奇跡に祝福を

善奈美

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奇跡に祝福をⅣ side 心律

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 今、僕の目の前にいるのは生まれたばかりの赤ちゃんだ。蓮と星華も可愛かったけど、蒴さんと美紅さんの赤ちゃんも可愛い。星華はもう、ここまでぷにぷにじゃないし、ここまで寝ても居ない。でも気のせいかな。この子も強い力があるのが分かるんだ。あの、神事に参加してから不思議な感覚を持つようになったみたい。
 
「どうかしたの?」
「あ、うん。この子も強い力を持ってるんだなって」
 
 僕は控えめな声で言ったんだけど……。
 
「へぇ、分かるの?」
 
 更に聞こえて来た声に驚いて振り返る。そこに居たのは蒴さんで、その背後には東條家の当主夫妻。僕は慌てて立ち上がって居住まいを正し、深々と頭を下げた。今まで僕に会いにはこなかったのに。蒴さんは別だけど。
 
「ああ、固くならなくていい」
 
 無理です! やっと、理玖さんのご両親に緊張しないで話せるようになったのに。更なる大物だよ。余談だけど、西條と東條のご隠居夫妻にはいつも良くしてもらってます。本当の祖父母みたいに感じてます。緊張する暇なく、撫でくりまわされてます!
 
「無理だって。だから、言っただろう。心律君は繊細なの」
「蒴、前々から思っていたが、適当になりすぎてないか? 理玖を見ているとそう感じる事が多々あるぞ」
「理玖と比べないでよ。あっちは規格外。俺は標準」
 
 神獣の欠片を二体も背負ってる人は標準と言わないと思う。僕が不信気な視線を向けたからか、凄い微笑みを向けられた。背筋を冷たい何かが駆け抜けてったような気がする。
 
「心律君を怖がらせたら、理玖さんが怖いわよ」
 
 美紅さんが半眼で蒴さんを睨み付けた。
 
「大丈夫、大丈夫。理玖はそんな事しないよ」
 
 その言葉の後に何か言葉が続くような切り方だったと思うんだけど。気のせいじゃないよね。
 
「あの……、この子の名前は?」
 
 誕生してから何回か来てるけど、まだ、名前は教えてもらってない。理玖さんも知らないんだ。
 
「あれ? 美紅は教えてないの?」
「自分で教えると言ったのは蒴よ」
 
 ……それで美紅さんが言い淀んだのか。納得だけど、早く教えてもらいたかったな。
 
さいだよ」
 
 凄く気になったんだけど、蓮もだけど二文字の名前が好きなのかな?
 
「どうかしたの?」
「うん、理玖さんも蒴さんもニ文字でしょう。蓮もこの子もニ文字だから」
 
 星華はまた別だと思うんだ。
 
「ん? 偶然でしょう。俺も理玖もそこまで考えてないよ」
「そう言えば、名前は僕達で付けていいってお父さんとお母さんも言ってたけど、四神はそう言うものなのかな?」
 
 僕の言葉に東條家当主夫妻は顔を見合わせた。ほら、よく、祖父母に付けてもらったとか。親戚のお年寄りに付けてもらったとか聞くから。
 
「子供に最初に渡す贈り物だ。両親からの方が子供としても嬉しいんじゃないかと思うぞ」
 
 東條家御当主の言葉に納得だけど。一生懸命考えたもんね。もう少しこの子が大きくなったら、蓮と星華も連れて来たいな。
 
 何時もの様に蒴さんは僕に付いて来てくれた護衛の人達に凄く念を押す様に注意してた。僕に何かがあったら、理玖さんが手に負えなくなると。理玖さんがそんな事になるなんて有り得ないのに。如何して毎回念を押すんだろう。護衛の人も神妙な面持ちで頷いてる。僕が頼りないのは理解してるし、何やら不穏な空気があるのも知ってる。理玖さんには不用意に一人になるなと言われてるし。それでも、こうやって美紅さんと生まれたばかりの赤ちゃんに会いに来るのを反対しないでくれてる。本当に大切にされてるんだって思う。今までが今までだったから擽ったいけど。
 
 何時もの様に車に乗り込んで、名残惜しいけど家族と暮らしている屋敷に帰る。また来る約束をして手を振った。東條家の屋敷の敷地から出ると少し開けた場所に出るんだけど、少し行くと狭い道を一箇所だけ通る。その道で車がいきなり急ブレーキをかけた。体が前に持っていかれて、慌てて体の体勢を整える。気が付くと多くの人に囲まれてて、護衛の人達も多勢に無勢でどうする事も出来なくて。扉が勢いよく開いて、入って来た二人の人物。全く面識がないから、僕の知らない人達。
 
「申し訳ありません。命に変えて御守りします。ですので、付いて来てもらえますか?」
「え?」
「これが問題行動なのは理解しています。ですが、このままでは心律様の安寧には程遠い。今回ばかりは従って頂きたい」
 
 この二人、外の人達と何かが違う。そう、例えるなら海斗さんと空斗さんに似てる。
 
「八葉の人?」
 
 僕の問いに二人は寂しそうな表情を見せた。
 
「元ですよ。西條家にはこの事は知らせてあります。これ以上の暴力を西條家は許さないでしょう。俺達が主人を諌められなかったばかりに」
「東條家と皇家にも知らせてあります。三人は今回の事で主上を本気で怒らせることになるでしょう。何より理玖様を怒らせる事がどう言う事か、元主人である二人と悠仁様は理解しておりません」
 
 でもね、僕が思ったのは理玖さんってより何故か蓮で。理玖さんがそんなに怖いのかなって思うけど、西條家の後継者だし、僕の知らないあれこれがあるんだと思うんだ。
 
「うーん。理玖さんもだけど、多分、蓮が問題だと思うんだ」
「「え?」」
 
 目の前の二人が固まる。車の外は相変わらず忙しなく動いていて僕は決断を迫られてるんだろうな。性的に触れられなければ拒絶反応はない。この二人からそんな雰囲気はないし触れられても問題ないと思うけど。
 
「僕が囚われる事で何か解決するんですか?」
 
 二人はただ悲しそうな表情をした。それだけでいくら僕でも悟るよ。主人と一蓮托生なんだ。捕まれば断罪は免れない。南條家と北條家の当主は番、従者共々島流にあった話は聞いてる。確か後継者も同じ処罰を受けた筈だから。つまり、逃げ出してこの騒動を起こしたって事だよね。首謀者がその二人でないのは分かってるけど。
 
「もし、もしだよ。僕の気が触れたら伝えてほしいな。みんな愛してるって」
 
 僕は微笑んだ。番を持つΩは、性的に接触をされると強い拒絶反応を示す。何となくだけど、僕は壊れてしまうんじゃないかと思う。だから、伝えてほしいんだ。理玖さんにも子供達にも、義理の両親や西條と東條のご隠居夫妻。何より美紅さんと蒴さんも僕を気にかけてくれた。
 
「僕は沢山の幸せを貰えたから。僕一人で……」
 
 待って。確か運命の番はΩが狂えばαも引き摺られる。普通の番関係とは違うんだ。それに気が付いた僕は体から血の気が引いて行くのを感じた。理玖さんが狂うのは問題だし駄目だよ。
 
「お分かり頂けましたか? ですから、命を懸けて守ります。如何か今後、南條家と北條家に仕える、常葉と京葉の分家の者をよろしくお願いします。少しでも、彼等の為に報いたい。今更ですが、これくらいしか償う術が思い付かないのです。皇家にとって、四神にとって瑕疵でしかない彼等を抹殺する為に」
 
 僕は唇を噛み締めた。両の手を膝の上でギュと握り締め小さく頷くことしか出来なかった。何より、僕に選択権が与えられている様で与えられてない。拒絶したとしても、結局は捕まるんだ。だから、助け出された後にきちんと話せる様に、しっかりと見ておかなきゃ。
 
 起きたままでは都合が悪いと言われ、薬を嗅がされた。その薬は意識を一気に奪っていった。不安がなかったわけじゃない。それでも、二人を信じることにしたんだ。皆んなが相談していたのが、悠仁様の事だって知ってた。その標的が僕だって事にも流石に気が付いてた。だから、何時かはそうなると無意識に分かっていたんだと思う。相変わらず僕は自分関係には冷静になれる。元々、諦めを抱いて生きていたから。
 
 ゆっくり瞼を開くと、そこは薄暗い室内だった。違う。外が既に夜になってるんだ。ゆっくり身を起こし、きちんと思考出来る事を確認した。そして、自分の身を確認した。服に乱れはないし、不快な感覚もない。そこで耳に入って来たのは怒声だった。
 
『早くあの愚かな男からあのΩを解放しなきゃならないんだ!』
『御言葉ですが、番関係を解消するには本当の意味での運命が、発情期に頸を噛まなければ出来ません。今、彼の方に触れるのは問題です』
 
 この声には聞き覚えがあった。最初の声はわからないけど、多分悠仁様だと思う。美紅さんに聞いていて、番のΩを解放出来るのは自分だと、変な妄想を持っているって言っていたから。
 
『私の力ならば……』
『それでも安全策は必要です。彼の方は主上すら一目置く存在です。何かがあってからでは取り返しがつきません』
 
 何となくだけど、時間稼ぎをしてくれてるのかな。理玖さんは僕が一度攫われてから(後から話を聞いたら、全部、計画された事みたいだけど)、僕に発信機を付けている。耳にピアス型の高性能の魔道具が付いてたりする。番のαの性だから我慢してってお義母さんが苦笑いを浮かべて言ってたっけ。
 
 ゆっくり扉が開かれて滑り込んできたのはさっきの二人。警戒する様にゆっくり施錠してから近付いて来る。少し驚いた顔をしたから、僕が目覚めてないと思ってたんだと思う。
 
「何とか誤魔化しましたが。すみません。発情期は?」
 
 実は僕の発情期は先日終わっているんだ。しっかり、理玖さんが僕を愛してくれたし。次の発情期はきっかり三ヶ月後(一ヶ月三十日換算だよ)。僕、監禁に近い状態の時でも、学校の寮に入ってからも乱れた事はない。それだけ、適応能力が高いんだってみんなに言われてるんだけど。
 
「当分きませんよ。正確な事は言えません。理玖さんや義理の両親に言わない様に言われてますから」
 
 発情期の周期を周りに知られるのは危険。そう言われて、今では屋敷内の人間しか知らない。まあ、学生時代の同級生とかは知ってるだろうけど。黙ってても基本、Ωの発情期は知られてしまうんだよね。何せ、本能だから。でも今の僕の場合、お屋敷から殆ど出ないし。出る場合は理玖さんが一緒の場合が多い。って言うか、一緒じゃないと出してもらえない。例外が東條家に行く事だったんだけど。もしかしたら、今回の事で禁止されるかも。それだけは嫌だな。理玖さんに連れて行ってもらっても良いんだけど、それだと理玖さんの負担になると思うんだ。
 
「それは良かった」
「ですがもう一つの懸念があります。発情香というものを知っていますか?」
 
 発情香? αが強制的にΩを発情期に誘発するフェロモンを出せるのは知ってる。でも、発情香って何? 僕が首を傾げたからか、二人は諦めた様な表情をした。
 
「西條家の方々が、この方に発情香の情報を教えるとは考えてはいませんでしたが……」
「如何する?」
「あの、発情香って、αが意図的にΩを発情期に誘発するフェロモンと似た様なものなんですか?」
 
 僕が知っている発情関係の知識で、最新の情報はαのフェロモンの恐ろしさだ。αは威嚇する時も、Ωを酔わせる時もフェロモンを使う。上位になればなるだけ、そのフェロモンが持つ作用は強力らしい。
 
「それは知っておられるのですね」
「はい。理玖さんとお義父さんに教わりました。何かがあっては問題があるので。僕の場合、常時、理玖さんのフェロモンがマーキングされてるので普通のαは近付けないとは言ってましたけど」
 
 僕はコテン、と首を傾げた。目の前の二人はαだと思う。それでも僕に近付けるのはいかがわしい意味で見ていないから。それと、八葉であるからだと思う。例え元だとしても、実際に南條家と北條家に仕えていたんだし。
 
「悠仁様がよく使われる手です。番のいるΩは基本、その番のαのフェロモンにしか反応しなくなります。ですが、この発情香はその理を捻じ曲げる代物です。つまり、違法薬物になります」
 
 え? 悠仁様はつまり、ずっと違法薬物を使ってたっていうの? それなのに刑罰が与えられてなかったの? それって問題……。待って、僕にそれ使われたら僕は如何なるの?!
 
「西條家の方が……」
 
 そんな言葉告げている最中に、扉が吹っ飛んだ。言葉通り、粉々に粉砕された。僕は何が起こったのか分からなかった。そこに立っていたのは東宮様によく似た容姿の人。でも、僕には分かる。この人に力はない。ただ、魔道具を使って威嚇しているだけ。
 
「お前達は裏切り者だった様だな」
 
 二人は僕を守る様に対峙する。あの手に持ってるの、刀だけど普通の刀じゃない。変な力を感じる。
 
「そのΩは救いを求めているんだ。私と言う、本物の番となるαにな。それであるのに、裏切るとはっ」
「御言葉ですが、悠仁様はαではありませんよ」
 
 そう声を掛けたのは僕を守っている二人じゃなくて。
 
「違法薬物に違法魔道具。何処まで主上を裏切れば気が済むのか。甚だ理解に苦しみます」
 
 そこに姿を現したのは理玖さんだった。
 
「取り押さえろ! 悠仁様は既に皇族ではない! 何処かに南條家と北條家の元後継者もいる! 探し出せ!」
 
 理玖さんは悠仁様と対峙した。その瞳は何処までも冷え切っていて。
 
「心律は俺の運命であり、何人たりとも触れる事は許さない」
「何を言う。皇族である私の番に相応しいだろう」
「聞こえていませんでしたか? 主上は悠仁様を切り捨てました。俺を失うより、悠仁様を切る方が容易だったって事ですよ。って言うか、皇族じゃなくなったんなら、敬語を使う必要はないな。αでもない単なるβが粋がるなよ。今まで、巫山戯た事が出来たのは全て主上が悠仁様を、庇っていたからに他ならない。その主上が切り捨てたんだ。その意味を考えるべきだろう!」
 
 理玖さんが今までとかなり雰囲気が違う。瞳に宿る光が鋭くて。何より、理玖さんを中心に膨れ上がった力が、周りを飲み込み始めてて。
 
「ふん。証拠は無いだろう?」
 
 悠仁様は何でも無い様に、理玖さんを小馬鹿にした様に言った。待って、この圧に気が付いてないの? 理玖さんが発する威嚇フェロモンに気が付いてないの? 僕を守ってくれている二人なんて、青い顔してるよ。
 
「主上が言っていた事は本当だったんだな。αのフェロモンに全く反応しないβ。言い換えるならΩのフェロモンにも反応出来ない」
 
 でも、理玖さんは何とも言えない笑みを浮かべた。そして、更に溢れ出るフェロモン。待ってよ。この濃さだったら、僕は理玖さんにマーキングされてるから耐えられても僕を守ってくれてる二人には絶対に耐えられない。二人は何とか意識を保っている様な状態になった。息をするのも難しいのか、必死で空気を取り入れようとしているみたい。そして、僕は理玖さんに視線を向けた。悠仁様と対峙していた理玖さん。でも、理玖さんの足元で力なく悠仁様は沈んでいた。右手で首を押さえて喘いでる。
 
「そうだ。証拠だな。簡単だったよ。今まで主上が握り潰していた全ての証拠の提示を求めた。当たり前だろう。本来は犯罪者だ。それを、帝の皇子であると言う理由で不問になっていただけだ。俺が調べ上げた中に違法薬物と違法魔道具の情報があった。違法薬物に関しては主上も知っておられたが、違法魔道具は知らなかった様だ。あれには四神の神獣とまでは行かないが、それに匹敵する聖獣の力が宿っている。それも無理矢理抽出したものだ。当然、其奴等はしっかり捕縛させてもらった」
 
 聖獣の力って。それって、如何言う事? 無理矢理抽出って、本来ならやっては駄目な事なんでしょう。
 
「其奴等のアジトには複数の聖獣の亡骸があった。本来なら、神獣に匹敵する力を付け、この国を護ってくれる存在となり得たんだ。その命を弄び、皇族としても大した能力もない。これでβであると理解し、東宮様を盛り立ててくれれば良かったものを。まさか東宮の位に就こうと考えているなど言語道断。今代の東宮様は今上帝よりも強い力を宿しておられる。悠仁様が成り代われる事など万に一つもない」
 
 うん。東宮様に付いてる神の力の欠片は本当に凄いんだ。理玖さんと蓮も凄いけど。悠仁様は力なく項垂れた様に見えた。でも、理玖さんはフェロモンによる威嚇をやめなくて。とうとう、僕を必死で守ってくれてた二人が崩れ落ちた。慌てて確認したら意識が飛んでた。
 
「流石の不感症βでも分かるだろう。まあ、一緒に来た奴等も意識を失ったみたいだが」
「何であのΩは平然としていられるっ」
「当たり前だろう? 心律は何時も俺のフェロモンを纏ってる。それに日々、俺のフェロモンに晒されてるんだ。耐性ができて当たり前だろう? そんな事も分からないのか?」
 
 理玖さんはそう言うと、悠仁様が持っていた魔道具の刀を取り上げた。その刀は細かく震えている様に見えた。理玖さんも驚いた様に目を見開いてる。震えが大きくなり、その刀は粉々に砕けた。散ったんじゃない。本当に静かに砕けたんだ。その中から、白い光が現れて。理玖さんの周りを飛び回る。驚いていた理玖さんだけど、その光に対して右手を差し出した。ふんわりと着地した光が姿を現す。白い虎? に見えるけど背中に白い羽根がある。
 
「こんな聖獣は知らない」
 
 白い虎はおそらく理玖さんが背負ってる白虎の眷属じゃないかな? でも背中の羽根は?
 
「キメラにまで手を染めてたのかっ」
 
 理玖さんが憤ってるのがありありと分かった。聖獣は神獣となる事が可能な生物。それを悪戯に弄ってはならない。それは命全てに言えていて、それを悠仁様は当た前の様に踏み付けてた。
 
「皇族として、最も犯してはならない犯罪だ。この国の結界を維持し、この国に豊穣を齎す事を義務としている皇族で。これでは言い逃れできないだろう。主上は本当の意味で悠仁様を切り捨てる。これは自業自得だ」
 
 その後、理玖さんのフェロモンにやられた皆んなは助け出された。当然、僕を守ってくれてた二人も。その二人については八葉としての称号は剥奪されるけど、僕を守ったと言う事で温情が出されたみたい。南條家と北條家のボンクラ元後継者と一緒で島流し予定だったけど、分家の次代後継者の教育係を任命されてた。従者となる八葉には其々の家毎に決まり事があるんだって。ちなみに当主の従者の方は息子さんがいるから、そちらから教育を受けるんだって。
 
 そして、主上が西條家に求めた、悠仁様を幽閉できるだけの材料を集める事、は立派に達成されたみたい。それも最悪な形で。聖獣と聖獣を掛け合わせるキメラ制作に関わっていた事実が発覚したみたいで。あの違法魔道具は悠仁様がリーダーであったみたい。皇族であった事で、聖獣の禁足地を知っていた。本来、外に漏らしてはいけない情報なんだって。これは握り潰すことが出来ない罪であるみたい。悠仁様は身から出た錆で身を滅ぼすことになった。最初は幽閉との考えが大きかった主上。でも、聖獣に手を出していた事で激怒されたと理玖さんは言っていた。下手をしたら神々だけではなく、神獣にすらそっぽを向かれる所業だって。その加護をなくしたら、この国は立ち行かなくなるんだって。神々と神獣、聖獣が居るからそこ、気候が穏やかな住みやすい土地であるのだと教えて貰った。だからこそ、最大限に敬意を払わなくてはならない。その結果、悠仁様に下された判決は極刑。罷り間違えば、国一つが無くなっていた。
 
「理玖、主上がお前と心律に報償を与えると言ってきた」
 
 僕と理玖さん、蓮と星華で居間でまったりしていたら、お義父さんがそう言いながら入って来た。報償って? 僕は捕まって、少し嫌な思いはしたけど何ともなかったよ。
 
「何言ってやがる。俺が求めた事は認めたのか?」
「あ……、それは勘弁してほしいと」
「巫山戯るなよ。俺の求める報償はそれだ! 少なくとも、俺と心律が存命の間は皇家に嫁はやらない。それ以外は認めないと突っぱねろ!」
 
 え? 理玖さん、そんな条件出してたの? 色々話を聞いたら、橘くんの事も今回の事も、実は皇家が深く関わってて。つまり、主上がちゃっちゃと動いてくれていたら、僕はあんな思いをしなくて済んだんだって。済んだ事だし、僕自体は無事だったから問題ないんだけど。理玖さんが凄く怒ってて。
 
「理玖、言ってる事は本当に理解してるし分かるが、皇家の立場も理解してやってくれ」
「ふん。何が立場だ。南條家と北條家についても、放っておいたのは皇家だろう! あそこまでボンクラが生まれる前に何とか出来た筈だ。少なくとも、ボンクラ二人が成長す前に対応は可能だった。それをしなかったのは主上の落ち度だ!」
 
 僕、ボンクラを調べたんだ。無能とか、頭が悪いとかそんな感じ。結局、いい様に利用されて。今度は逃げ出さない様にしっかり拘束されて島流しにあってた。よくよく話を聞くと、この島流し。流される場所で雲泥の差があるんだって。神々と神獣の結界内にある場所と、それ以外の場所。結界のある場所は過酷でも、そこそこ生活は快適なんだって。でも、今回二人が送られる場所は結界の外。如何違うのか、この国から出た事がないので僕には分からない。
 
「その言い分に対しては本当に理解出来る。此方としても理玖の考えに賛同したい。しかし、それだけでは政治は回っていかないんだ」
 
 お義父さんはなんか辛そう。
 
「じいじぃ、ぼく、おかあさんをいじめたひとたち、だめってしていい?」
 
 蓮の無邪気な笑顔がなんか怖い。流石の理玖さんも若干、顔が強張ってる。
 
「おとうさんに、がまんしなさい、っていわれたから、がまんした! でも、だめなことしたんだよね? じゃあ、ぼくも、だめってしたい!」
 
 恐ろしい幼気な瞳だ。そのまま取ると、下手したら刑罰より怖いことになりそう。僕は理玖さんと視線を合わせた。そして、二人でお義父さんを仰ぎ見た。お義父さんは気のせいか少し青冷めてる。理玖さんは小さく息を吐き出した。
 
「蓮。今回の事はお父さんと爺じと伯父さん達で何とかした。蓮はまだ子供で力に振り回されてるだろう?」
 
 理玖さんの言葉に蓮は顔が面白いことになってる。膨れっ面で不満を最大限に表してる。
 
「そうだ。あの聖獣だが」
 
 お義父さんは必死で別の話題を提供した。今回の事云々は蓮の、前ではしてはならない話題だと認識したみたい。
 
「主上は何て言ってるんだ?」
「如何も、理玖と心律を探してる様でな。人に懐いてしまった聖獣は聖域に戻しても碌な事にならないと仰ってな」
 
 連れて帰ってきた、お義父さんはそう言うと懐から猫サイズの白い虎擬きを取り出した。えっと、今までよく暴れなかったね。そう思ったら、しっかり寝てた。かなり肝が座ってる子みたい。背中にはしっかりと羽根があり、一体、何の聖獣と聖獣を掛け合わせたのか分からないって言ってた。一体は白虎だろうって言ってたけど。僕と理玖さんに懐いたって言うより、理玖さんが背負ってる白虎に懐いたんじゃないかな? 蓮はその子を見て瞳を輝かせた。見た感じペットに見えるしね。手足は立派だから気を付けないと危険だとは思うけど。
 
 お義父さんに脇から持ち上げられてた聖獣の子は、如何も視線に気が付いなのか目を開けた。綺麗な瑠璃色の瞳が僕と理玖さんってより、理玖さんの背後に視線を向けて、はにゃーん、ってなってる。これ決定だよね。理玖さんの白虎に反応してるんだ。微笑ましいけど。そして、更に背後。蓮の頭の辺りに視線を向けて更に、はにゃーん、ってなってる。
 
「親父。俺と心律と言うより、神獣の欠片に反応出るんだと思うが」
「それなら、俺の神獣の欠片にも反応するだろう?」
「言い難いんだが、多分、能力の違いじゃないか。俺は親父より白虎の欠片の力が大きいし。蓮は更に上だ」
 
 理玖さんの言葉にお義父さんは項垂れた。言われなくても分かってたんじゃないかな? でも、認めたくなかったのかも。
 
「ペットにしかならないな。何せ、このサイズだ。幼体だろう? どんな能力を秘めてるのか未知だろうし」
「そうだな。まあ、危険探知くらいにはなるだろう。主上も心律に付けておけば何かの役に立つだろう感覚の話をされてたからな」
「そうなると、名付けは心律がしないと駄目だな。名前は贈り物でもあるが枷でもあるからな」
 
 僕が名前を考えるの? え? 絶対なの?
 
「そう言う事だ」
 
 お義父さんはそう言うと、僕に聖獣の子を渡してきた。本当に綺麗な瑠璃色の瞳をしてる。キラキラしてて宝石みたい。体は白くて虎模様だし。でも背中の羽根がパタパタしてて。この羽根、体の割に小さいんだよね。それなのに浮き上がれるのは力を使ってるからなんだろうけど。
 
「うーん。この子の瞳の色が綺麗な瑠璃色だから」
「瑠璃にするか?」
「でも、少し光の加減で色が変わるし、空かな?」
 
 空の色はその時々で色を変えるんだ。真っ青な時もあるし、薄い水色の時もある。紫にもなるし、赤や橙色に染まる時もある。この子もいろんな経験をして良い意味で成長してほしいんだ。
 
「願いを込めて空にする」
 
 僕の言葉に聖獣の子は、はにゃーん、って感じで顔を舐めてきた。顔を舐められるのはちょっとって思ったんだけど避けられず。
 
「おかあさん、このこ、よろこんでるよ」
 
 蓮がいつの間にか近くにいて、そんなことを言った。そうだった。理玖さんがそんなことを言ってたから。蓮は神獣の言葉が理解出来るんだった。何でもありになってきたのは気のせいかな。それに僕も慣れてきてるのが問題な気がするんだ。
 
「空。心律が出掛ける時は何時も側に居て欲しい」
 
 理玖さんの真剣な声音に、空は勇ましく返事をした。うん。虎だね。飛んでるけどまごう事なき虎だね。そして、こんな小さい子に僕の護衛的お願いをしている理玖さん。そんなに頼りないのかなぁ。確かに、知らないうちに色々巻き込まれてたりするけど。
 
 今回の騒動。皇家がガッツリ絡んでたから、隠蔽が凄かった。四神は今や、西條家と東條家だけなので、口裏合わせは完璧。護衛やら従者達も完璧に口を噤む。確かに表に出すにはやばい案件だけど。僕はと言えば、理玖さんが更に心配症になり東條家に行くのも一緒じゃないと駄目だって言われた。発信機が付いていても安心出来ないんだって。僕的には問題ないけど、理玖さんが倒れるんじゃないかとそっちが心配。
 
「空はどんな力があるんだろうね?」
「うんとね。わからないんだって」
 
 僕の疑問に、蓮が答えてくれた。キメラとして弄られてしまったから、空は自分の能力を把握出来ないみたい。仕方ないんだろうけど。でも、その力を使う場面が訪れないといいな。ペットとして穏やかに過ごして欲しいなって思う。
 
 
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