奇跡に祝福を

善奈美

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奇跡に祝福をⅤ side心律

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 蓮は三歳の誕生日を迎えました。勿論、西條家で盛大にお祝いしてくれました。昔ならパーティを開いて主要な華族を招待し盛大に祝ったそうですが、今はしないと言う話です。基本、三歳と五歳と七歳は神社で祈りを捧げて、尊い命に今まで育ってくれてありがとう。神様、どうか、見守って下さいと、どうか、奪わずいて下さい、と頼むんだとか。七歳までは神の子と認識される幼子。そう教えてくれたのはお義母さんなんだけど。でも、僕って、そもそも、神社に連れてって貰えてないと思うんだ。今は亡きお母さんはひっそりと祝ってくれてたとは思うんだけど。
 
「お宮参り?」
「そうだ。俺も勿論、西條家所縁の神社で祝詞をあげてもらっている」
 
 僕は首を傾げた。本来なら蓮と星華の誕生時も行う筈であったとか。でも、蓮の時は僕の体調が思わしくなかったのと、星華の時は、周りのゴタゴタでそれどころではなかったから。ただ、お食い初めはしました。一生食べ物に困らず、丈夫な歯を得られます様にって事らしいけど。
 
「神に報告はしないといけないが、心律の体調が優先だからな」
「そうだったんですね。僕、その辺りの作法とかはからっきしなので。まず、僕自身が神様に報告されてないと思います」
 
 僕はそう言った後、はっ、となった。神様に認識されてなかったのかと。
 
「変なこと考えてそうだが、少なくとも、新年の神事の奉納でしっかり認識されてたからな。俺が嫉妬する程、しっかり受け入れられていたからな。勘違いするな」
 
 え、え?! 僕顔に出てた?! 両の手を頬に持っていってモミモミしてみる。そんなに顔に出たら、ダメなんじゃないかと思う。色んな意味で。
 
「お宮参りは基本、男児が生後三十一日から三十二日。女児が三十二日から三十三日で行われるんだよ。お食い初めは百日ね」
 
 お義母さんが続けてくれた。七五三は健やかに育ちました、そう報告するらしいんだけど。三歳になった蓮は髪を伸ばし始めます、って報告するんだとか。色々、仕来りがあるんだなってちょっと不思議。ちなみに五歳は男の子のみで「袴着の儀式」をするんだって。一般家庭の子はそこまで細かくはしてなくて、普通に神様に報告する為にお宮参りするらしい。四神では儀式は大切にされてて、三歳で「髪置きの儀」、五歳で「袴着の儀」、七歳で「帯解きの儀」の儀式をしっかり行うんだって。ちなみに七歳は女の子だよ。なので、三歳になった蓮を神様に見てもらう為にしっかり着替えをしてもらってます。そして、僕も理玖さんも同様に着せ替え人形してます。この衣装、どうしたんだろうって不思議で。よくよく話を聞いたら、如何も、伝統の着物らしくて。確かに柄とか、古風な感じだけど。
 
「蒴は偲が生まれてひと月程してからお宮参りをしたらしいからな。星華は一歳になってしまったが、今から行っても文句は言われないだろう」
「そうだね」
 
 お義母さんは嬉しそうだな。お義父さんは仕事で泣く泣くこの場にいないらしいんだけど。何故か、西條の御隠居様達と、東條の御隠居様達が来てるんだけど。
 
「で、何で、自宅に爺様と婆様が来てるんだ?」
 
 理玖さんの剣呑な気配すら何のその。四人は本当に嬉しそうなんだよね。星華も綺麗に着飾って、海斗さんに抱かれてる。これも実は理玖さんには面白くないみたいで。勿論、海斗さんも正装済み。西條家の伝統の羽織袴だよ。凄く恐縮しながら着付けられてたみたい。でもね、星華は海斗さんに抱かれてるだけでご機嫌なんだよね。特に今みたいに騒がしいとぐずったりするから、海斗さんのお陰で助かってるんだよ。それでも理玖さんは面白くないんだって。
 
「はあ、取り敢えず、さっさと済ませよう」
「お父さん達もここで待ってて」
 
 お義母さんがそう通告したら、四人が嘆き出した。一緒に行くつもりで正装して来たみたいで。うん、そうじゃないかなって思ってたよ。お爺さん達は羽織袴だし、女のΩのお婆さんは訪問着来てるし。普段は洋服だから、僕が見てもしっかり分かるよ。
 
「何言ってんの? こんなに大人数でゾロゾロ神社に向かったら、神様が驚くでしょう」
 
 お義母さんは呆れ顔だよ。お義父さんは泣く泣く行けないと言っていて。理玖さんに言わせると、絶対に仕事を皆んなに振り分けて参加するに決まってると断言してた。つまり此処に居ないのは、仕事を皆んなに押し付ける為なんだって。何で当日なのかも教えてくれたよ。前日なら皆んなに言いくるめられるから。流石の僕でも、皆んな分かってると思うんだ。事前に計画はしてるんだし。悟さんがちゃんとスケジュール管理してると思う。当日に連れてったのは、最近、お義父さんがサボリ気味だからだと思う。理玖さんも眉間に皺寄せて、孫にメロメロしてるお義父さんに頭を悩ませてるから。
 
「陰陽道の鬼祝日の日に行うのは決められた事だからな。葉影家は今日は祈祷をすると、意気込んでいたぞ」
紋葉いさは家もすると言っていたな。二人の孫の今後は安泰だ」
 
 理玖さん、更に頭が痛くなったのか、顳顬を右手の人差し指で揉み込んでる。そんな大事にされちゃってるの?!
 
「何奴も此奴も巫山戯るなよ!」
 
 あ、理玖さん切れた。家族水入らずが未だに出来てないもんね。どこかに行こうとすると、皆んな付いて来ちゃうから。それに、僕、もうそろそろ、発情期が来ちゃうから。
 
「心律?」
「へ?」
「大丈夫か?」
 
 呆けていた僕の耳元に唇を寄せて理玖さんが問い掛けてきた。
 
「だ、大丈夫」
「まだ、大丈夫そうだな」
 
 理玖さんが僕の首筋に顔を寄せて匂いを嗅いでる。うう、恥ずかしいよ。確かに僕のフェロモンはもう理玖さんにしか感じられなくなってるけど。こんな皆んなの前で確認されたよ。顔が熱くなって来たよ。
 
「おかあさん、かおあかい」
 
 蓮、指摘しないで。自分で分かってるから畳み掛けないで。
 
「面倒だから、さっさと済ますぞ!」
 
 理玖さんが叫ぶと同時に部屋の扉が勢い良く開く。
 
「さあ、行くぞ!」
 
 扉の前でお義父さんがキラキラとした目でそう宣言した。当然、理玖さんの蹴りが炸裂した。着物大丈夫かな?
 
      ⌘ ⌘ ⌘
 
 結果的に、全員で移動となりました。理玖さんは諦めムードです。疲れたからか、完全に皆んなを無視した、が正解だと思う。ぐったりしてるし。僕の足元には空がいて、そんな人間達に首を傾げてる。
 
「空、理玖さんを癒してあげて」
 
 僕が空を抱き上げて囁けば、キラキラの瞳で理玖さんの右肩に前足を乗せた。そのまま、体重を乗せる。空は見た目に反して軽いから問題ないと思うけど、神獣の欠片は如何してるんだろう? 蓮の話では両肩に乗ってるって言ってたし。
 
「あ……、問題ない。お前は心律を守ってくれ」
 
 理玖さんの力ない声に、空は首を傾げた。フワッと何かの力が理玖さんを覆う。これには僕達だけではなくて、皆んなが驚いた。今の力って?
 
「は?!」
 
 一番驚いているのが実は理玖さんだったりする。少し顔色の悪かった理玖さんの顔色が戻ってた。え? これ、空の力なの?!
 
「お前か?」
 
 空は嬉しそうなんだけど。これはこれで不味くないかな。つまり、生物を癒せる力があるんだよね。白虎の他に何の聖獣が混ざってるんだろう。
 
「これは此奴の能力というより……」
 
 お義父さんが思案している。
 
「心律のだろうね」
 
 お義母さんが言葉を続けた。え? 僕の力って?
 
「小鳥遊って、確か祖先は何かの力を持っていたよね?」
 
 お義母さんは思い出そうと必死みたいなんだけど。小鳥遊に力はないと思う。そんな力があれば、あれ程の没落はないと思うんだ。
 
「華族は元々は何かしらの能力があった者達が家を起こしたからな」
 
 西條の大爺様がそんな事を口にする。それ以前に、小鳥遊って華族だったの? 僕、知らなかったよ。
 
「心律は知らなかったんだ」
 
 お義母さんの問いに素直に頷いた。確かに屋敷は立派だったんだろうけど。まあ、僕は離れのボロい一軒家にいたから、本宅はよく知らないんだ。偉そうな態度だったから、そう考えると納得かも。でも、帝からは見捨てられてたんだよね。
 
「そもそも、小鳥遊って如何してああなったんだろう?」
 
 僕は凄く不思議で思わず言葉が口を吐いていた。華族も沢山存在してるけど、領地を持つ華族はそれ程多くない。四神は国の四方を守る一族だって言うのは習ったんだ。その中心地が皇家が管轄している。僕達が住んでいる屋敷はこの皇家が管轄する土地になるんだけど。前に橘君が捕まった湖は西條が管轄する土地にある。日の沈む方角の土地で。その四神が管轄する土地を更に分割して、他の華族が管理してる。四神を頂点にこの国を管理してるんだって。ちょっと複雑すぎて僕には分からない部分が多い。
 
「小鳥遊だけではないな。極端な話、南條家と北條家も似たようなものだ。神を神獣を聖獣を信じられなくなると力も失う。だが、心律は神獣に愛され、神にすら愛されている。聖獣に至っては無条件に受け入れるだろう。昔の言い方なら愛し子と呼ばれるのだろうな」
 
 お義父さんの言葉に僕ちょっと驚いたよ。僕は本当に無知だった。ただ、見たものを覚えるしかなかった。常識も本当のお母さんが困らない程度に教えてくれていた。でも、それが精一杯だったって今なら分かる。今は榊家のお墓で眠ってるお母さん。小鳥遊に生まれなければ、あの若さで死ぬことはなかっただろうし、お父さんに守られて幸せだったと思うんだ。逆にそんなお母さんを不憫に思って神様がお母さんを連れていっちゃったのかな。
 
「心律」
 
 理玖さんの声が降って来た。慌てて顔を上げると、蓮の手を握っている理玖さんの顔が見える。蓮の右手を理玖さんが、左手を僕が握って歩いてるんだけど。
 
「この国は多くの不思議な力が絶妙なバランスで機能して初めて成り立ってる。小国であるだけではなく、四方を海に囲まれ、多くの島も有している。海に守られていた影響か、外界からの力に脆弱だ。元々、神々の力が多く集まる土地でもあったから、神獣や聖獣も多く棲息していた。その為、不思議な力を持つ者も多く存在していたんだ。今では皇家と四神。ほんの少しの華族にのみ不思議な力が発現しているが」
「あ、海斗さんの勘が鋭いのも?」
「一種の特殊能力だろうな。椎葉家は元々、遠見の力があったようだが。今では顕現している者はいない。いないが……」
 
 理玖さんはそこで口を閉ざした。うん、言いたい事は分かるよ。海斗さん、おそらく遠見の力があるよね。本人に自覚はないんだろうけど。
 
「何、おかしな事を言ってるんですか。そんな力があれば、苦労をすることも少ないと思いますが」
 
 海斗さんの不機嫌な声に笑っちゃう。力を認めたくないんだろうけど、神獣が選んだ時点で、この国の四神以外の華族の中で頂点に位置する力を持ってるって思うんだ。そうじゃなかったら選ばれない。ただ、理玖さんの従者だから選ばれたでは、誰も納得しない。それだけ、四神は実力主義だ。皇家もそうだし、帝はそんな四神の神獣を視認出来てるし。だから、新年の目通りで海斗さんに神獣の欠片が付いていると見破られた。それも、朱雀と玄武だよ。理玖さんと蓮の話では相当な大きさみたいだし。
 
「お待ちしておりました」
 
 神社の鳥居を作法通りに通り、一通りの手順(僕はよく分からないから、皆んなの真似をしたよ)を踏んで、目的の場所に辿り着く。そこで待っていたのは、白色に白色の刺繍を施した衣装を身に纏った人が待っていてくれた。僕はその人を見て吃驚する。何というか空気が違う。西條家の人も独特の空気を纏ってるけど、この人も他の人と全然違う。
 
神子島かごしま、手間をかけるな」
 
 お義父さんがそんな風に声を掛けた。でも、神子島と呼ばれた人は、穏やかな微笑みを浮かべて小さく首を振る。
 
「とんでも御座いませんよ。西條家の次代様とそのお子様。そして、南條家と北條家の血筋となられるお二方。何より、神々にも愛されておられる、西條家次代様の番様。これ程、尊い方々と会い見えるなど恐悦至極に存じます」
 
 神子島さんは何かにっこりと笑みを見せたんだけど。蓮や星華なら分かるけど、僕の事も言ってたような。神々になんて愛されてないと思う。そんな大層な存在でないし。そんな僕の様子に、理玖さんは苦笑いを浮かべているような気がする。
 
「おやおや、ここまで無自覚なのですね」
「いい加減、自覚して欲しくて、言い続けてはいるんだが」
 
 神子島さんの言葉に理玖さんは肩を竦めた。二人で何言ってるの? って、如何してみんな頷くの。しかもしみじみと。蓮まで頷くって如何いうこと?!
 
「心律」
 
 理玖さんの笑顔が怖い。何時もより笑みが深くて凄く怖い。え? 僕、この後大丈夫なの?!
 
「いい加減、理解しようか? 周りの意見は貴重な情報源だ。心律以外、全員頷いてるよ」
「えっと、ほら、星華は頷いて……」
 
 いや、待って。如何して星華まで頷いてるの?! おかしい! 絶対おかしい!!!
 
「うむ、孫達は優秀だな」
 
 お義父さん、凄く嬉しそう。確かに蓮と星華は優秀だと思うよ。僕が産んだなんて理解出来ない優秀さだよ。解せぬ。
 
「では、儀式を執り行いましょう。蓮様と星華様のお二人。そして、心律様ですね」
「え?」
 
 今、僕の名前言ったの?
 
「頼む。心律はおそらく神々に認識はされているだろうが。正式に行なっていない筈だ」
 
 お義父さんの言葉に神子島さんはじっと僕を見下ろした。何だろう。なんか不思議な感じがするんだけど。
 
「確かに。幼い頃に、神々との接触がなされてませんね。そのせいで、能力に鍵がかかっている状態、という感じでしょうか」
「やはりそうなのか?」
 
 神子島さんの言葉に理玖さんが反応する。
 
「これは今は潰えた一族の能力ですね。あそこは本当に如何しようもなく落ちぶれてしまいましたから」
 
 僕、何か、すん、ってなった。落ちぶれた、それ、小鳥遊の事だよね。信じてなかったけど、小鳥遊って元は華族だったんだね。南條家と北條家の事があるから、華族として認められなくなると、帝から華族としての権限を剥奪されてしまう。まあ、理玖さんとお義父さんはそんな権限いらないとばかりに、よく愚痴ってるけど。でも、今上帝と皇太子様は西條家を絶対に手放さないと思うよ。皆んな能力があるし、何より、この国の結界の一部を担ってる存在でもあるし。
 
「神子島。小鳥遊は癒しの能力があった一族か?」
「おや、西條の御当主は知っておられるのですね」
「いや、知ってるというか。今、理玖の肩の上にいる聖獣がそれらしい力を使ってな。それは聖獣の能力というより、契約している心律の能力のような気がしてな」
 
 神子島さん、空をじっと見詰めてる。空はキョトンと首を傾げて神子島さんを見返してるんだけど。
 
「これは普通の聖獣ではありませんね。色々、混じってる感じですか。それでも、個を維持しているのが不思議ですが。とりあえず、儀式を優先しましょう。この話は後程」
 
 神子島さんはそう言うと、社の中に僕達を誘ってくれた。何でも、神々に歓迎されないと鳥居すら潜れないんだとか。それって、弾き出されるとか?
 
「此処は西の神々の社ですので、白虎様もいらっしゃいますよ」
 
 僕、何か、社に入ってから凄く周りがね暖かいんだよね。
 
「はあ、白虎様、俺の番にちょっかい掛けすぎですよ」
 
 理玖さん、なんか諦めてる感じがするんだけど。僕には見えてないけど、理玖さんと蓮が僕の腰辺りを凝視してる。ちょっと気になって海斗さんを見れば、海斗さんも表情を無くしたように僕の腰辺りを見てた。お義父さんとお義母さんと西條の御隠居夫婦と、東條の御隠居夫婦共に首を捻ってるんだけど。あ、東條の御隠居夫婦は此処に入っても良かったのかな。追い出されてないし、問題ないって事なのかな。
 
「えっと、理玖さん?」
「分かってますよ。俺と親父と爺様と蓮は欠片を受け取っていますが。番は俺のですよっ。謹んで下さい」
 
 ほえ?! つまり、僕の腰回りあたりに纏わり付いてるって事?! 思わず蓮に視線を向ける。蓮は何かを見ている様に視線が行ったり来たりしている。
 
「蓮?」
「でっかいねこさんが、おかあさんにスリスリしてる」
 
 ニパッと笑うその顔に僕は脱力する。色々、そう、色々と理玖さんに助けられてから起こったけど、一番の変化は蓮なんだよね。この子が宿ったから、僕は今、この立ち位置にいる。そう、全ては理玖さんに付いている神獣の欠片の悪戯……。え? もしかして悪戯じゃないの?
 
「え?」
 
 僕、ありえない考えが頭をよぎったよ。小鳥遊が僕から色んな出会いを奪ってたのは話の端々で分かってはいたけど。そして、そのせいで普段の理玖さんから避けられてただろう事も予測出来る。もし、神獣の欠片である、理玖さんに付いている白虎と青龍の欠片の采配だとしたら。
 
「もしかして、理玖さんの欠片が僕を選んだの?」
 
 それは本当に素朴な疑問で。しかも、口に出てたみたいで。理玖さんの表情がおかしな事になってる。
 
「あ……、神獣の欠片が付いていると、まあ、何と言うか、欠片が気に入らないと番になれないと言うか……」
 
 理玖さん、歯切れが悪い。成程成程、橘くんが幾ら頑張っても欠片が気に入らなければ相手にもされないと。四神の人達って難儀なんだね。もし好いていても、気に入らなければ相手にすら出来ない。ん? 言い換えるなら、好きにすらならないのかな。神獣の欠片が生まれた時から付いてるもんね。そう考えると、南條と北條家の神獣の欠片が四花の番を選んだんだよね。え? え? それって、鼻から神獣の欠片は二家を切り捨てようってしてたんじゃないの。僕が気が付くんだから、他の人達が気が付かないのは可笑しいよ。
 
「心律。何かに気が付いたみたいだが、それは秘密だ。口外は厳禁だ」
「あう、はい……」
 
 この国の神秘! そう思っとく。そうじゃないと駄目だって釘刺されたし!
 
 
 滞りなく祝詞をあげてもらって。何故か僕は念入りにされてた。何で? 僕が首を捻ってると。周りから笑い声が聞こえて来る。でも、理玖さんも、義両親も、御隠居二夫婦も笑ってない。蓮も星華も海斗さんも。でも何処から聞こえて来るの?
 
『まあ、聞こえているようよ』
『ふむ。流石は我等の子よの』
『ふふ、本人は疑問顔ですよ』
『それはそうだ。地上に降りた者は天上の記憶は失われる』
 
 僕は目を見開いた。え? え?
 
『ふふ。幸せにおなりなさい』
『お前の幸せは天上で生きてく上で必要なものだからな』
 
 僕、表情が、すん、ってなった。この声って神様だよね。何の神かなんて分からないけど。何か勝手に色んなこと言ってるけど。
 
『まあ、まさか、本来の力が人の器で発現するのは賭けでしたけどね』
『元々の血筋の関係もあるようだな』
『ええ。ふふ』
 
 うん。僕だけに限らず、皇家と四神って、神様の転生先なんだね。何か聞いてはいけない事実を知ったよ。それに、何で僕まで。何より、如何して僕だけこの声聞こえるの?!
 
『あらあら。簡単な事よ。祝詞と言う祝福を受けたでしょう? そうそう、貴方のお母さんは此処で貴方のお父さんを待ってるわよ。ふふ、知らせる必要はないけど、何時も幸せそうに貴方達を見ているわ。安心してね』
 
 いいえ、安心出来ませんが。
 
『折角、手を差し伸べたと言うのに、あの一族は地に落ちた。残念な事だ』
 
 いえいえ、僕とお母さんは大変な目に遭いましたけど?! その言い方だと、お母さんも天上の人だって事だよね?!
 
『ふふ、この国には多くの神がいるのよ。地上の人々に認識されていない神など数えきれない程ね』
『皇家は我等の最高神の子孫ぞ』
 
 それは知ってます。ええ、もう、絶対に学校で教わる事実です!
 
「心律? 如何来たんだ?」
「理玖さん、僕、神様って、その辺りのおじさんとおばさんみたいだと思います」
「へ?」
『まあ、その言い方は酷いわ』
『そうだぞ。我々はお前を心配している』
 
 だったら、お母さんが大変な時に手を貸してよ!
 
『あ、我々は出力が大きすぎて、細かい事には適しておらん』
『そうね。細かい操作は無理ね。精々、生まれる場所を特定出来るくらいかしら』
 
 まさかの神様が大雑把説!
 
「心律、疲れたのか」
「疲れてはいませんけど。この国の皇家と四神に何で力があるのかは、何となく理解しました」
「え?」
「如何して、神の欠片と神獣の欠片を宿せるかの理由は分かりました。誰にも言えませんけど」
 
 言ったが最後、天罰受けそうだし。
 
『ふふ、賢い子』
『まあ、番には伝えても良いぞ。一人で抱えるには大きいからな』
 
 理玖さんまで巻き込む気?!
 
『だって、親友の子だもの』
『なあ、巻き込むのではなく、本来の道筋だ。背負ってる神獣の欠片が大きすぎる上、二属性のせいで声が届かないと嘆いていてな』
『祝詞と言う祝福を受けた時に接触したようよ。でも、全く聞こえてなくてね』
 
 それ言ったら蓮と星華も別の両親がいるのでは?
 
『あら、その二人の幼子は二人の子よ。私達にはまさに孫! 流石、私達の孫よ。だから、声は聞こえないわね』
『ふむ。中々に強い力を持っておる。天上の神々すら感心する力ぞ』
 
 僕はガックリ項垂れた。つまり、この国の皇族華族は神々が地上に降りる為の器であり、この国に結界を張る為の媒介であるって事。そんな重要な事を僕に言わないで欲しい。僕は本当に物知らずの無知なんだし。
 
『頭は悪くない筈よ。何せ、彼の子なのだし』
『褒めてくれるのか?』
『当たり前よ。愛してるわ』
 
 いや、惚気なら別の場所でして欲しい。僕が聞いてるんだから、聞こえないように声に言霊乗せないで。
 
「如何したんだ?」
 
 お義父さんが不安そうに僕を覗き込んできた。僕が無表情だからだと思う。気が付いたら皆んなに心配気に見られてた。この神の声って、帝は聞こえてるのかな? 皇太子様は今上帝より力が強いんだよね。
 
『魂の親が神の場合は聞こえるわよ』
『力が強くとも、根本的に親でなければ声は届かん』
『貴方の二人の子は私達の声は聞こえないわよ』
『お前達二人が本当の意味での親だからな』
 
 納得しました。つまり、定期的に天上の神々が皇家と華族の中で器となり得る者が出来上がった場合、そこに宿るって事だよね。話の感じだと、僕と理玖さんはその器になり得たって事だよね。
 
『そうそう』
『だから、旦那様には話してね。親友達が五月蝿いのよ。知っていてもらいたいのに、神獣の欠片に邪魔されたって、それはそれは嘆いていて』
「僕がしないといけない事なの?」
 
 僕は思わず声に出して疑問を口にしてしまった。やばいと思ってももう遅い。してやられた感が半端ないんだけど?!
 
「心律?」
「おかあさん?」
 
 僕、頭痛い。神社に来たのは間違いなのかな。違うよね。皆んなは僕を思って蓮と星華と共に祝詞を上げてもらえるように頼んだんだし。そこで知る事実がとんでもなかったとしても!
 
「話せるのは理玖さんだけです!」
 
 僕は唸りながらそう口にする。許されたの理玖さんだけ。その他の人に話すのは天罰案件。ん? それ言ったら、海斗さんもそうなのでは? 普通に神獣の欠片を二つも背負ってるし。
 
『あ……。彼もそうだが』
『そっちは不貞腐れてるから話さなくていいわ』
 
 不貞腐れる?
 
『勝手に行ってしまったらしくて』
『何と言うか、親友の子に付いていってしまって』
 
 納得しました。理玖さんを慕って行ってしまった説ですね。通りで海斗さんは理玖さんに対して他の従者の人達より強く出れる筈です。根本が違うんだもん。多分、友達? なのかなぁ。分からないや。
 
『ほら、それ言ったら、彼もよ。あっちも二つの神獣の欠片のせいで、声が届かなかったと嘆いていたわね』
 
 あ、朔さんも何だ。何か、表情が、すん、てなるよ。再びの、すん、だよ。僕の周り、こんな感じなのおかしくない?
 
「心律、何か心配事か?」
「いいえ。この国は本当に本当に、不思議が一杯の国だと改めて認識しました!」
 
 僕の叫びは間違えてないと思う。つまり、根本的に神々が受胎した皇家と四神、そして、八葉の人達が国を回してるって事でしょ。あ、でも、最近は華族の質も落ちてるって聞いたから如何なんだろう?
 
『それはね、この国の人達が私達を信じなくなってきたからよ。まあ、皇家と四神はまだまだ、私達を敬ってくれてるけれど』
『国の守りは基本的に神々の領域だからな』
 
 この国の人達駄目じゃん! 結界が無くなったら脆弱なこの国は一溜まりもないのでは?!
 
「心律、本当に大丈夫か?」
「理玖さん! 頑張って下さい!」
「え?」
「僕、出来る限りお手伝いします!」
「あ、ああ。え? でも、如何してだ?」
 
 理玖さん、混乱してる。でも、今はこれしか言えない。二人きりになったらちゃんと説明します。これ、本当に僕が知っていい事なのかな。違うよね。国を根本から覆すとんでも無い真実だよね。本当なら皇家と四神の当主は知ってないと駄目なんだと思うよ。でも、話していいのは理玖さんだけって言われたし。
 
『もう一人の神獣の欠片を二つ宿した彼にも話していいわ。でも、そこまでよ。親友の子には黙っていて。許可を貰ってないのよ。祝福を受けた時に接触したようだけど、既に神獣の欠片の種が植え付けられてて無理だったようよ』
 
 つまり、海斗さんが生まれた時点で、南條家と北條家の没落は決定してたの。それ、星華関係なく無い?
 
『ふふ、ちゃんと関係あるわよ。あの子、彼に心酔していて、関係のある者と共に、って言っていたらしいわ』
 
 その割に海斗さん、星華を避けてたけど?!
 
『天上と地上ではかなり考え方が違うのよ。しかも、従者の家系に生まれてしまったのだもの。こればかりは如何しようもないわね』
『まあ、神と神に準じる者との間に生まれる次代の四神は前とは違うだろうな』
『本当にね。何度も失敗して、やっと対応しているようでは神世の世界も考えものね』
 
 僕、三度の、すん、ってなるよ。この国って、要は神々が創り出した後、その神々が管理しているって事だよね。その管理が、この国の人々の意識の変化でままならなくなっているって事だと思うけど。何で僕にそのこと伝えるかな。帝に伝えて欲しい。切実に!
 
 神子島さんは僕達が帰る時に、空の事を覗き込んでた。儀式の前に空が混ざってるって言ってたけど、何が混ざってるのか全く分からなかったみたい。ただ、純粋な聖獣ではないと、大事にしてあげて欲しいって言われた。確かに最初見た時、よく個を保ってるって言ってたし。
 
『その子は貴方に付いてったのよ』
 
 神社を出る前にそんな言葉が耳に入って来た。僕は驚いて振り返ったんだけど。当然、そこに見えるのは鳥居と社殿に続く長い道だけ。木々に囲まれた道はただ静かに佇んでいて。僕は、ひっそりと溜め息を吐いた。本当に神様って分からない。
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貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

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