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奇跡に祝福をⅢ side 海斗
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「海斗様、若旦那様がお呼びです」
そう声を掛けてきたのは、西條家のメイドの一人だった。俺は今、理玖様の執務室で仕事中である。何せ、従者としての仕事が本来の仕事。大学が休みの時は本来の業務だ。
「理玖様は?」
「応接間にて、東條様とお会いになられています」
俺は察した。あれだ、星華様との婚約の件だ。俺としては丁重に断りたいところだが、西條家が乗り気になってしまい、父の力ではどうする事も出来ないところまで来てしまった。まあ、俺に婚約者と言うか、番がいなかった事がそもそも断れない理由なのだが。
「本当に呼んでらっしゃるのか?」
「覚悟を決めてくださいな。東條様ならまだ、従兄弟であられるので血族関係で断られても文句はそれほど言いませんが、他の四神と皇家は違いますよ」
メイドは面白そうに俺に宣ってくれた。その通りだ。蒴様は理玖様と従兄弟である。蒴様の父親と、理玖様の母親は間違いなく兄弟。
「分かった。観念するよ」
「ふふ。お館様と若旦那様は喜ばれていますよ。お嬢様を、手元に置いておけますものね。しかも、若旦那様の片腕であられる海斗様です。他の華族家と違い、懐に抱え込めます」
このメイドは俺が西條家に来る前からいるメイドだ。しかも、当主である継鷹様をお館様、理玖様を若旦那様。綾乃様を奥様、心律様を若奥様と呼ぶ。この屋敷の中では彼女だけだ。
重い足を引き摺って、応接間の前まで来た。これからこのような呼出が多発するのか。何時、落ち着くのか、まったくもって想像出来ない。扉をノックし、返事を待って室内に足を踏み入れた。そこに居たのは確かに東條様である。その横には番であられる、確か名前は美紅様だったか。女性のΩだ。
「お呼びでしょうか?」
「お呼びだぞ。さあ、試練の時だ」
理玖様、楽しそうですね。俺が矢面に立つからでしょうか。それとも、星華様の魂の番だからでしょうか。どちらにせよ、あまり気分のいい事は言われなさそうですね。
「海斗。まさか、八葉に西條の姫君が奪われるとは考え及ばなかったぞ」
蒴様、顔が怖いですよ。
「兄はなんと?」
蒴様の従者は俺の兄だ。長男で椎葉家の次期当主。
「上手いことしたな、と言ってたぞ。そうそう、椎葉家だが、お前が当主になる事が正式決定したようだぞ」
「は?」
そんな事は全く知らない! 何が如何なってそうなってるんだ?!
「簡単だろう。番が四神の、しかも、西條家と東條家の血を濃く継いだ理玖の娘だぞ。普通に考えて、本家に残したい血筋だろう?」
「いえ、俺は婿養子だと聞きましたが?」
「それだが、星華が成人して、星華が椎葉に行くと言えば反対はしないぞ」
理玖様、楽しまないでいただけますか。俺は次男です。当主になるつもりは全くないです。西條家に取り込むと言うのなら、素直に受け入れますよ。椎葉家は確かに俺の実家ですが、四神に従うように育てられていますので。
「と言うのは冗談だ。椎葉家には、海斗は返さないと伝えてある」
「そうですか」
「疲れてるな」
「当たり前です。必死で隠していたものを、あっさり見破るわ。悪意のない心律様を使って星華様を連れてくるわ。俺としては不本意です」
Ωが少ないなら、妻となる者を早く探せば良かったのだ。それをしなかった、俺の完全なる失態だ。俺は確かに華族だが、四神の下、八葉の華族だ。本来なら、選ばれる筈がない。ただ、魂の番と言われる運命に身分は干渉されない。知ってはいたが、此処まで障害もなく進んだのは、継鷹様と理玖様の手腕だ。星華様を失わない為に、俺を生贄にしたのだ。
「運命を番にした俺が思うんだよ。歳が離れてても、星華は海斗が番だと分かったら、相手がいても奪うぞ。何せ、あの子も四神だ。たとえ、αではなかったとしてもな」
「如何言う意味です」
理玖様は本当に面白いと言わんばかりの表情だ。
「四神のΩは下手なαより強いぞ。俺の母親を見ればわかるだろう」
理玖様、それは綾乃様のことを言っていますか? 確かに綾乃様は下手なαより能力があります。否定はしませんよ。時々、薄寒いぐらい怖い時がありますからね。
「それで、東條様に罵声を浴びせられれば良いんでしょうかね」
「違う違う。海斗がどれくらい疲れてるか見にきただけだ」
蒴様は可笑そうに笑いながら言う。待ってくれませんかね。揶揄う為に来たんですか?!
「理玖から東條家には嫁には出さないって言われてんだよ。再従兄弟同士でも今まで四花を番にしていたから、血が近くなり過ぎるってね。確かにその通りだし、今回は引き下がる。今代ではなく、次代で婚姻関係を結ぶ事が出来れば御の字だ」
確かにそうかも知れない。四神も皇家も四花に振り回された。八葉は逆に四花から見向きもされなかったから。Ωも華族から一般家庭の者まで幅広い。ある意味、四花に毒されていないと言える。
「今日は星華姫と海斗の婚約を認める署名に来ただけだ。周りがかなり煩いんだよ。知らないだろうけどね」
「はあ、そうなるでしょうね。そう思って、予感はあれど、隠していたと言うのに」
俺は溜め息しか出ない。星華様は四神、西條家の姫君であるだけではなく、理玖様の魂の番である心律様を母親に持つ。二重の意味で注目されているのだ。これでΩであると正式に分かれば、更にとんでも無い事になる。いや、俺が反応した時点でΩだけど。
「南條家と北條家はどのように?」
「うん? 喚いてるね。あそこは、西條家と東條家とはそれ程交流がないからね。四神も一枚岩ではないよ。八葉がそうであるようにね」
確かに、八葉の中でも、二葉の椎葉家と三葉の梼葉 家、四葉の京葉家と五葉の常葉家、此の四家は従者として仕える一族だ。俺の椎葉家と梼葉家は懇意にしている。何故なら、代々、西條家と東條家に仕えているからだ。今代は椎葉家が西條家と東條家の次期当主の従者を務めているが、今代の当主に仕えているのは梼葉家である。
説明でも分かるように、南條家と北條家に仕えているのは、京葉家と常葉家と言うことになる。仲が悪いわけではないがよくもない。問題は椎葉家が西條家の姫を番とした、と言う点になる。
「俺的には海斗が星華姫と番になるのは問題ないよ。逆に南條家と北條家に取られなかったのは良かったって思う程度にはね。皇家はまあ、枠外って事で」
蒴様、言葉が軽い。四神も四家が仲が良いわけじゃないからな。西條家と東條家は早い段階で四花を排除しようと動いた。理由は次代を残す能力の問題だ。だが、南條家と北條家は今代の当主の番が四花である。言っては悪いと思うが、二家の後継者は能力が高いとは言えない。だからこそ、星華様を求めたのだと思う。それが分からない西條家ではない。理玖様はお子様二人をそれはそれは溺愛している。心律様に向ける愛情も底がない。
「まあ、ぶっちゃけると、西條家と東條家のご隠居達は星華姫を生贄にする気はないと仰せだよ。南條家と北條家は忠告を無視した形らしいからね」
つまり四花を全面的に信用していたって事か。
「そう言う事だ。主上には裏から説明しているとご隠居達から聞いてる」
理玖様は不機嫌に言った。
「不本意だが、海斗が星華の番と分かってこちらとしては助かった。四神と言えど、能力に差がある」
「理玖は規格外だろう。西條家と東條家のどちらの血も満遍なく、いい意味では継いでいて、悪い意味では手がつけられない」
蒴様の顔が悪い笑顔に染まってる。ああ、やはり此の二人は従兄弟なのだなって改めて思う。
「つまり、俺と星華様の婚約は主上も承知のことだと?」
「そうなるな。まあ、嫌味は言われたらしい。それでも、俺と心律の件があるからな。魂に刻まれた番、そう言われれば無碍には出来ない。そう言う事だ」
本能を嫌うαとΩは多い。しかし、華族ともなれば気持ちなど二の次だ。基本、家と家の繋がりなり、次代の能力中心になる。そんな中で理玖様は心律様と言う、掛け替えの無い魂の番を見付けられた。これは奇跡に近い。ん? それを言ったら、俺も奇跡の出会いになるのか?
「それで、今回の新年の話、理玖は聞いてるか?」
「ん? あれか。南條家と北條家の後継者が参加出来ない」
どういう事だ。新年の祝賀は祭事である。皇家の前で四神の当主と次期当主が舞を舞う。しかし、此の舞。少々、問題のある舞である。四神はその名の通り、四神、神獣に由来している。西條家は白虎。東條家は青龍。南條家は朱雀。北條家は玄武である。そして、それぞれの家はそれぞれの能力を継いでいる。西條家である理玖様は風の力を。東條家である蒴さまは水の力を。余談として、理玖様は水の力も内包しておられる。これは西條家と東條家の秘密である。
「今代の当主は辛うじて四属性の力が発現したらしいけど、次代、つまり後継者はその力が発現しなかった」
蒴様は鋭い視線を理玖様に向ける。つまり、星華様に拘ったのはそういう理由か。星華様は間違いなく能力の高いΩだ。そのΩを手に入れ、能力の回復を図りたかった。
「今代当主もそれ程、四属性の能力が高くない。俺の父と、理玖の父は強い能力があるから、舞そのものもバランスが悪くなってる。そこにきて、次代の力が発現しなかった。これは由々しき問題だ」
「そうは言うが、星華を生贄にする気はないぞ。こちらの忠告を聞かなかった二家が悪いんだ」
理玖様と蒴様が成人なさり、南條家と北條家は去年成人したのか。それで次の新年は理玖様と蒴様が舞を舞う。今年の新年は現当主と先代当主が舞を披露した。
「南條家と北條家はどうするつもりだ?」
「あれじゃないか。もう長い間、そんな現象は起きなかったが、四神の入れ替わりが起こる可能性があるんじゃないか?」
四神の入れ替わり? ああ、何百年も前に一度起こった。確か、あれは南條家だった筈。
「朱雀と玄武が見限った可能性があるか」
「まあな。あそこの次代は本当にどうしようもないドラ息子だからな」
能力が低すぎて、主上が目通りを許していない話はよく聞く。二家が入れ替わるとすると、かなりの波乱だな。今のところ、八葉にそれらしい能力が発現するような家はない……。まてよ。
「発現するとしたら海斗だな」
「やっぱりそう思うか?」
「勿論だ」
蒴様、何を戯言を。理玖様、肯定するのはやめてほしいのですが。
「それはあり得ないかと」
俺は一応、否定する。今でも一杯一杯なのだ。そこにきて、新たな問題提示はやめてほしい。
「西條家のΩが選んだんだぞ。おそらく、主上に呼び出されるだろうな。どの能力が開花するか楽しみだが、俺の従者がいなくなる。それは問題だな」
海斗は最高の従者なのに、と理玖様がブツブツ呟かれてる。俺としてはやめる気はさらさらない。四神になるなどあり得ない。入れ替わりには、今の四神が反発する。主に、四神を剥奪される一族が。同時に名前も剥奪される。八葉より下の華族となってしまうのである。そこまで能力が落ちてるのか。そんな話は聞いてなかった。後で父さんに問い合わせてみよう。
そんな話があって、父に問い合わせてみれば、確かに南條家と北條家は四神としての能力が無くなってしまっていると言う。それではやはり、入れ替わりが発生するのか。気が重いとは此の事である。何せ、八葉の京葉家と常葉家も黙っていないだろう。ひと月ほど経った時、継鷹様に呼び出された。嫌な予感がするのは気のせいか。
「海斗です」
扉をノックすると同時に名乗る。直ぐに入るように促され、入室した。継鷹様の傍には梼葉家の従者。今までそれ程会ったことはない。その視線が気のせいか生温い。ヤバい感じがする。
「海斗、新年の挨拶に一緒に行ってもらう」
「はあ……」
毎年、理玖様に付き従って行っていましたが。今更ではないでしょうかね。
「勘違いするな。主上が会いたいそうだ」
「え?」
俺は固まった。いや、ひと月前の理玖様と蒴様の話が本当になるのか。いや、それはあり得ないぞ。
「はっきり言うとな。星華と海斗の子が四神の一家になる可能性がある」
「それは?」
「今代の当主には辛うじて四属性の能力があるからな。次代に発現しなかったのは、四神に見限られたのだと思うが、今代はそうではない。ただ、主上は次代に四神を継がせる気はないと仰せだ。そこで、星華の魂の番である海斗に会いたいと仰られている。これは確認のためだ。海斗は今まで通り、これからも理玖に仕えてもらいたい」
「いえ、理玖様から離れる気はありません」
「それを聞いて安心した。本決まりではない。あくまで確認だ。星華と共に会ってもらう。主上は天照家の者。その祖先は神だ。四神の南條家と北條家の能力が落ち始めている事には気が付かれていた」
ああ、それでは主上は見限る気なのか。次代の南條家と北條家を。あの素行の悪さでは、星華様が危険だな。間違いなく、どちらかのドラ息子が手を出してくるだろう。赤子である事を考えると、少しばかりヤバい状況か。
「理玖様にはお伝えされてますか?」
「いや、今からだが?」
「憶測で申し訳ないですが、星華様が危険であると思います。必ず手を出してくるでしょうね。あそこの次代であった者は素行の悪さで、Ωすら逃げ惑う程です」
継鷹様は右眉を跳ね上げた。きちんと情報は得ているだろうに。わざと顔色を変えたと思われる。
「どうするべきだと思う?」
それを俺に問いますか。試されているのか。まあ、一番良い手は一つしかない。
「蓮様をお側に置かれておくのが良いかと思います。護衛なりを付けるのは必須と考えますが、蓮様の絶対記憶は全てを記憶されるので」
本来なら西條家の次代。理玖様の後継だが、背に腹は変えられない。それに、蓮様は普通のお子ではないので、言われなくとも離れない感じもする。
「蓮を使う気か?」
「使うと言いますか、おそらく、何かを察して離れないのではないと推察します」
四神の中で西條家だけ、よくもここまで能力が高いまま今代まできたと思う。東條家も能力的には素晴らしいが、綾乃様が西條家に嫁がれてから、更に能力に磨きがかかった。そして、心律様の存在だ。
「これはこれは。椎葉家も良くここまで能力の高い者を育て上げたものだ。うかうかしていられないな」
そう呟いたのは梼葉家の継鷹様の従者。確か名前は悟様だったか。梼葉家の当主を務めておられる方だったと記憶してる。
「いえ、俺は理玖様に鍛えられたので」
理玖様は理不尽ではないのだが、元の能力が凄いので、合わせるためには努力をするしかなかった。無能とレッテルを貼られたら、どうなっていたか恐ろしくて考えたくもない。何せ、素で凄いのである。それであるのに、努力を惜しまないと言う、ある意味俺にとっての責め苦のような方だ。初等部で仕えるようになったが、最初の頃は陰でひっそり泣いていた。能力以上を求められるのだ。一に努力、二に努力、三も四も五も努力だ。自分の持ち合わせているものなど、信じてはお側に居られない。
「ああ、理玖様は聡いお子だからな」
「そんなレベルではないですよ。自分と同じものを求めてくるので、その先を行くくらいでないと認めてもらえません」
今でこそ、居なくなられると困る、そう言ってもらえる。だが、そこまで行くのにどれだけの罵声を浴びせられたか。しかも、全て的を得ているので反論も出来ないときてる。
「それでは、元日に行われる舞は如何なさるのですか? 前回は現当主と前当主であったと記憶していますが」
「如何やら、今回は西條家と東條家のみの舞を披露するらしい」
はて? そんな舞があった記憶はない。昔はあったのだろうか? 二家で舞う舞など。
「何百年振りだな。まあ、理玖と蒴なら覚えるのも可能だろう。何せ、南條家と北條家の次代はまだ、生まれていない。二人はこれから先も二家の舞になる」
お二人が覚えた四家の舞は無意味になるんですね。まあ、お二人は能力が高いのでサクッと覚えそうですが。
「そうそう、三家の舞もあるんだが」
継鷹様、何を言おうとしてらっしゃいますか?
「海斗、覚えてみる気はないか?」
「お断りします。ただでさえ、星華様の番という事でやっかみの対象なのです。これ以上は願い下げです」
それに、奉納舞いは特殊な力がなくてはならない。だからこそ、四神の力が必要なのだ。
「それに、俺には四神の力はありません」
俺は失礼だとは思いながら、溜め息を一つ吐く。西條家は人を振り回すのが好きらしい。先代もそうであったと聞いている。つまり、俺の祖父だ。今も先代当主に仕えている。
「元旦の話し、承知しました。主上に逆らう事は出来ませんので」
そう言うしかないのだ。結局、この国は皇家を頂点に、四神、八葉、其の他の華族で上位は構成されている。皇家は特別な一族だ。それに逆らうのは、この国に居られなくなる。逆らえるのは、皇家に次ぐ力がある四神くらいではないだろうか。退出を告げ扉を閉めるとやっと一息吐けた。理玖様と心律様が番となられ、次々と色んな事件が起こる。気が付けば、俺もそれに巻き込まれている。理玖様と共に有ると決めたのだから、巻き込まれるのは覚悟の上だった。それが、西條の姫君の魂の番だと分かり、更に厄介事が増えてきた。星華様を疎ましいと思ってはいない。それでも、俺の意思とは関係なく流れていく事について行くだけでやっとなのだ。そこにきて、次代の四神の後継の話し。確かに今の南條家と北條家は四神とは思えない能力の低さだ。下手をしたら、八葉より下になるのではないだろうか。それ程に、次代である後継者の能力が低い。
⌘ ⌘ ⌘
今日は舞を合わせる日だ。理玖様と蒴様が舞の時に身に付ける正装に近い装束を身に纏っている。その手には舞扇を手にしている。奉納舞は基本、四人の演舞だ。しかし、理玖様と蒴様の代は二人演舞。稽古には毎回参加するが、今日は初めて本物の舞扇を使用する。この舞扇はその者の持つ力を具現化する。つまり、理玖様が二つの力を持つ事がバレてしまうのだ。二人演舞を舞う二人は本当に綺麗だった。風と水の属性を持つ理玖様はやはり、舞扇が正確にその力を見せ付けていた。そして気が付いた事。蒴様も二つの属性を持っている事実だ。一緒に見ている一つ上の兄は苦笑いしている。理玖様も二つの属性を持っているとは思っていなかった様だ。
「規格外だとは思っていたが、理玖様も二つの属性持ちか」
兄の言葉に頷くしかない。ちなみに兄の名は空斗だ。俺が海斗なので、親も安直に名前をつけたんだろう。
「蒴様もニ属性持ちですか。しかも、水と地。後必要なのは火の要素ですね」
そう、風と水と地は揃っている。後必要なのは火。朱雀の力だ。
「舞扇を持たせてもらったら如何だ? あれはどんな力も具現化するぞ?」
兄よ。何おかしな事を吐かすんだ。これ以上の厄介事はごめん被る。しかし、そんな兄の話しをしっかり聞いている耳がある。そう、理玖様と蒴様だ。冗談はやめて……。
「何をなさいますか?! この舞扇は国宝級の物ですよ!」
あろう事か、理玖様が舞扇を俺に放ってきたのである。慌てもする。
「空斗がいいこと言ったと思ってな。ほら、開いてみろ」
「遠慮します」
「じゃあ、命令する。舞扇を開け」
え? そんな事に命令を使うのか? マジですか?俺は持っている舞扇を凝視する。気のせいか、舞扇がワクワクしている様に感じる。否、気のせいだ。そんな事はない。
「開くだけだ。誰でも出来るぞ」
「ご冗談を。この舞扇は力がなければ開きません。知っている筈ですが」
「海斗は開く事が可能だと思うぞ」
理玖様が何とも言えない笑みを見せた。俺には四神並みの能力はない。ただ、理玖様に鍛えられただけの凡人だ。悶々と悩んでいるうちに、気のせいか周りの気配が増えていた。ゆっくりと視線の先を辿れば、何故か、継鷹様、綾乃様、悟様、心律様に美紅様まで好奇心丸出しの視線を向けているではないか! え? いつの間に集まって来たんだ。そして、気が付く。兄だ。間違いなく兄だ。面白がって呼びに行ったんだ。まだ、西條家の舞踏場だから良かった。否、全く良くない!
「もたもたしてるから、ギャラリーが増えたぞ」
理玖様、確信犯ですよね。俺がずっと悩んでいたの知ってますよね。知っていてこの仕打ちですか?!
「あのな。俺はずっと気が付いてたんだぞ。蒴もだけどな」
「どういうことですか?」
「俺と蒴は二つの力を持ってる。つまり、親世代より見る目が違うんだ。星華が生まれた辺りから、海斗の頭上に鳥と亀がいる」
「なあ。本当に吃驚したよ。頭上にいるって事は、取り込んではいない状態。力そのものは上手く扱えないだろうけど、間違いなく継承は済んでる」
え? 継承が済んでる? 嘘をついている、感じじゃない?!
「舞扇は力を受け取る媒体だから、その頭上の取り込んどいた方がいいぞ。下手したら、今の南條家と北條家が奪いにくる」
「しかも、結構、くっきり見えてるから、かなりの力だぞ」
え?
「見えていたのか?」
継鷹様が理玖様に問い掛ける。理玖様は頷く。
「そうじゃなきゃ、星華の番だと気が付かなかったからな」
へ?
「一人の時は海斗の頭上にいるが、星華と一緒の時は二人の頭上をフヨフヨ浮いてるぞ」
知らない事実だ。俺は手に持つ舞扇に視線を落とす。本当に頭上に居るのか。
「おそらく、主上が確認したいのは海斗の頭上に居る四神の欠片だろう。本来、南條家と北條家の血筋の上に居るもんだからな」
「それでは、蓮様の頭上にも居られるのですか?」
俺の問いに、理玖様は頷く。
「蓮の場合は頭の上ってよりも、かなり大きな白虎を頭に乗っけてるな。まあ、青龍も一緒に乗っかってるけどな」
つまり、蓮様は風と水の力、しかもかなり強い力を継いでおられると。二代続いて二属性持ちですか。本当に規格外ですね。
「それに、美紅の頭上にも青龍が居る。つまり、美紅のお腹の中に居るのは次代で間違いない。うちも安泰だな」
蒴様は嬉しそうに告げられた。次代の心配がないのは本当に良いのもだとは思います。思いますが、何故に俺の頭上に。項垂れたい。本気で項垂れたい!
「ほう。便利な能力だな。その目があれば、四神の次代を簡単に選別できるだろうに」
継鷹様、そこまでいったら皇家ですよ。
「この目は二つの属性があるから見えるだけだ。おそらく、海斗もその頭上の神獣を取り込んだら見えるようになるぞ」
「いえ、必要はないかと」
ついつい、否定してしまう。俺は八葉なのだ。そう、あくまで八葉! しかも次男!
「海斗、諦めろ。主上も喜ばれる。なにより、南條家と北條家を黙らせる事が出来る」
継鷹様、悪い顔をされてます。そんなに追い落としたいんですか? そうですか。そうですよね。あの二家のせいで、無駄に仕事が増えてますもんね。理玖様も時々、顳顬に血管が浮いてますよ。
「……分かりました。ですが」
これだけは釘を刺したい。もし、取り込めなかったとしても、責めないでもらいたい。
「頭上に居ると言う神獣の欠片を取り込めなくても責めないで下さい」
「その時は主上にご相談する。そのままでは危険なのでな」
「分かりました」
永遠と問答を続けるつもりは無い。本意では無いが舞扇を開くしか無い。いや、更に舞扇が喜んでないか。気のせいじゃないのか。やる気が漲ってるのは気のせいじゃないんだな。項垂れたい。本気で逃げ出したい。
意を決して舞扇を開く。リーン、と言う音が耳元で響く。
「鈴の音?」
心律様が不思議そうに呟かれた。不味い、今の音の後に何かが体に入り込んだのを感じた。そして感じる肩の重み。
「おお。完全に背負えたな」
理玖様が手を叩く。取り込むってより、背負うんですね。知りませんでしたよ。俯いていた視線を上げた。そして、視線の先の世界が変わっていた。理玖の両肩に神獣の姿。その隣に居る蒴様の両肩にも居る。継鷹様の左肩に白虎の姿が見え、美紅様の頭上に青龍が。いや、そんなの見えなくてもいい。
「取り込むのでは?」
「いやいや、それは無理だぞ。神獣何ぞ取り込めるのは皇家くらいだろう」
蒴様、楽しそうですね。そうですか。楽しいですか。その様子から、蒴様にも被害がいってましたか。あの二家にも困ったものです。
「これで、南條家と北條家は没落だ。新たな苗字は決まってるのか?」
理玖様が継鷹様に問い掛ける。
「いや、おそらく、次の新年の挨拶の時に宣言されるだろう。主上に会う前に取り込めたのは僥倖だが、一つ問題がある」
理玖様が片眉を跳ね上げた。
「星華に手を出す可能性は消えないか」
「少なくとも、現当主は手を出さないだろう。手を出せば、当主である立場すら危うくなる。あくまで剥奪されるのは次代。つまり、自分達の息子の代からだ」
本当に如何しようも無い人達だからな。現当主達は保身に走るのか。自分の番すら切り捨てそうだな。何せ、四花は完全に切り捨てられた。そう、番である四花は如何なるのだろう。四神に嫁いだ四花の番は南條家と北條家の現当主と前当主。つまり、二代に渡り劣った血を受け入れていた。それでは能力は落ちる一方だろうな。四花が尊ばれていた理由はΩが生まれやすかった事と、能力が高かったかたらだと言うのに、今では底辺まで落ちている。
「南條家と北條家の次代を担う者は決まった。それは神獣が選定するからな。何をしようと覆る事はない。主上が決めるのではないからな。あくまで決めるのは神獣。朱雀と玄武だ」
神獣は如何やって後継となるべき者を見付けるのか謎である。
「南條家は前回も入れ替わりを起こしている。つまり、何らかの理由で質が落ちていくのだとは思うが、いやはや、今回は北條家もだ」
継鷹様は頭が痛いと溜め息を吐かれた。俺的には何故俺が、と言う思いは拭えない。継鷹様の話では、俺はあくまで八葉、椎葉家のままであり、四神を継ぐのは俺と星華様の子である。俺的には四神、南條家か北條家かは分からないが、継ぐ必要がないのなら問題は……。問題はあるんだけど、背負ってしまった以上、逃げる事は叶わない。そう、察する事は可能だ。
「海斗」
俺が理玖様に舞扇を返すと、真剣な表情で名前を呼ばれた。
「何でしょう?」
「元旦。海斗は星華と共にいる事になる」
「そうですね。流れ的にそうなるかと思いますが」
俺は理玖様の従者なので、本来なら離れてはいけないのだが。状況が状況だけにそれは許されないのだろう。
「蓮も預ける」
「は?」
「手を出してくるぞ。ボンクラ共がな」
「新年の祭事にですか?」
「主上に目通りは出来なくとも、毎年、両親と共に来ていた」
俺はお見掛けしなかったがいたのか。主上に会えないのに来るのか。俺なら面倒なので絶対に行かないが。
「今の海斗なら、朱雀と玄武が守るだろう。そうしなければ、朱雀と玄武、二つの神獣の力を振るう一族が誕生しない。それだけの強さの神獣の欠片を海斗に付けたと言う事は、覆らない事実に他ならない」
理玖様の言葉に溜め息が出そうになる。俺としては本当に必要ない力だ。守ってくれると言っても、それ以上の面倒事と厄介事がセットでやってくるのだ。
「海斗、諦めるんだな」
いきなり横から掛かった兄の声に、思いっきり足を踏み付けてやった。痛そうに顔を歪めたが知ったことか。
「父さんには伝えておく。海斗は椎葉家には戻らない」
「お願いします。必要ならば、馳せ参じるとお伝え下さい」
兄は目を細め笑みを浮かべている。本当に弟には甘い兄だ。それでも、家族と離れる選択をしなくてはならない。四神の朱雀と玄武の力を得てしまった以上、椎葉家にいれば何かしら言ってくる者がいる。最悪、力目当てに何をされるか分からない。俺は腹を括るしかないと、心の中で嘆息した。
そう声を掛けてきたのは、西條家のメイドの一人だった。俺は今、理玖様の執務室で仕事中である。何せ、従者としての仕事が本来の仕事。大学が休みの時は本来の業務だ。
「理玖様は?」
「応接間にて、東條様とお会いになられています」
俺は察した。あれだ、星華様との婚約の件だ。俺としては丁重に断りたいところだが、西條家が乗り気になってしまい、父の力ではどうする事も出来ないところまで来てしまった。まあ、俺に婚約者と言うか、番がいなかった事がそもそも断れない理由なのだが。
「本当に呼んでらっしゃるのか?」
「覚悟を決めてくださいな。東條様ならまだ、従兄弟であられるので血族関係で断られても文句はそれほど言いませんが、他の四神と皇家は違いますよ」
メイドは面白そうに俺に宣ってくれた。その通りだ。蒴様は理玖様と従兄弟である。蒴様の父親と、理玖様の母親は間違いなく兄弟。
「分かった。観念するよ」
「ふふ。お館様と若旦那様は喜ばれていますよ。お嬢様を、手元に置いておけますものね。しかも、若旦那様の片腕であられる海斗様です。他の華族家と違い、懐に抱え込めます」
このメイドは俺が西條家に来る前からいるメイドだ。しかも、当主である継鷹様をお館様、理玖様を若旦那様。綾乃様を奥様、心律様を若奥様と呼ぶ。この屋敷の中では彼女だけだ。
重い足を引き摺って、応接間の前まで来た。これからこのような呼出が多発するのか。何時、落ち着くのか、まったくもって想像出来ない。扉をノックし、返事を待って室内に足を踏み入れた。そこに居たのは確かに東條様である。その横には番であられる、確か名前は美紅様だったか。女性のΩだ。
「お呼びでしょうか?」
「お呼びだぞ。さあ、試練の時だ」
理玖様、楽しそうですね。俺が矢面に立つからでしょうか。それとも、星華様の魂の番だからでしょうか。どちらにせよ、あまり気分のいい事は言われなさそうですね。
「海斗。まさか、八葉に西條の姫君が奪われるとは考え及ばなかったぞ」
蒴様、顔が怖いですよ。
「兄はなんと?」
蒴様の従者は俺の兄だ。長男で椎葉家の次期当主。
「上手いことしたな、と言ってたぞ。そうそう、椎葉家だが、お前が当主になる事が正式決定したようだぞ」
「は?」
そんな事は全く知らない! 何が如何なってそうなってるんだ?!
「簡単だろう。番が四神の、しかも、西條家と東條家の血を濃く継いだ理玖の娘だぞ。普通に考えて、本家に残したい血筋だろう?」
「いえ、俺は婿養子だと聞きましたが?」
「それだが、星華が成人して、星華が椎葉に行くと言えば反対はしないぞ」
理玖様、楽しまないでいただけますか。俺は次男です。当主になるつもりは全くないです。西條家に取り込むと言うのなら、素直に受け入れますよ。椎葉家は確かに俺の実家ですが、四神に従うように育てられていますので。
「と言うのは冗談だ。椎葉家には、海斗は返さないと伝えてある」
「そうですか」
「疲れてるな」
「当たり前です。必死で隠していたものを、あっさり見破るわ。悪意のない心律様を使って星華様を連れてくるわ。俺としては不本意です」
Ωが少ないなら、妻となる者を早く探せば良かったのだ。それをしなかった、俺の完全なる失態だ。俺は確かに華族だが、四神の下、八葉の華族だ。本来なら、選ばれる筈がない。ただ、魂の番と言われる運命に身分は干渉されない。知ってはいたが、此処まで障害もなく進んだのは、継鷹様と理玖様の手腕だ。星華様を失わない為に、俺を生贄にしたのだ。
「運命を番にした俺が思うんだよ。歳が離れてても、星華は海斗が番だと分かったら、相手がいても奪うぞ。何せ、あの子も四神だ。たとえ、αではなかったとしてもな」
「如何言う意味です」
理玖様は本当に面白いと言わんばかりの表情だ。
「四神のΩは下手なαより強いぞ。俺の母親を見ればわかるだろう」
理玖様、それは綾乃様のことを言っていますか? 確かに綾乃様は下手なαより能力があります。否定はしませんよ。時々、薄寒いぐらい怖い時がありますからね。
「それで、東條様に罵声を浴びせられれば良いんでしょうかね」
「違う違う。海斗がどれくらい疲れてるか見にきただけだ」
蒴様は可笑そうに笑いながら言う。待ってくれませんかね。揶揄う為に来たんですか?!
「理玖から東條家には嫁には出さないって言われてんだよ。再従兄弟同士でも今まで四花を番にしていたから、血が近くなり過ぎるってね。確かにその通りだし、今回は引き下がる。今代ではなく、次代で婚姻関係を結ぶ事が出来れば御の字だ」
確かにそうかも知れない。四神も皇家も四花に振り回された。八葉は逆に四花から見向きもされなかったから。Ωも華族から一般家庭の者まで幅広い。ある意味、四花に毒されていないと言える。
「今日は星華姫と海斗の婚約を認める署名に来ただけだ。周りがかなり煩いんだよ。知らないだろうけどね」
「はあ、そうなるでしょうね。そう思って、予感はあれど、隠していたと言うのに」
俺は溜め息しか出ない。星華様は四神、西條家の姫君であるだけではなく、理玖様の魂の番である心律様を母親に持つ。二重の意味で注目されているのだ。これでΩであると正式に分かれば、更にとんでも無い事になる。いや、俺が反応した時点でΩだけど。
「南條家と北條家はどのように?」
「うん? 喚いてるね。あそこは、西條家と東條家とはそれ程交流がないからね。四神も一枚岩ではないよ。八葉がそうであるようにね」
確かに、八葉の中でも、二葉の椎葉家と三葉の梼葉 家、四葉の京葉家と五葉の常葉家、此の四家は従者として仕える一族だ。俺の椎葉家と梼葉家は懇意にしている。何故なら、代々、西條家と東條家に仕えているからだ。今代は椎葉家が西條家と東條家の次期当主の従者を務めているが、今代の当主に仕えているのは梼葉家である。
説明でも分かるように、南條家と北條家に仕えているのは、京葉家と常葉家と言うことになる。仲が悪いわけではないがよくもない。問題は椎葉家が西條家の姫を番とした、と言う点になる。
「俺的には海斗が星華姫と番になるのは問題ないよ。逆に南條家と北條家に取られなかったのは良かったって思う程度にはね。皇家はまあ、枠外って事で」
蒴様、言葉が軽い。四神も四家が仲が良いわけじゃないからな。西條家と東條家は早い段階で四花を排除しようと動いた。理由は次代を残す能力の問題だ。だが、南條家と北條家は今代の当主の番が四花である。言っては悪いと思うが、二家の後継者は能力が高いとは言えない。だからこそ、星華様を求めたのだと思う。それが分からない西條家ではない。理玖様はお子様二人をそれはそれは溺愛している。心律様に向ける愛情も底がない。
「まあ、ぶっちゃけると、西條家と東條家のご隠居達は星華姫を生贄にする気はないと仰せだよ。南條家と北條家は忠告を無視した形らしいからね」
つまり四花を全面的に信用していたって事か。
「そう言う事だ。主上には裏から説明しているとご隠居達から聞いてる」
理玖様は不機嫌に言った。
「不本意だが、海斗が星華の番と分かってこちらとしては助かった。四神と言えど、能力に差がある」
「理玖は規格外だろう。西條家と東條家のどちらの血も満遍なく、いい意味では継いでいて、悪い意味では手がつけられない」
蒴様の顔が悪い笑顔に染まってる。ああ、やはり此の二人は従兄弟なのだなって改めて思う。
「つまり、俺と星華様の婚約は主上も承知のことだと?」
「そうなるな。まあ、嫌味は言われたらしい。それでも、俺と心律の件があるからな。魂に刻まれた番、そう言われれば無碍には出来ない。そう言う事だ」
本能を嫌うαとΩは多い。しかし、華族ともなれば気持ちなど二の次だ。基本、家と家の繋がりなり、次代の能力中心になる。そんな中で理玖様は心律様と言う、掛け替えの無い魂の番を見付けられた。これは奇跡に近い。ん? それを言ったら、俺も奇跡の出会いになるのか?
「それで、今回の新年の話、理玖は聞いてるか?」
「ん? あれか。南條家と北條家の後継者が参加出来ない」
どういう事だ。新年の祝賀は祭事である。皇家の前で四神の当主と次期当主が舞を舞う。しかし、此の舞。少々、問題のある舞である。四神はその名の通り、四神、神獣に由来している。西條家は白虎。東條家は青龍。南條家は朱雀。北條家は玄武である。そして、それぞれの家はそれぞれの能力を継いでいる。西條家である理玖様は風の力を。東條家である蒴さまは水の力を。余談として、理玖様は水の力も内包しておられる。これは西條家と東條家の秘密である。
「今代の当主は辛うじて四属性の力が発現したらしいけど、次代、つまり後継者はその力が発現しなかった」
蒴様は鋭い視線を理玖様に向ける。つまり、星華様に拘ったのはそういう理由か。星華様は間違いなく能力の高いΩだ。そのΩを手に入れ、能力の回復を図りたかった。
「今代当主もそれ程、四属性の能力が高くない。俺の父と、理玖の父は強い能力があるから、舞そのものもバランスが悪くなってる。そこにきて、次代の力が発現しなかった。これは由々しき問題だ」
「そうは言うが、星華を生贄にする気はないぞ。こちらの忠告を聞かなかった二家が悪いんだ」
理玖様と蒴様が成人なさり、南條家と北條家は去年成人したのか。それで次の新年は理玖様と蒴様が舞を舞う。今年の新年は現当主と先代当主が舞を披露した。
「南條家と北條家はどうするつもりだ?」
「あれじゃないか。もう長い間、そんな現象は起きなかったが、四神の入れ替わりが起こる可能性があるんじゃないか?」
四神の入れ替わり? ああ、何百年も前に一度起こった。確か、あれは南條家だった筈。
「朱雀と玄武が見限った可能性があるか」
「まあな。あそこの次代は本当にどうしようもないドラ息子だからな」
能力が低すぎて、主上が目通りを許していない話はよく聞く。二家が入れ替わるとすると、かなりの波乱だな。今のところ、八葉にそれらしい能力が発現するような家はない……。まてよ。
「発現するとしたら海斗だな」
「やっぱりそう思うか?」
「勿論だ」
蒴様、何を戯言を。理玖様、肯定するのはやめてほしいのですが。
「それはあり得ないかと」
俺は一応、否定する。今でも一杯一杯なのだ。そこにきて、新たな問題提示はやめてほしい。
「西條家のΩが選んだんだぞ。おそらく、主上に呼び出されるだろうな。どの能力が開花するか楽しみだが、俺の従者がいなくなる。それは問題だな」
海斗は最高の従者なのに、と理玖様がブツブツ呟かれてる。俺としてはやめる気はさらさらない。四神になるなどあり得ない。入れ替わりには、今の四神が反発する。主に、四神を剥奪される一族が。同時に名前も剥奪される。八葉より下の華族となってしまうのである。そこまで能力が落ちてるのか。そんな話は聞いてなかった。後で父さんに問い合わせてみよう。
そんな話があって、父に問い合わせてみれば、確かに南條家と北條家は四神としての能力が無くなってしまっていると言う。それではやはり、入れ替わりが発生するのか。気が重いとは此の事である。何せ、八葉の京葉家と常葉家も黙っていないだろう。ひと月ほど経った時、継鷹様に呼び出された。嫌な予感がするのは気のせいか。
「海斗です」
扉をノックすると同時に名乗る。直ぐに入るように促され、入室した。継鷹様の傍には梼葉家の従者。今までそれ程会ったことはない。その視線が気のせいか生温い。ヤバい感じがする。
「海斗、新年の挨拶に一緒に行ってもらう」
「はあ……」
毎年、理玖様に付き従って行っていましたが。今更ではないでしょうかね。
「勘違いするな。主上が会いたいそうだ」
「え?」
俺は固まった。いや、ひと月前の理玖様と蒴様の話が本当になるのか。いや、それはあり得ないぞ。
「はっきり言うとな。星華と海斗の子が四神の一家になる可能性がある」
「それは?」
「今代の当主には辛うじて四属性の能力があるからな。次代に発現しなかったのは、四神に見限られたのだと思うが、今代はそうではない。ただ、主上は次代に四神を継がせる気はないと仰せだ。そこで、星華の魂の番である海斗に会いたいと仰られている。これは確認のためだ。海斗は今まで通り、これからも理玖に仕えてもらいたい」
「いえ、理玖様から離れる気はありません」
「それを聞いて安心した。本決まりではない。あくまで確認だ。星華と共に会ってもらう。主上は天照家の者。その祖先は神だ。四神の南條家と北條家の能力が落ち始めている事には気が付かれていた」
ああ、それでは主上は見限る気なのか。次代の南條家と北條家を。あの素行の悪さでは、星華様が危険だな。間違いなく、どちらかのドラ息子が手を出してくるだろう。赤子である事を考えると、少しばかりヤバい状況か。
「理玖様にはお伝えされてますか?」
「いや、今からだが?」
「憶測で申し訳ないですが、星華様が危険であると思います。必ず手を出してくるでしょうね。あそこの次代であった者は素行の悪さで、Ωすら逃げ惑う程です」
継鷹様は右眉を跳ね上げた。きちんと情報は得ているだろうに。わざと顔色を変えたと思われる。
「どうするべきだと思う?」
それを俺に問いますか。試されているのか。まあ、一番良い手は一つしかない。
「蓮様をお側に置かれておくのが良いかと思います。護衛なりを付けるのは必須と考えますが、蓮様の絶対記憶は全てを記憶されるので」
本来なら西條家の次代。理玖様の後継だが、背に腹は変えられない。それに、蓮様は普通のお子ではないので、言われなくとも離れない感じもする。
「蓮を使う気か?」
「使うと言いますか、おそらく、何かを察して離れないのではないと推察します」
四神の中で西條家だけ、よくもここまで能力が高いまま今代まできたと思う。東條家も能力的には素晴らしいが、綾乃様が西條家に嫁がれてから、更に能力に磨きがかかった。そして、心律様の存在だ。
「これはこれは。椎葉家も良くここまで能力の高い者を育て上げたものだ。うかうかしていられないな」
そう呟いたのは梼葉家の継鷹様の従者。確か名前は悟様だったか。梼葉家の当主を務めておられる方だったと記憶してる。
「いえ、俺は理玖様に鍛えられたので」
理玖様は理不尽ではないのだが、元の能力が凄いので、合わせるためには努力をするしかなかった。無能とレッテルを貼られたら、どうなっていたか恐ろしくて考えたくもない。何せ、素で凄いのである。それであるのに、努力を惜しまないと言う、ある意味俺にとっての責め苦のような方だ。初等部で仕えるようになったが、最初の頃は陰でひっそり泣いていた。能力以上を求められるのだ。一に努力、二に努力、三も四も五も努力だ。自分の持ち合わせているものなど、信じてはお側に居られない。
「ああ、理玖様は聡いお子だからな」
「そんなレベルではないですよ。自分と同じものを求めてくるので、その先を行くくらいでないと認めてもらえません」
今でこそ、居なくなられると困る、そう言ってもらえる。だが、そこまで行くのにどれだけの罵声を浴びせられたか。しかも、全て的を得ているので反論も出来ないときてる。
「それでは、元日に行われる舞は如何なさるのですか? 前回は現当主と前当主であったと記憶していますが」
「如何やら、今回は西條家と東條家のみの舞を披露するらしい」
はて? そんな舞があった記憶はない。昔はあったのだろうか? 二家で舞う舞など。
「何百年振りだな。まあ、理玖と蒴なら覚えるのも可能だろう。何せ、南條家と北條家の次代はまだ、生まれていない。二人はこれから先も二家の舞になる」
お二人が覚えた四家の舞は無意味になるんですね。まあ、お二人は能力が高いのでサクッと覚えそうですが。
「そうそう、三家の舞もあるんだが」
継鷹様、何を言おうとしてらっしゃいますか?
「海斗、覚えてみる気はないか?」
「お断りします。ただでさえ、星華様の番という事でやっかみの対象なのです。これ以上は願い下げです」
それに、奉納舞いは特殊な力がなくてはならない。だからこそ、四神の力が必要なのだ。
「それに、俺には四神の力はありません」
俺は失礼だとは思いながら、溜め息を一つ吐く。西條家は人を振り回すのが好きらしい。先代もそうであったと聞いている。つまり、俺の祖父だ。今も先代当主に仕えている。
「元旦の話し、承知しました。主上に逆らう事は出来ませんので」
そう言うしかないのだ。結局、この国は皇家を頂点に、四神、八葉、其の他の華族で上位は構成されている。皇家は特別な一族だ。それに逆らうのは、この国に居られなくなる。逆らえるのは、皇家に次ぐ力がある四神くらいではないだろうか。退出を告げ扉を閉めるとやっと一息吐けた。理玖様と心律様が番となられ、次々と色んな事件が起こる。気が付けば、俺もそれに巻き込まれている。理玖様と共に有ると決めたのだから、巻き込まれるのは覚悟の上だった。それが、西條の姫君の魂の番だと分かり、更に厄介事が増えてきた。星華様を疎ましいと思ってはいない。それでも、俺の意思とは関係なく流れていく事について行くだけでやっとなのだ。そこにきて、次代の四神の後継の話し。確かに今の南條家と北條家は四神とは思えない能力の低さだ。下手をしたら、八葉より下になるのではないだろうか。それ程に、次代である後継者の能力が低い。
⌘ ⌘ ⌘
今日は舞を合わせる日だ。理玖様と蒴様が舞の時に身に付ける正装に近い装束を身に纏っている。その手には舞扇を手にしている。奉納舞は基本、四人の演舞だ。しかし、理玖様と蒴様の代は二人演舞。稽古には毎回参加するが、今日は初めて本物の舞扇を使用する。この舞扇はその者の持つ力を具現化する。つまり、理玖様が二つの力を持つ事がバレてしまうのだ。二人演舞を舞う二人は本当に綺麗だった。風と水の属性を持つ理玖様はやはり、舞扇が正確にその力を見せ付けていた。そして気が付いた事。蒴様も二つの属性を持っている事実だ。一緒に見ている一つ上の兄は苦笑いしている。理玖様も二つの属性を持っているとは思っていなかった様だ。
「規格外だとは思っていたが、理玖様も二つの属性持ちか」
兄の言葉に頷くしかない。ちなみに兄の名は空斗だ。俺が海斗なので、親も安直に名前をつけたんだろう。
「蒴様もニ属性持ちですか。しかも、水と地。後必要なのは火の要素ですね」
そう、風と水と地は揃っている。後必要なのは火。朱雀の力だ。
「舞扇を持たせてもらったら如何だ? あれはどんな力も具現化するぞ?」
兄よ。何おかしな事を吐かすんだ。これ以上の厄介事はごめん被る。しかし、そんな兄の話しをしっかり聞いている耳がある。そう、理玖様と蒴様だ。冗談はやめて……。
「何をなさいますか?! この舞扇は国宝級の物ですよ!」
あろう事か、理玖様が舞扇を俺に放ってきたのである。慌てもする。
「空斗がいいこと言ったと思ってな。ほら、開いてみろ」
「遠慮します」
「じゃあ、命令する。舞扇を開け」
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へ?
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知らない事実だ。俺は手に持つ舞扇に視線を落とす。本当に頭上に居るのか。
「おそらく、主上が確認したいのは海斗の頭上に居る四神の欠片だろう。本来、南條家と北條家の血筋の上に居るもんだからな」
「それでは、蓮様の頭上にも居られるのですか?」
俺の問いに、理玖様は頷く。
「蓮の場合は頭の上ってよりも、かなり大きな白虎を頭に乗っけてるな。まあ、青龍も一緒に乗っかってるけどな」
つまり、蓮様は風と水の力、しかもかなり強い力を継いでおられると。二代続いて二属性持ちですか。本当に規格外ですね。
「それに、美紅の頭上にも青龍が居る。つまり、美紅のお腹の中に居るのは次代で間違いない。うちも安泰だな」
蒴様は嬉しそうに告げられた。次代の心配がないのは本当に良いのもだとは思います。思いますが、何故に俺の頭上に。項垂れたい。本気で項垂れたい!
「ほう。便利な能力だな。その目があれば、四神の次代を簡単に選別できるだろうに」
継鷹様、そこまでいったら皇家ですよ。
「この目は二つの属性があるから見えるだけだ。おそらく、海斗もその頭上の神獣を取り込んだら見えるようになるぞ」
「いえ、必要はないかと」
ついつい、否定してしまう。俺は八葉なのだ。そう、あくまで八葉! しかも次男!
「海斗、諦めろ。主上も喜ばれる。なにより、南條家と北條家を黙らせる事が出来る」
継鷹様、悪い顔をされてます。そんなに追い落としたいんですか? そうですか。そうですよね。あの二家のせいで、無駄に仕事が増えてますもんね。理玖様も時々、顳顬に血管が浮いてますよ。
「……分かりました。ですが」
これだけは釘を刺したい。もし、取り込めなかったとしても、責めないでもらいたい。
「頭上に居ると言う神獣の欠片を取り込めなくても責めないで下さい」
「その時は主上にご相談する。そのままでは危険なのでな」
「分かりました」
永遠と問答を続けるつもりは無い。本意では無いが舞扇を開くしか無い。いや、更に舞扇が喜んでないか。気のせいじゃないのか。やる気が漲ってるのは気のせいじゃないんだな。項垂れたい。本気で逃げ出したい。
意を決して舞扇を開く。リーン、と言う音が耳元で響く。
「鈴の音?」
心律様が不思議そうに呟かれた。不味い、今の音の後に何かが体に入り込んだのを感じた。そして感じる肩の重み。
「おお。完全に背負えたな」
理玖様が手を叩く。取り込むってより、背負うんですね。知りませんでしたよ。俯いていた視線を上げた。そして、視線の先の世界が変わっていた。理玖の両肩に神獣の姿。その隣に居る蒴様の両肩にも居る。継鷹様の左肩に白虎の姿が見え、美紅様の頭上に青龍が。いや、そんなの見えなくてもいい。
「取り込むのでは?」
「いやいや、それは無理だぞ。神獣何ぞ取り込めるのは皇家くらいだろう」
蒴様、楽しそうですね。そうですか。楽しいですか。その様子から、蒴様にも被害がいってましたか。あの二家にも困ったものです。
「これで、南條家と北條家は没落だ。新たな苗字は決まってるのか?」
理玖様が継鷹様に問い掛ける。
「いや、おそらく、次の新年の挨拶の時に宣言されるだろう。主上に会う前に取り込めたのは僥倖だが、一つ問題がある」
理玖様が片眉を跳ね上げた。
「星華に手を出す可能性は消えないか」
「少なくとも、現当主は手を出さないだろう。手を出せば、当主である立場すら危うくなる。あくまで剥奪されるのは次代。つまり、自分達の息子の代からだ」
本当に如何しようも無い人達だからな。現当主達は保身に走るのか。自分の番すら切り捨てそうだな。何せ、四花は完全に切り捨てられた。そう、番である四花は如何なるのだろう。四神に嫁いだ四花の番は南條家と北條家の現当主と前当主。つまり、二代に渡り劣った血を受け入れていた。それでは能力は落ちる一方だろうな。四花が尊ばれていた理由はΩが生まれやすかった事と、能力が高かったかたらだと言うのに、今では底辺まで落ちている。
「南條家と北條家の次代を担う者は決まった。それは神獣が選定するからな。何をしようと覆る事はない。主上が決めるのではないからな。あくまで決めるのは神獣。朱雀と玄武だ」
神獣は如何やって後継となるべき者を見付けるのか謎である。
「南條家は前回も入れ替わりを起こしている。つまり、何らかの理由で質が落ちていくのだとは思うが、いやはや、今回は北條家もだ」
継鷹様は頭が痛いと溜め息を吐かれた。俺的には何故俺が、と言う思いは拭えない。継鷹様の話では、俺はあくまで八葉、椎葉家のままであり、四神を継ぐのは俺と星華様の子である。俺的には四神、南條家か北條家かは分からないが、継ぐ必要がないのなら問題は……。問題はあるんだけど、背負ってしまった以上、逃げる事は叶わない。そう、察する事は可能だ。
「海斗」
俺が理玖様に舞扇を返すと、真剣な表情で名前を呼ばれた。
「何でしょう?」
「元旦。海斗は星華と共にいる事になる」
「そうですね。流れ的にそうなるかと思いますが」
俺は理玖様の従者なので、本来なら離れてはいけないのだが。状況が状況だけにそれは許されないのだろう。
「蓮も預ける」
「は?」
「手を出してくるぞ。ボンクラ共がな」
「新年の祭事にですか?」
「主上に目通りは出来なくとも、毎年、両親と共に来ていた」
俺はお見掛けしなかったがいたのか。主上に会えないのに来るのか。俺なら面倒なので絶対に行かないが。
「今の海斗なら、朱雀と玄武が守るだろう。そうしなければ、朱雀と玄武、二つの神獣の力を振るう一族が誕生しない。それだけの強さの神獣の欠片を海斗に付けたと言う事は、覆らない事実に他ならない」
理玖様の言葉に溜め息が出そうになる。俺としては本当に必要ない力だ。守ってくれると言っても、それ以上の面倒事と厄介事がセットでやってくるのだ。
「海斗、諦めるんだな」
いきなり横から掛かった兄の声に、思いっきり足を踏み付けてやった。痛そうに顔を歪めたが知ったことか。
「父さんには伝えておく。海斗は椎葉家には戻らない」
「お願いします。必要ならば、馳せ参じるとお伝え下さい」
兄は目を細め笑みを浮かべている。本当に弟には甘い兄だ。それでも、家族と離れる選択をしなくてはならない。四神の朱雀と玄武の力を得てしまった以上、椎葉家にいれば何かしら言ってくる者がいる。最悪、力目当てに何をされるか分からない。俺は腹を括るしかないと、心の中で嘆息した。
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