祖に持ってる可能性が出てきたね」
「そうだな。心律の話だけで、親父達には話せはない。だから、調べるしかない。神々と接触する手がない以上。手元にある資料で探るしかない」
「勝手に話して、心律君に責が行くのは望んでないからね」
心律は俺と朔の話にオロオロしているな。絶対変な方向に思考が働いていそうだ。後でそれとなく訊き出さなくてはいけないな。放っておくと陸な事にならない。
「古文書関係の専門家はいるよな?」
「いるけど、あの人達が眼にする古文書は皇家と四神が所蔵する物は眼にしてないんじゃないかな。基本、機密扱いだしね」
「ああ……。自力でなんとかしないと駄目なのか」
「一般の人に見せてはいけない事実も織り込んでると思うからね。例えば、心律君が伝えて来た神様関係とか」
本当に、過去の当主達は何をしていたんだ。頭が痛いぞ。
「あ……。そうなると海斗にも話さないと駄目なんじゃないの。理玖と俺だけでは手に余る」
「それを言ったら空斗にも話す必要があるだろう?」
「あ……。悩ましい問題だね」
「あ、あの、僕、お咎め受けます!」
心律がいきなりそう叫んだ。いや、神のお咎めは怖そうだ。心律にそんな思いはさせたくないのだが。
「咎めを受けるなら俺が受ける。心律は気にする必要はない」
「でも、話を聞いたのは僕なので」
心律は何故かモジモジしてるな。まあ、最初の頃に比べれば、後ろ向きじゃないだけマシなんだが。
「心律は心配しなくて良い」
「で、でも」
心律の心情は分からないでもないが、やっと穏やかに暮らせるようになったんだ。小鳥遊の所業を調べた時の憤りは今でもしっかり覚えてる。
『ふふ。悩んでるわね』
いきなり聞こえて来た声に、三人で顔を見合わせた。この声、どこから聞こえてくるんだ?
『この子、便利ね。まあ、色々弄られてるけれど』
『確かにな。こんな手があるとは、流石に主神様だ』
「え? え?」
『ふふ。咎めたりしないわよ。そうそう、あの子の両親に聞いて来たわ。話して良いそうよ』
『それと、空斗? だったか? 其方の従者だな。そちらにも話して良いぞ』
『でも、真実は教えられないわ。だから、頑張って調べてね』
そこまで言って丸投げなのか?
『だってね。書物を調べた方が柵がないわよ。地上にある資料なのだもの。私達の言葉では制限が出てしまうわ』
空、お前の力は何なんだ。神を降ろせるとか聞いてないぞ。それとも、これも心律の力の一端なのか。
『今代は結構な数の神の子がそちらに渡ったからな』
「え?」
その言葉の意味するところは?
『刷新しなくてはならない。この地は護られなくてはならない。他国の侵略は防がねばならん』
『この地は凶ですものね』
凶とは何だ。
『一般人の信仰は如何にもならないわ。だから、皇族と華族を神の眷属で固めなくてはならない』
『全てはこの世界の為だ』
え? 話しが大きくなってないか。俺は朔に視線を向ける。朔も深刻な表情をしている。今の話を纏めると、つまり、今代、俺と朔と同じ時代の華族には多くの神の魂を宿した者達が多くいる。
「皇太子様も、なのか?」
『ふふふ。彼は強い力を宿しているものね』
『精々、調べるのだな。人々が忘れ去ったモノが何であるのか』
その言葉を最後に空気が変わった。声が聞こえなくなって初めて気が付いた。相当、空気が張り詰めていたらしい。
「はあ。婚姻の儀はいつ出来るんだ……」
「それだよね。早くした方が良いとは思うけどね」
心律が西條家にとって至高であると知らしめなければならないと言うのに。如何してこう、次々と難題がのし掛かるんだ。
「まあ、国どころか世界規模に発展してるし。仕方ないかもしれないね」
朔、自分が終わってるからと気楽に言い過ぎだろう。俺は婚礼の儀で心律の守りを強くしたいんだ。それを知らない筈はない。朔を睨み付けると肩を竦めて来た。本当に溜め息しか出ない。
蓮と星華は俺の両親と二組の祖父母と共に買い物に出掛けた。本当なら俺達も行くのだが、今回は心律が疲れているからと上手い事言いくるめて自宅に残り、海斗に朔を呼びに行かせた。
「それで、如何して俺だけ呼ばれたの?」
朔は呼びに行ってすぐに来てくれたのだが、呼んだのは俺ではない。どうやら、急ぎの用事は無かったようだ。それに望んだのは心律だ。俺では無い。
「ご、ごめんなさい。その、理玖さんと朔さんだけ話す許可が出たので」
さっきもそんな事言っていたが。許可とは誰からの許可なんだ。
「それで、海斗さんは許可を貰ってないので……」
心律は申し訳なさそうに海斗に告げた。海斗と言えば、不満顔である。しかし、心律は弱いようでそうではない。申し訳なく思っていても、しっかり意思表示した。
「海斗、離れてもらえるか? 話が進まない」
海斗は俺から極力離れたくないんだと思う。躊躇ってるのは良く分かるんだが。そんな事をしていれば、足元にいた空が俺の肩に乗り上げて来た。如何やら、海斗の代わりは任せろ、と言いたいらしい。
「はあ、分かりました。扉の外で待機しています。何かあればお呼び下さい」
「分かっている」
「お茶を入れていきますので」
俺達を椅子に座らせて海斗はお茶を淹れると退出した。心律は何を話したいのか、俺は全く想像も出来ない。
「心律、何があった?」
「理玖さんと朔さんは、皇家と四神が神と神獣の欠片を背負える理由を知っていますか?」
俺と朔は顔を見合わせた。単に血筋なのではないかと考えているが。後はαである事が絶対条件。βやΩで神獣を宿した者は存在していないからだ。
「バース性と血筋だろう?」
「実は……」
心律は祝詞を上げてもらった後、聞こえて来た内容を話してくれた。その内容に俺と朔は目を見開いた。心律が特殊であるのは知っていたが。
「本当なら理玖さんと朔さんにも接触して、話す予定だったみたいなんだけど」
まさかの理由が神獣の欠片を二体背負っているから。それを言ったら、嫌、海斗は星華関係で宿したようなものだ。
「あ、海斗さんは生まれた時点で神獣の欠片の種を持っていたみたいです」
「「はあ?!」」
「海斗さんにも話すべきなんでしょうけど、その、天上の御両親が拗ねてらして、話さないで欲しいって」
いや、待て。心律が天上の神の器なのは分かった。まさか俺と朔もそうだとは。更に、海斗まで……。
「あれ? 皇太子様の事は如何言っていたの?」
朔が疑問を口にする。確かに、今代の皇太子様は強い力を持っている。器となった確率が高いのではないか。
「皇太子様の話は出ませんでした」
「うーん。心律君はあれだね。巫女としての才能があるんだと思うね」
朔の言葉に頷くしかない。心律は本当に自覚がない。
「それを言ったら蓮と星華もじゃないのか?」
蓮は規格外だ。星華はまだ、Ωとしての能力が高いで説明出来るが、蓮は確実におかしい。
「蓮と星華は僕と理玖さんの子供だそうです。孫って、喜んでました」
は? 待て、それはそれで問題じゃないか。既に両親と二組の祖父母が五月蝿いんだぞ。更に天上の神とか、願い下げなんだが。頭の痛い問題に顳顬に血管が浮かんでる気がするぞ。
「理玖は大変だな」
「偲は構われてないのか?!」
「爺様婆様はまあ、時々来るけど、理玖んとこみたいに押しかけては来ないな」
朔の言葉に俺は両手握り締め打ち震えた。つまりだ。朔は親子水入らずが出来てるんだな。
「まあ、心律君と言う、稀有な存在を番にしたんだ。諦めろ」
「お前にこの苦悩が分かるか!」
「分かるわけないだろう」
朔は俺の苦労が分かっていない! 毎回毎回、俺は家族水入らずを体験出来ていないんだぞ! 自分の番と子供達に色々と、そう、色々手を掛けたいんだ。それが阻まれているんだぞ!
「まあ、そこは頑張れ。それにそのうち、蓮が自分で祖父母と曽祖父母を撃退するんじゃないか。あの子、理玖そっくりだぞ。まだ、意思疎通がうまく出来てないんだろうが、下手な大人よりおっかないだろう? 両親が困ってたら、裏で手を回す知恵をつけ始めるぞ。気を付けるんだな」
何を恐ろしい事言ってんだ。心律が吃驚してるだろうが?! 俺が何も言えずにいると、朔が肩を竦めた。
「おいおい。理玖が西條家と東條家の血を濃く受け継いでるって事はだ、蓮も同じだろう。しかも、それに心律君の稀有な血も引いてるんだぞ。榊家も曲者だし。やばさで言ったら理玖より上行くだろう」
「……榊家」
「主治医だろう。だが、あそこは華族ではあるが四神と同じ実力主義。心律君の父君は医者としての能力は榊家一だった筈だ。蓮は確実にそっちの血も引いてるぞ。心律君の話を信じるならだ。母親が天上で父親を待ってるって事は、母親と父親も器であったと言う事だ。つまり、蓮は心律君の両親。そして、お前達両親共に器であると言う事実になる。そこまで考えれば分からないか? 皇家と同等かそれ以上の存在だと言う事実だ」
否、待てよ。自分が器である自覚はないが、確かに心律は言っていたな。母親が父親を天上で待っている。上から見守っていると。つまり、蓮のあのとんでもない能力は二代続けて神の器となる体から作り出された。え? それはそれでやばくないか。
「やっと気が付いたか。俺にしてみれば理玖も相当やばい部類だ。何考えてるか全く分からん時あるし。そこにきて、蓮の規格外の能力だ。偲が普通に見えて驚くね。両親にしてみれば偲も能力が高いらしいが、蓮とは比べものにならない」
朔の言葉に俺は考える。この国の成り立ちがどんなものであったかだ。共々島国の小国だ。周りを海に囲まれ、外界からの接触は航海が盛んに行われるようになってからだ。小さい国故に独特の文化が根付いていた。その最たるものが国に張り巡らされている結界だ。この結界のおかげで、諸外国とのいざこざに巻き込まれることもなければ、自然災害からも守られている。ある程度の天候不順などは仕方がないとは言え、諸外国に比べると生活しやすい環境だろう。そこを狙われたりした過去はあるようだが、結界が悪意あるモノを感知し、跳ね返していたようだ。
「朔、主上は知っておられると思うか?」
「如何だろうね。心律君の話を信じるとして、この国と言うより、この土地そのものを守る為に神々が手を打っていたって事でしょ? 考えたくないけど……」
「この地に何か眠っている、か?」
「だと思うね。態々、神々がいまだに手を貸してくれて結界が保たれている。つまり、ここに生活している俺達込みで何かを封じてるんだろうね。まあ、結界が弱い時、よくない噂が流れる事があるから」
確かに俺と朔と海斗が豊穣の結界を強化した後、見た感じは安定しているように思うが。
「心律、他に何か言われたか?」
俺の問いに、心律は首を横に振った。
「えっと、本当に世間話みたいな感じで」
心律が言うには、四神の中で資格をなくした二家には前々ら苦言が寄せられていたようだ。何故、さっさと手を打たないのか。その皺寄せがつまり、俺達にのしかかったと。
「つまり、この国は今上帝が統治しているのではなく、実質、神々によって管理されている、と言う認識で間違いないみたいだね」
「そう考えると、ここだけの話にするのは非常に拙い」
とは言え、心律は許可が出たのは俺と朔だけだと言っていた。このまま普通に報告するのは拙いな。考えようで、何かしらの文献に残っていないのか。
「はあ、今まで面倒で手を付けていなかった文書庫を調べるべきか」
「ああ、やっぱりそうなるの。心律君が理玖の元に来てから、調べるべきかな、とは思ってたけどね」
流石に朔だな。だが、四神の文書庫と帝に許可を願い出て、皇家が管理する文書庫も調べなくてはならない。問題は調べるべき部分が書かれているのが古語である事か。ある程度なら習得しているが、あの、達筆な文字を読み解くのか。
「あの文字、読みたくないんだよね」
「同感だ。今なら文字だと認識出来るが、最初見た時、これは文字かと疑いたくなったからな」
俺と朔はうんざりした表情をする。当然、心律は心配気にオロオロとしている。と言うか、本来なら歴代の当主がするべき問題だった筈だ。南條家は分かるだけで二回目の入れ替え。北條家も認識していないだけで、入れ替えがあったかもしれない。では東條家と西條家は如何であったのか。俺が認識している中に入替はなされてないが。
「皇家だけが特殊な血筋だと思っていたが」
「心律君の話だと、四神と八葉の華族は下手したら神々を祖に持ってる可能性が出てきたね」
「そうだな。心律の話だけで、親父達には話せはない。だから、調べるしかない。神々と接触する手がない以上。手元にある資料で探るしかない」
「勝手に話して、心律君に責が行くのは望んでないからね」
心律は俺と朔の話にオロオロしているな。絶対変な方向に思考が働いていそうだ。後でそれとなく訊き出さなくてはいけないな。放っておくと陸な事にならない。
「古文書関係の専門家はいるよな?」
「いるけど、あの人達が眼にする古文書は皇家と四神が所蔵する物は眼にしてないんじゃないかな。基本、機密扱いだしね」
「ああ……。自力でなんとかしないと駄目なのか」
「一般の人に見せてはいけない事実も織り込んでると思うからね。例えば、心律君が伝えて来た神様関係とか」
本当に、過去の当主達は何をしていたんだ。頭が痛いぞ。
「あ……。そうなると海斗にも話さないと駄目なんじゃないの。理玖と俺だけでは手に余る」
「それを言ったら空斗にも話す必要があるだろう?」
「あ……。悩ましい問題だね」
「あ、あの、僕、お咎め受けます!」
心律がいきなりそう叫んだ。いや、神のお咎めは怖そうだ。心律にそんな思いはさせたくないのだが。
「咎めを受けるなら俺が受ける。心律は気にする必要はない」
「でも、話を聞いたのは僕なので」
心律は何故かモジモジしてるな。まあ、最初の頃に比べれば、後ろ向きじゃないだけマシなんだが。
「心律は心配しなくて良い」
「で、でも」
心律の心情は分からないでもないが、やっと穏やかに暮らせるようになったんだ。小鳥遊の所業を調べた時の憤りは今でもしっかり覚えてる。
『ふふ。悩んでるわね』
いきなり聞こえて来た声に、三人で顔を見合わせた。この声、どこから聞こえてくるんだ?
『この子、便利ね。まあ、色々弄られてるけれど』
『確かにな。こんな手があるとは、流石に主神様だ』
「え? え?」
『ふふ。咎めたりしないわよ。そうそう、あの子の両親に聞いて来たわ。話して良いそうよ』
『それと、空斗? だったか? 其方の従者だな。そちらにも話して良いぞ』
『でも、真実は教えられないわ。だから、頑張って調べてね』
そこまで言って丸投げなのか?
『だってね。書物を調べた方が柵がないわよ。地上にある資料なのだもの。私達の言葉では制限が出てしまうわ』
空、お前の力は何なんだ。神を降ろせるとか聞いてないぞ。それとも、これも心律の力の一端なのか。
『今代は結構な数の神の子がそちらに渡ったからな』
「え?」
その言葉の意味するところは?
『刷新しなくてはならない。この地は護られなくてはならない。他国の侵略は防がねばならん』
『この地は凶ですものね』
凶とは何だ。
『一般人の信仰は如何にもならないわ。だから、皇族と華族を神の眷属で固めなくてはならない』
『全てはこの世界の為だ』
え? 話しが大きくなってないか。俺は朔に視線を向ける。朔も深刻な表情をしている。今の話を纏めると、つまり、今代、俺と朔と同じ時代の華族には多くの神の魂を宿した者達が多くいる。
「皇太子様も、なのか?」
『ふふふ。彼は強い力を宿しているものね』
『精々、調べるのだな。人々が忘れ去ったモノが何であるのか』
その言葉を最後に空気が変わった。声が聞こえなくなって初めて気が付いた。相当、空気が張り詰めていたらしい。
「はあ。婚姻の儀はいつ出来るんだ……」
「それだよね。早くした方が良いとは思うけどね」
心律が西條家にとって至高であると知らしめなければならないと言うのに。如何してこう、次々と難題がのし掛かるんだ。
「まあ、国どころか世界規模に発展してるし。仕方ないかもしれないね」
朔、自分が終わってるからと気楽に言い過ぎだろう。俺は婚礼の儀で心律の守りを強くしたいんだ。それを知らない筈はない。朔を睨み付けると肩を竦めて来た。本当に溜め息しか出ない。
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