水面に流れる星明り

善奈美

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序章

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 千樹は非常に困っている。何故なら、彼の膝を枕代わりに、気持ち良さげに寝ている童がいるからだ。
 
 千樹は白狐で九尾の狐だが、齢千歳を超えた、一言で言えば妖だ。当然、人型にもなれる。人の世と妖の世の間に屋敷を構え、妖の中ではそれなりに強い妖力を持っている。
 
 千樹が何を困っているかと言えば、彼の膝で寝ている童だ。まだ、幼い人間の子供だ。森の中に迷い込み、千樹が保護したまでは良かったが、懐かれるとは思っていなかった。身なりはどう見ても里の子供だ。それほど裕福でないのも見て取れる。見目は人間にして見れる容姿だ。
 
 千樹に幼子をどうこうする趣味はない。勿論、色々な意味でだ。
 
「千樹様、懐かれてしまいましたね」
「楽し気に笑うな」
「保護されたのは千樹様ですよ。その気になれば、人間の童など、どうする事もできましょうに」
 
 千樹には人間の童を妖にする事も、人里に戻す事も出来る。当然、命の灯火を消す事も可能だ。
 
「既にひと月経っております。この童を探す人間は現れませんよ。皆に頼んでありますので」
「分かっている」
 
 そうなのだ。この子供の親なりそこに住む里人なり、普通ならば探しにくるだろう。だが、その気配はない。確かに今年は異常な気象で、作物のなりも悪かった。つまり、童は食い扶持を減らすために森の中に捨て置かれたのだ。
 
「この童は食い扶持を……」
「最後まで言わずとも分かっている」
「花嫁にしてはどうですか? もうそろそろ、嫁は必要ですよ」
「冗談を言っているわけではあるまいな」
「そんなつもりはありませんよ」
 
 千樹は顳顬の辺りに痛みを覚えた。
 
「この童は男の子ですが、妖に相手の性別は関係ありませんからね」
 
 千樹がギロリと睨み付ければ、話を振った本人は素知らぬ顔だ。これ以上言っては災難が降りかかるとばかりに、尻尾を巻いて部屋を出て行く。
 
 千樹は一つ溜め息を吐き、膝の上の厄介事にまた、頭を悩ませる。どう考えても良い案など浮かばない。童の保護者なり、里の大人なりが探しに来てくれれば問題ないが、その気配が全くと言って良いほどないのだ。
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